【2025年版】直接路と間接路とは?:大脳基底核の役割と機能〜パーキンソン病まで解説!
はじめに
本日は直接路/間接路について解説したいと思います。
この動画は「リハビリテーションのための臨床脳科学シリーズ」となります。
内容は、STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
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直接路/間接路とは?
【大脳基底核の直接路、間接路、ハイパー直接路について】
ここでは、大脳基底核の機能を理解するために、列車やボクシングの例を用いて解説します。
サガーら(2008年)の論文からの図解
参考文献:
主要な構造と経路の概要
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大脳皮質(皮質):脳の外層で、知覚、思考、言語、意思決定などの高次認知機能を司る。前頭葉(実行機能、意思決定)、後頭葉(視覚処理)、頭頂葉(空間処理、感覚運動統合)、側頭葉(聴覚処理、記憶)などの領域に分かれる。
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線条体:大脳基底核の主要部位で、運動の調整、認知、報酬処理に関与。尾状核、被殻、側坐核から構成され、さまざまな皮質領域からの入力を受け、運動、学習、習慣形成に影響を与える。
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淡蒼球外節(GPe):運動制御の間接路に関与。GPeの抑制は視床下核(STN)の脱抑制をもたらし、運動制御に影響を与える。
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淡蒼球内節(GPi):大脳基底核の主要な出力核で、運動制御の直接路において重要。視床に抑制信号を送り、随意運動の開始と制御に不可欠。
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黒質網様部(SNr):GPiと同様に、大脳基底核の主要な出力構造で、視床に抑制信号を送り、運動制御に関与。
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黒質緻密部(SNc):ドーパミンの生成に重要な領域で、報酬と運動に関与。SNcのドーパミン作動性ニューロンは線条体などに投射し、運動制御と報酬関連行動を調節。
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視床下核(STN):大脳基底核内の間接路の一部で、GPiとSNrに興奮性信号を送り、視床活動の抑制に関与。
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腹側被蓋野(VTA):脳の報酬系の重要な部分で、SNcと同様にドーパミンを生成。側坐核などに投射し、報酬、動機、依存症に関与。
項目 | 直接路 (Direct Pathway) | 間接路 (Indirect Pathway) | ハイパー直接路 (Hyperdirect Pathway) |
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主な神経回路(核の連絡) | 1. 皮質(主に運動関連領域) 2. 線条体〈D1受容体を多く含む中型有棘ニューロン〉 3. 淡蒼球内節(GPi)および黒質網様部(SNr) 4. 視床 5. 再び皮質 |
1. 皮質(主に運動関連領域) 2. 線条体〈D2受容体を多く含む中型有棘ニューロン〉 3. 淡蒼球外節(GPe) 4. 視床下核(STN) 5. 淡蒼球内節(GPi)/黒質網様部(SNr) 6. 視床 7. 再び皮質 |
1. 皮質(前頭前野・運動関連領域など) 2. 視床下核(STN) 3. 淡蒼球内節(GPi)/黒質網様部(SNr) 4. 視床 5. 再び皮質 |
シナプスの流れと神経伝達物質 | – 線条体→GPi/SNr:抑制性 (GABA) – GPi/SNr→視床:抑制性 (GABA) – ただし線条体からの抑制がGPiを“抑える”ため、GPiが視床を抑制しにくくなり、視床の興奮性出力(グルタミン酸)が増す |
– 線条体→GPe:抑制性 (GABA) – GPe→STN:抑制性 (GABA) – STN→GPi/SNr:興奮性 (グルタミン酸) – 結果的にGPi/SNrが視床を強く抑制し、視床の興奮性出力が減少 |
– 皮質→STN:興奮性 (グルタミン酸) – STN→GPi/SNr:興奮性 (グルタミン酸) – GPi/SNr が強く活動→視床を抑制 (GABA) – “短時間で”視床を抑え、全体的な出力を一時的に素早く停止させる |
ドーパミン受容体(線条体の投射ニューロン) | – D1受容体:ドーパミンが作用すると線条体ニューロンの興奮性が高まり、直接路を“促進”して運動量を増やす方向に働く | – D2受容体:ドーパミンが作用すると線条体ニューロンの興奮性が低下し、間接路の“抑制”がやや弱まる(結果的に運動しやすくなる) | – ハイパー直接路にはD1 / D2受容体の区別はあまり関与せず、皮質→STNの即時性の高い入力が特徴 |
最終的な運動への影響 | – 運動促進(Facilitation) GPi/SNrの抑制が高まり、視床の興奮が強まる→皮質運動野への入力が増え、運動を起こしやすくなる |
– 運動抑制(Inhibition) 間接路が活性化するとGPi/SNrの活動が増え、視床を強く抑制→皮質運動野への入力が減り、不要・過剰な運動を抑える |
– 一時的・全体的な運動出力の急ブレーキ 皮質からの強い興奮がSTNを介してGPi/SNrを一気に活性化→視床の出力を瞬間的に大きく抑制→状況に応じた運動の停止や切り替え |
機能的役割・特徴的な働き | – “Go”シグナルとしての役割 – 運動開始や遂行を促進するメインルート – パーキンソン病ではこの回路の機能低下により運動開始が困難に |
– “No-Go”シグナルとしての役割 – 過剰運動を抑え、適切な運動選択を助ける – ハンチントン病では間接路の障害により、不随意運動(舞踏運動)が生じやすくなる |
– “超高速ブレーキ”としての役割 – 皮質から視床下核への直接興奮により、瞬時にGPi/SNrの出力を高め、運動全体を抑止 – 衝動的行動の抑制、急な動作停止などに関与 |
