【2025年版】扁桃体の役割とは?:情動、記憶への影響と鎮めるための最新リハビリガイド
はじめに
本日は扁桃体について解説したいと思います。この動画は「リハビリテーションのための臨床脳科学シリーズ」となります。
内容は、STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
動画一覧は写真をクリック
扁桃体とは?
扁桃体の位置と構造
解剖学的位置
- 位置: 扁桃体は脳の内側側頭葉内に存在し、大脳辺縁系の一部です。海馬の前方に位置し、感情や記憶処理に深く関与しています。
- 近接構造: 尾状核の尾部や側脳室の下角に近接し、解剖学的なランドマークとして海馬や嗅内皮質が利用されます。
皮質下構造
- 特徴: 扁桃体は皮質下構造であり、脳の深部に埋め込まれています。表面からは見えず、冠状断や高解像度のMRI画像を使用して視覚化する必要があります。
- 位置関係: 扁桃体は海馬の吻側に位置し、脳の内側の深層にあるため、画像診断時には慎重な観察が必要です。
血液供給
- 主な供給源:
- 中大脳動脈(MCA): 側頭極動脈が扁桃体の主要な血液供給源です。特にMCAの蝶形骨部分から分岐します。
- 前脈絡叢動脈: 内頚動脈から分岐し、扁桃体やその周囲の構造物にも血液を供給します。
- 臨床的意義: 扁桃体への血液供給障害は、感情処理や記憶形成に影響を与える可能性があり、特に中大脳動脈や脈絡膜動脈の障害が関与することがあります。
神経ネットワーク
求心性接続
-
感覚入力:
- 視床: 内側膝状体(聴覚)や外側膝状体(視覚)から感覚情報を受け取り、感情的な意味付けを行います。
- 皮質: 側頭皮質や後頭皮質から処理された情報を統合し、複雑な感覚データを分析します。
- 視床: 内側膝状体(聴覚)や外側膝状体(視覚)から感覚情報を受け取り、感情的な意味付けを行います。
-
皮質入力:
- 前頭前皮質: 眼窩前頭皮質を含む領域から接続し、意思決定や感情制御を仲介します。これにより、扁桃体は感情と行動の調整役として機能します。
- 帯状皮質: 前帯状皮質との接続は、注意と感情の処理における重要な要素です。
-
海馬形成との連携:
- 扁桃体は海馬と広範囲に相互作用し、感情的記憶の暗号化、検索、統合に寄与します。特に、ストレス下での記憶形成において重要です。
-
嗅覚系:
- 嗅球および嗅内皮質からの直接的な入力を受け取り、社会的・感情的な状況に関連する嗅覚情報を処理します。
遠心性接続
-
視床下部および脳幹:
- 扁桃体は視床下部に投影し、感情的刺激に基づいて自律神経および内分泌反応を制御します。これにより、ストレス応答が調節されます。
- 脳幹核への接続により、身体的反応(例: 心拍数や呼吸の変化)を引き起こします。
-
線条体:
- 側坐核を含む線条体との接続は、報酬処理や動機付け行動に寄与します。特に依存症や意欲減退に関連する領域として注目されています。
-
皮質:
- 扁桃体は眼窩前頭皮質や前帯状皮質に投射し、高次認知プロセスを調節します。これにより、感情の状態が意思決定に影響を与えます。
機能ネットワークと役割
大脳辺縁系
- 扁桃体は感情学習、恐怖条件付け、記憶プロセスの調整に重要な役割を果たします。特に、恐怖やストレスに関連した記憶の固定化が行われます。
サリエンスネットワーク (SN)
- 役割:
- 感情的および顕著な刺激を検出し、重要な情報にリソースを集中させます。
- デフォルトモードネットワーク (DMN) とセントラルエグゼクティブネットワーク (CEN) の間でバランスをとります。
- 構成要素:
- 前島皮質(AI)、背側前帯状皮質(dACC)、および扁桃体。
- 前島皮質(AI)、背側前帯状皮質(dACC)、および扁桃体。
