vol.347:膝伸展時の膝蓋骨・ACL・関節反力の役割 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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カテゴリー
バイオメカニクス
タイトル
膝伸展時のパテラ、ACL、関節反力の役割
On the Role of the Patella, ACL and Joint Contact Forces in the Extension of the Knee
?PubMed Daniel J. Cleather PLoS One. 2014; 9(12): e115670.
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・Cleather (2015)によると、荷重時、腓腹筋は脛骨を伸展、大腿骨を屈曲させる作用があり、下肢全体として伸展するには大腿四頭筋の張力が協調的に働く必要があると述べている。本論文はパテラを中心に膝関節に着目しており、大腿四頭筋は脛骨より大腿骨を伸展させる力が強いと述べている。この大腿骨>脛骨の伸展作用が腓腹筋の大腿骨屈曲作用を効率的に打ち消していると著者は主張しており、興味深かったため読みたいと思った。
内 容
背景・目的
・膝関節を単純な一軸の蝶番関節だとする考え方があるが、この考え方は不十分である。その理由は靭帯による制限を考慮していないため、さらに大腿骨と脛骨の回転運動に差異があるためであり、「蝶番」と膝関節を表現するには無理がある。
・パテラの機能については長く議論がされているが、パテラによって膝伸筋のモーメントアームが長くなり、効率的に膝伸展力を高めていることに異論はない。
・膝関節運動では大腿四頭筋側の腱(QT)と膝蓋腱(PT)における力は同じだと言われてきた。しかし、実際パテラの位置は変化するため、QTとPTの長さ比に変化が生じる。両腱における力も同様に変化し、完全伸展位ではPT:QT=1:1.1だが屈曲120°ではPT:QT=1:0.6と変化する。屈曲角度によって脛骨関節面に対する剪断力の方向も変わるという。
・本論文の目的はパテラの存在によって大腿四頭筋が脛骨と大腿骨に異なる回転作用を生む、という仮説を検証することである。
方法
・大腿骨、脛骨、パテラの3つの剛体リンクモデル
・固定した脛骨上を大腿骨が回転するとする。
・大腿四頭筋(広筋群のみ)の張力とその他の外力が吊り合うように計算した。
図:各セグメントが成す角度 Daniel J. Cleather (2014)より引用
・κは膝関節屈伸角度であり完全伸展から屈曲120°まで5°刻みで計算した。
・筋腱が作る力を計算するために下記角度を計算した。
・π:膝蓋腱の角度
・ρ:パテラ傾斜角
・μ:大腿四頭筋と大腿骨が成す角度
・α:QTとパテラの成す角度
・β:PTとパテラの成す角度
・P/Q比はcosα/cosβで求めた。
・大腿四頭筋の張力は1Nとした。
図:各セグメントに及ぶ力 Daniel J. Cleather (2014)より引用
・脛骨にかかる力は、PTから生じる力、ACL・PCLによる制動力、さらに上記二つの力の合力の反力となる関節反力(TFJ)
・膝蓋骨に生じる力は、QT、PT、パテラと大腿骨間の接触圧(PFJ)
・大腿骨にはQT、PFJ、TFJ、ACL・PCLによる制動力が生じる。
・大腿四頭筋の張力を1Nとしたため、力の計算結果は全て距離(cm、モーメントアーム)での表記とした。
・大腿骨、脛骨ともに伸展方向が正の値。
結果
図:膝屈曲角度と大腿骨、脛骨に及ぶ力 Daniel J. Cleather (2014)より引用
図A
・膝関節軽度屈曲位の場合、脛骨の伸展はACLの力によって生じ、PTは脛骨に対し屈曲方向に働く。
・膝屈曲角度が大きくなると、PTは脛骨の伸展に、PCLが屈曲に作用する。
・伸展モーメントは屈曲80°でほぼ0となる。
図B
・大腿骨に生じる力は脛骨よりも大きく、完全伸展位ではおおよそ2倍程度だった。脛骨とは違い、屈曲角度の増加に伴い伸展モーメントが大きくなった。
・PFJは0°~120°で常に伸展モーメントを発揮した。屈曲80°以降の伸展にQTは関与していた。
図C
・膝関節は一定の力で伸展していることがわかる。膝屈曲角度が浅いときは脛骨、大腿ともに伸展するが、80°以降は大腿骨の伸展のみが生じていた。
私見・明日への臨床アイデア
・大腿四頭筋(大腿直筋を除く)は大腿骨を伸展させる作用が強いことがわかった。歩行時立脚期の初期から中期は大腿骨の回転量が大きいのは上記作用と一致するように感じる。
・ACL、PCLが膝関節伸展に作用しており、それらの緩みや断裂などは伸展機能に強く影響することが改めて示唆された。
引用文献
Cleather, D. J., Southgate, D. F. L. and Bull, A. M. J. (2015) ‘The role of the biarticular hamstrings and gastrocnemius muscles in closed chain lower limb extension’, Journal of Theoretical Biology, 365, pp. 217–225.
職種 理学療法士
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)