臨床的観点 | – パーキンソン病:ドーパミン不足により直接路が抑制され、間接路が相対的に亢進→筋固縮、無動など – L-DOPAやDBS(視床下核刺激)で一部改善 |
– ハンチントン病:間接路の線条体ニューロンが変性→GPi/SNrへの抑制が弱まる結果、不要な運動を抑えられず舞踏運動が出現 – パーキンソン病では間接路が過度に働くのも症状の一因 |
– パーキンソン病のDBS治療ではSTN刺激を行うことが多い。 一見矛盾するが、高周波刺激がSTNの機能を“抑制”し、GPi/SNrの過剰活動を抑えることで運動を改善する場合がある。 |
大脳基底核の経路を列車やボクシングの例で解説
1. 直接路(緑色の矢印)
列車の例:
- イメージ:目的地に迅速に到達する「急行列車」。
- 機能:大脳基底核から他の運動野に直接信号を送り、目的の動作を促進する「青信号」を出す。
- 例:コーヒーカップに手を伸ばすとき、直接路は腕がスムーズかつ素早く動くのを助ける。
構造と役割:
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尾状核 & 被殻(線条体):乗客(シグナル)が急行列車に乗るべきかを決定。障害されると、動作の開始が困難になり、動作が遅くなる。
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淡蒼球内節(GPi):通常は乗客が列車に乗るのを防ぐゲートキーパー。直接路ではゲートを開け、乗客が迅速に乗車できるようにする。障害されると、不随意運動や制御不能な運動が生じる。
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視床:列車の「加速装置」として、目的地への素早い到着を保証する。障害されると、動きのスピードや協調性の調整が困難になる。
ボクシングの例:
- 動きの決定:運動皮質で特定の動きを決定。
- 線条体への信号伝達:決定が線条体に送信される。
- 線条体処理:線条体はGPiとSNrを抑制。
- 視床の抑制の減少:GPiとSNrからの抑制が減少し、視床が活性化。
- 運動皮質の活性化:視床が運動皮質を活性化し、意図した動きを開始。
2. 間接路(赤色の矢印)
列車の例:
- イメージ:停車駅や信号の多い「ローカル線」。
- 機能:不要な動きを止め、意図した行動のみを行うようにする「黄色信号」を送る。
- 例:コーヒーカップに手を伸ばすとき、他の物を倒さないように調整する。
構造と役割:
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尾状核 & 被殻(線条体):ローカル線に乗るべき乗客を提案。障害されると、環境の変化に応じた動的な調整が難しくなる。
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淡蒼球外節(GPe) & 視床下核(STN):ルートプランナーとして乗客を管理。障害されると、動きの流れが乱れ、突然の停止や走り出しが起こる。
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淡蒼球内節(GPi):ゲートキーパーとして、許可された乗客のみを通す。障害されると、運動の開始と調節が困難になる。
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視床:列車の速度を調整。障害されると、動きのスピードを動的に調節することが難しくなる。
ボクシングの例:
- 動きの調整:不要な動きを抑制。
- 線条体への信号伝達:信号が線条体に送信される。
- 線条体処理とGPeの抑制:線条体がGPeを抑制。
- STNへの抑制の軽減:GPeからの抑制が減少し、STNが活性化。
- STNからGPi/SNrへ:STNがGPiとSNrを興奮。
- 視床抑制の増加:視床への抑制が強化され、不要な動きを抑制。
3. ハイパー直接路(紫色の矢印)
列車の例:
- イメージ:あらゆる運動を迅速に停止させる「非常ブレーキ」。
- 機能:間接路よりも緊急に作用し、即時の停止を可能にする「赤信号」。
- 例:コーヒーカップが倒れそうになったとき、素早く手を引く。
構造と役割:
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大脳皮質:VIP乗客として、中央制御室(STN)に直接緊急信号を送る。障害されると、反応時間が遅くなる。
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視床下核(STN):中央制御室として、列車のルートと速度を迅速に調整。障害されると、動作の迅速な調整が困難になる。
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淡蒼球内節(GPi):ゲートキーパーとして、迅速な行動を可能にするためにゲートを開く。障害されると、筋固縮やすくみ足が生じる。
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視床:加速装置として、新しい指示に迅速に調整。障害されると、歩行パターンに影響が出る。
ボクシングの例:
- 迅速な対応:相手の動きに即座に反応。
- 皮質の開始:運動計画の急速な変更が必要と認識。
- STNへの直接入力:皮質からSTNへ直接興奮性信号が送られる。
- STNの活性化:STNがGPiとSNrを興奮。
- 視床の抑制:GPiとSNrが視床を強く抑制。
- 素早い動きの調整:運動計画が即座に停止または変更。
不随意運動の解説と大脳基底核の関与
1. 舞踏病
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特徴:不随意、不規則、短時間の予測不可能な動き。身体の一部から別の部位に流れるような動き。
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大脳基底核の関与:
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線条体(尾状核・被殻):自発的な運動の開始と制御。ハンチントン病などでの機能障害が抑制出力を妨げ、過剰な不随意運動を引き起こす。
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視床下核(STN):興奮性シグナルと抑制性シグナルのバランスを崩すことで、視床皮質経路の脱抑制を引き起こす。
