vol.75:歩行時のメカノレセプター(機械受容器)の重要性について 脳卒中(脳梗塞)リハビリ論文サマリー
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カテゴリー
神経系,歩行
タイトル
足底のメカノレセプターについて Distribution and behaviour of glabrous cutaneous receptors in the human foot sole?PubMedへ Kennedy PM et al:J Physiol. 2002 Feb 1;538(Pt 3):995-1002
内 容
Introduction
・下肢からの体性感覚入力は、バランスを制御する上で重要な感覚情報源として長く認識されている。
・膝と足関節周辺の筋紡錘からの固有感覚情報は、関節角度の変化をコード化し、ゴルジ腱器官は体の負荷に関する力フィードバックを担う事が示唆されている。
・足底の皮膚受容器は接触圧に敏感であり、圧分布の潜在的変化に敏感である可能性がある。これらの体性感覚入力のすべての統合は、支持面に対する身体の位置に関する重要な情報を提供するようである。
・例えば、静止姿勢での足底皮膚の機械的刺激は姿勢の揺れを引き起こすことが示されている。突然の姿勢摂動に対する補償的ステップ反応は、足底支持情報の減少によっても影響を受ける。
・皮膚受容体は、体の支持基底面の境界に向かって移動するときの圧力中心の動きを検出するだけでなく、より安定した立位を促す姿勢反射をも働きかける。
・上記を示す研究は、起立したバランスの制御における皮膚情報の重要性を示しているが、足底からの皮膚入力に関する知識は、主に間接的な証拠に基づいている。
・足底の機械受容体の特徴に関する情報は限られている(2002年時点)。足底の皮膚メカノレセプターの活動の記録を研究の目的とする。
方 法
・被験者健康なボランティア13名(男性7名、女性6名)22〜50歳(平均29.6歳)で31回の記録セッションを行った。
・足底の皮膚機械的受容器の活動を記録するために、微小電極を上記被験者の膝窩と脛骨神経に挿入した。
・電極を手動で操作することにより、単一ユニットの記録を得ることができた。
・レセプターの位置および受容野の輪郭は、足底皮膚の表面に対して垂直に適用されたナイロンモノフィラメントを使用することによって決定された。
結 果
(Kennedy PM et al:2002)?PubMedへ
・全部で104の皮膚の機械受容器が足底の皮膚で同定された。
・全体として、9つの領域が観察された。それに基づいて足底に輪郭を描かれた.(上図)
・記録された126の求心性神経細胞から、106個の皮膚のメカノレセプターのうち31個の遅い順応型(SA)ユニットと75個の早期順応型(FA)ユニットに分類された。残りの20の求心性神経は、本レポートでは論じない。
・このサンプルは、15のSA I型(14%)、16のSA II型(15%)、59のFAⅠ型(57%)、および14のFA II型(14%)からなっていた。受容体が足の中に受容体を蓄積することなく広く分布していることを明らかにした。
(Kennedy PM et al:2002)?PubMedへ
上表:各レセプターのプロファイル:単位の総数、ナイロンモノフィラメントで推定された閾値レベル、その中央値、および受容野のサイズ等が計算され示される。
(Kennedy PM et al:2002)?PubMedへ
・SAユニットでは、タイプⅠおよびⅡにSAレセプターを分類することに難渋した。SAIユニットの受容野はSAⅡユニットのそれと同様であった。 SAIは典型的には不規則な発火パターンを有し、SAIIはより規則的な発火率を有した。(上図)
・FAIIは、最も低い中間閾値5mNを有し、SAIIは、最も高い中間閾値115mNを有した。
・FAIおよびSAIの中間閾値がそれぞれ12mNおよび36mNであったため、4タイプにおける中間値を有していた。
