【2024年版】脳卒中後の機能回復曲線。急性期ー回復期ー慢性期6ヵ月でも回復するの?エビデンスをもとに解説
論文に入る前に
希望の回復曲線:患者丸山さんと療法士 金子先生の対話
第1章:病院での再会
丸山は、薄暗い廊下を歩きながら、病院の空気がいつもより重く感じられた。リハビリ室のドアを開けると、部屋全体に広がる静寂が彼を包み込んだ。彼の左半身は、まるで借り物のように鈍く、重たく感じた。
「丸山さんですね?」ふと、低く落ち着いた声が彼の注意を引いた。声の主は、金子という新しい作業療法士だった。彼の声には、どこか安心感を与える響きがあった。
「はい、よろしくお願いします」と、丸山はぎこちなく答えた。内心では、自分の体がこれ以上良くならないのではないかという恐れが渦巻いていた。
金子は彼の不安を察知したかのように、温かい笑顔を見せた。「丸山さん、回復には時間がかかるものです。焦らずに一緒に進んでいきましょう。」
その言葉は、まるで彼の心の中に溜まった雲を少しずつ晴らしていくようだった。
第2章:リハビリの挑戦
日が経つにつれて、丸山は金子とのセッションを重ね、少しずつ体の感覚を取り戻し始めた。しかし、ある朝、彼はふとした瞬間に、深い不安の渦に飲み込まれた。
「金子先生、最近、あまり進展を感じられないんです。このままでは…」と、言葉を途切れさせた。
金子はしばし考え込むように沈黙した後、穏やかに答えた。「丸山さん、最初の頃は進展が目に見えやすいものです。でも、その後の進展は、もっと微細で、じっくりと時間をかけて進むものなんです。あなたの体は、今、新しいバランスを見つけようとしています。」
その言葉は、まるで静かな湖面に小石を投げ入れたように、丸山の心にさざ波を立てた。
「脳の神経可塑性って聞いたことがありますか?」金子は続けた。「脳は、新しいつながりを作り、失われた機能を補おうとします。それには時間がかかることもありますが、決して無駄な努力ではないんですよ。」
丸山は、何かが少しずつ変わっていくのを感じた。それは、彼の内側で起こっている、目には見えない変化だった。
第3章:慢性期への挑戦
時間は静かに過ぎ、丸山は自宅での生活に戻っていた。金子とのリハビリは続いていたが、進展のペースが遅いと感じる日々が続いた。
「先生、最近、モチベーションが下がってしまって…」丸山は、言葉を絞り出すように言った。
金子は、深い理解を示すようにうなずいた。「丸山さん、その気持ちはとてもよくわかります。でも、この時期こそ、あきらめずに続けることが重要なんです。あなたの努力は、決して無駄ではありません。」
「どうやって、続ければいいんでしょうか?」丸山は、その言葉にほんの少しの希望を見出した。
「たとえば、新しい技術を取り入れることも一つの手です。経頭蓋磁気刺激や経頭蓋直流電流刺激といった方法は、脳の可塑性を促す効果があります。そして、日常生活の中で繰り返される小さな動作も、積み重ねることで大きな成果に繋がるんです。」
丸山は、金子の言葉に耳を傾けながら、未来への新たな道筋を見出そうとしていた。それは、まだぼんやりとした光だったが、確かにそこに存在していた。
第4章:新たな希望の光
時間は流れ、季節は変わった。丸山は、金子のアドバイスを胸に、毎日のリハビリを続けた。初めは小さな進展に過ぎなかったが、やがてその積み重ねが、彼の生活に確かな変化をもたらした。
「金子先生、少しずつですが、自分が前に進んでいると感じます」と、丸山はかすかな笑みを浮かべた。
「それは素晴らしいことですね。丸山さん、あなたの努力が実を結び始めていますよ」と、金子は微笑んで答えた。その笑顔は、まるで新緑の木漏れ日を思わせた。
「リハビリは旅そのものなんですね。終着点ではなく、その過程が重要なんだと感じています」と、丸山は静かに語った。
金子は深くうなずき、彼の言葉を噛み締めるように聞いていた。「その通りです。そして、その旅を共にすることが、私たちの仕事です。」
丸山は、今、自分の中で新しい旅が始まったことを感じていた。それは、どこへ続くかわからない長い道のりだったが、彼はその一歩一歩を大切に踏みしめていく覚悟を決めた。
今回は2017年にこちらで報告された論文を中心に展開し、ほかにも慢性期の回復を記したHatemらの論文を一般の方に分かりやすいよう解説します。
論文の概要
主な話題としては、行動再構築、代償、自然な生物学的回復、および脳卒中回復のタイムラインについてです。
-
行動再構築(真の回復):これは、障害を受けた器官(手や足など)の動きが徐々に元のパターンに戻る現象を指します。これは「真の回復」への過程を反映しており、脳卒中後の完全な回復は稀ですが、何らかの形での回復はほぼ常に達成されます。
