【2023年版】多系統萎縮症とは?原因・症状・評価・治療・リハビリテーション(理学療法・作業療法)まで
多系統萎縮症(MSA)とは?
MSAは主に散発性疾患であると考えられており、明確な遺伝パターンを持たずに発症することが一般的です。MSAの患者さんの多くは、この病気の家族歴がありません。
細胞レベルでは、MSAの特徴として、脳のある種の神経細胞(グリア細胞)にαシヌクレインと呼ばれるタンパク質が蓄積されることがあげられます。このタンパク質の蓄積は、グリア細胞質内封入体と呼ばれる構造を形成し、神経細胞の変性過程に寄与していると考えられています。
しかし、なぜこのようなタンパク質の蓄積が起こり、具体的にどのようにMSAの特有の症状につながるのかは、まだ解明されていません。この分野の研究は現在も進行中です。MSAの発症には、遺伝子変異、環境要因、脳の加齢変化などが複合的に関与している可能性がありますが、これらの潜在的な寄与はまだ十分に解明されていません。
多系統萎縮症(MSA)の特徴は?
多系統萎縮症(MSA)は、自律神経機能障害と運動機能障害を主徴とする希少な神経変性疾患です。この疾患は大きく2つのタイプに分けられます: MSAは、主にパーキンソン病(MSA-P)と小脳失調症(MSA-C)に分けられます。これらのタイプは、主に症状や影響を受ける脳の領域によって区別されます。
パーキンソニズムを伴うMSA(MSA-P):この型のMSAでは、症状がパーキンソン病に酷似しているため、「パーキンソニズム」と呼ばれています。徐脈(動作が遅くなること)、硬直(筋肉が硬くなること)、振戦などの症状があります。これらの症状は、パーキンソン病でも影響を受ける黒質という脳の部位にある神経細胞の変性によって起こります。
小脳性運動失調を伴うMSA(MSA-C): このタイプのMSAでは、主な症状として運動失調(協調性の問題)があり、歩行、会話、細かい運動制御を必要とする作業の能力に影響を及ぼします。このような症状は、脳の一部である小脳の神経細胞の変性によって起こりますが、小脳は主に運動を調整する役割を担っています。
これらの分類は、MSAの2つの主要な形態を区別するのに有用ですが、これらは厳密な分類ではなく、多くのMSA患者さんが両方のタイプの特徴を有していることに留意することが重要です。また、MSAの患者様には、自律神経失調症があり、起立性低血圧(起立時に血圧が著しく低下する)や排尿障害などの症状を引き起こす可能性があるため、すべての方にある程度の自律神経失調症が見られます。
パーキンソン病型多系統萎縮症 (MSA-P) | 小脳型多系統萎縮症 (MSA-C) | |
---|---|---|
主に影響する部位 | 脳の黒質(運動に関連) | 小脳(協調動作制御に関連) |
典型的な症状 | ブラディキネジア(運動の緩慢)、剛直(筋硬直)、および振戦 | 運動失調(歩行、話す、細かい運動制御を必要とするタスクの能力に影響) |
自律神経機能障害 | あり、起立性低血圧、排尿障害などの症状を引き起こす可能性がある | あり、起立性低血圧、排尿障害などの症状を引き起こす可能性がある |
治療 | 対症療法 | 対症療法 |
多系統萎縮症(MSA)と類似疾患は?
MSA(多系統萎縮症)と似た症状を呈するいくつかの神経疾患の特性を概説した表です。
疾患 | 主な特徴 |
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パーキンソン病 | 手の震え、筋肉の固縮、動作の遅延(ブラディキネジア)、姿勢の不安定性を特徴とします。これらの症状は、脳内のドーパミン産生細胞の喪失によるものです。 |
脊髄小脳性運動失調症(SCA) | 運動に関する問題が進行性に現れる遺伝性の疾患。この疾患の患者は、協調性とバランス(運動失調)の問題、自発的な眼球運動(眼振)、話すこと(失語症)の困難さを経験することがあります。 |
進行性核上性麻痺(PSP) | 歩行とバランスの深刻な問題、および眼球運動障害を特徴とします。病状が進行するにつれて、一部の患者は気分と行動の変化を経験する可能性があります。 |
レビー小体型認知症(LBD) | LBDの患者は、しばしば精神能力の進行性の低下を経験し、この疾患では一般的な視覚的幻覚を見ます。運動機能の特徴はパーキンソン病と重なる可能性があり、硬直とブラディキネジアを含みます。 |
フリードライヒ運動失調症 | 歩行困難、四肢の感覚喪失、言語障害を引き起こす遺伝性の進行性神経系疾患。しばしば心臓の合併症や糖尿病と関連しています。 |
これらの疾患はそれぞれ独自の特性を持っており、治療法や予後はそれぞれ大きく異なる可能性があります。適切な診断をするためには、医療専門家による診断が不可欠です。
脊髄小脳変性症と多系統萎縮症の違いは?
