【2023年版】パーキンソン病の固縮のリハビリ・メカニズムは?評価・治療は?体操習慣まで
パーキンソン病の概要と固縮の病態生理
基底核とその重要な役割
正常に機能する人間の脳では、基底核は自発的な運動制御、手続き的学習、そして習慣形成において重要な役割を果たしています。基底核は尾状核、被殻、淡蒼球、視床下核、および黒質を含む複雑な構造のネットワークを形成しています。その主な機能の一つは、運動皮質への抑制と興奮入力のバランスをとり、滑らかで協調した動きを可能にすることです。
パーキンソン病では、黒質核のドーパミン産生ニューロンの変性と死により、線条体内のドーパミンが減少します。これにより、基底核内の神経活動の不均衡が生じ、運動皮質への抑制が増加し、興奮が減少します。この変化した基底核出力は、動作の遅さ(ブラディキネジア)、振戦、固縮という運動症状として現れます。
ドーパミン欠乏と固縮の理解
ドーパミンは、脳細胞間でメッセージを伝える神経伝達物質です。これは滑らかで制御された動きのために必要不可欠です。パーキンソン病では、黒質のドーパミン産生細胞が徐々に死んでいき、ドーパミンが不足します。このドーパミン不足により、脳は信号を効果的に伝えられなくなり、運動制御が失われます。
パーキンソン病の固縮は、主にこのドーパミン欠乏によるものです。ドーパミンが十分でないと、脳の運動回路の不均衡が生じ、筋肉の緊張が増加します。この増加した筋肉の緊張により、体は自由に動くことが難しくなり、パーキンソン病患者に見られる「鉛管状」または「歯車状」の固縮が生じます。
研究開発と科学研究についての理解
パーキンソン病の固縮の正確なメカニズムについての継続的な研究は、より効果的な治療法を開発するための鍵です。最近の一部の研究は、パーキンソン病で中断される特定の基底核回路の理解に焦点を当てて、標的治療法の開発を目指しています。
また、研究はコリン作動性、セロトニン作動性、グルタミン酸作動性系などの非ドーパミン作動性系がパーキンソン病の固縮の病態生理学において果たす役割を探っています。これらの複雑な相互作用を理解することは、新たな治療法の道を開く可能性があります。
最近の画像技術の進歩は、パーキンソン病患者の脳の構造的および機能的な変化をより深く理解するための大きな洞察を提供しています。機能的MRI(fMRI)、陽電子放出断層撮影(PET)、および単一光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)などのツールは、固縮につながる脳の回路変化をより良く理解するために使用されています。
評価・検査・管理について
固縮の臨床評価
臨床評価において、固縮はその主観的な性質のために評価が難しい症状の一つとなることがよくあります。身体検査では、通常、医師や療法士が患者の肢体を動かして、抵抗や硬さを感じるかどうかを確認します。
固縮の評価には、統一パーキンソン病評価尺度(UPDRS)やモディファイドアシュワーススケール(MAS)などの尺度がよく用いられます。UPDRSは包括的なツールで、主要な関節部位を受動的に動かしたときに感じる抵抗に基づいて、硬直度がスコア化されます。MASはよりシンプルなツールで、筋痙縮の重症度を評価するためによく使用されますが、固縮にも使用することができます。
これらの尺度は有用ですが、限界があり、患者のリラックス度や臨床医が関節を動かす速度などの要因に影響される可能性があります。そのため、固縮をより正確に評価するために、さまざまな客観的測定ツールや技術が研究・開発されています。
検査・管理
固縮については特定の診断テストはありません。代わりに、患者の症状と身体検査に基づいて診断が行われます。しかし、神経画像化、例えば脳MRIやドパミントランスポーター(DAT)スキャンは、他の病状を除外し、パーキンソン病の診断を支持するのに役立つことができます。
パーキンソン病の固縮の管理は、薬物療法、理学療法、作業療法戦略を含む多面的なものです。レボドパやドーパミン受容体作動薬といった薬物は、脳のドーパミンレベルを補充することで助けとなります。一方、理学療法と作業療法は、運動能力を維持し、柔軟性を向上させ、固縮にもかかわらず日常生活を管理する戦略とエクササイズを提供します。
テクノロジーの進歩に伴い、さらなる実践が現れています。深部脳刺激(DBS)という手術は、固縮を含むパーキンソン病の症状を管理するのに有望であると示されています。同様に、ウェアラブル技術やロボット工学の開発は、パーキンソン病の固縮を管理する新たな手段を開いています。
治療について
リハビリテーションアプローチ
パーキンソン病の硬直に対する防御の第一線は、多くの場合、リハビリテーションアプローチです。ここでは、療法士が重要な役割を果たします。
・理学療法:柔軟性、筋力、バランスを維持し、患者の運動能力を向上させ、転倒のリスクを軽減するのに役立ちます。ストレッチ、筋力強化運動、バランストレーニング、歩行訓練などのテクニックは、これらのプログラムに組み込まれます。
・作業療法:日常生活の中で剛性に対処する戦略を提供することができます。療法士は、患者さんの環境の改善を提案したり、作業を容易にするための補助器具を推奨したりすることがあります。例えば、入浴のための柄の長いスポンジや、着替えのためのジッパー引き手やボタンホックなどです。
・言語聴覚療法:固縮のために生じる可能性のあるコミュニケーションや嚥下の問題に対処します。言葉の明瞭さや安全な嚥下を改善するための戦略やエクササイズを提案することができます。
薬物