デフォルトモードネットワーク (DMN)
- 役割:
- 自己関連思考、内省的プロセス、自伝的記憶の形成。
- 休息時や未来計画中に活性化。
- 主な構成:
- 内側前頭前野、後帯状皮質、角回。
- 内側前頭前野、後帯状皮質、角回。
セントラルエグゼクティブネットワーク (CEN)
- 役割:
- 認知タスクや問題解決に関与。外部目標指向課題をサポート。
- 主な構成:
- 側頭前頭皮質、後頭頂皮質。
病態像
- 扁桃体は、不安障害、うつ病、PTSD、統合失調症などの精神神経疾患に深く関与しています。
- 扁桃体の過剰活性化は、恐怖反応や過剰なストレス応答を引き起こす可能性があり、特にPTSDではトリガーに対する過敏性として観察されます。
- 一方で、扁桃体の低下した活動は、情動鈍麻や感情的な刺激に対する無関心を引き起こすことがあります。
画像読解のポイント
1. 側頭葉内側の位置
- 扁桃体は内側側頭葉の深部に位置しており、側頭葉の内側表面から直接視覚化することはできません。
- MRI観察のポイント: 側頭葉全体を把握した上で、その内側の深部構造に焦点を当てます。扁桃体は、他の辺縁系構造(海馬や海馬傍回)と共に観察されます。
2. 海馬の前方
- 扁桃体の位置特定には、海馬が重要なランドマークとなります。海馬の吻側(前端)を確認し、扁桃体がそのすぐ前方に位置することを把握します。
- 解剖学的意義:
- 扁桃体と海馬は密接な機能的関係を持ち、感情的記憶や学習に関与します。
- MRI冠状断像で、両者の境界が明確に描出されているか確認してください。
3. 側脳室の下角
- 扁桃体は側脳室の下角(下側角)の近くに位置し、側脳室が位置確認の重要な目印となります。
- 観察の工夫:
- 側脳室を軸に冠状断像を進めながら、その内側の構造を確認する。
- 扁桃体は、側脳室下角の屋根のような位置にあるため、これを基準に他の周辺構造(尾状核や線条体)との位置関係を把握します。
4. 嗅内皮質との関係
- 扁桃体は嗅内皮質の外側に位置します。この関係性は、嗅覚処理や感情的刺激への反応に関する機能を考慮する際に重要です。
- 解剖学的意義:
- 扁桃体は、嗅覚情報を感情や記憶に関連付ける重要な役割を果たします。
- 冠状断像では、嗅内皮質と扁桃体の明確な位置関係を描出するため、高解像度MRIを活用してください。
5. イメージング技術
- 推奨技術:
- T1強調像: 扁桃体の形状とサイズを確認するのに適しています。
- T2強調像やFLAIR: 病理学的変化(浮腫、炎症、腫瘍など)を観察する際に有用です。
- 拡散強調画像(DWI): 急性期病変(虚血や炎症)を検出するのに適しています。
- 機能的MRI(fMRI): 扁桃体の機能的接続や活性化を評価できます。
- DTI(拡散テンソル画像): 扁桃体を含む白質路の評価(例: 扁桃体-前頭皮質接続)に有用です。
6. 形状とサイズ
- 扁桃体は「アーモンド型」の小さな構造物であり、通常は1.5cm以下のサイズです。
- 臨床的観察ポイント:
- 扁桃体の左右非対称性や異常な萎縮・肥大がないかを確認。
- 病態像: 扁桃体の肥大はPTSDや慢性ストレスに関連することがあり、一方で萎縮はアルツハイマー病やうつ病で観察されることがあります。
7. 冠状断面の使用
- 冠状断像は、扁桃体と海馬の位置関係や近隣構造(側脳室、嗅内皮質、尾状核)との関連性を明瞭に描出できます。
- 実践的ポイント:
- 扁桃体の周囲構造(特に側脳室の下角および海馬)をランドマークとして使用する。
- 病理学的変化が疑われる場合、T1およびT2画像を冠状断で確認し、隣接構造との比較を行います。
トピック:サリエンス (Salience) ネットワークとは?
