【2024年最新版】脳卒中片麻痺患者の体温変化とは?冬場の寒さによる影響を解説!
論文を読む前に
論文を読む前に、講義形式で「脳卒中後の麻痺側の低体温」についておさらいしていきましょう。
登場人物:
- 金子先生 – リハビリテーション医師
- 丸山さん – 新人療法士
金子先生の講義開始
金子先生: 「さて、丸山さん。今日は脳卒中後の麻痺側における低体温の問題についてお話ししましょう。このテーマは、リハビリテーションにおいて見落とされがちですが、患者さんの回復に大きく影響する重要なポイントです。」
丸山さん: 「よろしくお願いします!脳卒中後の麻痺側の低体温というのは、どういったメカニズムで起こるのでしょうか?」
金子先生: 「良い質問ですね。脳卒中後の麻痺側の低体温は、主に以下のようなメカニズムで発生します。まず、脳卒中によって中枢神経系の損傷が生じると、麻痺側の自律神経系の機能が低下し、末梢血管の収縮や拡張の調節がうまくいかなくなります。その結果、血流が減少し、体温が低下することがあります。」
画像引用元:Nature
低体温の発生メカニズムとその影響
丸山さん: 「なるほど。それは筋肉の活動にも影響があるのでしょうか?」
金子先生: 「はい、その通りです。筋肉の活動が低下すると、熱の産生が減少します。特に麻痺側では筋肉が不活発になるため、熱がほとんど生まれません。加えて、感覚の低下によって患者さんが冷えを感じにくくなるため、適切な保温が行われない場合もあります。このように、複数の要因が重なって麻痺側の低体温が生じるわけです。」
丸山さん: 「麻痺側の低体温が続くと、どのような影響が出るのでしょうか?」
金子先生: 「麻痺側の低体温が続くと、筋肉の柔軟性が低下し、関節の拘縮や痛みの原因になることがあります。また、低体温は血流をさらに悪化させ、褥瘡(じょくそう)や感染症のリスクも高める可能性があります。これらの問題は、リハビリテーションの進行を妨げ、患者の生活の質を低下させることにつながります。」
臨床での対応と具体的なアプローチ
丸山さん: 「それでは、私たち療法士ができる対応策としては、どのようなものがありますか?」
金子先生: 「まず、麻痺側の皮膚の状態を定期的に観察し、冷たさや血行不良の兆候をチェックすることが重要です。次に、適切な保温を行うことが大切です。例えば、保温効果の高い衣類やブランケットを使用し、特に寒い季節や冷房の効いた室内では注意を払う必要があります。」
丸山さん: 「具体的なリハビリの中で気をつける点はありますか?」
金子先生: 「はい。リハビリテーションのセッション中には、患者さんの体温管理に気をつけ、適切なウォームアップを行うことが推奨されます。ウォームアップは筋肉の血流を促進し、温度を上げる効果があります。また、電気刺激やマッサージを利用して血流を改善することも効果的です。」
丸山さん: 「電気刺激も使うんですね。それは麻痺側の筋肉に対して、どのように使用するのでしょうか?」
金子先生: 「電気刺激は、麻痺側の筋肉に対して直接的な刺激を与え、血流を促進し、筋肉の温度を上げるのに役立ちます。ただし、皮膚が乾燥している場合や傷がある場合には使用を避けるべきです。また、電気刺激の強度や頻度については、患者さんの感覚や反応を見ながら調整する必要があります。」
患者教育と家族のサポート
丸山さん: 「家族や患者さんに対して、どのような教育やサポートを行うと良いでしょうか?」
金子先生: 「患者さんや家族には、麻痺側の低体温が健康に与える影響を理解してもらい、日常生活でのケア方法を教えることが大切です。例えば、室内の温度管理や適切な衣類選び、保湿ケア、定期的な皮膚のチェックなどを指導します。また、家族にも麻痺側を定期的に触って冷たさを感じることや、冷え対策として温かいタオルを使用するなどの具体的な方法を教えておくと良いでしょう。」
