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vol.78:パーキンソン病の「閾値理論」とは? パーキンソン病リハビリ  論文サマリー

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カテゴリー

脳科学

 

 

 

タイトル

パーキンソン病の「閾値理論」 The Threshold Theory for Parkinson’s Disease?PubMedへ Engelender S et al:Trends Neurosci. 2017 Jan;40(1):4-14

 

 

 

内 容

Introduction

パーキンソン病(PD)は、レビー小体という異常なタンパク質の凝集体が見られ、その主成分である「α-シヌクレイン」の蓄積が原因と認識される。自律神経にたまると自律神経障害を起こし、海馬や大脳皮質にたまると認知症を、嗅覚神経にたまるとにおいの障害を引き起こすこと等がわかっている。

 

•振戦、剛性、および運動緩慢を含むPDにおける顕著な運動症状は、黒質におけるドーパミン作動性ニューロンの変性によるものであり、ドーパミンシナプスの約30%の閾値および尾状体 – 被殻にレベルが残っているときに起こる(ドーパミン作動性シナプスの70%の損失に対応する)。 便秘、心臓の律動不全、睡眠障害などの非運動症状は、現在もPDの一部として認識されており、末梢ニューロンおよび脳幹核の機能不全によるものである。認知障害はまた、PD後期に現れる非運動症状を表す。

 

•マウスにおいて予め形成されたα-シヌクレインの脳内注射に主に基づいて、PDは近年狂牛病やヤコブ病等で知られる(神経細胞変性をおこす稀な致死性疾患)プリオン様疾患であると提唱されている。(この論文では、この内容に対しても証拠が不十分と挑んでいる。)

 

 

 

α-シヌクレインについて

•α-シヌクレインがニューロンからニューロンに伝播する理論に対する解釈を論じているが、これに対し病態生理学的証拠が不十分(臨床病理学的研究は、症例の47%までがレビー小体の上昇•拡散に従わないことを示唆している等)と説いている。

 

※補足:α-シヌクレインの凝集物は脳内の細胞から細胞へと広がり、それまで正常だったα-シヌクレインタンパク質を凝集させながら、動きと基本機能を担当する脳構造の『低いlower』(末梢,脳幹や中脳)場所から記憶や推論のような高度なプロセスに関与する『高いhigher』(皮質等)場所へと徐々に移動(上昇、拡散)していくのだという理論。

 

•α-シヌクレインの広範なニューロン発現が異なるニューロンに同時に損傷を与えるが、その機能不全は、結合する核(または機能的予備)が適切な補償を保証できない場合にのみ表れるという新しい理論を描く。 PDの「閾値理論Threshold Theory」と呼ぶ。 (他の理論の不十分さを示しつつ、Threshold Theoryを解説している)

 

内蔵にも蓄積されるα-シヌクレイン

•別の研究では、脊髄におけるPD患者における蓄積されたα-シヌクレインの存在は、迷走神経および胃腸管で観察されるものよりもさらに存在してことが判明した。この蓄積は、示唆された尾背(上昇)勾配の代わりに、吻側(下降)分布を示した。α-シヌクレイン病変のより中立で平行した分布をさらに支持するのは、レビー小体が胃に比べて結腸内であまり分布していないが、便秘はPDの最も一般的な末梢症状である(患者のほぼ50%に生じる)という発見である。

 

•パーキンソン病は運動症状発症前(初期症状)より睡眠障害(昼間の過眠、REM睡眠行動異常など),嗅覚障害,痛み,便秘等の自律神経,末梢神経,脳幹等を介した症状が現れることが研究で示唆されている。

 

3Engelender S et al:2017)?PubMedへ

 

•腸では、腸内ニューロンの機能ネットワークが、運動開始および制御に用いられる脳ドーパミン作動性ニューロン回路よりもはるかに発達しておらず、腸内ニューロンがドーパミン作動性ニューロンより機能的予備力を有しないことが示唆されている(右図)。

 

•この提案と一致して、ヒトは広範に相互接続された中脳、線条体、淡蒼球、視床および皮質の核を有している。これは、黒質ドーパミン作動性ニューロンの約70%が死滅した後のPDにおける運動症状の出現と一致する(左図)。換言すれば、類似の速度で起こるPDにおける並行細胞病理は、自律神経系における早期の機能閾値のために、中脳ドーパミン作動性回路と比較して、末梢神経系における第1の症状を与える。この閾値関数は、PDにおける 初期症状の進行を説明する。

 

•迷走神経がαシヌクレインおよび炎症性シグナルを伝播することができることが提案されている。迷走神経切除術が異なるデンマーク人患者の20年を分析した研究では、迷走神経幹切離(TV) と超選択的迷走神経切離(SSV) と比較してTVにてPDの発生リスクがわずかに低下していた。しかし、この発見は、この同じコホートに従う別の研究では、より長い(35年)期間にわたって争われており、総合的にみると、PD疾患の進行を予防するために迷走神経切除術を行うというアイデアは時期尚早であることが示されている。

 

 

 

まとめ

•PDが主にプリオン様疾患であるという概念を支持するα-シヌクレインの解剖学的拡大(上昇、拡散の理論)を確認する患者には、実際の病態生理学的証拠は存在しない。

 

ここで提案された機能的閾値理論は、ニューロン(およびそれらの連結脳領域)の機能的予備がネットワーク補償を許容できないときにのみ症状が始まる、疾患の進行を正確に説明する。

 

結果として、PDの初期症状は、末梢神 経系から中枢神経系へのα-シヌクレインの広がりよりも、胃腸管、嗅覚系および脳幹のような最も補償の少ないシステムにおいて機能の喪失を反映する。

 

 

 

 

私見・明日への臨床アイデア

•現在のパーキンソン病の理解に果敢に挑む論文であった。不明なところの多いパーキンソン病をより理解していくには、最新の英論文情報に敏感になっておく必要性を感じた。より詳細に知りたい方は是非本文を読んで頂きたい.

 

 

 

執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表

・国家資格(作業療法士)取得

・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務

・海外で3年に渡り徒手研修修了

・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆

 

 

 

 

 

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