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淡蒼球内節(GPi):直接・間接経路の不均衡により、シグナル伝達の機能不全が舞踏病を誘発。
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2. ジストニア
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特徴:ねじれ、反復運動、異常な姿勢を引き起こす不随意の筋収縮。
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大脳基底核の関与:
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被殻・淡蒼球:興奮性・抑制性経路のバランス異常が持続的な筋収縮と異常姿勢を引き起こす。
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視床:運動情報と感覚情報の統合を妨げ、ジストニアの発症に寄与。
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3. チック
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特徴:突然で反復的な運動や発声。単純なものから複雑なものまで。
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大脳基底核の関与:
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線条体(尾状核・被殻):運動調節の機能不全や活動亢進がチックの発生につながる。
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皮質:運動皮質と前頭前野の回路異常がチックとして現れる。
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淡蒼球と視床下核:視床を介して運動皮質の活動を調節。調節不全がチックに寄与。
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4. アカシジア
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特徴:落ち着きのなさと、動き続けたい制御不能な欲求。
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大脳基底核の関与:
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大脳基底核:抗精神病薬などがドーパミン受容体をブロックし、アカシジアを引き起こす。
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皮質・皮質下構造:運動情報の処理の機能不全が落ち着きのなさとして現れる。
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5. ジスキネジア
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特徴:顔、手足、体幹に影響する不随意で非反復的な動き。
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大脳基底核の関与:
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大脳基底核:レボドパ治療されたパーキンソン病患者での薬物誘発性ジスキネジアの中心的役割。
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皮質・皮質下運動経路:運動回路の変調の変化がジスキネジアを生じる。
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6. ヘミバリズム
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特徴:四肢の激しい飛び散るような動き。通常は片側性。
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大脳基底核の関与:
- 視床下核(STN):STNの損傷により、抑制機能が低下し、過剰な運動が生じる。
7. 固縮
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特徴:手足の固さと抵抗を伴う運動障害。可動域全体にわたり抵抗が均一。
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大脳基底核の関与:
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大脳基底核:黒質緻密部のドーパミン作動性ニューロンの喪失により、抑制出力が増加し、筋固縮が生じる。
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黒質:ドーパミン作動性ニューロンの喪失がGPi/SNrの過活動を引き起こす。
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8. 振戦
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特徴:不随意でリズミカルな筋収縮による震え。手によく見られる。
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分類:
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安静時振戦:筋肉が弛緩しているときに発生。4~6Hzでパーキンソン病でよく見られる。
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動作時振戦:企図振戦、姿勢時振戦、運動時振戦を含む。4~12Hz。
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大脳基底核の関与:
- 小脳や大脳基底核:これらの構造の異常が振戦の病態生理に関与。
直接路の機能: 大脳基底核における直接路の機能について説明して下さい。特急電車に例えると、どのように移動が楽になるのでしょうか?
