【2024年版】ARAT(Action Research Arm Test)の評価方法・予後 / 脳卒中後の上肢機能評価
目的
アクション・リサーチ・アーム・テスト(ARAT)は、脳卒中の回復期、脳損傷、多発性硬化症の患者において上肢のパフォーマンス(協調性、巧緻性、機能)を評価するために用いる19項目の観察尺度です。
ARATはもともと1981年にライルによって上肢機能検査の修正版として記述され、大脳皮質損傷後の上肢機能回復を調べるために使用されていました。
ARATの構成項目は4つの下位尺度(把持、握力、つまみ、粗大運動)に分類され、難易度の低い順に並べられ、最も難しい課題が最初に検討され、次に最も難しい課題が検討されるようになっています。
ライルは、この階層的な順序は、最も困難な項目で正常な動きが、次の項目で成功したパフォーマンスを示すので、テストの効率を改善すると提案しました。
課題パフォーマンスは、0(動きなし)から3(動きが正常に行われた)までの4点スケールで評価されます。
対象者
ARATは、脳卒中、脳損傷、多発性硬化症、パーキンソン病の患者を対象に標準化されている。このテストは、13歳以上の方に実施することができます。
使用方法
テストには以下の材料が必要です。
引用元:インターリハ株式会社
肘掛のない椅子
テーブル
様々な大きさの木製ブロック
クリケットボール
研ぎ石
合金チューブ
ワッシャー・ボルト
コップ2個
研ぎ石
ビー玉
金属ボール
蓋
ポジショニング
ARATの標準的なポジショニングは、肘掛のない背もたれのしっかりした椅子に、被験者が直立で座ることです。
頭部はニュートラルな位置にあり、足は床につくようにします。体幹が椅子の背もたれに接するようにし、この姿勢を試験時間中維持しなければなりません。
被験者が立ち上がったり、横にずれたり、前に傾いたりしないように、必要に応じてフィードバックが行われます。
指示事項
検査項目が片側で行われ、検査以外の手が評価中も見えるようにするため、被験者には両前腕を前傾させ、手をテーブルの上に置いた状態で開始するよう指示します。
この規則の例外は、粗大運動のカテゴリーに含まれる課題で、被験者が両手を膝の上に置いた状態で開始することが要求される場合です。
次に被験者に把持、グリップ、ピンチ、粗大運動の下位尺度のタスクを実行するよう指示し、各タスクのパフォーマンスに基づいて個人を採点します。
管理者は、被験者に必要なタスクを指示する際、スコアリングシートに記載されている指示に従います。
把持タスク(6項目)では、被験者にテーブルの表面からスタート地点から37cm上にある棚まで検査材料を持ち上げるよう指示します。
握力に関するタスク(4項目)では、被験者が試験物品を握り、テーブルの片側から反対側に移動させます。
つまむ作業(6項目)は、握力の下位尺度と同様の動作をさせますが、その代わりに微細運動によるつまむ力を使わせます
粗大運動課題(3項目)では、被験者の腕を頭の上、頭の後ろ、口元など、さまざまな静止位置に移動させることが要求されます。
採点と解釈
ARATを構成する19の項目は、以下のように4点の順序尺度で採点されます。
0 = 動作なし
1=動作タスクが部分的に実行されている
2 = 動作タスクは完了したが、異常に時間がかかる
3 = 動作が正常に行われる
被験者はまず、サブスケールの中で最も難しい課題を行うように指示されます。被験者が通常の動きで十分に課題をこなした場合、この項目と下位尺度内の残りのすべての項目で3点を獲得します。
第1項目のスコアが0〜2の場合、第2課題(最も難しい課題)の評価が必要であることを示唆します。
2 番目の課題で 0 点の被験者は、その後の尺度項目で成功する可能性が低く、カテゴリ内の残りの課題でも 0 点となります。
したがって、下位尺度内の残りの中程度のレベルの課題は評価されません。それ以外の場合、カテゴリ内のすべてのテスト項目を実行する必要があります。その結果、被験者は、そのパフォーマンスに応じて、4課題から19課題の実行を求められる可能性があります。
ARATの得点は0~57点の範囲であり、最高得点の57点はより良いパフォーマンスを示します。この評価は連続的で、被験者の観察された移動性に基づくため、カットオフ得点はありません。
ARATは、脳卒中リハビリテーションにおける上肢の機能回復の予後予測するために使用することができます。10点未満、10~56点、57点のスコアは、それぞれ回復が悪い、中程度、良好と相関があります。
実際のストーリー展開
ARAT(アクション・リサーチ・アーム・テスト)評価例
登場人物
- 療法士:金子先生
- 患者:丸山さん
背景
丸山さん(65歳男性)は、6ヶ月前に脳卒中を発症し、右上肢に麻痺が残っています。リハビリテーションの一環として、金子先生はARATを使用して丸山さんの上肢の機能を評価し、今後のリハビリテーションプランを立てるためのデータを収集します。
セッション開始
