【2024年版】エリーテスト(ELY test)は整形外科や脳性麻痺児の大腿直筋の機能異常の評価に有効!?適中率を探る。
ELYテストの臨床応用と脳卒中患者への応用法
新人療法士の丸山さんがリハ医の金子医師にELYテストについて質問する場面から始まる
1. 序章:ELYテストとは何か
丸山さん: 「金子先生、ELYテストについて詳しく教えていただけませんか?脳卒中患者にも有効だと聞いたのですが、どのような目的で使えるのでしょうか?」
金子先生:
「ELYテストは、大腿四頭筋、特に大腿直筋の柔軟性を評価するためのテストだよ。患者を腹臥位にして膝を屈曲させるとき、骨盤の前傾や疼痛があるかを確認することで筋緊張や短縮の有無を評価する。もともと整形外科領域で用いられることが多いけど、脳卒中患者への応用も重要だ。なぜかというと、筋緊張や痙縮が歩行や起立、バランスに影響を与えるからなんだ。」
2. 脳卒中患者にELYテストを応用する理由
金子先生:
「脳卒中後の患者では、大腿直筋が過剰に緊張したり短縮したりすることがよく見られる。これが、歩行時の膝の動きや立位での骨盤の安定性に直接影響を与えるんだ。ELYテストを使えば、以下のような情報を得られる。」
- 大腿直筋の柔軟性評価:
痙縮による筋緊張の過剰や短縮の程度を確認できる。 - 骨盤の動きと連動性の評価:
テスト中に骨盤が過度に前傾する場合、骨盤-股関節の動きに問題があることを示唆。 - 疼痛の有無の評価:
脳卒中患者では痛みが隠れたリスク因子となるため、これを把握できる。 - 歩行動作への予測因子:
大腿直筋の短縮があると、膝屈曲期や振り出し期の歩行に障害をきたす可能性が高い。
3. 手順の確認
丸山さん:
「テストの実施方法を改めて教えていただけますか?」
金子先生:
「もちろん。基本的な手順は以下の通りだ。」
- 患者を腹臥位にする。
ベッドの上でリラックスした状態を保つことが重要。 - 膝を他動的に屈曲する。
ゆっくりと膝を屈曲させ、骨盤の動きを観察する。 - 骨盤の動きの有無を確認。
もし骨盤が前傾し始めたら、その角度で大腿直筋が伸張限界に達していると判断する。 - 疼痛や筋スパズムの有無を評価。
患者に痛みや不快感があるか尋ねる。
4. 脳科学的視点からの解釈
金子先生:
「脳科学的な視点も重要だね。脳卒中患者では、脳の損傷部位が運動制御や筋の緊張に影響を与える。この場合、大腿直筋の短縮は皮質脊髄路や皮質網様体脊髄路の異常が原因であることが多い。特に、錐体外路系の過剰興奮が筋緊張を高めてしまう。」
丸山さん:
「そうなんですね。ということは、ELYテストで短縮が確認された場合、その背景には中枢神経系の問題がある可能性が高いということですか?」
金子先生:
「その通り。それがリハビリ計画を立てる上で重要な情報になるんだ。」
5. 臨床応用の具体例:症例検討
金子先生:
「実際の症例で考えてみよう。例えば、60代の男性脳卒中患者で、右片麻痺と痙縮があるケースだ。この患者が歩行中に膝が伸びきらず、歩幅が狭いという問題があるとする。」
ELYテストの結果:
- 膝を90度以上屈曲すると骨盤が前傾し始める。
- 患側に疼痛を訴える。
解釈:
- 大腿直筋の短縮があると考えられる。
- 痙縮による膝の伸展制限が歩行に影響している。
リハビリ計画:
- ストレッチング: 他動的に大腿直筋を伸ばす練習を日課にする。
- 電気刺激療法(NMES): 痙縮を軽減し、筋の柔軟性を高める。
- 筋強化訓練: 脛骨前筋やハムストリングスの強化で膝の動きをサポート。
6. メリットとデメリット
丸山さん:
「ELYテストを使うメリットと注意すべき点は何ですか?」
金子先生医師がメリット・デメリットを解説する。
メリット:
- 筋緊張や短縮を簡便に評価できる。
- 骨盤の動きや疼痛の有無も同時に確認可能。
- その結果がリハビリ計画の方向性に直結する。
デメリット:
- 他動的に膝を屈曲させる際に疼痛が強い場合、正確な評価が難しい。
- 骨盤の前傾が過剰な患者では、股関節屈筋群の影響も考慮する必要がある。
7. 今後の学び
金子先生:
「丸山さん、ELYテストをただの評価で終わらせないようにしよう。評価で得た情報を基に、患者にとって最も有効なアプローチを考えるのが療法士の仕事だよ。」
丸山さん:
「ありがとうございます!これからもELYテストを積極的に活用していきます。」
まとめ:ELYテストの活用法
- 大腿直筋の柔軟性や痙縮を評価する重要なツール。
- 骨盤や歩行機能との関連性を見極めることができる。
- 中枢神経系の異常が背景にある場合、その理解がリハビリ計画に役立つ。
一連の股関節検査を記事とYouTube動画でしっかり理解できます。↓↓↓
エリーテスト【ELY’s test】とは?
