【2024年版】片麻痺患者における聴覚フィードバック付き歩行練習の効果 – 荷重バランスと動的安定性の改善 – 脳卒中/神経系 自費リハビリ施設 東京 | STROKE LAB
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【2024年版】片麻痺患者における聴覚フィードバック付き歩行練習の効果 – 荷重バランスと動的安定性の改善

論文を読む前に

なぜこの論文を読もうと思ったのか?

臨床では患者や利用者に口頭指示を与えて立位や歩容の修正を図ることが多い。聴覚刺激をフィードバックとして研究している論文を見つけ、普段行っている口頭指示の効果を確かめられるのではないかと思い、読むことにした。

論文を読む前に、講義形式で聴覚フィードバックと歩行についておさらいしてみましょう。

テーマ:聴覚フィードバック付き歩行練習の効果

登場人物:

  • 金子先生 (リハビリテーション医師)
  • 丸山さん (新人療法士)

金子先生: 「丸山さん、今日は聴覚フィードバックを使った歩行練習の効果について話しましょう。最近の研究では、聴覚フィードバックが歩行のリハビリテーションにどのように影響を与えるかについて、多くの知見が得られています。」

丸山さん: 「聴覚フィードバックというのは、歩行時に音を利用してフィードバックを提供する方法のことですか?」

金子先生: 「その通りです。具体的には、患者が歩行する際に出す足音やそのリズムに基づいてリアルタイムでフィードバックを提供します。このフィードバックは、患者が自身の歩行リズムやパターンを認識し、修正するのに役立ちます。」

丸山さん: 「なるほど。歩行のリズムを改善するために聴覚フィードバックを使うということですね。」

金子先生: 「そうです。特に脳卒中後の患者さんでは、左右の歩行リズムやストライド長に差が出ることが多いです。聴覚フィードバックは、この不均衡を是正し、より対称的な歩行パターンを促進することが確認されています。」

丸山さん: 「具体的にどのような効果があるのでしょうか?」

金子先生: 「研究によると、聴覚フィードバック付きの歩行練習は、通常のリハビリテーションよりも歩行速度やストライドの均衡性を改善する効果があることが示されています。さらに、リズム感の向上が見られ、これは歩行の安定性にも寄与しています。」

丸山さん: 「歩行速度だけでなく、リズム感にも影響を与えるのですね。それは脳のどの部分に影響があるのでしょうか?」

金子先生: 「興味深い点ですが、聴覚フィードバックは主に脳の聴覚皮質と運動皮質との相互作用を強化します。これにより、聴覚刺激が動作のタイミングや調整を促進し、適切な歩行パターンを形成する助けとなるのです。」

丸山さん: 「なるほど。脳卒中患者に対してもこの方法を用いることで、より効果的なリハビリが期待できるということですね。」

金子先生: 「その通りです。また、聴覚フィードバックはリアルタイムでフィードバックを提供するので、患者は即座に自分の歩行を修正できるという利点があります。この即時フィードバックが、運動学習を促進し、リハビリ効果を高める鍵となります。」

丸山さん: 「具体的にどのような聴覚フィードバックの方法が有効なのでしょうか?」

金子先生: 「例えば、メトロノームのように一定のテンポで音を鳴らす方法や、患者の足音に合わせて音を変える方法などがあります。これらの方法を組み合わせることで、患者ごとに最適なフィードバックが提供できるよう工夫されています。」

丸山さん: 「興味深いです。実際のリハビリ現場でも試してみたいと思います。」

金子先生: 「そうですね。適切に導入することで、患者の歩行機能の改善が期待できます。まずは、患者の個別のニーズに合わせて、どのようなフィードバックが最も効果的かを見極めることが重要です。」

補足情報

  1. 音響フィードバックと運動リズム: 脳卒中患者のリズムフィードバックに関する研究では、メトロノームや足音を用いたフィードバックが歩行速度や対称性の改善に有効であることが報告されています 。
  2. 聴覚皮質と運動皮質の相互作用: 聴覚刺激が運動タイミングの調整にどのように影響するかについては、聴覚皮質と運動皮質間の結合が強化されることが示されています 。

論文内容

カテゴリー

神経系、バイオメカニクス

タイトル

片麻痺者の荷重と動的バランス能力に対する聴覚フィードバック付き歩行練習の効果

Effects of auditory feedback during gait training on hemiplegic patients’ weight bearing and dynamic balance ability.?PubMed Ki KI J Phys Ther Sci. 2015 Apr;27(4):1267-9. doi: 10.1589/jpts.27.1267.

