【2024年版】三叉神経痛(TN)の原因・治療・リハビリテーションから画像MRIまで解説!!
三叉神経痛(TN)の概要
三叉神経痛(TN)は、顔面の一側で激しい、電撃様の痛みが繰り返し発生する慢性の神経痛症候群です。この痛みは、三叉神経の分布に沿って現れ、典型的には触れる、話す、食べる、歯磨きなどの軽い刺激によって引き起こされます。
三叉神経痛の特徴
痛みの性質:
- 短い(1秒未満から2分程度)激しい痛みの発作が特徴です。痛みはしばしば「電撃」のように感じられます。
- 発作の頻度と持続時間は患者によって異なり、時には1時間以上続くこともあります。
トリガーポイント:
画像引用元:ReserchGate
-
- 顔や口腔内の特定の場所に軽く触れることで痛みが誘発されます。一般的なトリガーポイントには、鼻唇溝、上唇、下唇の外側部分、顎、頬、および歯茎が含まれます。
部位:
- 痛みは通常、三叉神経の第二(V2:上顎)および第三(V3:下顎)分枝に沿って発生します。約25%のケースでは、第一(V1:眼神経)分枝も影響を受けます。
反射期間:
- 発作後には数秒から数分間の反射期間があり、この期間中は再度の発作が誘発されにくくなります。
三叉神経痛(Trigeminal Neuralgia, TN)の発生機序
画像引用元:MedSpace
解剖の解説
この図は三叉神経(Trigeminal Nerve)の解剖学的な構造を示しています。三叉神経は、頭部と顔面の感覚を司る主要な神経であり、運動機能も一部担っています。三叉神経は、以下の三つの主要な分枝に分かれます:
1. 眼神経(Ophthalmic Nerve, V1)
眼神経は感覚神経であり、以下の主要な枝があります:
- 涙腺神経(Lacrimal Nerve):涙腺と側頭部の皮膚に分布します。
- 前頭神経(Frontal Nerve):額と頭頂部の皮膚に分布します。
- 鼻毛様体神経(Nasociliary Nerve):鼻腔内と眼の一部に分布します。
2. 上顎神経(Maxillary Nerve, V2)
上顎神経も感覚神経であり、以下の主要な枝があります:
- 頬骨神経(Zygomatic Nerve):頬骨と側頭部の皮膚に分布します。
- 上歯槽神経(Superior Alveolar Nerve):上顎の歯と歯茎に分布します。
- 鼻口蓋神経(Nasal Nerves):鼻腔と口蓋の一部に分布します。
3. 下顎神経(Mandibular Nerve, V3)
下顎神経は感覚と運動の両方を担う混合神経であり、以下の主要な枝があります:
- 耳介側頭神経(Auriculotemporal Nerve):耳介と側頭部の皮膚に分布します。
- 下歯槽神経(Inferior Alveolar Nerve):下顎の歯と歯茎に分布します。この神経はさらに心臓神経(Mental Nerve)に分かれ、下唇と顎の皮膚に分布します。
- 舌神経(Lingual Nerve):舌の前2/3の感覚を司ります。
- 咬筋神経(Buccal Nerve):頬の粘膜と皮膚に分布します。
その他の構造
- 半月神経節(Semilunar Ganglion):三叉神経の感覚神経節で、三叉神経の分枝がここから出発します。
- 運動根(Motor Root):主に咀嚼筋を支配する運動神経線維です。
三叉神経痛の発生機序
1. 神経脱髄
三叉神経痛の最も広く認識されている発生機序は、神経脱髄です。これは、三叉神経のミエリン鞘が損傷されることで神経伝達が異常に行われ、激しい痛みが引き起こされるとされています。神経脱髄は、特に上位小脳動脈などの血管が三叉神経を圧迫することによって引き起こされることが多いです。この圧迫により、神経に物理的なストレスがかかり、長期的には神経の脱髄と痛みの発症を引き起こします 。
2. イオントロピックチャネル異常
最新の研究では、三叉神経痛がイオントロピックチャネルの異常(チャネルオパシー)と関連していることが示されています。特に、カリウムチャネルやカルシウムチャネル、トランジエント受容体電位(TRP)チャネルなどの機能や発現の異常が指摘されています。例えば、SCN9AやSCN8Aなどの遺伝子変異が痛みの感受性に影響を与えることが報告されています。しかし、これらのチャネル異常が直接的に三叉神経痛を引き起こすかどうかについては、さらなる研究が必要です。