サリエンスネットワークの概要
構成要素
- サリエンスネットワーク (SN) の主要構成要素は、前島皮質 (Anterior Insula, AI) と 背側前帯状皮質 (Dorsal Anterior Cingulate Cortex, dACC) です。
- これらの領域は、扁桃体や視床とも密接に相互作用し、感情的、感覚的、認知的に顕著な刺激を検出して統合する役割を担います。
主な機能
-
刺激の顕著性 (Salience) の検出
- 外的(視覚、聴覚など)および内的(痛み、恒常性維持の需要など)刺激の中から、最も重要なものを迅速に選別します。
- この機能により、注意リソースを適切に配分し、行動を迅速に導くことが可能となります。
-
ネットワーク間の調整
- SN は、内部思考に関与するデフォルトモードネットワーク (DMN) と、タスク指向行動に関与するセントラルエグゼクティブネットワーク (CEN) をダイナミックに切り替える役割を担います。
- 必要に応じて休息状態(DMN)から行動状態(CEN)へスムーズに移行させることで、外的刺激への適応を促します。
SNにおける扁桃体の役割
感情的顕著性の検出
- 扁桃体は、ポジティブおよびネガティブな感情的刺激の両方に敏感です。
- 特に脅威の検出や生存に必要な刺激の迅速な評価において中心的役割を果たします。
- この迅速な感情評価に基づき、適切な自律神経や内分泌系の反応(例: ストレスホルモンの分泌)を引き起こします。
コアSN 領域との相互作用
- 扁桃体は、前島皮質 (AI) および背側前帯状皮質 (dACC) と密接に通信します。
- AI: 扁桃体からの感情情報を統合し、感覚的・認知的刺激と結びつけるハブとして機能します。
- dACC: 受け取った情報を基に、より高次の認知処理や注意の方向付けを実行します。
他のネットワークとの関係
- 扁桃体はSNを介して、以下のように他の脳ネットワークの活動を調整します:
- デフォルトモードネットワーク (DMN): 感情的刺激に応じて内省的思考や記憶の検索を促進。
- セントラルエグゼクティブネットワーク (CEN): 緊急時やタスク遂行時には、CENを活性化して注意を外部刺激に向ける。
デフォルトモードネットワーク (DMN)
- 構成要素: 内側前頭前野、後帯状皮質、角回、楔前部。
- 役割:
- 自己関連的思考(自己評価、過去の記憶、未来計画)。
- 心の彷徨や休息状態での活動。
- うつ病やアルツハイマー病、自閉症スペクトラム障害に関連するネットワーク。
セントラルエグゼクティブネットワーク (CEN)
- 構成要素: 側頭前頭皮質、後頭頂皮質。
- 役割:
- 認知タスクの遂行、意思決定、作業記憶。
- 外部目標指向課題や問題解決に従事。
- ADHD、統合失調症、認知障害に関連。
SN、DMN、CEN の観察ポイント
刺激に対する反応 (SN の評価)
- 観察: 聴覚的呼びかけ、視覚信号、物理的接触など、顕著な刺激に対する患者の反応。
- 例: アラーム音や看護師の呼びかけに気づき、適切に反応するか。
自己言及的思考 (DMN の評価)
- 観察: 患者が個人的な経験、思い出、将来計画について話す能力。
- 例: 家族とのエピソードを語れるか、過去の出来事を適切に思い出せるか。
タスク集中 (CEN の評価)
- 観察: 食事やリハビリテーション活動など、特定の課題に集中できるか。
- 例: 会話中に話題を維持できるか、課題を途中で投げ出さず完了できるか。
感情的・社会的相互作用 (SN と DMN の統合)
- 観察: 感情的反応や社会的交流への関与度。
- 例: 家族の訪問時の反応、スタッフとの会話中に表情や態度が適切か。
関連論文
1. The Salience Network: A Neural System for Perceiving and Responding to Homeostatic Demands
要点
- 焦点: 本論文は、恒常性に関連する内部(例: 体温調節)または外部(例: 脅威への対応)の要求に応答する際の、サリエンスネットワーク(SN)の役割に注目しています。
- 構成要素:
- 前島皮質(AI)、背側前帯状皮質(dACC)、扁桃体などの中核的な脳領域の連携。
- 扁桃体は特に感情的刺激に重みを付け、SN全体の反応を統合する重要な役割を果たします。
- 臨床的意義:
- **前頭側頭型認知症(bvFTD)**などの神経変性疾患では、SNの機能低下が観察され、特に感情認知や社会的相互作用の障害が顕著です。
- 扁桃体の機能障害は、感情処理や顕著性判断の不全に寄与し、不安障害やPTSDにも影響を与える可能性があります。