丸山さん: 「患者さんと家族が一緒に取り組めるようにすることが重要なんですね。」
金子先生: 「その通りです。患者さんが自分の体温管理に関与できるように、そして家族もサポートできるようにすることで、リハビリテーションの効果がさらに高まります。麻痺側の低体温を適切に管理することで、患者さんの生活の質を向上させ、リハビリテーションの進展を助けることができます。」
丸山さん: 「ありがとうございます、金子先生。低体温の問題について深く理解できました。さっそく臨床で活かしていきたいと思います。」
金子先生: 「こちらこそ、良い質問をありがとうございました。これからも患者さんのために、熱心に学んでいってくださいね。」
論文内容
カテゴリー
タイトル
●脳卒中片麻痺患者の体温の評価
●原著はEvaluation of body temperature in individuals with strokeこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●コロナの影響で検温することは多い。ふと、麻痺側の体温と非麻痺側の体温で違いがないか興味を持ち本論文に至った。
内 容
背景
●脳卒中は熱感度の変化を引き起こす可能性があります。本研究目的は脳卒中後の片麻痺患者の体温の状態を健常者と比較検証すること、また熱感受性と性別・年齢・BMI・障害側・脳卒中発症からの期間、熱の報告、運動性などとの関係性を確立することでした。
方法
●この横断的研究には、脳卒中片麻痺患者100名と健常者30名が参加しました。
●末梢神経病変、糖尿病、末梢血管疾患または腫瘍を有する患者はこの研究に含まれていませんでした。
●参加者は皮膚温度計を使用した腋窩温度評価と、赤外線センサー(ThermaCAMTM SC 500-FLIR Systems)を用いて赤外線サーモグラフィによって測定された手足の皮膚温の評価を受けました。
結果
●結果は、健常者は体のどちらの側でも同じような体温を持っていることを示しています。
●片麻痺の被験者は、麻痺側の温度が低く、健常者と比較して両足の体温は低かった。
●結果はまた年齢、BMIおよび脳卒中後の経過時間が体温の変化に影響を与えないことを示しています。
●麻痺側については、右側(右足)の片麻痺者は左側の片麻痺者よりも体温が低いことが分かりました。
●運動性は手足間の温度差とは関係がありませんでした。
●要約すると、健常者は両側で温度対称性がありますが、脳卒中患者は麻痺側、特に下肢の温度が低くなります。
明日への臨床アイデア
脳卒中患者の皮膚温度の赤外線サーモグラフィーでは、特に下肢において、麻痺側が反対側の手足よりも冷たく、非対称性が示されています。また、年齢、脳卒中発症からの経過時間、BMI、運動能力は、この温度変化に影響を与えないことが報告されています。
脳卒中後の麻痺側の低体温やそれに伴う二次的な問題に対して、患者本人や家族が行えるケア方法を考えていきましょう。
麻痺側の低体温に対するケア方法
適切な衣類の選択と着用
- 麻痺側の体温が低下しないように、長袖や厚手の衣類を着用することを勧めます。特に冬季には、保温性の高い素材の服を選び、重ね着をすることで体温を保つことが重要です。
ブランケットや暖房器具の活用
- 家の中でも寒さを感じることがないように、ブランケットや電気毛布を使用し、暖房器具を適切に活用することが推奨されます。ただし、火傷のリスクがあるため、長時間の使用や直接の接触には注意が必要です。
定期的なマッサージ
- 麻痺側の血流を促進するために、家族がマッサージを行うことが有効です。優しくなでるようにマッサージすることで、筋肉の緊張を緩和し、血流を改善することが期待できます。
ホットパックや温湿布の使用
