プッシャー症候群の灌流画像と運動制御 vol.22:脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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カテゴリー
タイトル
身体制御に関与する神経基盤を調査するためのPusher症候群の灌流画像について Perfusion Imaging in Pusher Syndrome to Investigate the Neural Substrates Involved in Controlling Upright Body Position←Pubmedへ Ticini LF et al.:PLoS One. 2009
内 容
研究背景
●脳の損傷はpusher syndromeと呼ばれる身体正中位の障害が引き起こされる.そのような障害がある患者は身体垂直の感覚が変容し,非麻痺側へ約20°傾いたときに身体が真っ直ぐだということを経験する.
●pusher syndromeは視床後方の脳卒中と関連し,視床以外ではその頻度は少ない.
●そこで本研究は脳損傷領域以外でそのような患者が付加的な機能的異常もしくは代謝異常を示すかを調査.
対象と方法
●視床もしくは視床以外に脳損傷のある19名の脳卒中患者を対象
●損傷部位(視床・視床以外)とPushingの有無によって4グループに分類(Pushingの重症度はSCPを使用し,各項目とも座位・立位の合計が1以上でPushingありとした)
●臨床評価としてFLAIR画像,拡散強調画像(DWI),灌流画像(PWI)を測定
●PWIは脳の灌流低下部位を視覚化する手法で,このように複数測定をすることで,構造的損傷のない灌流低下だけでなく構造的損傷も発見することができる.
●DWI/FLAIR画像で損傷領域を解析した.DWI/FLAIRとPWI異常性の一致しない領域を算出し,Pushingあり群となし群で灌流異常があるか比較
結 果
●視床の損傷でPushingを呈した症例は5例,呈さなかった症例は6例であった.視床以外の損傷でPushingを呈した症例は4例,呈さなかった症例は4例であった.
●視床の損傷でPushingを呈した症例は視床に(Figure1a),視床以外の損傷でPushingを呈した症例は島,前頭部やローランド溝,下前頭回,中心前回・後回だけでなく皮質脊髄路,下後頭前頭束,鉤状束(Figure1b)にオーバーラップした損傷領域があった.
●視床に損傷のあるPusher症例は構造的に損傷した領域の他に機能低下を呈した領域はなかった.
●視床以外に損傷のあるPusher症例では視床に構造的損傷も灌流低下もみられなかった.むしろ下前頭回,中側頭回,下頭頂小葉,頭頂白質,脳梁などに構造的損傷はないが小さい領域で異常な灌流を呈した(Figure3b)
図1a:視床損傷でPushingを呈した症例は視床にオーバーラップした損傷領域を認めた 図1b:視床以外の損傷でPushingを呈した症例は島・前頭部やローランド溝・下前頭回・中心前回・後回だけでなく皮質脊髄路・下後頭前頭束・鉤状束にオーバーラップした損傷領域を認めた
図3b:視床以外に損傷のあるPusher症例では視床に構造的損傷も灌流低下もみられず,下前頭回・中側頭回・下頭頂小葉・頭頂白質・脳梁などに構造的損傷はないが小さい領域で異常な灌流を呈した
考 察
●本研究の結果より,視床を損傷したPusher症例は視床以外に灌流低下を呈していなかったが,損傷領域の境界まで灌流低下を伴った視床損傷の場合はPushingがないとは言い切れない.
●先行研究では島,上側頭回,中心後回,下頭頂小葉などの構造的損傷が姿勢制御のネットワークに影響しているとされるが,本研究ではそれ以外の領域の灌流低下も関連していることが示された.
●また,視床後部そのものの神経組織の損傷よりむしろ離れた皮質の付加的な灌流低下がPusher症候群に関連していることも示された.
●よって,視床後部の構造だけでなく視床以外の正常機能もヒトの重力知覚や身体垂直への方向付けの制御に不可欠である.
●島・下頭頂小葉・上側頭回・中心後回は視覚―前庭過程の基盤であり,一側の上側頭回・島(PIVC)損傷でSVVの偏倚が生じる.
●この領域での障害は(本研究の結果から)身体垂直も担うのかという疑問が生じる.この疑問に答えることはできないが前庭障害者はSVVが偏倚しSPVは正常なのに対し,Pusher症例はこの逆を呈することから,行動レベルでPushingとSVV偏倚は明らかに異なると思われる.
●下頭頂小葉や上側頭回,中心後回などがこれら2つの行動過程を調整もしくはそれに関連するのか今後さらなる検討が必要である.
明日への臨床アイデア・感想
●本研究は灌流画像を用いて灌流低下と構造的損傷を測定しPusher syndromeとの関連を調査した論文である.
●SCPの診断基準は先行研究(Karnath, 2000)を参照し,今回は診断に迷うような症例はなく,サンプル数の少なさが研究の限界と考える.
●Pushingを呈する症例に対し,視床以外の損傷がある場合は身体垂直を調整するネットワークの障害や灌流低下を勘案して,治療に使用する感覚モダリティを選択する必要性がある.
●身体垂直の偏倚がある場合,視覚指標の提示(Where経路の使用)による身体垂直位の修正を試みたり,身体垂直位での自己フィードバック(身体図式との照合)から押す習慣の是正を試みるなど,脳の損傷領域に応じてアプローチする必要があるのではないか.
●視床後部の損傷では近傍の内包後脚には皮質脊髄路・皮質網様体路があり,その損傷程度から姿勢制御アプローチ方法を検討する(前回,前々回の論文サマリー参照).
氏名 中村 学
職種 理学療法士
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)