理学療法の動作分析の本質と流れ -書籍:脳卒中の動作分析を著者が語る 第1章①-
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今回は動作分析の本質をテーマに述べていきたいと思います。
動作分析の本質はクライエント中心
動作分析の本質は, 得られる情報から臨床推論過程を通じてクライエント(患者)の健康をサポートする介入に繋げることです. 従って, 機能的, 作業的, 文脈的側面から包括的に考える「クライエント中心」でなければなりません.
そのためには, 動作分析に入る前にクライエントを理解することから始める必要があります. 理解は医学的情報収集から面接を通じた対話など, 信頼関係の構築が必須となります.
ー新人エピソードー
私自身も,新人の頃は事前情報収集に追われ,担当患者さんとの対話に意識を向ける場面が少なくなることもありました。
真の情報は対話での面接に潜んでいることも多いです.表情、姿勢、声のトーンなど、ノンバーバルな情報にも注意して観察することが大切です.
そして, 理解を深めた中で, 基礎的な運動・動作分析から臨床推論を積み上げていくボトムアップ式, ADLなどの課題分析から掘り下げていくトップダウン式の両者を, 療法士は状況に合わせて実施できる必要があります.ボトムアップは必ずしも下→上ではなく,下図のように様々な関連性をつなぎ合わせる要素も含まれます.
特に作業療法士はトップダウン型を推奨されるがあまり,ボトムアップ式をおろそかにすることも多いです.ボトムアップは動作分析において必須の知識,思考方法ですので,つねに原因の探求を忘れてはいけません.
上の図において, Jason(2009)らは適切な動作分析などから臨床推論を行う上で, 臨床家の経験, 最も有益なエビデンスリサーチの活用, クライエントの個別性を踏まえる重要性を説いています.論文によるエビデンスはこちらから
例えば, リハビリテーション室とベッドサイドにて同じ患者の同じ動作を分析する場合, 運動パターンは変わるかもしれません.
大部屋と個室,屋内や屋外での分析の違いも重要です.
また, それを分析するセラピストも環境因子に影響を受け, 臨床推論が変わるかもしれません. 食前と食後でも動作パターンに変化が生じる可能性もあります.
動作分析の流れ
動作分析は非常に複雑です. なぜなら運動システムに関わる知識に加え, 多様性のある正常運動から何を逸脱と判断するのか?何を優先順位として問題と捉えるのか?このような臨床推論過程を求めらるからです.
ヒトの動作分析はビデオ解析, 三次元解析, 重心動揺機器など様々な機器を用いた分析方法と, セラピストによる観察による分析があります. 両者は並行して進められますが, この書籍では, セラピストの観察に焦点を当てた内容を提示しています.
動作分析スキルは常に完成しない
動作分析は, 基礎動作(寝返りや歩行など)だけでなくADLなどの課題分析でも求められ, スキルを高めるのに何年もの経験を要しますし, 常に完成するものでもありません.
僕も経験が17年目を迎えますが,人間の動きの神秘を追求していく事はいつもワクワクしながら進めています.分からないことだらけですが,経験とともに「アテ」を作りやすくなることは間違いありません.
一般的に基本動作の分析が「動作分析」, ADLのような複合的要素, 本人の文脈的背景が含まれる動作は「課題分析」と呼ばれます.
患者さんは生活機能の改善が重要視されるので,課題分析に積極的にチャレンジしていくことが重要です.ただ,課題分析は動作分析の基礎を身に着けていないと難しいです.
動作分析の基本フレーム
動作分析は①開始姿勢②動作実行中③終了姿勢を中心に行われますが, Hedman(1996)らは初期コンディションの重要性を述べています.→論文によるエビデンスはこちらから
この時系列分析のなかで, 課題を完遂する上での問題は何か?運動遂行機能を妨げる局面はどこか?問題の根底にある決定要因は何か?どのように介入するか?を考えていく必要があります.
脳卒中などの中枢神経系障害の動作分析は特に赤枠が重要であり, 心理的問題,環境,文脈に応じて動作は大きく影響を受けます.
姿勢セットからどのように動作が遂行されるのかを「予測」するトレーニングを療法士は忘れてはいけません.現象の分析も大切ですが,推理も同じくらい大切です.考える習慣がなければ,その場しのぎの知識で終わります.
従って, 目に見える現象以外にも開始前の対象者の分析を脳内過程を含め評価しておくことは, 動作分析からの臨床推論過程に重要といえます.
読者の方は脳科学の知識も身につけておかないと運動学的側面での分析ばかりになり脳卒中の本質の問題にたどり着けない可能性も大きくなります.
参考論文
・Hedman LD et al : Neurologic professional education: lining the foundation science of motor control with physical therapy interventions for movement dysfunction. Journal of Neurologic Physical Therapy. 1996;20:9 –13.
・Jason M:Toward a Transdisciplinary Model of Evidence-Based Practice Milbank Q. 2009 Jun; 87(2): 368–390.
執筆 金子唯史
所属 STROKE LAB
職種 作業療法士
脳卒中の動作分析(寝返り・起き上がり)に役立つ動画
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)