運動学習を促進するMotor Priming⑤〜Primingのメカニズム〜
脳科学に関連するトピックを定期的に配信しています。 Facebookで更新のメールご希望の方は→こちらのオフィシャルページに「いいね!」を押してください。」
プライミングの中身は??
プライミングの総論を紹介したいと思います。プライミングのメカニズムが中心です。
プライミングは過去の刺激に基づく行動の変化と定義され、潜在学習(implicit learning)の一型に当てはまります。
※潜在学習(implicit learning)と顕在学習(explicit learning):潜在学習は意識にのぼらない学習。自転車の乗り方やピアノの弾き方などは潜在学習の例。顕在学習は意識にのぼる学習。英単語を暗記したり、職場までの道順を覚えるなど。
Priming刺激は…
①後続する課題と同じmodalityを利用するもの(modal-specific)
②違うモダリティを利用するもの(cross-modal)
…があります。
modal-specific primingの例としては、両側性左右対称運動(movement based primingの一形態)が挙げられます。これは運動課題練習の前に行われ、健常者において運動学習率を高めることが報告されています。
cross-modal primingの例としては、semantic primingが挙げられます。運動に関連する語句を読むことで、より効率的な運動を生じさせます。しかしながら、心理学分野の研究では、cross-modalはmodal-specificと比べるとprimingの効果が低いとされています。
リハビリテーションでプライミングを利用する際も、基本的にはmodal-specific primingを第一選択にするべきなのかもしれません。
そしてプライミングのメカニズムですが、ゲーティングと恒常性の可塑性(homeostatic plasticity)が考えられています。
リハビリテーションと最も関連する、運動皮質をプライミングする方法は以下の5つがあります。
①stimulation-based priming(刺激に基づくプライミング)
②motor imagery and action observation(運動イメージと行動観察)
③manipulation of sensory input(感覚入力の操作)
④movement-based priming(動きに基づくプライミング)
⑤pharmacological priming(薬理的なプライミング)
特に一次運動野へのプライミング研究は増加しており、ニューロリハビリテーションに携わる者としては、プライミングの基本的な原則を知ること、そしてプライミングがどのように運動トレーニングに影響を与えるかについて知ることは重要であると言えます。
一般のセラピストが臨床応用できるものとしては、上記の②、③、④に絞られます。というのも、①stimulation-based priming(刺激に基づくプライミング)はrTMSやtDCSなどを利用するものであり、セラピスト単独で実施することができません。⑤pharmacological priming(薬理的なプライミング)も薬物療法なので、こちらもセラピスト単独で実施することができません。ですので、ここまで②、③、④について紹介させていただきました。
Motor Primingいかがでしたでしょうか?運動療法前に一工夫入れることにより、運動学習効率が随分と変化するようです。臨床的にも、脳卒中の患者さんに他動・自動介助下で麻痺側上下肢の運動感覚を提供した後の方が、自動運動を行いやすくなることを経験します。APBTの機器を用いなくてもこういった形でMotor Primingを臨床に活かせるかもしれません。
(文責:針谷遼)
1)Stoykov, Mary Ellen, and Sangeetha Madhavan. “Motor priming in neurorehabilitation.” Journal of Neurologic Physical Therapy 39.1 (2015): 33-42.
2) Ziemann U, Siebner HR. Modifying motor learning through gating and homeostatic metaplasticity. Brain Stimul. 2008;1(1):60-66.
3)Siebner HR. A primer on priming the human motor cortex. Clin Neuro- physiol. 2010;121(4):461-463.
お知らせ information
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)