金子先生:今日はARATというテストを使って、丸山さんの右腕の機能を評価します。このテストは、把持、握力、つまみ、粗大運動の4つのカテゴリーに分かれています。それぞれのカテゴリーで難易度の高い順に評価します。
把持タスク
金子先生は最初に丸山さんに、テーブルの上に置かれた小さな木製ブロックを棚に移動させるよう指示します。
課題1:小さな木製ブロックを持ち上げ、37cm上の棚に置く
- 丸山さんはブロックを持ち上げることができません(0点)
課題2:中サイズの木製ブロックを持ち上げ、棚に置く
- 丸山さんはブロックをつかむことができるが、棚に置くことができません(1点)
金子先生は丸山さんに次の課題に進むよう指示します。
握力タスク
金子先生は丸山さんにクリケットボールを握り、テーブルの反対側に移動させるよう指示します。
課題1:クリケットボールを握って移動
- 丸山さんはボールをしっかり握ることができません(0点)
金子先生は次の課題に進む必要があることを丸山さんに伝えます。
つまみタスク
金子先生は丸山さんに、小さなビー玉をつまんでテーブルの反対側に移動させるよう指示します。
課題1:ビー玉をつまんで移動
- 丸山さんはビー玉をつまむことができません(0点)
金子先生は次の課題に進むように指示します。
粗大運動タスク
金子先生は丸山さんに、腕を頭の上に持ち上げるよう指示します。
課題1:腕を頭の上に持ち上げる
- 丸山さんは腕を頭の上に持ち上げることができません(0点)
金子先生は丸山さんに次の課題に進むよう指示します。
課題2:腕を頭の後ろに持ち上げる
- 丸山さんは腕を頭の後ろに持ち上げることができません(0点)
点数化と解釈
金子先生は全ての課題が終了した後、各タスクの得点を集計します。丸山さんのARATの得点は以下の通りです。
カテゴリー | 課題数 | 得点 |
---|---|---|
把持 | 6 | 1 |
握力 | 4 | 0 |
つまみ | 6 | 0 |
粗大運動 | 3 | 0 |
合計 | 19 | 1 |
評価
丸山さんの総得点は1点であり、これは上肢の機能が非常に制限されていることを示します。この結果を基に、金子先生は丸山さんのリハビリテーションプランを再評価し、より具体的でターゲットを絞ったトレーニングを提案する必要があります。丸山さんのリハビリテーションの進行状況を定期的に再評価し、プランを調整していきます。
エビデンス:
- ARATの有効性:ARATは、上肢機能の評価において高い信頼性と妥当性が確認されています。これは、ARATが脳卒中後の上肢機能の予後予測に有効であることを示す多くの研究で支持されています【Kusoffsky et al., 1982】。
- 予後予測:ARATスコアは、上肢機能の回復度合いを予測するために使用され、10点未満のスコアは回復が悪いことを示し、10〜56点は中程度、57点は良好な回復を示します【van der Lee et al., 2001】。
- リハビリテーションプラン:丸山さんのような低得点の患者には、上肢の可動域を改善し、筋力を増強するための具体的なエクササイズプランが推奨されます【Lang et al., 2013】。
金子先生は、丸山さんの現在の機能レベルに基づいて、個別化されたリハビリテーションプログラムを作成し、定期的にARATを使用して進捗を評価し、必要に応じてプログラムを調整します。
信頼性・妥当性
信頼性
ARATは強力な心理測定特性を有することが示されています。ARATの信頼性の多くの領域が試験され、試験-反復信頼性は0.965~0.968、評価者間信頼性は0.996~0.998と、全例で高い信頼性を示しています。
パーキンソン病患者集団におけるARAT使用の信頼性も徹底的に試験されています。テスト-リテスト信頼性は0.99であり、握力信頼性は0.93、粗動信頼性は0.99であることが判明しました。
妥当性
ARATは、他の上肢機能尺度と比較した場合、強い妥当性を持っていることが証明されています。Fugl-Meyer Assessment(FMA)およびMotor Assessment Scale(MAS)の上肢コンポーネントと測定した場合、ARATの同時妥当性は高いことが示されました。
脳卒中患者集団におけるARATのスコアとWolf運動機能検査、運動活動記録および脳卒中影響尺度のスコアを比較した研究では、良好から中程度の相関を示し、良い予測妥当性を示しています。
応答性
ARATは高い応答性を持ち、特に脳卒中の回復期にある個人の上肢の運動機能における臨床的に有意な変化を検出する能力を有しています。
制限事項
ARATには多くの長所があるが、将来的にはより信頼性が高く、より多くの人々に適用できるツールにするために改善できる限界にも悩まされています。
ARATの限界の一つは、採点が主観的で、顧客のタスク遂行能力に関する管理者の解釈に基づくことであり、テスト項目の配置や各項目に割り当てられた最大時間の詳細が省略され、解釈の余地があります。
採点はまた、2点または3点の区別に用いられる「異常に長い」という定義の時間の量の指定がないことによって影響を受けるかもしれません。
