脳卒中の動作分析の問題点抽出 片麻痺の立ち上がりを例に 第1章②-
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今回は動作分析の問題点抽出をテーマに述べていきたいと思います。
問題抽出する3ポイント
動作分析の中で問題点を抽出する際,
①神経学的側面(運動制御に関与する構造および経路)
②生体力学的側面(筋肉, 関節および軟組織の構造および特性を指す)
③行動的側面(認知的, 動機づけ, 知覚, 感情的側面)の3つに分類して観察する必要があります.
この3つの側面で対象者の問題の決定因子を全て特定することはできませんが, 潜在的な感覚, 運動, 筋骨格問題と作業実行中の筋グループの相乗的協調性(シナジー)を評価することは可能となります。
例えば, 立ち座りの遂行を困難にさせる原因を筋力低下と判断した場合, 筋力を改善する介入は必要です.
しかし, 実際の臨床では筋力が高まるという理由だけで, 課題実行中の適切なシナジー, 運動パターンが改善するわけではなく, 特に中枢神経系に障害を呈した患者にとってはよく遭遇する問題となります.
ー新人エピソードー
私も新人の頃は,多くの片麻痺の方の問題を解剖や運動学に強引に当てはめようとしていました.
うまく立位がとれない方に体幹機能低下など,ワンパターン化した問題点を挙げ,例えばメンタル的な落ち込みや,栄養状態など多岐にわたる可能性を考察できませんでした.
脳卒中の方は高齢者も多く,多岐にわたる原因が潜んでいることがあるので注意が必要です.
中枢神経障害では,
①原動力(prime movers)
②二次的原動力(secondary movers)
③シナジー
④全身の安定性(Whole-body stabilty)
など, 筋群の適切な協調性が頻繁に障害されます→エビデンス論文はこちら
MMTやROMは正常でも動作ができないケース
ある患者は, MMTでは適切な力を発揮できても, 機能的活動中には適切な相乗作用を発揮できません.
逆に, 全身運動(または他の筋肉群と組み合わせて)にのみ筋群に力を生成できるが, 単関節運動では生成できない患者もいます.
MMTだけでなくROMでも同様の問題は臨床で遭遇します. 例えば, 立ち上がりや立位時に, 足関節底屈を強めて立ち上がり, 緩められない患者であっても, 座位や臥位場面で背屈制限がない患者がいます.
上図は立ち上がりを4相に分けて分析しています。上記症例は比較的足部背屈のROMは保たれていますが,離臀時のhip周囲の低緊張によりCOMが後方偏位するため足部の背屈を活かせず,底屈パターンを強めてしまいます.
動作分析の課題と環境因子
運動戦略・相乗的作用を分析する上では, 相対的に安定した静的姿勢(臥位, 座位)の評価から立位や課題などの動的姿勢への分析へと移行する中で, 単独の問題から運動戦略の問題へとつなげていくことが可能です.
運動戦略は課題・環境に大きく制約を受けるため上図の視点は重要です.静的な課題で静的な環境下のもと行われる動作がもっとも運動分析を行う上でシンプルに分析できます.
一方屋外での人混みが多い中での買い物などは難易度が高まるため,分析するべきポイントも複雑になります.
動作分析を行う上で考慮すべきポイント
上記図のポイントのように患者の動作分析を行う際は常に環境と課題、動作の時系列的側面を細かく評価しながら,根本的問題を抽出していくことが重要です.
そのためには解剖/運動/神経学的知識などが当然重要となります.知識なくして動作分析はできません.
執筆 金子唯史
所属 STROKE LAB
職種 作業療法士
参考論文
・Janssej WG, Bussmann HB, Stam HJ. Determinants of the sit-to stand movement: a review. Phys Ther. 2002;82:866–879.
・Kamper DG, McKenna-Cole AN, Kahn LE, Reinkensmeyer DJ. Alterations in reaching after stroke and their relation to movement direction and impairment severity. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83:702–707.
・Runge CF, Shupert CL, Horak FB, Zajac FE. Ankle and hip postural strategies defined by joint torques.Gait Posture. 1999;10:161–170.
・Gentile AM. Skill acquisition: action, movement, and neuromotor processes. In: Carr JH, Shepherd RB, eds. Movement Science: Foundations for Physical Therapy in Rehabilitation. 2nd ed. Gaithersburg, Md: Aspen Publishers Inc; 2000:111–187.
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)