【2024年版】補足運動野はどこ?障害からMRI 脳画像・損傷後の症状は?リハビリテーションまで
はじめに
本日は補足運動野について解説したいと思います。この動画は「リハビリテーションのための臨床脳科学シリーズ」となります。
内容は、STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
補足運動野とは?
機能
補足運動野(SMA)は、複雑な運動の計画や両手動作の調整において重要な役割を果たします。具体的には、以下の機能に関与しています:
- 運動計画: 複雑な動作の計画を行い、順序立てた動作の開始を促します。
- 両手動作の調整: 両手を使った協調運動の制御に関与します。
- メンタルリハーサル: 動作を実行する前の精神的なシミュレーションを支援します。
- 動作シーケンスの開始: 連続した動作の開始と制御を助けます。
- 不適切な動作の抑制: 不必要または不適切な動作を抑制する機能を持ちます。
部位
SMAは、以下の2つの領域に分かれます:
- SMA Proper: ブロードマン野6の後部に位置し、直接的に運動の計画と開始に関与します。
- Pre-SMA: 同じブロードマン野6の前方に位置し、運動制御の高次認知的側面、特に動作に関する意思決定に関与します。
血液供給
SMAは前頭葉の内側に位置し、主に前大脳動脈(Anterior Cerebral Artery, ACA)から血液供給を受けます。
経路
入力
SMAは多様な領域からの情報を受け取ります:
- 前頭前野(Prefrontal Cortex): 行動決定に関連する情報を統合します。
- 後頭頂葉(Posterior Parietal Cortex): 運動計画のための感覚情報を提供します。
- 大脳基底核(Basal Ganglia)および小脳(Cerebellum): これらの構造は運動調節に関する情報を処理し、SMAと一次運動野(Primary Motor Area, PMA)に送り、運動の準備と実行を促します。
SMAの出力
補足運動野(SMA)の出力は、運動制御において重要な役割を果たすいくつかの構造に向かいます。以下に、これらの出力経路をより詳細に説明します。
1. 一次運動野(Primary Motor Cortex, M1)
SMAは一次運動野(M1)に投射し、運動の実行を直接制御します。具体的には:
- SMAからM1への投射: SMAは、主に一次運動野の前部に投射します。これにより、運動計画が具体的な運動指令に変換され、運動が実行されます。
- 運動プログラムの調整: M1は、SMAからの入力を受け取り、複雑な運動の実行を制御します。これには、力加減や速度の調整が含まれます。
2. 脳幹(Brainstem)
SMAの出力は脳幹に投射し、運動指令を身体の各部位に伝達します。具体的には:
- 網様体脊髄路(Reticulospinal Tract): SMAからの出力は、脳幹の網様体を介して脊髄に伝達されます。網様体脊髄路は、姿勢制御や粗大運動に重要です。
- 赤核脊髄路(Rubrospinal Tract): SMAの出力は、赤核を介して脊髄に伝達されることもあります。この経路は、四肢の細かな運動制御に関与します。
3. 脊髄(Spinal Cord)
SMAの出力は、最終的に脊髄に到達し、運動指令を各部位の筋肉に伝達します。具体的には:
- 皮質脊髄路(Corticospinal Tract): SMAの出力は皮質脊髄路を通じて脊髄に送られます。これは、運動ニューロンを直接刺激し、細かい運動制御を実現します。
- 前皮質脊髄路(Anterior Corticospinal Tract): この経路は、主に体幹や四肢の粗大運動を制御します。
- 外側皮質脊髄路(Lateral Corticospinal Tract): この経路は、四肢の細かい運動を制御します。
4. 大脳基底核(Basal Ganglia)および小脳(Cerebellum)
SMAは、大脳基底核や小脳とも密接に関連しており、これらの構造を介して間接的に運動制御に影響を与えます。具体的には:
- 大脳基底核への出力: SMAは大脳基底核のストリアタムに投射し、運動の計画や開始を調整します。これにより、運動の流れやタイミングが調整されます。
- 小脳への出力: SMAからの出力は、小脳に送られ、運動の調整やフィードバック制御に関与します。
臨床像
失行(Apraxia)
失行は、患者が課題を理解し、実行する身体的能力があるにもかかわらず、言語による命令に対して協調的な動作を実行することが困難な状態です。補足運動野(SMA)の損傷が原因で発生することがあり、複雑な運動の計画および実行の障害が見られます。
エイリアンハンド症候群(Alien Hand Syndrome)
この稀で異常な症候群は、患者が自分の手が意図せずに勝手に動いていると感じる現象を特徴とします。SMAの2つの領域間の相反する動作が関連しており、意識的運動制御の理解において興味深い症候です。
アキネジア(Akinesia)
アキネジアは、パーキンソン病の主要な症状であり、SMAや一次運動野(PMA)を含む運動回路に影響を与えるドーパミン作動性経路の障害に起因します。患者は動作の開始が非常に困難になり、動作の途中で動けなくなることがあります。
SMA症候群
SMAの損傷は、SMA症候群と呼ばれる病態を引き起こすことがあります。この状態では、特に両側の動作を含む運動の開始が困難になり、発語の喪失、複雑な動作シーケンスの困難が特徴です。
論文トピック
2013年のNargesらの研究では、右補足運動野損傷患者において、右手のタッピングと比較して左手のタッピングが遅いことが報告されています。これは、SMA-大脳基底核断絶の対側への影響を示唆しており、対側の手(この場合は左手)における運動の開始と維持の低下につながります。
視覚的フィードバックが左手のタッピング速度を改善するという観察結果は、視覚的手がかりに依存する代償メカニズムがSMAの損傷による運動制御の影響を緩和する可能性を示しています。
MRIのポイント
中心溝(Central Sulcus)の認識
中心溝は前頭葉と頭頂葉を分ける顕著な溝であり、その前方に一次運動野が位置し、さらにその前方にSMAが存在します。
中心傍小葉(Paracentral Lobule)
中心傍小葉は、SMAのすぐ後方に位置し、中心溝をまたいで前頭葉と頭頂葉の両方を含みます。この領域には一次運動野と一次感覚野の両方が含まれ、SMAの後縁に隣接し、後方では楔前部(Precuneus)に隣接しています。
帯状溝(Cingulate Sulcus)
帯状溝はSMAの下にあり、上前頭溝(Superior Frontal Sulcus)に平行で、その下に位置する明確な溝です。大脳辺縁系の一部であり、SMAの境界を認識する上で重要な目印となります。
観察ポイント: 運動計画に対するSMAの貢献
内発的な動作の開始
SMAは内因性(内的に誘導された)運動の開始に重要な役割を果たします。以下のポイントを観察することで、内発的な動作の開始能力を評価できます:
- 日常動作の観察: 患者が通常意識的に行う必要のない日常的な動作(ベッドからの起き上がり、水を飲む、歩行など)を観察します。これらの動作を過度に躊躇したり、開始するのに苦労している場合、内発的動作に問題がある可能性があります。
不適切な順序
SMAは運動の適切な順序付けにも関与しています。以下のポイントを観察することで、運動シーケンスの構成能力を評価できます:
- 手順の順序: 患者が日常的なタスクを適切な順序で実行できるかを観察します。例として、やかんが熱くなる前にお湯を注ごうとしたり、歯を磨く一連の動作を適切な順序で行えない場合があります。
おすすめ論文
観察ポイント: 両手動作に対するSMAの貢献
ルーチンワークの遂行
SMAは両手を使った動作の調整にも関与しています。以下のポイントを観察することで、両手動作の協調性を評価できます:
- 日常作業の観察: 患者がナイフとフォークを使った食事、薬のボトルを開ける、着替え、本のページをめくるなど、両手を使う日常的な作業をどのように行うかを観察します。これらの作業が難しい場合、両手の協調性に問題がある可能性があります。
予期せぬ事態への対応