2. Central Amygdala Circuits in Valence and Salience Processing
要点
- 焦点: この論文では、扁桃体の中心核(CeA)のさまざまなニューロンタイプとその機能に焦点を当てています。
- 内容詳細:
- CeA内の特定のニューロンは、食欲刺激(例: 快楽的な食事)、嫌悪刺激(例: 不快な臭気)、および条件刺激(例: 恐怖条件付け)への反応を司ります。
- CeAは、感情価(valence, ポジティブまたはネガティブな感情的価値)と刺激の顕著性(salience, 注意を引きつける重要度)の評価を担っています。
- 臨床的意義:
- 恐怖条件付けの異常はPTSDの重要な病態メカニズムであり、CeAの過剰活性化がこれに寄与する可能性があります。
- CeAニューロンの機能的異常が、慢性ストレスや依存症の発症に関連していると考えられます。
観察ポイント
☑ 情動調節の変化
- 観察項目: 情緒的安定性や感情的反応の変化。通常穏やかな患者が、不安や情緒不安定、攻撃性、無気力を示す場合は、扁桃体の機能障害を疑う必要があります。
- 臨床例:
- 小さな刺激に過敏反応を示す。
- 恐怖を過剰に感じたり、他者の表情や感情を適切に認識できなくなる。
☑ 記憶力の問題
- 観察項目: 感情的記憶の保持や新しい出来事の記憶に困難が生じているかを評価します。
- 臨床例:
- 最近の出来事や感情的に意味のある体験を思い出せない。
- 長期記憶の急激な変化(例: 過去のトラウマが強調されるなど)。
☑ 痛覚の変化
- 観察項目: 痛覚の過敏または鈍感化。扁桃体は痛みの認識にも関与しているため、痛みの感覚に異常が生じる場合があります。
- 臨床例:
- 「痛みがいつもと違う」と患者が訴える。
- 痛みに対する情動的な反応が過剰または不適切になる。
☑ 社会的行動の変化
- 観察項目: 社会的手がかり(表情、声のトーン、身体言語)の理解力や対人関係の変化を観察します。
- 臨床例:
- 社会的手がかりを見逃す。
- 信頼感や不信感が極端に高くなる(過度の疑念や依存)。
臨床へのヒント
① 食事に意識を向ける
- 実践法: 食事中、味、食感、匂いといった感覚に集中することで、注意力を養い、感情の安定を図ります。
- 声かけ例:
- 「今食べている食べ物にはどんな風味がありますか?」
- 「この食事から何か特別な思い出を感じますか?」
② 自然の中を歩く
- 実践法: 外を散歩し、自然環境の音や風景に意識を向けることで、ストレスを軽減します。
- 声かけ例:
- 「今日は散歩中に何か新しい発見がありましたか?」
- 「風の音や鳥の声にどんな感覚を覚えますか?」
③ 深呼吸をする
- 実践法: 規則的な深呼吸に集中し、今この瞬間への意識を高めます。ストレスや不安の軽減に役立ちます。
- 声かけ例:
- 「深呼吸をしている間、どんな感覚が浮かびましたか?」
- 「呼吸に合わせて体のどの部分が動いているのを感じますか?」
④ 定期的なカウンセリングセッション
- 実践法: 患者が否定的な思考パターンに気づき、それに挑戦できるよう支援します。健康的な対処法を学ぶことで感情のコントロールを促します。
- 声かけ例:
- 「最近何か新しい視点を発見しましたか?」
- 「その体験をどう感じましたか?」
関連する研究と文献
扁桃体とマインドフルネストレーニング
- 研究論文: Keeping weight off: Mindfulness-Based Stress Reduction alters amygdala functional connectivity during weight loss maintenance in a randomized control trial (2021)
- 要約: マインドフルネス介入が扁桃体の機能的接続性を変化させ、感情の自己調整能力を高める可能性を示しています。特にストレス応答の軽減や感情制御の向上に効果があります。
- 臨床的意義: マインドフルネストレーニングは、感情的要因が関与する症例(例: PTSD、慢性ストレス障害)で有用とされます。
新人が陥りやすいミス
傾聴の力を過小評価する
- 問題点: 治療介入や技術に集中しすぎるあまり、患者自身の話を聞く時間を十分に取らないことがあります。
- 対策:
- 会話を通じて患者が自由に感情や体験を表現できる場を設ける。
- アドバイスや分析を急がず、まず共感的に聞く姿勢を取る。
①扁桃体の位置と解剖学: 脳内の扁桃体の解剖学的位置と、海馬や側脳室などの他の構造との関係について説明できますか?