3. 酸化ストレスとTRPA1チャネルの活性化
三叉神経痛患者では、神経における酸化ストレスが増加し、TRPA1チャネルの活性化が見られることが報告されています。この酸化ストレスとチャネルの活性化は、痛みの発生に関与していると考えられています。特に、酸化ストレスを軽減する薬剤が三叉神経痛の治療に有効である可能性が示されています 。
4. 神経炎症
神経炎症も三叉神経痛の重要なメカニズムの一つとされています。炎症性サイトカインやその他の炎症マーカーが三叉神経において増加し、これが神経の過敏性を引き起こすことが確認されています。特に、炎症が神経の脱髄と組み合わさることで、痛みの強度と頻度が増すことが報告されています。
5. 中枢神経系の変化
最新の機能的神経画像データは、三叉神経痛患者の中枢神経系における構造的および機能的な変化を示しています。これには、痛みに関連する脳の領域間の接続性の変化が含まれます。これらの変化は、三叉神経痛の慢性的な痛みのパターンに寄与していると考えられています。
三叉神経痛の発生機序は複雑で、多くの要因が関与しています。神経脱髄、チャネルオパシー、酸化ストレス、神経炎症、および中枢神経系の変化が主要なメカニズムとして示されています。これらの新しい知見は、三叉神経痛の診断と治療の改善に向けた重要な手がかりを提供しています。
脳卒中と三叉神経痛の関連性
最新の研究によると、脳卒中(ストローク)と三叉神経痛(Trigeminal Neuralgia, TN)には密接な関連性があることが示されています。以下に、その関連性について詳しく説明します。
1. 共通の発生機序
脳卒中と三叉神経痛の両方において、神経の圧迫や血管の異常が重要な役割を果たしています。特に、脳卒中による脳内の血管損傷が三叉神経の圧迫を引き起こし、それが三叉神経痛の発症に繋がることがあります。
2. 血管圧迫と神経脱髄
三叉神経痛の主要な原因の一つは、血管が三叉神経を圧迫することによる神経脱髄です。脳卒中後、脳内の血管構造が変化し、三叉神経が圧迫されるリスクが高まります。これにより、三叉神経のミエリン鞘が損傷され、激しい痛みが発生します。
3. 二次性三叉神経痛
脳卒中後に発生する二次性三叉神経痛(Secondary Trigeminal Neuralgia)は、脳卒中による直接的な脳損傷やその後の神経変性によって引き起こされることがあります。このタイプの三叉神経痛は、脳卒中後のリハビリ期間中やその後に発症することがあり、従来の三叉神経痛よりも治療が難しい場合があります (Frontiers) 。
4. 症例研究と疫学データ
複数の症例研究および疫学データによれば、脳卒中患者における三叉神経痛の発生率は一般人口よりも高いことが示されています。これらの研究は、脳卒中後の神経学的評価において三叉神経痛のリスクを考慮する重要性を強調しています。
5. 治療法の選択
脳卒中後の三叉神経痛の治療には、通常の三叉神経痛治療法(例:抗てんかん薬、神経ブロック、微小血管減圧術など)が使用されますが、脳卒中後の特定の状態に応じたアプローチが必要となることがあります。特に、外科的介入を行う場合は、脳卒中による全身の健康状態や他の合併症を考慮する必要があります。
脳卒中と三叉神経痛は密接に関連しており、特に脳卒中後の血管変化や神経損傷が三叉神経痛の発症リスクを高めることが最新の研究で示されています。これにより、脳卒中患者の評価と管理において、三叉神経痛の早期発見と適切な治療が重要となります。
診断
最新の研究に基づく三叉神経痛(Trigeminal Neuralgia, TN)の診断および検査方法について詳しく説明します。
1. 臨床診断
三叉神経痛の診断は主に臨床的な評価に基づいて行われます。以下の点が重要です:
- 痛みの特性:三叉神経痛は、一側性で、突然の電撃様の激しい痛みが特徴です。この痛みは、話す、食べる、歯磨きなどの日常的な活動によって誘発されることがあります。
