【最新版】脳神経評価:感覚検査(表在/深部/デルマトーム)や筋力検査(MMT)、協調性評価 ー上肢編ー
神経学的所見の検査-上肢編
1.上肢神経学所見の必要性
臨床現場においてもそれぞれの検査を使い、臨床症状を特定することが求められています。
今回は上肢の神経学的検査を行う方法を解説していきたいと思います。
2.必要物品
①打腱器
②針やつまようじなど先端が鋭利な物
③コットン・ウールやティッシュ
④音叉(128Hz)
3.検査の準備
①はじめに手を洗いましょう。必要に応じてPPEを着用しましょう。
②自分の名前と職種などを含めて、患者さんに自己紹介をしましょう。
③患者さんの名前と生年月日を確認します。
④患者にやさしい言葉で検査内容を簡単に説明し、検査に同意を得ましょう。
⑤検査のために患者の腕を肩から手まで十分に露出させ(可能であれば上半身裸が良いです)、患者様を検査に適切なポジションをとってもらいます。(診察台に座るか、45°に寝かせます)。
⑥臨床検査を行う前に患者様に痛みがあるかどうかを尋ね、異常がないかを確認します。
4.一般的な観察
・傷跡:脊椎、腋窩、上肢の手術歴に関する手がかりとなる。
・筋肉の衰え:下部運動ニューロンの病変や廃用性萎縮を示唆する。
・振戦:安静時振戦や意図的振戦などいくつかのサブタイプがあります。
・筋痙攣:小さな局所的な不随意の筋収縮と筋弛緩で、皮膚の下に見えることがあります。下位運動ニューロンの病変(例:筋萎縮性側索硬化症)に関連する。
実際の検査
動画でより詳細に解説しておりますので、あわせてご覧ください。
1)バレー兆候(錐体路兆候)
バレー兆候の検査は軽度の上肢の筋力低下や痙性を評価するのに有効な方法です。
【方法】
1.手のひらを上に向けて腕を前に出してもらい20~30秒間保持してもらい、回内の動きが出るかを観察します。
2.回内が見られない場合は目を閉じてもらい、もう一度回内の動きが出るかを観察します。(体性感覚だけに頼っているため回内の動きが強調されることがあります。)
【病態解釈】
前腕が下向きになった場合、その患者は片側の前頭筋を失っていると考えられます。
回内の動きの存在は、対側の錐体路の病変を示しています。
上位運動ニューロン病変では、上腕の筋が前腕の筋に比べて弱いため前腕の隆起が起こります。
錐体路について下記記事でまとめています。
2)筋緊張
両腕の肩、肘、手首の筋群の緊張を、左右を比較しながら評価します。
【方法】
1.患者さまの手と肘を持って腕を支えます。
2.患者にリラックスしてもらい、患者さまの腕の動きを完全にコントロールできるようにします。
3.肩(回旋)、肘(屈曲/伸展)、手首(回旋)の筋群を全可動域で動かします。
4.各関節を評価する際に、筋緊張の異常を感じます(例:痙性、硬直、歯車様固縮、低緊張など)
【病態解釈】
痙性は「速度依存性」であり、手足を速く動かすほど症状が悪化します。一般に、運動の最初の部分で緊張が高まり、ある時点を過ぎると突然減少します。
筋緊張の検査:MASについて下記記事でまとめています。
4)筋力
以下の一連の評価を行うことで、患者の上肢の筋力を評価します。
筋力を正確に測定して比較できるようにするには、各評価で関連する関節を安定させ、分離できないといけません。そのため片側ずつを評価する必要があり、各段階で同じ部位を比較する必要があります。
動作を指示する際は、患者さんに伝わりやすいように指示をだし、患者さんにとってもらいたいポジションを一緒に行うことでより動作の理解がしやすくなります。
①肩関節外転:C5(腋窩神経)
【評価する筋肉】
三角筋およびその他の肩関節外転筋
【方法】
1.肘を曲げ、肩を90°に外転させるように指示します。
2.患者さんに腕の位置を維持するように指示しながら、上腕の外側に下向きの抵抗を加えます。
②肩関節内転:C6/7 (胸背筋神経)
【評価する筋肉】
大腿骨筋、広背筋、大胸筋
【方法】
1.肘を曲げ、肩を45°に開き、腕の位置を維持するように指示します。
2.肘を体に近づけるように指示し、上腕の内側に上向きの抵抗を加えます。
③肘関節の屈曲:C5/6 (筋皮神経と橈骨神経)
【評価する筋肉】