-
代償:これは、患者が自身の通常の行動パターンではなく、新しいアプローチで目標を達成する能力を指します。代償は神経修復を必要とせず、新たな学習を必要とすることがあります。
-
自然回復:これは、特定の、目標とした治療法がなくても行動の回復が見られる状態を指します。これは脳卒中直後から始まり、徐々に減少します。多くの脳卒中患者が自然な回復を示し、特性的な段階を経て進行します。
視点 | 介入方法 |
---|---|
真の回復 | 真の回復に焦点を当てたリハビリテーション戦略は、脳卒中によって失われた特定の機能を直接復元するための運動や活動を通常含みます。これには、運動スキルのための理学療法、日常活動のための作業療法、コミュニケーションと嚥下の問題のための言語療法が含まれます。また、記憶、注意力、問題解決の問題を対処するための認知リハビリテーションも使用されることがあります。このタイプのリハビリテーションは持続的な努力を必要とし、長期間にわたって続くことがあります。 |
代償 | 代償に基づく戦略は、脳卒中患者が新しい状況に適応し、タスクを新しい方法で学ぶのを助けます。作業療法士はしばしば代償戦略を教える重要な役割を果たします。これには、以前は両手で行っていた課題を非麻痺側上肢で行う、話すことが困難な場合は非言語的手段でコミュニケーションを取る、または移動を助ける補助装置を使用する方法を学ぶことが含まれます。場合によっては、個々の環境(家、仕事)をよりアクセスしやすく、簡単に移動できるように改造することも代償的リハビリテーションの一部です。 |
自然回復 | 臨床医は直接自然な回復を影響させることはできませんが、リスク要素を制御し、合併症を防ぐための最適な医療を提供することで、それを支援することができます。良好な栄養と水分補給を確保し、定期的な睡眠パターンを奨励することも重要です。早期動員(可能な限り早く患者を動かすこと)も、自然な回復を支援すると考えられています。また、この段階では、患者とその家族がストロークによってもたらされた突然の変化に対処するための心理的支援が重要となることがあります。 |
回復曲線の理解
慢性期の回復で大切なことは何?
References:
- Biernaskie J, Chernenko G, Corbett D. Efficacy of rehabilitative experience declines with time after focal ischemic brain injury. J Neurosci. 2004;24(5):1245-54.
- Krakauer JW, Carmichael ST, Corbett D, Wittenberg GF. Getting neurorehabilitation right: what can be learned from animal models? Neurorehabil Neural Repair. 2012;26(8):923
-
Jørgensen HS, Nakayama H, Raaschou HO, Vive-Larsen J, Støier M, Olsen TS. Outcome and time course of recovery in stroke. Part II: Time course of recovery. The Copenhagen Stroke Study. Arch Phys Med Rehabil. 1995;76(5):406-12.
-
Prabhakaran S, Zarahn E, Riley C, Speizer A, Chong JY, Lazar RM, Marshall RS, Krakauer JW. Inter-individual variability in the capacity for motor recovery after ischemic stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2008;22(1):64-71.
他にも論文で機能回復曲線を解説しているものはないですか?
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください。
動画で解説
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)