薬物管理は、剛性と戦うためのもう一つの重要な側面です。パーキンソン病の最も一般的に処方される薬物はレボドパで、その効果を高めるためにしばしばカルビドパと組み合わせて使用されます。レボドパは脳内のドーパミンレベルを補充し、固縮のような症状を減らす効果があります。
しかし、レボドパだけが使用されるわけではありません。ドーパミン受容体作動薬、モノアミン酸化酵素-B(MAO-B)阻害剤、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害剤、抗コリン薬は全て、固縮の管理に役立ちます。これらはしばしばレボドパの補助として、またはレボドパが適していないときの代替として使用されます。
深部脳刺激(DBS)
深部脳刺激(DBS)は、薬物だけでは症状を十分に管理できない、または薬物の副作用が問題となる場合に使用される外科的な介入です。DBSでは、運動を制御する脳の領域に電気信号を送るデバイスを埋め込みます。刺激は、症状の制御を最適化し、副作用を最小限に抑えるために調整することができます。
集中超音波療法や遺伝子療法といった新興の技術も、固縮や他のパーキンソン病の症状を管理する可能性のあるものとして研究が行われています。
予後について
パーキンソン病は進行性の疾患であり、一般に、固縮などの症状は時間とともに悪化します。しかし、病気の進行速度は個人差が大きく、効果的な管理戦略により症状をコントロールし、生活の質を維持することができます。
固縮、つまり筋肉の緊張が高まって硬くなることで、歩行、着替え、その他の日常的な作業など、さまざまな日常生活に影響を及ぼす可能性があります。管理しなければ、移動能力の低下、転倒リスクの増加、全体的な機能低下につながる可能性があります。そのため、療法士は、パーキンソン病の硬直やその他の運動症状を管理する上で重要な役割を担っています。
パーキンソン病の固縮の予後は、個人の健康状態、症状の重症度、薬物療法への反応、リハビリテーションへの参加など、いくつかの要因に左右されます。定期的な運動と治療により、硬直やその他の身体症状の進行を遅らせることができ、さまざまな薬物療法もこれらの症状を管理するのに役立ちます。
現在、パーキンソン病の治療法はありませんが、神経内科医、PT、OT、その他の医療専門家が参加する包括的かつ学際的な治療計画によって、予後を大幅に改善することができます。さらに、現在進行中の研究と新しい治療法は、パーキンソン病の管理における将来の進歩に希望を与えてくれます。
新人が陥りやすいミスは?
パーキンソン病患者を対象とした新人療法士としての仕事に新しく携わる場合、固縮の理解と管理に関していくつかの誤解を持つことは珍しくありません。新人がよく陥る一般的な誤解をいくつか紹介します。
・固縮の影響度を表面的にしか認識していない:パーキンソン病の剛性は、筋肉の硬さだけではありません。これは姿勢、バランス、協調性、全体的な運動能力に影響を及ぼします。新人療法士は、これらの相互に関連する問題を考慮せずに硬さに焦点を当てることがあります。
・個別のケアの必要性を過小評価する:固縮と他のパーキンソン病の症状は、人によって大きく異なります。一人の患者に対して非常に効果的な治療アプローチが、別の患者に対してはそれほど効果的でないこともあります。新人療法士は、全ての患者に対して一律のアプローチを適用することがあるかもしれません。
・機能的な目標を組み入れることを怠る:療法士の目標は固縮を軽減するだけでなく、患者の日常活動の遂行能力を改善し、生活の質を向上させることです。新人は固縮の軽減に焦点を当てることがある一方で、歩行、着替え、料理などの機能的な目標に治療を結びつけることを忘れることがあります。
・非運動症状を無視する:パーキンソン病は、不安、うつ病、睡眠障害、認知変化などの非運動症状と関連しており、これら全てが剛性の認識と管理に影響を及ぼします。新人療法士は、これらの症状を治療計画に取り入れるのが得意ではないかもしれません。
・定期的な運動の重要性を見落とす:定期的な身体運動は、固縮と他の運動症状の改善を含む、パーキンソン病患者に対して多くの利点をもたらすことが示されています。しかし、新人はその重要性を十分に理解していない場合があり、適切な運動の推奨をケアプランに組み込むのを忘れることがあります。
・患者教育を怠る:患者に自身の病状について教え、どのような運動が有益であるか、また自宅で症状をどのように管理するかを教えることは重要です。新人は場合によっては、手を動かす治療に集中しすぎて、患者に知識を身につける機会を提供することを忘れることがあります。
定期的な運動シリーズ↓↓↓
おすすめ記事⇒【2023年版】パーキンソン病に有効な評価と治療・体操・エクササイズまで!エビデンスの高い運動・体操は?
参考論文⇒“Quantitative analysis of rigidity in Parkinson’s disease.“ by Prochazka A, Bennett DJ, Stephens MJ, Patrick SK, Sears-Duru R, Roberts T, Jhamandas JH. Published in: Neuroscience, 1997; 80(2): 605-22.
本論文では、パーキンソン病における筋硬直のバイオメカニクスと神経機構を探求し、定量的な解析を行うことで、より良い理解と今後の治療戦略の研究を可能にします。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)