 内 容

背景・目的

・脳卒中者の身体動揺は同年代の健常成人の2倍との報告がある。立位時の麻痺側への荷重量は2543%と言われており、荷重の非対称性が理解できる。

・バイオフィードバックにて荷重非対称性にアプローチした論文は多い。今回は聴覚フィードバックが麻痺側の荷重量にどう影響を及ぼすか検討する。

方法

・30名の脳卒中者を実験群と対照群の2群に分けた。

・実験群・対照群ともに神経発達的アプローチを4週間受けた。実験群のみ聴覚フィードバック付き歩行練習を行った。

・聴覚フィードバックは麻痺側の荷重量が50%超えたときに音がなるように設定した。

GAITRiteを用いて麻痺側の単脚支持期の荷重量と立脚時間を計測した。また、Timed Up and Go test (TUG)も計測した。

結果

表:実験結果 Ki KI (2015)より引用

 ・実験群では介入後に立脚時間の延長、単脚支持期、TUGの有意な改善が得られた。

・対照群は全てのアウトカムで有意差が得られなかった。

明日への臨床アイデア

この論文は、片麻痺患者に対する歩行練習時の聴覚フィードバックが、麻痺側の立脚期と単脚支持期の持続時間を有意に改善することを示しています。この結果を基に、臨床現場での応用を提案する具体的なアイデアを以下に示します。

1. 個別化されたフィードバックの導入

  • 背景: 論文では聴覚フィードバックが麻痺側の立脚期に効果的であることが示されています。これを応用して、患者ごとに最適化されたフィードバックを提供することが有効です。
  • 提案: 患者の荷重バランスや歩行リズムに合わせたカスタマイズされた音声フィードバックを導入する。例えば、歩行速度やリズムに応じて音の高さやテンポを調整することで、患者の認知に合わせたフィードバックを提供しやすくします。

2. 自宅でのリハビリ強化

  • 背景: 聴覚フィードバックが有効であることが示されたため、これを自宅での自主トレーニングに取り入れることが可能です。
  • 提案: 簡易なモバイルアプリやウェアラブルデバイスを使用して、自宅でも聴覚フィードバックを用いた歩行練習ができるようにする。患者が自宅で自主的にリハビリを行う際、アプリが歩行リズムを感知して音声フィードバックを提供する仕組みを導入します。

3. 集団リハビリでの活用

  • 背景: グループでのリハビリテーションセッションでも、聴覚フィードバックの効果を活用することが考えられます。
  • 提案: 集団リハビリの際、複数の患者に対して個別に調整された聴覚フィードバックを提供するシステムを導入する。これにより、各患者が自分の進捗に応じたフィードバックを受けることができ、集団内でのモチベーション向上にもつながります。

4. 異なるリハビリ手法との併用

  • 背景: 聴覚フィードバックが単独で効果を示しているが、他のリハビリテーション手法と組み合わせることで、さらなる効果が期待できる。
  • 提案: 鏡療法やバーチャルリアリティ(VR)といった他のリハビリ手法と聴覚フィードバックを組み合わせる。例えば、鏡療法で視覚的フィードバックを得ながら、聴覚フィードバックで歩行リズムを強化することが可能です。

5. フィードバックのリアルタイムモニタリング

  • 背景: 論文ではフィードバックの効果が示されていますが、リアルタイムでのモニタリングが行われているかは明記されていません。
  • 提案: 聴覚フィードバックの効果をリアルタイムでモニタリングし、必要に応じて即座に調整するシステムを構築する。これにより、フィードバックの精度が向上し、患者のリハビリテーション効果を最大化することが可能です。

6. 歩行以外の運動への応用

  • 背景: 歩行時の聴覚フィードバックが効果的であることから、他の運動や動作にも応用可能です。
  • 提案: 立ち上がりや方向転換、階段昇降など、日常生活でのさまざまな動作に聴覚フィードバックを導入する。これにより、全身のバランス能力や機能回復を促進することができます。

7. フィードバック内容の多様化

  • 背景: 現在のフィードバックは単一の音声フィードバックに基づいていますが、さらに多様なフィードバックを提供することで、患者の意識や集中力を向上させることができます。
  • 提案: 音声フィードバックだけでなく、音楽やリズム音を活用したフィードバックシステムを開発する。例えば、音楽のビートに合わせて歩行することで、リズム感を高めつつ楽しくリハビリを行えるようにします。

8. フィードバックに対する患者のフィードバック

  • 背景: 聴覚フィードバックの効果は示されていますが、患者の主観的な意見や感覚が十分に反映されているかは不明です。
  • 提案: フィードバックの内容や強度に対する患者の意見を定期的に収集し、個別に調整するプロセスを組み込む。これにより、患者がより効果を実感できるようなリハビリプランを提供することができます。