多系統萎縮症(MSA)と脊髄小脳変性症(SCA)は、ともに進行性の神経変性疾患ですが、その原因や症状、主に影響を受ける神経系の部位は異なります。
MSAは、自律神経系(血圧や心拍数などの不随意運動を制御する神経系の一部)と運動の両方に影響を及ぼす症状の組み合わせを特徴とします。 主な症状としては、起立性低血圧(起立時に血圧が著しく低下する)などの自律神経機能障害、排尿障害、パーキンソン症状(動作が緩慢、固縮、振戦)、小脳失調症(協調運動障害)などがあげられます。
多系統萎縮症 (MSA) | 脊髄小脳性運動失調 (SCA) | |
---|---|---|
主に影響する部位 | 自律神経系と運動制御 | 小脳(協調動作制御) |
遺伝 | スポラディック(通常は遺伝しない) | 通常は遺伝性(常染色体優性) |
一般的な症状 | 起立性低血圧、排尿障害、パーキンソン症状、小脳性運動失調 | 運動失調、構音障害、眼球運動異常、場合によっては認知障害 |
タイプ | 二つの主要なタイプ:MSA-P(パーキンソン症状)とMSA-C(小脳性症状) | 多数のタイプが存在し、それぞれが特定の遺伝子変異と関連 |
病状進行 | 進行性で重度の障害につながる | 進行性で、重症度と進行はSCAのタイプにより異なる |
治療 | 症状的治療(2021年時点で治療法や病状改善治療は存在しない) | 症状的治療(2021年時点で治療法や病状改善治療は存在しない) |
診断 | 臨床検査、自律神経テスト、脳画像検査 | 臨床検査、脳画像検査、遺伝子検査 |
治療法は?
多系統萎縮症(MSA)の治療法はなく、病気の進行を遅らせたり止めたりする治療法もありません。病気の理解を深め、治療標的を見つけるための研究が続けられていますが、今のところ、完治するような治療法の開発には至っていません。
MSAの管理は、主に症状を管理し、患者さんの生活の質を向上させることにあります。治療戦略としては、以下のようなものがあります。
薬物療法: 薬物療法:MSAの多くの症状に対処するための薬物療法があります。これには、血圧の調整、パーキンソン症状の管理、膀胱の問題のコントロールに役立つ薬物が含まれます。
理学療法: 理学療法は、バランス感覚の喪失や筋力低下の症状を管理するのに役立ち、可能な限り長く運動能力を維持するのに有益です。
言語療法: 言語療法は、言語や嚥下に関する問題をサポートします。
作業療法: 作業療法は、日常生活や環境の変化に対応し、症状を改善するためのお手伝いをします。
支持的ケア: 移動のための器具の使用、便秘などの症状を管理するための食事の変更、患者さんの安全を確保するための戦略の実施など、さまざまな介入を行うことができます。
この病気は通常、神経科医、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師などの医療専門家のチームによって管理され、全員が協力して症状を管理し、患者さんの生活の質をできるだけ高く維持することを目的としています。
MSAに関する最も正確で最新の情報については、医療専門家にご相談ください。
新人が陥りやすいミスは?
多系統萎縮症や脊髄小脳変性症などの複雑な神経疾患を持つ患者を治療する際、新人や経験の浅い医師や療法士が犯しがちな間違いがいくつかあるようです。ここでは、そのいくつかを紹介します。
不十分な知識: よくあるのが、病気に対する理解や認識が不足していることです。病気やその進行、症状、対処法について十分に理解することが重要です。
運動以外の症状の見落とし: 神経変性疾患では、運動症状が最も顕著に現れますが、認知機能の変化、気分障害、睡眠障害、自律神経失調症などの非運動症状もよく見られ、QOLに大きな影響を与えることがあります。
コミュニケーション不足: 患者さんや介護者の方と、オープンで継続的なコミュニケーションをとることが重要です。コミュニケーション不足は、誤解や治療への非服従、患者さんの満足度低下につながる可能性があります。
不適切な目標設定: 治療の目標は、病気の進行性を考慮し、現実的で患者さん本位のものであるべきです。非現実的な目標や不明確な目標は、失望や進歩の欠如につながることがあります。
画一的なアプローチ: 患者さんはそれぞれ個性があり、治療に対する反応も異なります。ある患者さんには効果があっても、別の患者さんには効果がないこともあります。セラピストは柔軟で適応力があり、患者さんの進歩やニーズに基づいてアプローチを変更する必要があります。
学際的な協力の欠如: 神経疾患は、神経科医、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門家が関与する、学際的なケアアプローチを必要とすることが多いです。これらの専門家の連携やコミュニケーションの欠如は、バラバラで効果的でないケアにつながる可能性があります。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)