【2022年版 認知症の転倒】MMSE(ミニメンタルステート検査)の関係性とリハビリ
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論文に入る前に
医療従事者であれば「転倒」と口にすること多いですよね?
皆さんは転倒の定義について考えたことはあるでしょうか?
実際、様々な定義があるんです。一部を見てみましょう。
他者による外力、意識消失、脳卒中などによる突然発症した麻痺、てんかん発作等によることなく、不注意によって、人が同一平面あるいはより低い平面へ倒れること
と1987年にGibsonさんが転倒を定義しているようです。
研究でよく使われるシンプルなバージョンでは、転倒を「地面、床、または低いレベルで休息する予期せぬ出来事」と定義していることもあります。
実は、高齢者の転倒は増加傾向で、入院する大きな原因となっています。
アメリカだと、65歳以上の成人の約27.5%が2018年の1年間に少なくとも1回は転倒して、10.2%は障害を負っているようです。
転倒の原因はなんだろう??
加齢、病理的な問題、運動不足、多臓器不全、環境はじめ200以上の危険因子が転倒の原因として確認されているんです。それは複数が重なっている人もいて、すべてのリスクを特定することは不可能で、主要な原因を評価して特定することが大事となっています。
問題点をいくつか挙げてみましょう。
●歩行能力の低下
●バランス機能の低下
●筋力低下含む運動能力の変化
●転倒恐怖感
●視空間機能障害
●認知機能障害
●不安、うつ症状など精神的側面の問題
●神経学的検査における異常
●尿失禁
●服薬状況(多剤投与)
●アルコール
●生活環境
歩行能力、バランス能力、運動機能の変化、環境の問題などが転倒に関わることは比較的推測しやすいと思われます。最近では、コロナウイルスによるステイホームの影響で運動不足になり、心身が弱り、転倒しやすくなった方も多いんじゃないでしょうか。
その他に、高齢者の自身の能力に対する認識(誤認)および転倒に関する恐怖心、薬物や飲酒なども転倒に関わってきます。多剤投与は転倒の独立した要因とも言われています。
不安や抑うつ状態は、運動などへの参加やリハビリの進行を妨げる可能性があり、運動不足によって転倒や骨折のリスクを高めます。
転倒の危険因子は”内因性“と”外因性“に分類すると良いと思います。
内因性の危険因子・・とは、転倒のリスクを高める個人の特徴のことを言います。運動感覚障害、薬物あるいは転倒のリスクを高める病気(パーキンソン病、脳卒中、変形性関節症、糖尿病など)の存在に関連している可能性があります。
外因性の危険因子・・とは病気や薬物使用とは関係のない外部環境に関連する社会的・物理的要因のことです。例えば、氷の上で滑った場合などが挙げられます。75歳未満の人の転倒は、75歳以上の人に比べて外因性の要因によるものが多いと報告されています。
臨床ではバランス機能がカットオフ値に達していなくとも認知機能面に問題がなければ生活動作が自立している方も少なくない現状があります。そうすると、認知機能や高次脳機能、心理的側面などが転倒に少なからず影響していると推測され、MMSEやCBAなどの検査と総合的に患者の転倒リスクや自立度を考えていく必要があります。
カテゴリー
タイトル
●高齢者の再発性転倒と認知障害の関係性とは?MMSE(ミニメンタルステート検査)の細項目と転倒の関係性
内 容
背景・方法
●本研究の目的は、再発性の転倒者の認知領域に焦点を当てて関連する要因を特定することでした。
●研究は、オーストラリアのバンクスタウン病院で実施されました。
●ADLと移動に関して、患者は理学療法士と作業療法士によって「自立」または「要介助」状態と評価されました。
●患者のMMSEの細項目の評価と転倒の時間帯を取り巻く転倒者の認知状態も確認しました。
●研究の参加者の平均年齢は80±10.1歳でした。
●2回以上の転倒を経験した70人の高齢者のケア病棟の患者の特徴を遡及的に調査しました。入院中に1回の転倒を経験した269人の患者と69人の非転倒者とを比較しました。
結果
●再発性の転倒の独立した危険因子は、認知症、脳卒中または心房細動の病歴でした。
●再発性の転倒者は、単回の転倒者および非転倒者よりもMMSEスコアが大幅に低かったようです(再発:17.3±6.7、単回:20.2±6.2、非転倒:24.0±5.1)。
●再発性の転倒者のMMSEは 18未満でした。
●再発性の転倒患者は、MMSEの「即時想起」、「注意と計算」、「遅延再生」、「模写」 の項目で、単回の転倒者よりもスコアが大幅に低くなる傾向がありました。
●特に短期記憶、想起および視空間認知に影響を与える認知障害が入院患者集団の再発性の転倒の一因となっている可能性があることを示唆しています。
まとめ「転倒と認知機能の関係性」の論文から学んだこと
MMSE(ミニメンタルステート検査)をはじめ認知機能検査を療法士はしっかり転倒リスクと結びつける重要性を学びました。
細項目の失点の意味を考えて、患者の生活をリアルに想像したいと思いました。
たとえば、記憶面の問題があるような患者であれば、注意喚起してもそもそも注意されたことを覚えていないことが問題となります。そのように、細項目と転倒の関連性を意味づけすることが重要となると思いました。
バランススケールと転倒との関連性を学んだりしていると、よく使用するカットオフ値は認知機能障害の患者を省いていたりすることに気づき、カットオフ値について再考しようと思いました。
●Vol.533. Functional Balance Scale (FBS) バーグバランススケール(BBS) が高齢者の転倒を予測できるか?
●vol.384:高次脳機能評価は転倒を予測できるのか? 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
●vol.166:脳卒中者の歩行と転倒恐怖感 脳卒中/脳梗塞リハビリ論文サマリー
参考論文
・Gibson MJ, Andres RO, Isaacs B, Radebaugh T, Worm-Petersen J. The prevention of falls in later life. A report of the Kellogg International work group on the prevention of falls by the elderly. Danish Medical Bulletin 1987; 34(Supple.4):1-24.
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)