9. リハビリ計画の長期的なモニタリング

  • 背景: 短期間の効果が示されていますが、長期的な持続効果については不明です。
  • 提案: リハビリ終了後も定期的にフォローアップを行い、聴覚フィードバックの効果が持続しているか、また新たな介入が必要かを評価するシステムを構築する。これにより、リハビリの長期的な効果を最大化します。

10. 多職種連携によるフィードバックの活用

  • 背景: 聴覚フィードバックの効果を最大限に活用するためには、多職種連携が重要です。
  • 提案: 理学療法士だけでなく、作業療法士、言語聴覚士、看護師、介護スタッフといった多職種が連携して、患者に最適なフィードバック環境を提供する。また、各職種が共通のフィードバックシステムを使用することで、患者のリハビリが一貫性を持って行われるようにします。

これらのアイデアを実際の臨床に応用することで、聴覚フィードバックを用いたリハビリテーションの効果をさらに高め、患者の機能回復に貢献することが期待できます。

聴覚フィードバック:オリジナルの機器の作成

上記の写真は、上肢機能訓練用の圧センサーと聴覚フィードバックを組み合わせたオリジナルの作品である。下肢用の作品もアイデア次第で作成可能である。今後、安価な機器の登場も期待できますが、プログラミングを学んだ若い療法士も増え、種々のセンサーを駆使した、オリジナルのフィードバック機器の作成も面白いと思われます。

 

新人療法士が注意すべきポイントと事前準備

聴覚フィードバックを用いた脳卒中患者の荷重練習を行う際に、初めて実施する新人療法士が注意すべきポイントと事前準備のポイントを以下に10つ挙げます。

注意すべきポイント:

  1. 患者の理解度の確認: 患者が聴覚フィードバックの目的と仕組みを理解しているか確認し、適切な指示が伝わっているかを確認します。
  2. 適切なフィードバックの選択: 患者の状態に応じたフィードバック音の選択(音量、トーンなど)を行い、負荷を最適化します。
  3. 過剰負荷の回避: 過剰な負荷をかけると、患者の疲労や筋緊張が高まる可能性があるため、練習の頻度や強度を慎重に調整します。
  4. フィードバックのタイミング: フィードバックが患者の動作に即していることを確認し、適切なタイミングで提供されるようにします。
  5. 身体バランスの維持: 荷重練習中にバランスが崩れないよう、補助や安全対策を徹底します。
  6. 心理的サポート: 初めての練習で不安を感じやすい患者には、心理的サポートを提供し、リラックスした状態で練習に臨めるよう配慮します。
  7. 小さな進捗を評価する: 微細な進歩や成功を強調し、患者のモチベーションを維持するよう努めます。
  8. 反応の観察: 患者がフィードバックに対してどのように反応しているかを観察し、適宜フィードバックや方法を調整します。
  9. フィードバック機器の故障対応: 機器が正常に動作しているか、定期的に確認し、トラブルが発生した場合の対処法を知っておくことが重要です。
  10. 長時間の練習回避: 長時間の連続した練習は疲労を引き起こしやすいため、休憩を取りながら行います。

事前準備のポイント:

  1. 機器のテスト: 聴覚フィードバック機器が正しく機能するか、事前に十分にテストし、設定が適切であるか確認します。
  2. 患者の身体状態の確認: 練習前に患者の身体状態(疲労度、痛みの有無、筋力)を評価し、練習内容を調整します。
  3. 環境整備: 患者が集中しやすい静かな環境を整え、必要な安全対策を事前に準備します。
  4. 目標設定の共有: 患者と共に練習の目標を明確にし、共有することで、モチベーションを高めます。
  5. 時間配分の計画: 練習の時間配分を計画し、無理のないペースで進行できるようにします。
  6. サポート体制の確立: 練習中に必要なサポート(補助具の準備、他のスタッフのサポート)が整っていることを確認します。
  7. バックアッププランの準備: 万一機器が故障した場合や患者の状態が変わった場合に備え、バックアッププランを用意します。
  8. 予習・シュミレーション: 実施前に手順や流れを予習し、シミュレーションを行って不安を解消します。
  9. 患者のリラックス誘導: 練習前にリラックスできるよう、ストレッチや呼吸法を導入します。
  10. フィードバック内容の確認: 使用するフィードバック内容が患者に適しているか、音の大きさや種類などを事前に確認します。

これらのポイントを押さえることで、安全かつ効果的に聴覚フィードバックを用いた荷重練習を行うことができます。

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STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。

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