【2024年版】淡蒼球の解剖と役割、リハビリ戦略:被殻における運動学習を解説!
はじめに
本日は淡蒼球について解説したいと思います。この動画は「リハビリテーションのための臨床脳科学シリーズ」となります。
内容は、STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
動画一覧は写真をクリック
淡蒼球とは?
観察ポイントと臨床へのヒント
1. 随意運動の調節
**GPi(淡蒼球内節)**は大脳基底核から視床への主要な出力を担い、視床を介して運動皮質と連絡し、随意運動の開始と調節に関与します。一方、GPe(淡蒼球外節)は大脳基底核の間接経路で重要な役割を果たし、GPiに送られる信号を調節・精緻化します。
観察のポイント
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動作開始と動きの制御は?
- 日常生活で、ボタンの掛け外し、スプーンでの食事、髪をとかす動作などがスムーズに行えるかを観察します。
- 靴の紐を結ぶ動作が遅れて開始される、または途中でぎこちなくなる場合、淡蒼球に関連する運動制御の問題が疑われます。
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不随意運動の出現は?
- 手や足の震え、突然の筋肉の痙攣が見られる場合には注意が必要です。
- コップを持つ際に手が震えることが続く場合、淡蒼球の機能障害の兆候である可能性があります。
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姿勢やバランスは保てるか?
- 立位や歩行時にバランスを崩しやすい、姿勢が不安定になることが多い場合、淡蒼球の問題が考えられます。
- 平坦な道でつまずくことが頻繁にある場合などが該当します。
臨床へのヒント
抑制エクササイズを中心に取り入れます。
静的抑制エクササイズ
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片足バランス
- 目的: 体の制御と安定性を強化し、姿勢維持における淡蒼球の機能を促進します。
- 方法: 安全な環境で片足立ちを行い、バランスを保つ練習をします。
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壁にもたれるエクササイズ
- 目的: 下肢筋力と体幹を強化し、全体的な安定性と持久力を向上させます。
- 方法: 壁に背を向けて立ち、ゆっくりと膝を曲げて腰を落とし、速度を抑制しながら座位に近い姿勢まで下がります。
動的抑制エクササイズ
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ストップ&ゴーウォーキング
- 目的: 歩行中の運動の開始と停止の制御を強化し、脳の迅速な切り替え能力を訓練します。
- 方法: 通常の歩行を行い、合図(声や手拍子)があれば直ちに停止し、その姿勢を保持します。
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バランスウォーキング
- 目的: 歩行時のバランスと制御を向上させ、正確な動きの開始と停止を促します。
- 方法: 床に引いた直線(テープやライン)に沿って歩行し、ランダムな間隔で停止します。
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ジェンガゲーム
- 目的: 抑制的なコントロールを必要とする活動で、慎重な動作計画を促進します。
- 方法: ジェンガなどのスキルゲームを通じて、衝動を抑えながら正確な動作を行います。
参考文献
- 2010年 Peter
- 「Goal-directed and habitual control in the basal ganglia: implications for Parkinson’s disease」
- この論文では、大脳基底核が目標指向行動と習慣行動の両方にどのように寄与しているかを包括的に分析しています。特に、パーキンソン病における被殻でのドーパミン喪失が習慣的な行動制御に与える影響を詳述し、目標指向の行動制御への依存度が高まることを示しています。
- 「Goal-directed and habitual control in the basal ganglia: implications for Parkinson’s disease」
新人が陥りやすいミス
- 抑制運動中の不十分なガイダンス
- セラピストが患者に動作を途中で止めるよう指示しても、十分な指導やサポートがない場合、患者はエクササイズに苦戦し、怪我のリスクも高まります。
- 対策: 明確な指示と安全なサポートを提供し、患者の理解度を確認します。
2. 不要な運動の抑制
GPiは視床に抑制性シグナルを送り、不要な動きや望まない動きの抑制に主に関与します。GPeも間接経路を介してGPiの活動を調節し、このプロセスに貢献しています。
観察のポイント
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無駄なく課題を実行しているか?
- 食事や着替えの際に、手の震えや不随意運動など、目的と関係のない動きが見られる場合、動作に無駄が生じていると判断されます。
- 持ち物を落とす、ボタンをうまく留められない、スプーンやフォークの操作が不安定などに注目します。
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安静時の動きは?
