脳卒中姿勢評価スケール(Postural Assessment Scale for Stroke:PASS)とは?
目的
脳卒中姿勢評価スケール(Postural Assessment Scale for Stroke:PASS)は、脳卒中後の姿勢制御を評価するために開発された姿勢評価尺度であり評価用紙となっています。
PASSは、臥位、座位、立位の姿勢を維持・変換する能力を評価するためのテストです。このテストは、12項目があり、それぞれの項目は難易度が異なり、4段階で評価されます。
対象者
脳卒中患者
使用方法
PASSは2つのセクションで構成され、それぞれのタスクを4段階で評価します。
合計スコアは0~36点の範囲で、以下のようになります。
-姿勢維持の項目-
1:サポートなしで座れる
0点 = 座れない
1点 = 片手などのわずかなサポートがあれば座れる
2点 = サポートなしで10秒以上座っていられる
3点 = サポートなしで5分間座っていられる
2: 支えがあれば立てる
0点 = 支えがあっても、立つことができない
1点 = 2人の手厚いサポートがあれば立つことができる
2点 = 1人の適度なサポートがあれば立つことができる
3点 = 片手で支えながら立つことができる
3:サポートなしで立つ
0点 = 支えがないと立てない
1点 = 10秒間、支えなしで立つことができる、または片足に大きく寄りかかることができる
2点 = 1分間、支えなしで立つことができる、またはわずかに非対称姿位に立つことができる
3点 = 1分以上サポートなしで立つことができ、同時に肩関節屈曲90度以上の挙上できる
4,5:非麻痺側/麻痺側の脚での立位
0点 = その脚で立つことができない
1点 = 数秒間、片脚立位できる
2点 = 5秒以上、片脚立位できる
3点 = 10秒以上、片脚立位できる
-姿勢変換の項目-
項目6~12の採点は以下の通りです(項目6~11は高さ50cmの診察台で行い、項目10~12は何も支えずに行います。その他の制約はありません)
6. 背臥位から麻痺側を下にした側臥位
7. 背臥位から非麻痺側を下にした側臥位
8. 背臥位からベッドの端に座る(端座位)
9. ベッドの端に座る→背臥位
10. 座位から立位へ
11. 立位から座位へ
12. 立位のまま、床に落ちた鉛筆を拾う
項目6~12
0点 = その動作を行うことができない
1点 = 多くの助けを借りて動作を行うことができる
2点 = 少しの助けで動作を行うことができる
3点 = 誰の助けも借りずに動作ができる
時間
PASSの実施には10分程度を要します
トレーニングの必要性
特別なトレーニングは必要ありませんが、検査者は安全上の問題について理解している必要があります。
PASSのいくつかの項目には異なる採点基準があるため、訓練を受けていない評価者にとっては難しい可能性があると指摘されており、より簡単なshort-form PASS (SFPASS)を代替手段として推奨している論文もあります。
必要機器・物品
・高さ50cmの診察台 ・ストップウォッチ ・ペン
参考論文
・I-Ping Hsueh:Individual-level responsiveness of the original and short-form postural assessment scale for stroke patients,Phys Ther 2013 Oct;93(10):1377-82
・Peterka RJ:Sensorimotor integration in human postural control. J Neurophysiol 88: 1097–1118, 2002.
・C Benaim:Validation of a standardized assessment of postural control in stroke patients: the Postural Assessment Scale for Stroke Patients (PASS),Stroke . 1999 Sep;30(9):1862-8、
論文に入る前に
バランスとは?
バランスとは、個人が自分の支持基底面(BOS)内で重心を維持する能力のことです。
平衡とは、すべての作用する力が互いに相殺され、安定したバランスのとれたシステムになっている状態と定義することができます。
構成する3システム
-用語について-
文献では、バランスという用語は以下のものと同義で使用されています
・姿勢制御
・姿勢の安定
・平衡システム
・バランスシステム
以下の3システムは、身体の均衡に関する入力を提供し、姿勢制御としてバランスを維持します。
①体性感覚
②前庭系
③視覚系
中枢神経系は、これらの3つの主要な感覚システムから身体の向きに関するフィードバックを受け取ります。
この感覚フィードバックを統合し、その後、筋肉を選択的に作動させることによって、補正された安定化トルクを発生させます。
健常者は、通常の安定し、固い路面では体性感覚情報に70%、前庭に20%、視覚に10%依存します。
しかし、不安定な路面では、前庭情報に60%、視覚に30%、体性感覚に10%依存するといわれています。
引用:金子唯史 脳卒中の動作分析 医学書院より
体性感覚
無意識に処理される脊髄-小脳路からの体性感覚情報は、姿勢のバランスを制御するために必要です。
体性感覚情報は最も時間遅延が短く、単シナプス経路では40-50msという速さで情報を処理することができるため、正常な状態での姿勢制御に大きく貢献しています。
前庭系
前庭系は,主に頭の動きに対する代償反応を生成します.
①姿勢反応(前庭脊髄反射):体を直立するために下肢を伸展し、不意にバランスを崩したときに転倒を防ぐ。
②前庭動眼反射(Vestibulo-Ocular Reflex) :頭部が動いているときに目の焦点を安定させる。
③前庭頸反射:頭と首を中心に置き、安定させ、肩の上に直立させるのに役立つ。 そのために、前庭系は三半規管と耳石器を介して頭部の回転と頭部の加速度を検出する。
視覚系
通常は、視覚情報には150〜200msもの長い時間遅延があるため、姿勢制御への視覚システムの寄与は部分的です。
脳卒中患者の場合、体性感覚が欠如すると視覚や前庭系に依存するため、非常にバランスの検知において不利になります。
視覚障害のある成人は,末梢,前庭,体性感覚,小脳の処理を適応するといわれています。
それにより、視覚情報の欠損を補い,良好な姿勢制御を行うことができるといわれています。
両側の前庭障害を持つ成人は、効果的な姿勢安定性に到達するために、健常成人よりもさらに視覚と固有受容感覚の情報を強化できるといわれています。
静的/動的姿勢制御
バランスは以下のように分類されます。
静的バランス:身体をある一定の姿勢に維持する能力です。静的バランスとは、重心が支持基底面の上にあり、身体が静止している状態で、姿勢の安定性(スタビリティ)と方向性(オリエンテーション)を維持する能力です。
動的バランス:動的な姿勢の安定性を定義することはより難しいです。動的なバランスとは、重心の垂直線を支持基底面の周りに移動させる能力です。動的バランスは身体の各部分が動いている間、支持基底面の上に重心を置いて、姿勢の安定性と方向性を維持する能力です。
メカニズムは?
静的バランスに関わるメカニズム
・下肢と体幹の筋肉に十分な力があり、体を直立させることができる
・位置に関する情報を伝えるための正常な姿勢の感覚
・位置に関する前庭迷路からの正常な神経信号
・小脳虫部を中心とした調整機構がある
・姿勢を維持するための高次中枢の活動
動的バランスに関わるメカニズム
・動きと安定性を維持するために、体の筋肉に十分な力があること
・動きに関する情報を伝える正常な姿勢感覚
・動きと環境に関する前庭系と視覚系からの正常な神経信号
・小脳と大脳基底核を含む中枢調整機構
・運動と安定性の随意的/不随意的な維持に関わる高次中枢の活動
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)