目的
Elyテストまたはダンカンエリーテスト(Duncan-Ely)は、大腿直筋の痙縮や短縮を評価するために使用されます。
実施方法
患者はリラックスした状態でうつ伏せになります。
セラピストは患者の横に立ち、テストする脚の側に立ちます。片方の手は腰に当て、もう片方の手は脚の踵部分を持ちます。膝を受動的に急速に曲げます。踵が臀部に触れるまで実施します。※整形外科テストにおいては急速に曲げる事が必須ではありません。
両側をテストして比較します。かかとが臀部に触れず、テストした側の腰がベッドから挙上し、患者が腰や脚に痛みやしびれを感じれば、テストは陽性です。
エビデンス
エリーテストの感度は56%~59%、特異度は64%~85%という研究結果があります。
エリーテストは臨床的によく行われますが、大腿直筋の痙縮に対する陽性の重要性は不明です。
Perryらは、エリーテストは多くのCP対象者の大腿直筋と腸骨の両方に筋電図(EMG)反応を誘発するため、大腿直筋の緊張や痙性の特異的な指標とはならないことを示しました。
Chambersらは、Elyテストは大腿直筋のEMG活動の異常に対する予測値を持たないと報告しています。
脳卒中や脳性麻痺の患者の場合、痙縮の範囲は大腿直筋に限局せず、多くに広がっていることが一般的です。
したがって整形外科のように大腿直筋のみをテストで補うのは難しいかもしれませんね。
カテゴリー
タイトル
●ELYテストは大腿直筋の機能異常の評価に有効!?ELYテストによるEMG評価及び運動学的データ異常の陽性適中率
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●大腿直筋の機能異常によりswing相など歩行時の問題を示す患者は多い。大腿直筋の機能異常を客観的データとして示すELYテストについてより詳細に学ぼうと思い本論文に至る。
内 容
背景
●Ely test エリーテスト(またはDuncan-Elyテスト)は、患者がリラックスしたうつ伏せの状態で膝を素早く受動的に屈曲させることにより大腿直筋の痙縮を評価するための臨床ツールです。
●本レビューでは、70人(患者の平均年齢は13歳で4歳5ヶ月から54歳の範囲の脳性麻痺患者、全ての患者は歩行可能)の歩行中の患者の膝の動的な可動域(ROM)と筋電図(EMG)がElyテストの結果と比較されました。
方法
●本研究では、対象とする問題は大腿直筋の異常としました。現在の大腿直筋の異常を評価するための標準的基準は、動的な筋電図評価および運動学的データを含む歩行分析です。
●Elyテストの結果と比較された基準には、以下が含まれました。
①歩行中の患者の膝の動的可動域(ROM)がElyテストの結果と比較された。異常な動的膝ROMは、スイング相で<40˚であると見なされた。
② 患者の動的な筋電図をElyテストの結果と比較した。障害のない患者の膝の屈曲のピークは歩行サイクルの71%で発生し、大腿直筋筋電図活動が停止するポイントであった。したがって、EMGは歩行サイクルの71〜92%の異常な活動について分析された。
③歩行周期のパーセンテージとしての最大膝屈曲のタイミングも監視され、Elyテストの結果と比較された。非麻痺側の患者の膝屈曲のピークは、歩行周期の71%で発生した。タイミングの遅延は、歩行サイクルの71%以上と定義された。
④動的なROMと異常なEMGも組み合わせ、エリーテストの結果と比較した。異常なROMとEMGによるエリーテストが陽性であれば、エリーテストが敏感であることを示します。通常のROMとEMGでのエリーテストが陰性であれば、エリーテストの特異性が実証されます。