・足底の皮膚受容体の活性化の閾値はかなり変動している。いくつかのFAユニットは、0.5mNという低い刺激に応答したが、3000mNもの高刺激まで、いくつかのSAレセプターは活性化されなかった。
・足指(25mN;範囲0.5-150mN)、足底外側(80mN;範囲0.5-750mN)およびかかと(300mN;範囲0.7-3000mN)と皮膚受容体の平均閾値は異なった。
・足底の中間領域にて孤立されたより大きな受容野があった。
・足を無負荷状態にした場合、意図的に刺激を与えなかった場合、皮膚受容体のいずれにもバックグラウンド放電活性はなかった。
・足の閾値の上昇は皮膚厚の増加に起因していた。足底のユニットの受容野領域は、手に見られるユニットのフィールドの3倍であった。手とは異なり、受容野の位置は足の足底面全体にランダムに分布していた。
下図は、ヒールに位置するSAIIユニットのデータ例を示しています。
(Kennedy PM et al:2002)?PubMedへ
・前部ストレッチ(A)、内側ストレッチ(B)、後部ストレッチ(C)および外側皮膚ストレッチ(D)に応答して、皮膚に適用されるストレッチのレベルおよび対応する放電の活性の程度を示す。
・皮膚のストレッチの方向が、前方から横方向へ時計回りに変化すると、対応する活動電位の数は、相対的な皮膚伸張量で増加する。
・16個の受容体が優先的な皮膚のひずみ軸を示したにもかかわらず、この軸の向きはすべてのSAII単位で同じではなかった。
・限られた記録時間のために各ユニットの方向の正確な評価を得ることは困難であった。
まとめ
・自然な無荷重の状態で足底にバックグラウンド活動がないという事実は、足底の皮膚受容体からの活動が足が支持面に接触していることを知らせるために重要であることを示唆している。
・足底全体にわたる受容体の広範な分散は、皮膚レセプターが接触圧、地面との足の位置をコード化できることを確実にする。
・前腕の有毛の皮膚の皮膚受容体と無毛の皮膚の受容体との間に明確な違いが存在することが示されている。下肢にも同様の差異が存在する可能性が高い。
・これは、2つの皮膚タイプ間の解剖学的変形に起因し得る。無毛の皮膚は、皮下組織への密接な接続を有する。その結果、関節運動に応答して有毛の皮膚がより伸張される。
・このため、有毛の皮膚の受容体は、関節の動きおよび位置に関する情報を提供する上でより大きな役割を果たすと考えられている。ふくらはぎの有毛の皮膚の機械的受容性の求心性神経は、足部の無毛の皮膚の求心性神経が足の接触をシグナル伝達するためにより重要である一方、足の向きに関する情報を伝達するためにより適しているかもしれない。
・もし優先的な分布が存在するとすれば、足の前側面、側方の境界およびかかとにおける受容体等、負荷状態において体重の大部分を占める足の重要領域に対応する。
・記録セッションについて、SA受容体の数は、すべての対象にわたって記録されたFAの受容体の数を決して上回ることはなかった。したがって、我々は、この研究で記録されたFA対SA受容体の相対的割合は、足底における受容体の全体的分布を反映しており、バランス制御において高い動的感受性の必要性を反映していると考えている。
私見・明日への臨床アイデア
・図のメカノレセプターを観察すると、内側縦アーチ部のメカノレセプターは比較的観察されない。足底の感覚刺激としては、分布を考慮して練習した方が良いのではないかと考える。さらに、FAとSAとタイプの違うレセプターがあり、受容体の数も違い、単一な刺激でなく、様々な刺激が活性として有用と考える。
臨床後記
(記事更新:2021/2/14)
●臨床において脳卒中患者に限らず足部の皮膚が硬く厚みを持っている患者は多い。それ自体、足底感覚の閾値を引き上げる原因となっている。また、踵は感覚閾値が高く、患者は十分に接地出来ていないことから十分に踵を感覚的にも接地できていない人が多いと思われる。皮膚レベルからのケアと踵がしっかり床につける筋の長さ・その後の感覚練習と今後も入念に行っていきたい。
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)