- 素早い対応の観察: 落下物をキャッチしたり、バランスを崩したときに体を安定させたりするなど、両手を使って素早く対応する必要がある不測の事態での患者の動作を観察します。対応が遅れたり不自然である場合、両手協調性に問題がある可能性があります。
利き手の変化
- 利き手の使用の変化: 以前は右利きだった患者が現在は左手をよく使うようになっている場合、両手を一緒に使うことが難しくなっている可能性があります。このような変化は、脳卒中後に特に顕著です。
おすすめ論文
これらの観察ポイントと推奨論文を基に、SMAの機能評価をより精密に行うことができます。
臨床アイデア: 運動計画に関するアプローチ
① 課題指向トレーニングの活用
自発的動作が難しい場合でも、課題の難易度や環境を調整することで動作の開始が円滑になり、運動パターンに変化が見られます。以下の方法が有効です:
- 外部からの合図: 言語、視覚、聴覚、触覚の合図を使用して動作の開始を促す。重度の症例では特に効果的です。
② 段階的な指導とモデリング
正しい動作の順序を習得させるためのアプローチとして、以下の方法が有効です:
- タスクセグメンテーション: 複雑な作業をより小さく、管理しやすい部分に分割し、代償的なアプローチを用いて課題を達成する。
関連論文
- Task-oriented training in rehabilitation after stroke: systematic review
- この論文は脳卒中生存者のための課題指向トレーニングの概要を示し、日常の看護実践におけるその重要性について議論します。
- Feasibility of a specific task-oriented training versus its combination with manual therapy on balance and mobility in people post stroke at the chronic stage: study protocol for a pilot randomised controlled trial
- この研究では、タスク指向トレーニングと手技療法の併用が脳卒中生存者の足首関節の柔軟性、バランス、可動性を改善する効果を調査しています。
臨床アイデア: 両手動作に関するアプローチ
① 課題の管理
以下の方法で両手動作の協調性を改善します:
- シンプルな動作から始める: 一つの簡単な動作から始め、次第に他の動作と組み合わせて全体の動作パターンを完成させる。図やフローチャートなどの視覚的なツールがこのプロセスを理解しやすくします。
② 両側活動
両手を使った活動に参加させることで、以下の方法が有効です:
- 両手を使うエクササイズ: 例えば、ボールをキャッチするエクササイズ。特に使いにくい手や腕を積極的に使うように励ますことが重要です。患者が上達すれば、次第に活動をより複雑なものに進めていきます。
関連論文
- 両側性タスク指向運動とミラーセラピーの有効性
- この研究は、4週間の両側性タスク指向運動とミラーセラピーが片麻痺性脳卒中患者における手の機能改善に同等に効果的であることを示しています。
- タスクベースの両側腕トレーニングの効果
- この研究は、影響を受けにくい腕と影響を受けやすい腕の両方を運動活動に参加させることで、四肢間のカップリング効果を通じて回復を促進する両側腕トレーニング(BAT)の有効性について説明しています。
新人セラピストが陥りやすいミス
① 外部キューへの過度な依存
外部からの合図や促しに過度に依存すると、患者の内発的な動作の能力を妨げる可能性があります。例えば、椅子から立ち上がる際に常に物理的な補助をするのではなく、患者が自ら動作を開始する機会を与えることが重要です。
② 両手動作の実施の不十分さ
セラピストは両手を同時に、あるいは同等に効果的にトレーニングするエクササイズが不足していることがあります。患者の利き手や障害の少ない方の手に集中しすぎることがないよう、両手をバランスよく使用するよう指導することが大切です。
解剖学的位置: SMA proper はブロードマン野 6 の後部に位置し、運動の計画と開始に関与します。 この領域の前にあるプレ SMA は、運動制御のより高度な認知的側面と関連しています。