- リラックスした状態で、手足のふらつきや顔の筋肉の微細な震えが見られる場合、淡蒼球の抑制制御が正常に機能していない可能性があります。
臨床へのヒント
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集中的なトレーニング
- ブロック積みやビーズ通しなど、正確さと集中力を要する練習を行い、細かな運動制御を強化します。
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タスクの簡略化
- 複雑な作業をシンプルで管理しやすいステップに分割し、余計な動きを最小限に抑えます。
- 例: 着替えが困難な場合、まずボタンを留める、次に靴ひもを結ぶなど、個々の動作を練習します。
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補助器具の使用
- 重みのある食器などの補助器具を使用し、手の安定性を向上させます。
- 歩行補助具や手すりなど、日常生活での安全性を高める器具の導入も検討します。
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休息時間の確保
- 疲労時に増加する不随意運動を抑えるため、定期的な休息を促します。
- 十分な睡眠と休憩は運動制御の改善に寄与します。
参考文献
- 2003年 Jonathan
- 「The Basal Ganglia and involuntary movements: impaired inhibition of competing motor patterns」
- この論文は、不随意運動の神経学的および生理学的側面、および大脳基底核との関係に焦点を当てています。大脳基底核の障害が、舞踏病、ジストニア、チックなどの不随意運動を特徴とする運動障害を引き起こすメカニズムを探求しています。
- 「The Basal Ganglia and involuntary movements: impaired inhibition of competing motor patterns」
新人が陥りやすいミス
- 補助器具の誤用
- 補助器具を早期に導入しすぎたり、適切な指導なしに使用させると、患者が過度に依存したり、誤った使い方をする可能性があります。
- 対策: 補助器具は必要性を十分に評価した上で導入し、使用方法を明確かつ詳細に説明します。
淡蒼球とその臨床関連性について提供される詳細な情報の理解を確認するために、ここに 10 の質問があります。
①解剖学と機能: 淡蒼球の主な部分と運動制御におけるそれぞれの役割は何ですか?
②血液供給: 淡蒼球に主要な血液供給を提供する動脈はどれですか?
③大脳基底核経路: 大脳基底核の直接経路と間接経路、およびそれらの運動機能への影響を区別できますか?
④MRI 画像: MRI スキャンでは、淡蒼球のどのような特徴が通常観察されますか?
⑤痛みの処理: 尾状核や被殻など、大脳基底核のさまざまな領域が痛みの処理にどのように寄与しているのでしょうか?
⑥パーキンソン病における DBS: パーキンソン病の治療における脳深部刺激 (DBS) の役割、特に淡蒼球の内部部分を標的とする役割について説明してください。
⑦運動学習における大脳基底核: 黒質や側坐核などの大脳基底核のさまざまな部分は、運動学習や報酬系にどのように寄与しているのでしょうか?
⑧臨床実践における観察ポイント: 患者の淡蒼球に関連する問題を特定するための重要な観察ポイントまたは臨床ヒントは何ですか?
⑨新人によくある間違い: 大脳基底核障害の患者を治療するときに新人が犯す可能性のあるよくある間違いにはどのようなものがありますか?
⑩研究論文: 大脳基底核とその機能に関するピーターによる 2010 年の論文とジョナサンによる 2003 年の論文の主な発見や示唆を要約していただけますか?
①解剖学的構造と機能: 淡蒼球は内節 (GPi) と外節 (GPe) に分けられます。 GPi は運動制御の直接経路に関与し、運動の開始を助けますが、GPe は間接経路の一部であり、運動抑制を調節します。
②血液供給: 淡蒼球は主に中大脳動脈の水晶体枝から血液を受け取り、一部は前脈絡膜動脈から血液を受け取ります。
③大脳基底核経路: 直接経路は GPi を阻害することで運動を促進し、視床の抑制を軽減します。 間接経路は、視床下核および GPi の GPe 調節を介して運動を阻害し、視床抑制を増大させます。
④MRI 画像化: MRI スキャンでは、淡蒼球は鉄含有量によって区別でき、周囲の構造とは異なる独特の外観を示します。
⑤痛みの処理: 尾状核のような領域は、痛みの強さと回避行動のコード化に関与しており、被殻は体性的方法を使用して痛みを制御し、痛みの知覚に影響を与えます。
⑥パーキンソン病における DBS: GPi をターゲットとした脳深部刺激は、運動緩慢、固縮、振戦などのパーキンソン病の症状の管理に効果的であり、ジスキネジアの軽減や柔軟な投薬管理などの利点をもたらします。
⑦運動学習における大脳基底核:黒質などのさまざまな部分が報酬処理や運動制御に関与している一方、側坐核は報酬に基づく学習や意思決定において重要な役割を果たしています。
⑧臨床実践における観察ポイント: 主な観察には、スムーズな日常生活の実行能力、不随意運動の発生、姿勢とバランスの維持が含まれ、潜在的な淡蒼球機能不全を示します。