- 痛みの部位:痛みは、三叉神経の一部または複数の分枝に沿って発生します。典型的には、顔面の特定の領域(上顎、下顎、眼部)に限定されます。
- 痛みの持続時間:各発作は通常数秒から2分程度で持続し、短いが非常に激しい痛みが繰り返されます。
2. 画像診断
臨床診断を補完するために、画像診断が用いられます。
画像引用元:radiologyassistant
- 磁気共鳴画像法(MRI):MRIは、三叉神経痛の原因となる可能性のある脳内構造の異常(例えば、神経の圧迫や血管異常)を検出するために使用されます。また、他の病因(腫瘍、血管異常、脱髄疾患など)を除外するためにも重要です。
- 高分解能MRI:三叉神経の根元付近での神経血管圧迫を詳細に評価するために、高分解能MRIが使用されることがあります。この方法は、微小血管減圧術(MVD)の適応を判断する際に特に有用です。
3. 神経学的検査
- 神経学的評価:包括的な神経学的検査を行い、他の神経障害や脱髄疾患(例えば、多発性硬化症)を除外します。この評価には、顔面の感覚テストや反射テストが含まれます。
4. 補助的検査
- 電気診断テスト:場合によっては、電気診断テスト(例えば、電気生理学的検査)を実施して、神経伝導の異常を確認します。これは、特に異常が疑われる神経の機能を評価するために用いられます。
診断基準の適用
三叉神経痛の診断は、以下の基準に基づいて行われます:
- 突発的で一側性の電撃様の痛みが、顔面の特定の領域に発生する。
- 痛みは、特定の引き金(トリガー)によって誘発される。
- 発作の間に痛みのない期間が存在する。
- 他の病因が除外される。
三叉神経痛の診断には、詳細な臨床評価、画像診断、および必要に応じた神経学的検査が含まれます。これらの方法を組み合わせることで、正確な診断が可能となり、適切な治療計画が立てられます。最新の研究により、診断技術の進歩と新しい治療法の開発が進んでいます。
治療
1. 薬物療法
第一選択薬:
- カルバマゼピンとオキシカルバゼピン: これらの抗てんかん薬は、三叉神経痛の第一選択薬として広く使用されています。カルバマゼピンは痛みを迅速に緩和する効果がありますが、副作用として眠気やめまいが生じることがあります。オキシカルバゼピンはカルバマゼピンに比べて副作用が少ないとされています。
第二選択薬:
- ラモトリギンとバクロフェン: これらの薬剤は、第一選択薬が効果を示さない場合や副作用が耐えられない場合に使用されます。ラモトリギンは抗てんかん薬としての作用があり、バクロフェンは筋弛緩薬として作用します。
その他の薬物療法:
- ボツリヌス毒素A(BTX-A)注射: ボツリヌス毒素Aは、特に薬物療法に反応しない患者に対して効果的であり、痛みの強度と頻度を60-80%程度減少させることが報告されています。
- 静脈内リドカイン: 急性増悪時に使用され、迅速な痛みの緩和を提供します。
2. 外科的治療
微小血管減圧術(MVD):
- 効果: 三叉神経痛の最も一般的な外科的治療法であり、神経を圧迫している血管を移動させる手術です。高い成功率を持ち、長期的な痛みの緩和を提供します 。
- 再手術の必要性: 再発する場合もあり、その場合には再度の微小血管減圧術が行われることがあります。再手術では、瘢痕組織や神経の変形などが確認されることがあります 。
ステレオタクティック放射線手術(ガンマナイフ):
- 特徴: 高精度の放射線を使用して、神経をターゲットにし、痛みの伝達を遮断します。低侵襲であり、入院が不要なことが多いです。
3. 神経ブロックと神経調節療法
神経ブロック:
- 神経ブロックは、局所麻酔薬やステロイドを三叉神経に注射することで、痛みの信号を遮断します。これにより、短期的な痛みの緩和が得られます。
神経調節療法:
- 脳深部刺激(DBS): 脳の特定の領域に電極を植え込み、電気刺激を行うことで痛みを緩和します。これは、従来の治療法に反応しない患者に対して有効です。
- 経皮的電気神経刺激(TENS): 痛みの管理に効果的で、家庭での使用が可能です。
4. 新技術の利用
人工知能(AI)の活用:
- 診断と治療の精度向上: AI技術は、三叉神経痛の診断精度を向上させるために使用されており、神経の異常パターンを特定するのに役立ちます。AIを用いた画像解析や機械学習モデルは、より正確な診断と個別化された治療計画の策定を可能にします (Frontiers) 。
三叉神経痛の治療には、薬物療法、外科的治療、および新しい技術の利用が含まれます。これらの治療法は、患者の個々の状態に応じて選択され、組み合わせることで最適な結果を得ることが可能です。最新の研究は、治療の選択肢を拡大し、より効果的な痛み管理を提供することを目指しています。
リハビリテーション
最新の研究に基づく三叉神経痛(Trigeminal Neuralgia, TN)の理学療法・作業療法について、以下に具体的な方法を紹介します。
1. 経皮的電気神経刺激(TENS)
方法: TENSは、皮膚に貼った電極を介して微弱な電気刺激を与えることで、痛みを軽減する方法です。具体的には、250Hzの周波数で20分間、5日間毎週行います。
効果: TENSは、痛みの強度と頻度を減少させるのに有効であり、特に神経の過敏性を抑えることが示されています 。
2. 介入的物理療法
方法: 介入的物理療法には、干渉波治療(Interferential Therapy, IFT)や超音波治療が含まれます。IFTは、異なる周波数の電流を交差させて痛みを軽減します。
効果: これらの方法は、深部の痛みの緩和や炎症の軽減に役立ちます。
3. 顔面マッサージとストレッチ
画像引用元:National Holistic Institute
方法: 顔面の筋肉をマッサージし、ストレッチすることで筋緊張を緩和します。特に、咬筋や側頭筋などの重要な筋肉群に焦点を当てます。
効果: 筋肉の緊張を和らげることで、痛みを減少させ、日常生活の活動を容易にします。
4. リラクゼーション技術と呼吸法
方法: 深呼吸や進行性筋弛緩法などのリラクゼーション技術を用います。これらの技術は、ストレス管理と痛みの認識を改善するために使用されます。
効果: リラクゼーション技術は、ストレスを減少させ、痛みに対する心理的な反応を改善しま。
5. 患者教育と生活指導
方法: 患者に対して、適切な生活習慣(例:冷水の使用を避ける、非影響側での咀嚼など)や自己管理技術(例:痛みのトリガーを避ける方法)を教育します。
効果: 患者教育は、日常生活の中での痛み管理を助け、生活の質を向上させます。
6. 感覚統合療法
方法: 顔面の感覚異常を改善するために、触覚や温度感覚の再教育を行います。異なる質感や温度の物体を使用して、顔面の触覚受容器を刺激します。
効果: 感覚統合療法は、過敏な神経を再教育し、痛みのトリガーに対する耐性を高めます (Medscape) 。
7. 環境の調整
方法: 患者の生活環境を調整し、痛みのトリガーを避けるようにします。これは、冷気の直接当たる場所を避けることや、温度調整可能なマスクやスカーフの使用を含みます。
効果: 環境調整により、痛みのエピソードを減少させ、快適な生活環境を提供します 。
三叉神経痛(Trigeminal Neuralgia, TN)のまとめ
三叉神経痛(Trigeminal Neuralgia, TN)は、顔面の一側で激しい、電撃様の痛みが繰り返し発生する慢性の神経痛症候群です。通常、咀嚼や顔面に触れるといった軽い刺激によって誘発され、短時間(数秒から数分)の痛みの発作が特徴です。発生機序としては、血管が三叉神経を圧迫することによる神経脱髄や、酸化ストレスとTRPA1チャネルの活性化が関与しています。診断には、患者の痛みの特性、部位、持続時間などの臨床的評価が重要であり、補助的に高分解能MRIを用いた神経の圧迫評価が行われます。
治療法としては、カルバマゼピンやオキシカルバゼピンなどの抗てんかん薬が第一選択薬であり、ボツリヌス毒素の注射や微小血管減圧術(MVD)などの外科的治療も有効です。また、理学療法や作業療法も重要な役割を果たしており、顔面リハビリテーションや感覚統合療法、心理的サポートなどが含まれます。最新の研究では、AI技術の活用や個別化治療の重要性が強調されています。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)