Vol.608.聴覚フィードバックが立位保持の安定に与える影響とは?? 脳卒中リハビリ論文サマリー
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カテゴリー
タイトル
●前庭障害の患者において聴覚フィードバックが立位保持の安定に与える影響とは??
●原著はAuditory biofeedback substitutes for loss of sensory information in maintaining stanceこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●聴覚フィードバックは視覚情報を妨げずに使用でき、感覚を補助するという面から考えると有用と感じ、臨床応用するためにより聴覚フィードバックを学びたいと思い本論文に至った。
内 容
背景
●姿勢の動揺の制御は前庭、体性感覚および視覚からの感覚情報の連続的なフィードバックに依存します。立位での姿勢動揺の最大の増加は、体性感覚の情報が損なわれたときに生じます。次に大きいのは前庭系の情報が失われたときで、最も影響が少ないのは閉眼によって視覚が失われたときです。これらの姿勢動揺の増加は、中枢神経系(CNS)が静止立位時の姿勢動揺を制御するのに、主に体性感覚情報に依存し、前庭情報にはあまり依存せず、視覚情報にはさらに依存していないことを示唆しています。
●増幅された感覚情報の存在する状況下で、CNSが感覚情報への相対的な依存度をどのように再び重みづけするのかは、まだ分かっていません。姿勢の動揺を軽減するための補強の1つであるバイオフィードバックの形での聴覚情報は、これまでほとんど調査されていませんでした。
●オーディオバイオフィードバック(ABF)が研究された際には、通常、視覚的バイオフィードバックと組み合わせて行われてきました。ABFと視覚的バイオフィードバックの研究では、ABFを構成する音は単純なアラーム信号であり、視覚的バイオフィードバックを補強するために使用されました。しかし、アラーム信号に限らず、複雑な情報を表すことができる別のタイプのABFは、聴覚的な手がかりが以下のような理由で、姿勢フィードバックの増強に特に有用であると考えられています。
●聴覚情報は(1)前庭系の障害を有する人などにおいて他の感覚と統合しやすい(2)視覚情報に干渉しない(3)空間情報を伝えることができる。例えば、人間が頭を回転させて音の発生源を探すとき、聴覚を使って空間定位を行っています。聴覚と前庭の情報は、ともに第8脳神経を介して脳に伝達され、側頭葉に投影されます。聴覚の手がかりは、自動的に(無意識に)姿勢のアライメントに影響を与え、姿勢のアライメントは、環境中の聴覚の手がかりを見つける能力を自動的に変化させます。
●本研究の目的は,(1)視覚,前庭,表面体性感覚の情報が限られている中で,ABF情報がどの程度姿勢動揺の制御に役立つかを明らかにすること(2)ABFの相対的な有効性が感覚環境の違いによって個人間で異なる理由を説明することでした。
方法
●聴覚バイオフィードバックシステムは、個人ごとにカスタマイズされたものを使用し、体の動揺のピッチとボリュームのコーディングを提供しました。被験者はフォースプレートの上に立ち,足を15°外旋させ,かかとを1cm離すようにした(narrow stance)。被験者には,ABF装置を使用しているときも使用していないときも,すべてのテストで静かな姿勢を保つように指示しました。
●体幹の情報がABF音にコード化されていることを理解するまでは,音を使って体の揺れを補正すること、すなわち、それぞれのイヤホンの音が400Hzで一定になるようにして,自然な揺れの範囲内に体の揺れを維持することを指示しました。そして、400Hzの一定の音を得るために体の揺れをどのように変化させればよいかを理解したところで,目を閉じてABFのない状態で3回の練習試行を行い,続いて目を開けて泡のある状態でABFのない状態で3回の練習試行を行いました。
●6つの条件がランダムな順序で提示され、3つの条件はABFあり、3つの条件はABFなしでした。条件1と条件2は、ABFなしとABFありで閉眼立位でした。条件3と4は、ABFなしとABFありの不安定クッション上で開眼立位をとりました。条件5と6は、ABFなしとABFありの不安定クッション上で閉眼しました。
●各パラメータ(COP-RMS,Acc-RMS等)について2グループ(両前庭障害患者BVLとコントロール群)から測定しました。
結果
●本研究の結果から聴覚バイオフィードバック(ABF)が失われた感覚情報を補う量は、感覚の喪失の程度に依存することがわかりました。体性感覚情報が減少した場合(不安定クッションで開眼)では両側前庭障害患者(BVL)および対照被験者が体性感覚に依存しているほど、ABFの恩恵を受け動揺を軽減することができました。
●視覚情報が得られない場合(目を閉じた状態)ではBVLと対照群の被験者が視覚的に依存しているほど、ABFから恩恵を受けて動揺を抑えることができました。体性感覚情報と視覚情報の両方が制限されている場合(不安定クッション上で閉眼条件)ではBVLと対照群の両方が最もABFからの恩恵を示しました。このように、ABFによって姿勢の揺れを抑えることができる度合いは、視覚、体性感覚、前庭の喪失の度合いに依存するということが示唆されました。今回の結果では、前庭障害が重度であるほど、より多くの被験者がABFの恩恵を受けているという傾向も見られました。この結果は、対照群とBVL群の被験者が視覚、触覚、オーディオバイオフィードバックによって姿勢の揺れを抑えることができたと報告した他の研究と一致しています。
●今回の研究では、ABF情報によるベネフィットと感覚情報の制限との間に潜在的な関係があることが初めて明らかになりました。感覚情報が制限されると、BVL被験者と対照被験者の両方の姿勢動揺が増加しました。これは、姿勢動揺の制御は利用可能な感覚フィードバックの量に依存するという一般的に考えられている仮説を裏付けるものです。
●聴覚バイオフィードバックシステムは、感覚情報の提供が少ない場合に、被験者の体の揺れを低減させるのに最大の効果がありました。感覚情報が豊富な場合は揺れを減らすのに最小の効果しかありませんでした。
私見・明日への臨床アイデア
●視覚や体性感覚など、どの感覚にどの程度依存していたかで聴覚フィードバックによる効果には差があるようであった。多感覚を付与することは良しとされるが、患者によっては、どの感覚を付与するかでdual taskになる可能性もあり、患者にあわせたいところである。視覚情報に視覚情報、視覚情報にその他の情報など組み合わせも意識したい。
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)