結果
●Elyテストは、歩行中の大腿直筋の機能障害、特に動的膝ROMの減少、スイング時の膝屈曲のピークタイミングの遅延およびスイング相の大腿直筋の異常な筋電図に対し、良好な陽性予測値を示すことが示されました。
明日への臨床アイデア
臥位でELYtestを実施する事で、歩行時のstiff knee gait(動的膝ROMの減少、スイング時の膝屈曲のピークタイミングの遅延およびスイング相の大腿直筋の異常な筋電図)が予測できることが分かった。
逆に大腿直筋の影響か評価する際にELYtestが有用であることが分かる。主観的評価だけでなく、客観的評価を用いることは、一般的な基準と本人を比較する事で少なからず問題がありとした方が良いのか、他の問題を考えた方が良いのか判断の整理がつきやすい為お勧めする。
ELYテストを活用した脳卒中患者のリハビリ評価と治療トレーニングの具体的手順
ELYテストは、大腿四頭筋の柔軟性を評価する重要なツールです。脳卒中患者においては、股関節屈曲および膝伸展の協調性や大腿四頭筋の拘縮状態の確認に活用され、歩行や移乗動作の改善を目指した治療計画に役立ちます。以下に、ELYテストを用いた評価とその結果に基づいたリハビリトレーニングの具体的手順を解説します。
1. ELYテストの評価手順
- 患者のポジショニング:
- 患者を腹臥位にさせ、骨盤が床面に固定されるよう調整します。
- 骨盤が回旋しないよう、療法士が注意して観察します。
- 膝関節の屈曲:
- 患者の膝関節を屈曲させます(90度以上を目標)。
- 骨盤が浮き上がらないようにしながら、大腿四頭筋の柔軟性を確認します。
- 終末可動域と反応の記録:
- 骨盤が浮き始める位置や、患者が痛みや不快感を訴える角度を記録。
- 可能であれば、可動域を角度計で測定し、客観的なデータとして残します。
- 筋緊張や伸張感の確認:
- 反射的な筋緊張が生じる場合、大腿四頭筋の拘縮や痙縮の可能性を考慮します。
- 麻痺側と非麻痺側の比較も行い、左右差を把握します。
2. ELYテスト結果に基づくリハビリ治療の具体的手順
A. 大腿四頭筋の柔軟性向上を目指した介入
- 静的ストレッチ:
- 患者を側臥位または腹臥位にして、大腿四頭筋をゆっくりとストレッチ。
- 20~30秒間保持し、1日3~5セットを実施。
- 呼吸を整え、リラックスを促進。
- ダイナミックストレッチ:
- 患者が可能であれば、自動的な膝屈伸を繰り返す運動を取り入れます。
- 痙縮が強い場合、低負荷の振動刺激を使用することで筋緊張を軽減します。
- 持続的低負荷持続伸張:
- シリアルキャスティングやポジショニングを利用して、持続的に伸張刺激を提供します。
B. 可動域の改善を目指した介入
- 神経筋促通法(PNF):
- パターン: 股関節屈曲-外転-内旋、膝屈曲を用いて、協調運動を強化。
- 反復的な抵抗運動を通じて、筋出力を改善。
- マッサージと筋膜リリース:
- 大腿四頭筋の緊張緩和を目的に、軽度のマッサージを取り入れる。
- 関節モビライゼーション:
- 膝関節および股関節の動きが制限されている場合、軽いモビライゼーションを実施。
C. 機能的トレーニングへの応用
- 歩行訓練とELYテストの連動:
- 大腿四頭筋の柔軟性が改善された後、歩行訓練を導入。
- ハイステップ練習や階段昇降訓練を取り入れて、屈曲可動域の実用性を高めます。
- 立位での筋力強化訓練:
- 膝屈曲位でのスクワットやバランスボードを活用して、大腿四頭筋とハムストリングスの協調性を強化。
- スポーツ動作の模倣:
- 麻痺側の機能改善が進めば、軽いスポーツ動作を模倣する訓練を取り入れることで、日常生活動作を想定したトレーニングを行います。
3. 注意点と補足情報
- 痙縮管理:
- テスト中に痙縮が強く現れる場合は、筋弛緩薬やボツリヌス療法などの補助的な医療介入も考慮します。
- 疼痛管理:
- 膝や股関節に痛みがある場合、疼痛の原因を追求し、適切な治療を並行して行います。
- 評価の継続性:
- 定期的にELYテストを繰り返し、柔軟性や可動域の変化をモニタリングします。
ELYテストは、単なる評価ツールにとどまらず、リハビリの治療計画を構築する上での基礎を提供します。段階的かつ機能的な介入を通じて、患者の歩行能力や日常生活動作を効率的に改善することが可能です。
新人療法士がELYテストや整形外科評価を片麻痺患者に実施する際のポイント
新人療法士がELYテストや整形外科評価を片麻痺患者に実施する際のポイント
評価目的を明確にする
- 片麻痺患者へのELYテストは、大腿四頭筋の柔軟性や拘縮の程度、痙縮の影響を評価する目的で実施されます。
- 他の整形外科評価と組み合わせて、歩行や日常生活動作にどのような影響があるかを把握します。
骨盤の安定を確保する
- 患者を腹臥位にした際、骨盤が動かないように固定することが重要です。骨盤が浮き上がると、評価結果が不正確になります。
麻痺側と非麻痺側の比較を行う
- 片麻痺患者の場合、麻痺側と非麻痺側で筋緊張や柔軟性に違いがあります。両側を評価して左右差を明確に把握することが重要です。
可動域を慎重に測定する
- 骨盤が動き始める角度を注意深く観察し、可能であれば角度計を使用して正確に記録します。
疼痛の有無を確認する
- ELYテスト中に患者が疼痛を訴える場合、その部位や原因を特定し、無理にテストを進めないことが重要です。
筋緊張の反応を評価する
- ELYテストの際に痙縮が生じるかどうかを確認します。特に、伸張反射が出現する場合は、痙縮管理が必要な可能性があります。
患者への説明を徹底する
- 評価の目的やテストの流れを患者に分かりやすく説明し、安心してもらいます。患者の協力が得られるかが評価の精度を左右します。
代償動作に注意する
- 膝の屈曲時に骨盤回旋や脊柱伸展などの代償動作が見られる場合、それが柔軟性不足や痙縮によるものかを分析します。
他の整形外科評価と組み合わせる
- 例えば、ハムストリングスの柔軟性を測定するSLR(Straight Leg Raise)テストや、関節可動域の測定を併用して、包括的な評価を行います。
評価結果をリハビリプランに活用する
- 結果を基に、柔軟性向上を目的としたストレッチや、筋緊張を緩和するアプローチ(PNF、低負荷運動など)を導入します。また、患者の歩行や移動訓練の計画に反映させます。
補足アドバイス
- 時間の確保: 新人療法士は、評価手順を急がず、一つひとつ確認しながら進めるようにします。
- 記録の徹底: 初回評価時と経過観察時のデータをしっかり記録し、患者の変化をモニタリングします。
- フィードバックを求める: 初めて実施する場合は、上司や先輩療法士にフィードバックを求めることで、実施技術を向上させられます。
これらのポイントを押さえることで、ELYテストや整形外科評価を安全かつ正確に実施し、リハビリプランに効果的に活用できます。
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)