また、ARATは中度から高度の運動障害を正確に測定することで知られていますが、軽度の障害の測定には感度が悪いことが示されています。
認知障害やウェルニッケ失語症など、指示の理解力を低下させる要因も結果の質に影響を及ぼすことがあります。
References
1.Yozbatiran N, Der-Yeghiaian L, Cramer SC. A standardized approach to performing the action research arm test. Neurorehabilitation and Neural Repair. 2008;22:78-90. doi:10.1177/1545968307305353
2.Lyle RC. A performance test for assessment of upper limb function in physical rehabilitation treatment and research. International Journal of Rehabilitation Research. (1981);4(4), 483-492. doi:10.1097/00004356-198112000-00001
カテゴリー
タイトル
● 短縮版ARATと予後予測 【Action Research Arm Testと他評価との相関】
●原著はEvaluation of a short assessment for upper extremity activity capacity early after strokeこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●多くの検査が時間がかかるものが多い。検査が短くても同様の事が言えるのであれば、短い検査の方が患者負担も少ない。より利便性の高い評価を学ぶべく本論文に至った。
内 容
背景
●本研究の目的は、脳卒中後4週間の患者における元来のARATおよび上肢のFugl-Meyer評価(FMA-UE)と比較して、アクションリサーチアームテスト(ARAT-2)の2つの項目と他の評価との相関および床と天井効果の影響を調査することでした。
方法
●被験者は脳卒中初発の上肢機能障害のある成人117名でした。
●活動能力と運動機能は、脳卒中後3日、10日、4週間にARAT-2とFMA-UEで評価されました。2つの課題は(コップからコップへ水を移し替える課題、頭の上に手を置く課題)です。
●脳卒中の重症度はNIHSS(National Institute of Health Stroke Scale)で判定し、脳卒中の種類と部位は患者のカルテから収集した。上肢活動能力は,ARATを用いて評価しました。
結果
図引用元:Evaluation of a short assessment for upper extremity activity capacity early after stroke
●ARAT-2はオリジナルのARATおよびFMA-UEと強い相関を示し,他の尺度と同様に,脳卒中発症後のすべての時点(それぞれ3日,10日,4週間)における変化に敏感でした。ARAT-2はARATと比較して、すべての時点で床効果は同等でしたが、脳卒中後10日目にはすでに天井効果が見られ、ARATは脳卒中後4週間で初めて天井効果が見られました。
●ARAT-2と他の評価尺度の間の相関は高く、ARAT-2はすべての時点で統計的に有意な変化を示しました。
●結論としてはARAT-2は上肢の活動能力について有効で応答性の高い短い評価であり、脳卒中後の急性期での使用に適しているようです。ただし、最高スコアに達した場合は、他の手段で評価を補完する必要があります。
私見・明日への臨床アイデア
●ARATは世界的に用いられ、手指の巧緻性から肩肘含めた空間操作までトータルに評価でき、比較的点数に治療効果も反映されやすい印象の評価である。中等度麻痺程の患者では検査に時間がかかりやすい。急性期の時間のない中簡易的に評価するのであれば、他の評価か短縮版の修正ARAT等あっても良いかもしれない。
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
併せて読みたい【脳卒中、上肢、評価】関連論文
Vol.412.日常生活で麻痺手を使用するにはどの程度の機能が必要?MALの使用量とARATスコアの関係性
Vol.505.修正Box and Block test(BBT)と通常BBTの比較
vol.402:脳卒中者の上肢機能の早期からの予後予測の観察ポイント 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
vol.182:原著に基づき正しく評価法を翻訳する重要性 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)