上腕二頭筋、烏口腕筋、腕頭筋
【方法】
1.患者に肘を曲げてもらいます。
2.肩関節を安定させながら前腕を引っ張り、それに対して抵抗してもらいます。
④肘関節の伸展:C7 (橈骨神経)
【評価する筋肉】
上腕三頭筋
【方法】
1.肘関節を曲げてもらいます。
2.肩関節を安定させながら前腕を患者さまの方に押し、それに対し抵抗してもらいます。
⑤手首の伸展:C6(橈骨神経)
【評価する筋力】
手首の伸展筋(長・短橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、長母指外転筋)
【方法】
1.患者さんに、手のひらを下に向けて腕を前に出してもらいます。
2.患者さんに拳を作り、手関節を上に曲げてもらいます。
3.手首の位置を維持してもらい、抵抗を加えます。
⑥手首の屈曲:C6/7 (正中神経)
【評価する筋】
手首の屈筋(長母指外転筋、長掌筋、尺側手根屈筋、橈側手根屈筋)
【方法】
1.患者さんに、手のひらを下に向けて腕を前に出してもらいます。
2.患者さんに拳を作り、手関節を下に曲げてもらいます。
3.曲げた位置を維持してもらい、抵抗をかけていきます。
⑦指の伸展:C7 (橈骨神経)
【評価する筋】
総指伸筋
【方法】
1.患者さんに、手のひらを下に向けて腕を前に出してもらいます。
2.指を伸展してもらいます。
3.下方向に抵抗をかけ、患者さんに指をまっすぐ伸ばしたまま位置を維持してもらいます。
⑧指の外転:T1 (尺骨神経)
【評価する筋】
第1背側骨間筋、小指外転筋
【方法】
1.患者さんに、手のひらを下に向けて腕を前に出してもらいます。
2.指を伸展し、指を開くように指示します。
3.対象の指に抵抗をかけ、抵抗に負けないよう維持してもらいます。
※第一背側骨間筋と小指外転筋 の外転を別々に評価する場合は、自分の指に対象の指を使って抵抗をかけます。
⑨母指の外転:T1(正中神経)
【評価する】外転筋
【方法】
1.患者さんに手のひらが上を向くように手を裏返し、母指を手のひらの真ん中に置くように指示します。
2.位置を維持するように指示して、指先の方向に向かって抵抗をかけます。
5)腱反射
患者さんに打腱器で腕を軽く叩いて反射を評価することを説明します。(この段階で打腱器を見せておくと患者さんも安心感を与えることができます)
重力を使いうまく振れるように、打腱器の柄の端を持つようにしてください。
反射を検査する際は患者さんの上肢は完全にリラックスしている必要があります。
反射が見られない場合は、患者さんが完全にリラックスしていることを確認してから歯を食いしばってもらい、同時に腱を叩いて強化操作を行います。
①上腕二頭筋反射 (C5/6)
【方法】
1.患者さんの腕をリラックスさせ両手を重ねるように膝の上に置きます。
2.頭骨粗面に付着している上腕二頭筋腱の位置を確認します。
3.非利き手の親指を腱の上に置き、打腱器で親指を叩きます。
4.上腕二頭筋の収縮とそれに伴う肘の屈曲が出現するか評価します。
②上腕三頭筋反射(C7)
【方法】
1.上腕三頭筋腱が弛緩するように患者さんの肘関節を屈曲させます。
2.上腕三頭筋腱の位置を確認します。
3.打腱器で腱を叩き、上腕三頭筋の収縮を観察します。
③腕橈骨筋反射(C5/6)
【方法】
1.前腕を回内外中間位にし、手首の外側で親指の付け根から約10cm上方にある腕橈骨筋腱の位置を確認します。
2.2本の指を腱の上に置き、打腱器で指を叩きます。
3.腕橈骨筋の収縮と、それに伴う前腕の肘関節の屈曲、回内・回外の出現を評価します。
6)感覚
感覚検査のポイント
・後頭葉と視床下部からそれぞれ1つ以上のモダリティをチェックする。
・患者が目を閉じた状態で評価を行う。
・患者の胸骨の感覚が正常であることを示す。
・上肢の各皮膚分節(下記参照)の感覚を評価し、同等の部位を左右に比較しながら進める。
デルマトームについて
誤った評価行わないようにするため、皮膚分節の境界近くで感覚を評価しないことが重要です。
以下は、上肢の各皮膚分節を評価するのに使用できる場所です。
C5:三角筋の下端の外側
C6:親指の掌側。
C7:中指の掌側。
C8:小指の掌側。