②扁桃体への血液供給: 主に扁桃体に血液を供給する動脈はどれですか?
③扁桃体の求心性接続: 扁桃体への主な感覚入力および皮質入力は何ですか? これらの入力はその機能にどのような影響を与えるのでしょうか?
④扁桃体からの遠心性接続: 扁桃体はどの領域やシステムに遠心性接続を投影しており、これらの接続の意味は何でしょうか?
⑤大脳辺縁系の扁桃体: 扁桃体は、特に感情の学習と記憶のプロセスの観点から、大脳辺縁系の機能にどのように寄与しているのでしょうか?
⑥サリエンスネットワークにおける扁桃体の役割: サリエンスネットワークにおける扁桃体の具体的な役割、特に感情的な顕著性の検出と他の中核領域との相互作用における役割は何ですか?
⑦機能ネットワークと扁桃体の相互作用: 扁桃体はデフォルトモードネットワークおよびセントラルエグゼクティブネットワークとどのように相互作用するのでしょうか?
⑧扁桃体の機能不全に関連する臨床観察: 扁桃体または関連する神経ネットワークの機能不全を示す可能性のある兆候や症状にはどのようなものがありますか?
⑨実践的な臨床のヒント: 臨床現場で扁桃体とその関連ネットワークの機能を関与させ、潜在的に改善するのに役立つ実践的なヒントや活動は何ですか?
⑩新人が犯すよくある間違い: 扁桃体機能不全に関連する障害を持つ患者を扱う際に、新人が陥りやすい間違いや見落としにはどのようなものがありますか?
①扁桃体の位置と解剖学: 扁桃体は、側頭葉の内側、海馬の前、尾状核の尾側部分と側脳室の近くに位置します。
②扁桃体への血液供給: 扁桃体への主な血液供給は、中大脳動脈の枝、特に側頭極動脈と前脈絡膜動脈から来ます。
③扁桃体の求心性結合:扁桃体は視床核(内側膝状体や外側膝状体など)から感覚入力を受け取り、側頭皮質および後頭皮質から処理された感覚情報を受け取ります。 また、前頭前野と帯状皮質からの入力も受け取ります。
④扁桃体からの遠心性結合:扁桃体は視床下部および脳幹に投影して自律神経および内分泌反応に影響を与え、線条体および皮質(前頭前皮質を含む)に投影して報酬処理および高次の認知プロセスに影響を与えます。
⑤大脳辺縁系の扁桃体: 大脳辺縁系では、扁桃体が感情学習、恐怖条件付け、記憶プロセスを制御する鍵となります。
⑥サリエンスネットワークにおける扁桃体の役割: 顕著性ネットワークにおける扁桃体は、感情的な顕著性を検出するために重要であり、感情の処理と注意の定位のために前島皮質および背側前帯状皮質と連携して機能します。
⑦機能ネットワークと扁桃体の相互作用: 扁桃体は、デフォルトモードネットワーク (DMN) およびセントラルエグゼクティブネットワーク (CEN) と相互作用し、内部の精神状態と外部の目標指向の行動に影響を与えます。
⑧扁桃体の機能不全に関連する臨床観察:扁桃体の機能不全は、感情調節の問題、記憶の問題、痛みの知覚の変化、社会的行動の変化として現れる可能性があります。
⑨扁桃体とその関連ネットワークに関与するための実践的な臨床上のヒント: 臨床上のヒントには、扁桃体とそのネットワークの機能を関与させ、潜在的に改善するために、マインドフルな食事、自然の中の散歩、深呼吸の練習、定期的なカウンセリング セッションに焦点を当てることが含まれます。
⑩臨床現場の新人が犯しやすい間違い: 新人は、すぐに分析やアドバイスをせずに患者の声に耳を傾けることの重要性を過小評価し、介入や技術に重点を置きすぎることがよくあります
扁桃体を意識したリハビリテーション展開例
登場人物
- 療法士:金子先生
- 患者:丸山さん
ストーリー
1. 初回セッション: 評価と課題設定
リハビリ室での初回セッション。金子先生が丸山さんに優しく話しかけながら、評価を進める。
金子先生: 「丸山さん、今日は少しお話をしてから、いくつかの活動を一緒にやってみましょう。最近、感情や気持ちがうまくコントロールできないと感じることはありますか?」
丸山さん: 「そうですね。時々突然イライラしてしまったり、何でも不安に感じたりします。自分でも驚くくらいです。」
金子先生: 「なるほど。扁桃体が関与する感情調整に少し難しさが出ているのかもしれませんね。まず、少しずつどんな刺激に反応しているか観察していきましょう。」
評価内容:
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感情の変化: 丸山さんが最近感じたイライラや不安の具体的な状況を質問。
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社会的相互作用: 会話の流れを維持する能力や、他者の表情から感情を読み取る力を評価。
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記憶: 最近の出来事や感情的なエピソードを思い出せるか確認。
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反応: 聴覚や視覚刺激(ベルの音やカード)に対する丸山さんの反応を記録。
金子先生: 「では、カードを使って少し刺激に対する反応を見てみましょう。こちらの色や形の違うカードを見て、気になったものを教えてください。」
2. 総合評価とリハビリ目標の設定
評価結果:
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丸山さんは急な音に驚きやすいが、反応後の情動コントロールに時間がかかる。
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他者との会話中、相手の表情を読み取ることに課題があり、話題の流れについていくのが難しい。
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感情的な記憶に偏りがあり、否定的な出来事を強く記憶している。
目標:
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感情調整: 不安や怒りを認識し、自分で落ち着かせる方法を学ぶ。
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社会的相互作用: 会話中の相手の表情や意図を理解する練習。
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感覚的な敏感さ: 音や視覚刺激に適応する練習。
金子先生: 「丸山さん、これからは、日常生活で不安を感じたときに少しずつ対処できる方法を一緒に学んでいきましょう。それと、会話をもっと楽しめるように練習していきたいと思います。」
丸山さん: 「そうですね、それができると助かります。」
3. リハビリの計画と実施
計画:
-
マインドフルネス訓練: 深呼吸と感覚に意識を向ける。
-
会話シミュレーション: 表情カードを使って感情を推測する練習。
-
音への適応: さまざまな音に段階的に慣れるセッション。
実施:
-
深呼吸練習:
金子先生: 「まずはゆっくり深呼吸をしましょう。息を吸うときにお腹が膨らむのを感じて、吐くときは体がリラックスしていくのを意識してみてください。」
丸山さんは最初はぎこちないが、徐々に呼吸に集中。 -
感情認識トレーニング:
金子先生はカードを見せながら質問。
金子先生: 「この表情の人、どんな気持ちだと思いますか?」
丸山さん: 「少し驚いているように見えます。」
金子先生: 「いいですね!では、こんなときにどう声をかけるか考えてみましょう。」 -
音刺激への適応:
金子先生は穏やかな音(小さな鈴の音)から始め、少しずつ音量を上げて適応を観察。
4. 結果と進展
進展:
-
丸山さんは、不安を感じたときに深呼吸をする習慣がつき、感情のコントロールが徐々に向上。
-
表情カードを使った練習で、家族との会話中に相手の気持ちを察する場面が増えた。
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音刺激に対する反応が穏やかになり、日常生活で驚きにくくなった。
丸山さん: 「最近、家族と話していても少し余裕が持てるようになりました。前はすぐにイライラしてしまったんですが、今は少し落ち着けています。」
金子先生: 「素晴らしいですね!その調子で続けていきましょう。次回は、さらに具体的な社会的場面を想定して練習していきます。」
今回のYouTube動画はこちら
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)