間接路の役割: 運動制御における間接路の役割を説明して下さい。 機能と類似性の点で直接路と比較するとどうなりますか?
ハイパー直接路: ハイパー直接路とは何ですか? 応答時間と機能の点で直接路および間接路とどのように異なりますか?
大脳皮質の貢献: 大脳基底核経路での運動の開始における大脳皮質の役割について説明しましょう。
線条体の重要性: 大脳基底核の線条体の機能と、それが運動や認知にどのように影響するかを説明しましょう。
GPi と SNr の機能: 運動制御における淡蒼球内節 (GPi) と黒質網様体 (SNr) の役割について説明しましょう。
運動調節における STN: 運動調節における視床下核 (STN) の役割について説明しましょう。
ドーパミン作動性の影響: 特に SNc と VTA からのドーパミンが大脳基底核経路と運動制御にどのように影響するかを説明しましょう。
運動障害: パーキンソン病、ハンチントン病、ジストニアなど、少なくとも 3 つの異なる運動障害の特徴と大脳基底核の関与を特定し、簡単に説明してください。
評価方法: 大脳基底核機能不全に関連する運動障害を評価するための一般的な診断方法にはどのようなものがありますか? これらは前述の条件とどのように関係するのでしょうか?
直接路機能: 大脳基底核の直接路は、運動の開始と実行を促進します。 特急列車のように動作し、物体に手を伸ばすなど、目的の動作をスムーズかつ迅速に開始できます。
間接路の役割: 間接路は、多くの停車駅がある景色のよいローカル列車に似た、不必要な動きを遅くしたり抑制したりする制御メカニズムとして機能します。 これにより、意図したアクションのみが実行されることが保証されます。
ハイパー直接路: ハイパー直接路は、緊急ブレーキのように、行動を緊急に抑制します。 間接路よりも動作が速く、突然の変化に反応してすべての動きを即座に停止します。
皮質の寄与: 大脳皮質は、大脳基底核経路の運動信号を開始します。 ボクシングのジャブやストレートのように、行われる動作を決定し、これらの指示を線条体に送ります。
線条体の重要性: 線条体はさまざまな皮質領域からの入力を処理し、運動、学習、習慣形成に影響を与えます。 これはチケットブースとして機能し、どの信号が直接路または間接路に沿って進むかを決定します。
GPi および SNr の機能: GPi および SNr は、大脳基底核の主要な出力核です。 それらは直接路で重要な役割を果たし、視床に抑制信号を送り、随意運動を開始および制御します。
運動調節における STN: 視床下核 (STN) は間接路の一部であり、GPi と SNr に興奮性シグナルを送ります。 視床の活動を阻害し、運動に影響を与える上で重要な役割を果たします。
ドーパミン作動性の影響: ドーパミン、特に SNc および VTA からのドーパミンは、大脳基底核経路の活性を調節します。 それは報酬処理と運動制御において重要な役割を果たし、直接路と間接路の両方に影響を与えます。
運動障害: 例には、パーキンソン病 (SNc のドーパミン作動性ニューロンの喪失による振戦、固縮、および動作緩慢を特徴とする)、ハンチントン病 (線条体の機能不全による舞踏病および運動異常を伴う)、およびジストニア (不随意な筋肉の収縮を特徴とする) が含まれます。 多くの場合、大脳基底核の不均衡に関連しています)。
評価方法: 運動障害の一般的な診断方法には、臨床評価、神経画像検査、薬物療法に対する反応の観察などが含まれます。 これらの方法は、症状や大脳基底核の機能を評価することにより、パーキンソン病、ハンチントン病、ジストニアなどの疾患の診断に役立ちます。
直接路/間接路を意識したリハビリテーション展開例
登場人物
- 療法士:金子先生
- 患者:丸山さん
ストーリー
セラピストである金子先生と、パーキンソン病(あるいは類似の大脳基底核機能不全)による動作の開始困難や固縮、軽度の振戦がみられる患者である丸山さんとの4回にわたるリハビリテーションセッションのストーリー例です。
会話を交え、直接路・間接路・ハイパー直接路のメタファー(特急列車、ローカル列車、非常ブレーキ)や不随意運動、不整合な運動パターン、評価・目標設定、ドーパミンの役割などを具体的なリハビリ内容とともに示します。
1. 初回セッション:評価と課題設定
目的: 丸山さんの動作の問題点を評価し、リハビリ目標を設定する。
主な症状:
- 動作開始の遅れ
- 歩行中の固縮と不安定性
- 手を伸ばす際の軽度の振戦
評価内容:
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動作開始