T1:上腕骨内側上顆の近位にある内側面の前頸骨窩
脊髄損傷の評価【ASIA】にて細かなデルマトームに沿った検査方法を紹介しています。
①表在覚
表在覚:表在覚は後頭葉と視床下部の両方が関与しているとされています。
【方法】
1.患者さんに目を閉じてもらい、綿毛やティッシュで胸骨を触り表在覚の例を提示します。
2.感覚を感じたら「はい」と答えてもらいます。
3.綿毛やティッシュを使って、上肢の各皮膚分節の軽度の感覚を評価します。
4.左右差がないかを確認します。
②痛覚
痛覚:痛みの感覚は視床下部が関与しています。
【方法】
1.針やつまようじなど先端が鋭利な物で、胸骨を触り痛覚の例を提示します。
2.感覚を感じたら「はい」と答えてもらいます。
3.感覚の喪失が遠位で認められる場合は、遠位から近位に移動して感覚喪失の分布を評価します(末梢神経障害に関連する)。
4.左右差がないかを確認します。
③振動覚
振動覚:振動感覚には後頭葉が関与しています。
【方法】
1.患者に目を閉じてもらい、振動を感知した時と停止した時の両方を知らせてもらう。
2.128Hzの音叉を叩いて患者さんの胸骨に当て、振動を感じることができるかどうか確認します。その後、音叉の端を握って振動を止め、患者さんに振動が止まったことを正確に認識できるかどうかを確認します。
3.音叉をもう一度叩いて、患者さんの親指の指節間関節に当てます。この時点で患者が両上肢の振動の開始と停止を正確に識別できれば評価は完了です。
4.親指の指節間関節で振動感覚が損なわれている場合は、より近位の関節(例:親指の手根関節→肘関節→肩関節)で評価をし、患者が振動を正確に識別できるようになるところまで続けます。
固有受容感覚
固有受容覚:関節の位置感覚として知られており脊髄後根が関与しています。
【方法】
1.片手で母指の基節骨を固定し、反対の手で末節骨を横から把持します。
2.患者さんに目で確認してもらいつつ、母指の上向きと下向きの動きを行います。
3.患者さんに目を閉じてもらい、親指を上下に動かしているかを答えてもらいます。
4.母指をランダムな順序で3~4回上下に動かし、患者さんが目を閉じたまま関節の位置を正確に認識できるかどうかを確認します。
5.患者が動きの方向を正しく認識できない場合は、より近位の関節を順次評価していきます。(例:親指の手根関節→手首→肘→肩)
7)協調性
①鼻指鼻試験
鼻指鼻試験は、上肢の協調性を評価する簡便な方法です。
【方法】
1.自分の人差し指で自分の鼻を触ります。
2.次に検査者の指先を触ってもらい、また自分の鼻を触ってもらいます。
3.この指と鼻の間の動きをできる限り速く続けてもらいます。
【解釈】
小脳障害のある患者さんがこの課題を行うと、測定障害(Dysmetria)と意図的振戦の両方が見られることがあります。
※ディスメトリア(Dysmetria):測定障害。臨床的には、物を投げた際など目標からを外すことになります。
※意図的振戦:手足が意図的な動きの終点に到達したときに生じる、広範囲で粗い低周波の振戦。鼻指鼻試験で言えば患者さんの指が検査者指に近づいたときに明らかになる震えです。動作時の振戦を意図的な振戦と間違えないように注意してください。
②反復拮抗運動障害
反復拮抗運動障害:同側の小脳障害の特徴である、素早く交互な動きができないこと。
【方法】
1.両手を前に伸ばし、左手を裏返して右手のひらに当ててもらいます。
2.左手を元の位置に戻してもらいます。
3.この一連の動作を、停止を指示するまで、できる限り速く繰り返してもらいます。
4.患者さんがこの一連の動きを交互に行う時の速度とスムーズさを観察します。
5.反対の手でも同様の評価を行います。
【解釈】
小脳失調症の患者さんでは動きが遅く不規則に見えます。
反復拮抗運動障害の存在は、同側の小脳の病変を示唆しています。
検査終了
検査が終了したことを患者さんに説明し、患者に時間を割いてくれたことに感謝します。
PPEを適切に廃棄し、手を洗います。
所見をまとめ、終了となります。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)