vol.72:脳卒中片麻痺 ボバーススリングが姿勢制御に及ぼす影響 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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タイトル
片麻痺患者におけるスリングがバランスに及ぼす影響
The Effects of Shoulder Slings on Balance in Patients With Hemiplegic Stroke?PubMedへ
Sohn MK et al:Ann Rehabil Med. 2015 Dec;39(6):986-94
内 容
Introduction
・片麻痺患者はバランス障害を頻繁に示し、転倒リスクを増大させ、高い経済的コストと社会的問題をもたらす。
・筋肉の強さ、運動の範囲、筋緊張の異常、運動協調、知覚、認知、多感情統合は、様々なレベルでのバランス障害に寄与する。
・脳卒中後片麻痺患者では、肩関節脱臼症が頻繁に合併し、異なる特性、デザイン、および機能を有する多数のスリングが、肩の脱臼を防止するために使用されてきた。
・しかし、一部の研究者はスリングを禁忌としており、片麻痺患者の肩のスリングがバランスに及ぼす影響について少数の研究で報告されており、それぞれの研究では異なる結果が見られた。
・脳卒中者を対象とした課題指向型訓練を積極的に利用する際に単純な肩掛けのスリングは、訓練を妨げた。この点で、Bobathスリングは、課題指向型訓練でより有益です。
・今回、研究の目的は上肢の動きが制限された単純な肩掛けスリングと自由な上肢運動を可能にするBobathスリングにおいて、静的および動的バランスの両方での効果を調査し、比較することであった。
・また、片麻痺の静止姿勢における体重の非対称性パターンについても検討した。
目 的
・片麻痺患者の肩のスリングがバランスおよび姿勢の非対称性に及ぼす影響を調べる。
方 法
・本研究では、片麻痺患者27人(右13人、左14人)を登録した。
・静的および動的バランステスト中の被験者の重心(COG)における動きは、スリングなし、Bobathスリング、および単純肩スリングで、各スリング状態で目を開いて測定した。(下図)
・Biodex Balance System SD を用いて、象限(平面上で直交する二直線によって仕切られた、平面の四つの部分の各々。)、全身、前/後および中/側方安定性指数のパーセント時間を測定した。(下図)
・Biodexによる姿勢安定性試験(Postural Stability Test)を用いて患者のバランスを維持する能力を測定した。PSTは、患者の体重の非対称性(象限における%時間)および前後左右および左右方向の揺れの程度を反映するバランス指標スコアを評価する。
・機能的バランスは、Berg Balance ScaleおよびTrunk Impairment Scaleを使用して評価した。全てのバランス試験は、各スリングをランダムな順序で実施した。
(Sohn MK et al:2015)?PubMedへ
・BBSの14項目いずれも0〜4点の5段階評価です。最大スコアは56点です。一般的には0-20点でバランス障害あり,21-40点で許容範囲のバランス能力,41-56点で良好なバランス能力と考えることができます。
・TISスコアの範囲は、最小0から最大23です。
・患者の年齢、体重、高さ、麻痺した肢および脳卒中からの経過時間を記録し、それらの神経学的機能レベル – 患肢のBrunnstrom段階、FAC(functional ambulation category)および罹患した上肢のFMA(fugl meyer assessment)を評価した。
・結果は、全体的な安定性指数(総合指数)、前方/後方安定性スコア(AP指数)、および内側/外側安定指数(ML指数)として記録した。
トランクインペアメントスケールの評価は↓↓↓↓
結 果
・スリングのない静的バランス試験では、右片麻痺群は右半面および後半面のCOG非対称性を示し、これらのアシンメトリーパターンは左片麻痺被験者で維持されたが、統計学的有意性はなかった。(下図)
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・左右の半平面間の全群の体重の非対称性、さらに前部および前部の半面間の全群の重量の非対称性は、ボバースまたは単純肩スリングのいずれによっても有意な改善は見られなかった。
・各スリングにおける全体、AP、およびMLの静的•動的バランス指標スコアは、いずれにおいても有意な変化はなかった(下図)。
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・すべてのバランステストはFACと相関していた。麻痺側上肢のFMAは、動的バランス指数、BBSおよびTISスコアと相関したが、静的バランス指数スコアと相関しなかった。相関係数を下表に示す。
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・右片麻痺患者および全ての片麻痺患者のCOGは、スリングを用いない静的バランス試験の間、それぞれ右および後象限にシフトした。
・この重量の非対称性のパターンは、ボバーススリングまたは単純肩スリングでは改善しなかった。スリング状態での静的または動的バランス試験の間、安定性指数に有意な改善はなかった。
結 論
・結果は、単純肩スリングもボバーススリングも静的または動的バランス試験のいずれにも影響しないことを示した。
・片麻痺患者のCOGの右および後方の偏位は、各スリングの適用中も維持され、患者の静止バランスに有意な影響を及ぼさなかった。
追 記
・Hyndman らは、上肢運動機能が、反復転倒の履歴を有する患者において有意に低下したことを見出した。再発転倒時のバランスの効果に関しては、上肢機能低下した患者のバランスが損なわれると提言することができる。
・上肢の運動障害が片麻痺患者の独立した歩行に影響することも示されている。一部の研究者は、上肢を拘束すると、上半身運動と下半身運動との間の調整を維持するために、反対側の腕の振りを増加させると報告した。
・いくつかの研究では、肩の亜脱臼の軽減におけるスリングの有効性が評価されている。しかしながら、いくつかの研究者は、スリングのいくつかが、屈筋緊張および相乗パターンの増加を促進し、反射性交感神経性ジストロフィーを引き起こし、機能回復を抑制し、歩行中の腕の振れを妨げ、そして一部では身体イメージを損なうと報告している。
・私たちの研究には多くの制限があります。
※第1に、肩の脱臼の存在は最初は評価されなかったが、肩の脱臼の有無にかかわらず片麻痺患者のバランス試験に関連する問題がある。
※第2に、片麻痺患者では単純スリングはバランスに影響を与えないと報告したが、これらの結果は軽度から中等度の片麻痺患者にのみ一般化することができる。
※第3に、利き手側は体重シフトパターンに影響を与えることができるが、研究の開始時には支配的な手側を評価しなかった。
※第4に、スリングタイプによる歩行中の動的バランス(例えば、TUG)を評価しなかった。
・結論として、静止状態の片麻痺患者のCOGにおいて、2つの異なるタイプのスリングを使用してのバランスまたは右後方の姿勢偏位の有意な改善はなかった。
・本研究は短期間実施されたため、これらの結果は長期的な効果についてのさらなる研究なしには一般化することができない。
私見・明日への臨床アイデア
・今回のバランステストは、あくまで静止立位での動的バランスのため、よりダイナミックなテストでは差が出てくることが予想される。(単純肩スリングは、固定されることで、まとまりとなり回転半径が増加する。装着部周囲の運動が阻害される。scapula setが抑制されやすい。等考えられる。)
他文献を引続き追っていく。
氏名 Syuichi Kakusyo
職種 理学療法士
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
脳卒中後の手のリハビリに役立つ動画
脳卒中の動作分析 一覧はこちら
塾講師陣が個別に合わせたリハビリでサポートします
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)