- 椅子から立ち上がる際、動き始めに2~3秒の遅れ。
- 歩行開始もスムーズでなく、1歩目に固縮がみられる。
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手の動き
- コップを持ち上げる動作で振戦が確認される(右手が特に顕著)。
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バランス
- 突発的な刺激(軽い押し)に対する反応が遅い。
金子先生:「丸山さん、動作開始が少し遅れる場面がありましたね。たとえるなら、特急列車が青信号を待っている状態に似ています。列車がスムーズに動き出せるように、リハビリを計画しましょう。」
丸山さん:「青信号が出ない…確かにそんな感じです。自分でも、動きたいのに体がついてこないことが多いです。」
金子先生:「手を伸ばすときの震えや、歩行中の固縮も気になりますね。これも‘ローカル列車’の調整が難しくなっているためと考えられます。これから必要なポイントを具体的に練習していきましょう。」
2. 総合評価とリハビリ目標の設定
評価のまとめ:
- 動作開始の遅れ:直接路の青信号が出にくい状態。
- 不必要な力み:間接路の調整機能の乱れ。
- 突発的な反応の遅れ:ハイパー直接路の反応性低下。
中間目標:
- 声かけなしでスムーズに歩き出す。
- 振戦を軽減し、コップを安定して持ち上げる。
最終目標:
- 日常生活動作(食事、着替え、室内歩行)の安定化。
金子先生:「目標を設定しました。最初のステップとして、スムーズに動作を始める練習に重点を置きます。特急列車の青信号がしっかり出せるようにするイメージですね。」
丸山さん:「具体的にはどんな練習をしますか?」
金子先生:「例えば、メトロノームを使ったリズム運動や、リズムに合わせた立ち上がりと踏み出しの反復練習です。こうした練習で直接路を活性化し、動きの開始をスムーズにします。」
丸山さん:「リズム運動ですか、少し楽しそうですね。」
3. リハビリの計画と実施
リハビリ計画
1. 特急列車(直接路)の改善:
- リズム運動: メトロノームに合わせて椅子から立ち上がり → 踏み出す動作の反復練習。
- 足踏みペダル: ペダル漕ぎで動作開始のリズム感を高める。
2. ローカル列車(間接路)の調整:
- 重心移動練習: 立位で左右に体重移動 → リズムを変えながら停止と再開を繰り返す。
- 筋緊張の緩和: 軽いストレッチと、固縮を減らす反復動作。
3. 非常ブレーキ(ハイパー直接路)の活性化:
- バランス反応練習: 軽く肩を押す、不規則な指示で立位バランスを保持。
- 即時反応訓練: 床にテープを貼り、指示に従って迅速に前後左右のステップを踏む。
金子先生:「今日はまず特急列車(直接路)の練習から始めます。メトロノームの音に合わせて、椅子から立ち上がってみましょう。リズムに意識を集中すると、動作開始がスムーズになります。」
丸山さん:「音に合わせるだけで変わりますか?」
金子先生:「最初は少し難しいかもしれませんが、繰り返すことで動作のタイミングが整ってきます。試してみましょう。」
実施例
1日目: リズム練習
- 内容: メトロノームを使い、立ち上がり → 踏み出しを15回反復。
- 目標: 動作開始のスムーズさを向上させる。
- 結果: 最初は遅れが目立つが、繰り返しでリズム感が向上。
3日目: 重心移動と停止練習
- 内容: 左右の体重移動とその場で停止を20回反復。
- 目標: 不必要な動きを減らし、間接路の調整を改善。
- 結果: 動きのブレが少し減り、停止動作がスムーズに。
5日目: 突発的な反応練習
- 内容: 軽く肩を押す、不規則なタイミングでの片足ステップ。
- 目標: バランスを素早く取り、転倒リスクを軽減。
- 結果: 開始時より反応速度が改善。
4. 結果と進展
評価結果
- 動作開始のスムーズさ: 改善。立ち上がりや歩行開始の時間が短縮。
- 手の動き: 振戦が軽減し、コップを安定して持ち上げられる。
- バランス: 転倒リスクが低下。突発的な刺激にも対応可能に。
金子先生:「リハビリを始めて1ヵ月ですが、歩き出しや手の動きがかなり改善しましたね。」
丸山さん:「そうですね。特に動作を始めるときのもたつきが減りました。」
金子先生:「これからもリズム運動や重心移動の練習を続けていけば、もっと楽になると思います。『特急列車』や『ローカル列車』のイメージを持ちながら、楽しんで取り組んでください!」
丸山さん:「先生、ありがとうございました。頑張って続けてみます!」
今回のYouTube動画はこちら
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)