⑨新人によくある間違い: 新人は、拘束動作中に不適切な指導を行って患者の苦戦を引き起こしたり、適応装置の使用を誤って導入または指導したりする可能性があります。
⑩研究論文: Peter による 2010 年の論文は、パーキンソン病において重要な目標指向性および習慣的制御における大脳基底核の役割について論じており、ジョナサンによる 2003 年の論文は、不随意運動および関連疾患の病態生理学を制御する際の大脳基底核の役割に焦点を当てています。
淡蒼球を意識したリハビリテーション展開例
登場人物
- 療法士:金子先生
- 患者:丸山さん
ストーリー
1. 初回セッション:評価と課題設定
丸山さんがリハビリ室に到着すると、明るい照明が部屋全体を照らしており、柔らかいマットが敷かれたリハビリスペースが目に入ります。周りでは他の患者もそれぞれの目標に向かってリハビリに励んでおり、医療スタッフが近くでサポートをしています。
金子先生:「こんにちは、丸山さん。今日はどんなことに困っているか教えてもらえますか?」
丸山さん:「歩いている途中で靴ひもがほどけることが多いんですが、結ぼうとすると手が震えたり、うまくいかなくて困っています。」
金子先生:「それは不便ですよね。靴ひもを結ぶときの様子を少し見せていただけますか?」
丸山さんが実際に靴ひもを結ぶ動作を試みると、指先がぎこちなく動きが途切れがちになることや姿勢の不安定性がわかりました。金子先生は「動作が遅れる」「リズムが乱れる」などの問題点を確認し、目標として「靴ひもをスムーズに結べるようになること」を設定しました。
2. リハビリの計画と実施
実施項目
抑制エクササイズ:バランスとリズムの調整
集中的なトレーニング:ビーズ通しで指先の動きを強化
タスクの簡略化:靴ひもを結ぶ動作を分割して習得
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実施項目1:抑制エクササイズ
金子先生:「最初は片足でバランスをとる練習から始めましょう。片足を少し上げて、手すりを使いながら立ってみてください。」
丸山さん:「これで合っていますか?」
金子先生:「はい、その調子です。少しずつサポートを減らして、自分のバランス感覚で立てるようにしましょう。」
金子先生は、片足バランスを練習させ、体幹の安定性と抑制感覚を高めました。次に、Stop & Goウォーキングを取り入れ、歩行中に指示があれば歩みを止めて、その場で安定させる練習をしました。
金子先生:「歩きながら、今度は合図があったら止まってみましょう。大丈夫ですか?」
丸山さん:「はい、歩いているときに急に止まるのは難しいですね。でも、頑張ってみます。」
金子先生:「ええ、無理せずリズムを感じながらやってみましょう。歩き出す時も、指示に合わせてゆっくり始めてみてください。」
Stop & Goウォーキングにより、丸山さんは歩行中に自分のリズムをコントロールする感覚を少しずつ取り戻していきました。
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実施項目2:集中的なトレーニング
指先の細かい制御を鍛えるため、ビーズ通しを使ったトレーニングを行いました。ビーズをつまみ、糸に通すことで、細かい動きを正確に行うための集中力を養います。
金子先生:「ビーズをつまんで糸に通す練習です。靴ひもを結ぶ時の感覚に近いので、繰り返し練習することで指先の力加減をつかみやすくなります。」
丸山さん:「指先を動かすだけでも疲れてきますが、これで靴ひもが結びやすくなるなら、続けてみます。」
金子先生は、丸山さんが疲れないよう、適度に休憩を取りながら練習を進め、不随意運動が抑えられるようにサポートしました。
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実施項目3:タスクの簡略化
靴ひもを結ぶ一連の動作をよりシンプルな手順に分け、丸山さんが着実に取り組めるようにしました。最初のステップとして「ひもをしっかりとつかむ」「片方を輪にする」「もう片方を絡める」といった基本的な動きを分解し、練習を進めました。
金子先生:「まずはひもをつかむ練習です。慣れてきたら次の動作に進みましょう。」
丸山さん:「分けて練習することで、無駄な動きが減ってきた感じがします。」
金子先生は、各ステップを終えるごとに達成感を感じられるようサポートし、丸山さんが目標に向けて自信を持って進めるようにしました。
3. 結果と進展
数週間のリハビリ後、丸山さんは靴ひもを結ぶ際の動きがスムーズになり、Stop & Goウォーキングやビーズ通しの練習によって、指の動きも安定してきました。指のリズムを意識することで、靴ひもを以前より楽に結べるようになり、動作の自信もついてきました。
丸山さん:「先生のおかげで、靴ひもが結べるようになりました!練習を続けていくことで、さらにスムーズになる気がします。」
金子先生:「とてもいい調子ですね。丸山さんの頑張りが成果につながっていますよ。これからもゆっくり進めていきましょう!」
丸山さんは日常の小さな達成感を感じながら、動作に対する自信を取り戻しつつ、リハビリに取り組んでいます。
今回のYouTube動画はこちら
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)