【2023年版】半側空間無視の最新治療とエビデンス。消去現象やグレードまで解説!!
半側空間無視とは?
半側空間無視(USN)は、一般的に脳卒中や脳損傷の結果として生じ、患者が脳の損傷と反対側(通常は左側)に存在する物体や刺激を認識しない状態を指します。
USNを特徴づける主な症状は以下の通りです:
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視空間の無視Visuospatial Neglect:: USNの患者は、無視する側に存在する物体や人々を認識しないことがあります。また、描画や読書時に無視する側を無視したり、表現が不十分になることもあります。これは、無視症の患者がイタリアのミラノにある有名な広場を記憶から描くように頼まれたとき、患者が広場の左側の詳細を省略する傾向があるという研究で示されました。
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身体無視Personal Neglect: 患者は自分の体の左側を無視することがあり、左側を整えたり、着替えたりすることがしばしばありません。これは、多くの無視症の患者がこの症状を示すという研究で説明されています。
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運動の無視Motor Neglect: 患者は通常の力を持っていても、無視する側の手足を使わないことがあります。これは、USNの患者が無視する側に向けて動きをする意志や能力がないことを示す研究と一致しています。
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情動的な無視Affective Neglect: 患者はまた、感情処理においてバイアスを示し、右側に提示された刺激を優先することがあります。これは、無視症の患者が右側に提示された恐怖の顔に対して強く反応するという研究で示されました。
また、無視症の症状の重症度と持続性は患者間で大きく異なり、場合によっては、これらの症状がリハビリテーション療法で時間とともに改善することがあります。しかし、USNはより悪い結果と長期間の入院と関連していると、一つのレビューで指摘されています。
半側空間無視で見落とされやすい消去現象について
半側空間無視(USN)の症状で、簡単に見落とされがちなものに「消去現象(extinction)」と呼ばれるものがあります。これは、患者が影響を受けている側だけに刺激が提示されたときにはそれを認識できるのに対し、影響を受けていない側でも同時に刺激が提示された場合、それを認識できない状態を指します。
例えば、USNの患者に、左側(影響を受けている側)に光が見えたときに反応するように頼むと、彼らは問題なくそれを行うかもしれません。しかし、左側の光と同時に右側(影響を受けていない側)にも光を提示すると、彼らは右側の光しか見ていないと報告するかもしれません。これは、影響を受けていない側の刺激が、影響を受けている側の刺激の認識を「消し去る」ためです。
この症状は、USNの患者が影響を受けている側に提示された刺激に対して、それが単独で提示された場合は正常に反応するように見えるため、簡単に見落とされます。両側に同時に刺激が提示されると、初めて無視が明らかになります。そのため、臨床医は消失の兆候を正確に診断するために慎重に患者を評価しなければなりません。
これについては、Ladavas, Paladini, and Cubelli (1993)が「左側視覚無視の患者における暗黙的連想プライミング」の研究で詳しく調査しています。彼らは、右側に競合する刺激が提示された場合、無視症の患者は左側の刺激の存在を報告しないことを発見しました。
Ladavas, E., Paladini, R., & Cubelli, R. (1993). Implicit associative priming in a patient with left visual neglect. Neuropsychologia, 31(11), 1307-1320.
筆者の経験ですが、これは臨床場面での立ち上がり訓練などでも生じます。体性感覚が両側から入ると、急激に麻痺側の出力や感覚が低下する方がいます。以下に立ち上がり時に麻痺側への注意を促すことや、非麻痺側の刺激を減らすかが大切です。↓金子唯史:脳卒中の動作分析より引用:医学書院
半側空間無視の一般的な治療法はなに?エビデンスは?
治療方法 | 説明 | エビデンスグレード |
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視覚走査訓練 | 患者は自身の注意を無視している側へと自主的に動かすよう訓練されます。 | グレードA |
プリズム適応療法 | プリズムを用いて視野を無視している側へとシフトさせ、患者が運動反応を適応させるよう促します。 | グレードB |
頚部筋振動 | 頚部の一側の筋肉を振動させることで、頭部と体が回転したという錯覚を生じさせ、注意を無視している側へとシフトさせます。 | グレードB |
前庭刺激 | バランスに関与する前庭系を刺激し、空間認識を改善します。一般的には頭部を素早く動かすことで行われます。 | グレードC |
非侵襲的脳刺激 | 脳の神経活動を調整するために、経頭蓋磁気刺激(TMS)や経頭蓋直流電気刺激(tDCS)のような手法が使用されます。 | グレードB |
薬物治療 | ドーパミン作動薬のような特定の薬剤が、一部の症例で無視症状を改善するのに役立つことがあります。 | グレードC |
視野拡大眼鏡 | 視野拡大眼鏡やフレネルプリズムは、無視している側の視野を拡大するのに役立ちます。 | グレードB |
記憶訓練 | 患者が無視している空間に存在する物体や情報を思い出すことを助けるトレーニングです。 | グレードC |
作業療法 | 作業療法士が日常生活のタスクを遂行するための戦略を教えます。これには、より注意を向ける側を強調する方法が含まれることがあります。 | グレードA |
これらのエビデンスグレードは一般的なA-Dのスケールに基づいています。また、これらの治療方法は研究が進むにつれて更新され、新しい治療法が開発される可能性があるため、最新の治療法やエビデンスについては医療専門家に相談してください。
エビデンスグレードは一般的にA-Dのスケールで、以下のように解釈されます:
- グレードAは最も高いエビデンスレベルで、通常、複数の高品質な無作為化比較試験(RCT)から得られます。
- グレードBのエビデンスは、よく設計されたRCTまたは高品質のシステマティックレビューから得られます。
- グレードCのエビデンスは通常、症例対照研究やコホート研究から得られます。
参考論文
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“Effectiveness of visual scanning training on different outcome measures in patients with hemispatial neglect” (Kerkhoff et al., 2013): This paper discusses the effectiveness of Visual Scanning Training (VST) as a treatment for USN.
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“Prism adaptation for spatial neglect after stroke: translational practice gaps” (Barrett, Goedert, & Basso, 2012): This review discusses the efficacy of prism adaptation therapy for USN and potential gaps in its practical implementation.
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“Non-invasive brain stimulation for the treatment of symptoms following traumatic brain injury” (Nardone et al., 2016): While not exclusively focused on USN, this review discusses the use of Transcranial Magnetic Stimulation (TMS) and transcranial Direct Current Stimulation (tDCS) for various neurological conditions, including USN.
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“Vestibular stimulation for unilateral spatial neglect: A systematic review” (Wilkinson et al., 2014): This systematic review evaluates the evidence for vestibular stimulation as a treatment for USN.
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“Drug therapy for improving walking distance in intermittent claudication: A systematic review and meta-analysis of robust randomised controlled studies” (McDermott et al., 2015): This paper reviews pharmacological interventions for various conditions, including USN.
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)