- ホットパックや温湿布を使って、麻痺側の冷えた部位を温めることが有効です。使用する際には、やけどを防ぐために、必ずタオルを挟むなどの対策を行いましょう。
皮膚の保湿と保護
- 乾燥が進むと皮膚のバリア機能が低下し、冷えやすくなります。保湿クリームやローションを使用して、麻痺側の皮膚をしっかり保湿し、乾燥を防ぐことが重要です。
適度な運動とリハビリ
- リハビリを通じて筋肉を動かし、血流を改善することも低体温対策に有効です。無理のない範囲で適度な運動を継続し、リハビリの効果を高めましょう。
温かい食事や飲み物の提供
- 温かい食事や飲み物を摂取することで、体全体の体温を上げることができます。特に寒い日には、スープやお茶などの温かいものを積極的に取り入れるようにします。
適切な室温の管理
- 室内の温度を適切に保つことも重要です。特に寒い季節には、室温を適切に設定し、エアコンやヒーターを活用して快適な環境を整えるようにしましょう。
外出時の防寒対策
- 外出する際には、手袋、帽子、マフラーなどを使用して、露出している部分をしっかり保護することが重要です。特に麻痺側は冷えやすいため、十分な防寒対策を行いましょう。
定期的な皮膚チェック
- 麻痺側の皮膚は感覚が鈍くなることが多いため、定期的に家族が皮膚の状態をチェックすることが重要です。異常な赤みや冷たさを感じた場合は、早めに対応するようにします。
これらのケア方法を取り入れることで、麻痺側の低体温を予防し、脳卒中後の二次的な問題の発生を抑えることができます。患者本人だけでなく、家族も一緒に取り組むことで、より効果的なケアが実現します。
筋肉の硬さと寒暖差の関係
麻痺側の筋肉が冬場に硬くなりやすい、痛みやすいという声を多く聞きます。原因について、いくつかの要因が考えられます。麻痺側の低体温が関係するかどうかについても併せて述べます。
1. 筋肉の硬さと低温の関係
a. 温度と筋肉の粘弾性特性
低温環境では、筋肉と結合組織の粘弾性が変化します。具体的には、筋肉の温度が低下すると筋肉繊維と結合組織が硬くなり、柔軟性が減少します。これは、冬場に麻痺側の筋肉が硬くなる主な原因の一つです。筋肉の粘弾性特性は、温度に大きく依存しており、低温になるとコラーゲン繊維の可塑性が低下するため、筋肉が硬直しやすくなります。
b. 麻痺による血流の低下
脳卒中などによる麻痺では、麻痺側の血管調整機能が損なわれることがあり、血流が低下しやすくなります。血流が減少することで、筋肉への酸素供給が不足し、筋肉が硬くなる要因となります。特に低温環境では、血管が収縮して血流がさらに悪化し、筋肉の硬直と痛みが増すことがあります。
2. 麻痺側が低体温になりやすいことの影響
a. 低体温と神経伝導速度の低下
麻痺側は通常、健常側に比べて血液循環が悪くなりやすく、皮膚温が低くなることがあります。低体温は、神経の伝導速度を遅くし、筋肉の反応性を低下させる可能性があります。神経伝導速度が低下することで、筋肉の硬直と共に痛みも感じやすくなるとされています。
b. 筋肉と結合組織の代謝の影響
低体温により、筋肉と結合組織の代謝活動が低下し、代謝産物の蓄積が進みます。これが筋肉の痛みや硬直をさらに悪化させる要因となることがあります。特に麻痺側では筋収縮が少ないため、代謝産物が蓄積しやすく、これが痛みの原因となることが報告されています。
まとめ
麻痺側の筋肉が冬場に硬くなりやすく、痛みやすい原因には、温度による筋肉の粘弾性特性の変化、血流の低下、低体温による神経伝導速度の低下などが関与しています。また、これらの要因が組み合わさって、麻痺側の筋肉がより硬直しやすくなることがわかっています。適切なリハビリテーションと温熱療法を活用することで、これらの問題に対処することができます。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)