ADLと動作分析 神経システム-脳卒中の動作分析④-理学療法,作業療法評価
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今回は動作分析の問題点抽出をテーマに述べていきたいと思います。
ADLは基本動作の集合体
筆者の経験として作業療法士からADLの動作・課題分析へのポイントについて質問を受けることがあります. 筆者の意見として, 基本動作の分析ができない限り, ADL・課題分析は困難であると考えています.
下図ではトイレ動作に必要なコンポーネントを提示しています. 本著ではこのような基本動作を各章で取り上げており,各章を理解して臨床に活かしていけば, 最終的には課題分析が容易になると考えています.
野球や演奏は, 基礎となる運動や奏法があるからこそ,一連の動作が可能となります.トイレ動作を構成する要素も熟知していないのに,トイレ動作の課題分析はできません. 英単語の語彙力がないのに,リスニングやスピーキングは簡単には伸びません.
基本的に学生時代の3-4年間の教育においてADLのようなダイナミックな動作分析を分解していく授業だけでは, 圧倒的に知識量が足りていません.これは卒後に個々で補っていくべき大きな課題になります.
よく「機能と生活の両方を見れるようになりたい」という療法士がいますが,それは「英語とロシア語を話せるようになりたい」と似たようなものです.
圧倒的な勉強量が必要になりますので, それ相応の年月は覚悟しておく必要があります.
機能を見れるには歩行も上肢も手も評価できる必要があります.
もちろん, 基本動作分析のみでは, 環境や文脈的側面に影響を受けるADLなどの課題分析が完全に把握できるわけではありません.
量的評価と質的評価
しかし「可能」「不可能」「一部介助」など動作遂行の結果に焦点を当てる評価方法に幅が拡がり, 量的評価だけでなく質的評価も可能となります.
「可能」「不可能」の間の可能性 をセラピストは探求していくことを忘れてはいけません.
そのため, 正常運動への理解を深めつつ, 数多くの症例に対して上図の流れを繰り返しながら臨床家の経験値を高めていく必要があります. 常に評価と介入は一体となり, 「何故?」を自問自答しながら進めていく必要があります.
運動制御と脳卒中の病態
動作分析において基本的な運動制御を理解しておくことは重要である. McCreaら1)は, 上肢のリーチ動作のメカニズムを提示しています.
上の図からわかるように, 実際のリーチ動作(出力)前に, 様々な数多くのシステムが成立する必要性があります. リーチ動作の神経制御は計算上複雑であり, すべての関節, 姿勢の安定において, 筋収縮の協調性を必要とします.
リーチ動作における中枢神経系(CNS)内での計画は, 空間上で手を動かすために, 肩, 肘の運動パターンを変換させる階層的な運動制御を行う必要がります.
リーチ中の各関節の加速度は, 関節トルク(回転力)慣性(運動の変化に対する物体の抵抗)の両方に依存するといわれています.
上肢, 前腕, 手の動きや構成によって, 上肢の複合的な関節運動が生まれます 2). 関節トルクの連鎖は筋活動だけでなく, 重力, 関節の粘弾性, 外力(例えば, ドアノブからの反力)に影響を受けます.
また, 重力は, 上肢の各セグメント間の質量と方向に依存します.
粘弾性は, 関節の位置を安定させる固有の機械的特性です. 運動は, 高位レベルでは関節角の座標軸(例えば, 制御 肩, 肘及び手首の角度)と最終的な終点の座標(ターゲット)で決定されます 3).
-新人エピソード-
私は新人の頃,片麻痺の方のリーチ動作はどうしても目に見える現象に着目しがちで,「肩関節が外転,体幹の側屈,肘の屈曲,撓側優位…」などの分析ばかりでした.
間違いではないですが,その背景に筋の長さ以外にも症例によって問題点が異なります. 認知的な側面や慣性,重力との関係など分析すべきポイントは多々あります.
リーチのフィードフォワードとフィードバック
また, 中枢神経系は, フィードフォワード戦略とフィードバック戦略の両方を使用してリーチを制御します 4).
リーチの第1段階はフィードフォワード(計画された)制御であり, 知覚情報は四肢の力学への外乱を予測し, 経験に基づいて適切な筋の活性化を計画するために用いられます(移送期).
フィードフォワード制御は, 1つの加速段階と1つの減速段階を含む連続的な移動によって特徴付けられます.
リーチの第2段階はフィードバック制御であり, 腕の現在の位置と速度に対する腕の配置場所との間の相違を修正します(操作期).
フィードバック制御において, 末梢受容器からの信号は, 筋, 関節, 他の組織において生じる事象についての情報を神経系に戻します.
フィードバック制御は, 手とターゲット間の誤差を伝えるために, 多様な加速, 減速を含む非連続な移動によって特徴付けられます.
このように, 身体に作用する内外の力に影響する外乱を予期して修正することを学び, 繰り返すことで随意運動のコントロールが改善されます 5).
リーチの詳しいメカニズムは, 上肢の章で詳細を述べていきますので今後の記事を参考にしていただければ幸いです. 脳卒中患者の場合, 上図の外枠の問題(黄緑文字)が付随しやすく, 結果的に運動出力時に失敗しやすいです.
執筆 金子唯史
所属 STROKE LAB
職種 作業療法士
参考論文
脳卒中の動作分析(寝返り・起き上がり)に役立つ動画
https://youtu.be/jnbEJI6ltlE
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)