SMAを意識したリハビリテーション展開例
登場人物
- 療法士:金子先生
- 患者:丸山さん
ストーリー
初回セッション:評価と課題設定
ある晴れた午後、金子先生は新しい患者、丸山さんを迎えました。丸山さんは右補足運動野(SMA)の損傷後、左手の動作に困難を感じていました。彼は特に、両手を使う動作や順序立てた動作の開始が難しいと訴えていました。
金子先生: 「こんにちは、丸山さん。今日はあなたの動作の評価を行い、リハビリの計画を立てたいと思います。ご自身で感じている問題点について教えてください。」
丸山さん: 「こんにちは、先生。右手はなんとか動かせるのですが、左手が思うように動かず、日常生活でとても困っています。特に両手を使う作業や、順序を考えて動くのが苦手です。」
金子先生は、まず丸山さんの動作評価を行いました。右手のタッピング速度と左手のタッピング速度を比較し、明らかな差があることを確認しました。また、視覚的フィードバックを用いることで、左手のタッピング速度が改善することも観察しました。
金子先生: 「丸山さん、左手の動作が遅れる原因は補足運動野の損傷によるものです。視覚的フィードバックを使うと少し改善が見られますね。これを利用して、リハビリのプランを立てましょう。」
リハビリの計画と実施
金子先生は、丸山さんのリハビリ計画を次のように立てました:
- 視覚的フィードバックを利用したタッピング練習
- 両手協調運動の練習
- 動作シーケンスの練習
視覚的フィードバックを利用したタッピング練習
丸山さんは、視覚的フィードバックを使ってタッピング練習を行いました。金子先生は、丸山さんが左手でタッピングを行う際に、タブレットに表示される視覚的手がかりを提供しました。
金子先生: 「丸山さん、このタブレットに表示される青い円をタップしてください。視覚的フィードバックがあなたの動きを助けるはずです。」
丸山さんは、最初は戸惑いながらも、次第にタブレットを見ながら左手のタッピング速度が改善していくのを感じました。
両手協調運動の練習
次に、金子先生は丸山さんに両手を使った協調運動を練習させました。これは、左右の手が同時に動く動作を強化するためです。
金子先生: 「丸山さん、これからは両手でボールを交互に投げ合いましょう。初めはゆっくりで構いませんが、次第にスピードを上げてみてください。」
丸山さんは、初めはぎこちない動きでしたが、金子先生のサポートと練習を重ねることで、次第に両手の協調運動がスムーズになっていきました。
動作シーケンスの練習
最後に、金子先生は丸山さんに日常生活での動作シーケンスを練習させました。これは、順序立てた動作の開始と実行を助けるためです。
金子先生: 「丸山さん、今度はコーヒーを入れる動作を一緒に練習しましょう。まずはカップを取り、次にコーヒー豆を計り、最後にお湯を注ぎます。これを何度か繰り返しましょう。」
丸山さんは、最初は手順を忘れがちでしたが、金子先生の指導と反復練習を通じて、動作シーケンスをスムーズに行えるようになりました。
結果と進展
数週間のリハビリを経て、丸山さんは左手の動作の改善を実感しました。視覚的フィードバックを利用することで、左手のタッピング速度が向上し、両手協調運動もスムーズに行えるようになりました。動作シーケンスの練習により、日常生活での自立度も高まりました。
丸山さん: 「金子先生、本当にありがとうございます。左手の動きがだいぶ改善されて、日常生活が楽になりました。これからもリハビリを続けて、さらに良くなりたいです。」
金子先生: 「丸山さん、素晴らしい進歩です。この調子でリハビリを続けていきましょう。いつでもサポートしますので、一緒に頑張りましょう。」
このようにして、丸山さんは補足運動野の損傷からのリハビリを成功させ、日常生活での動作能力を大きく改善することができました。金子先生の専門知識と丸山さんの努力が、リハビリの成功を支えました。
今回のYouTube動画はこちら
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)