vol.159:中脳歩行誘発野と起立・歩行 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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カテゴリー
脳科学系
タイトル
橋中脳の歩行誘発野の損傷における起立不能症と歩行障害
Astasia and gait failure with damage of the pontomesencephalic locomotor region.
?pubmed Masdeu JC Ann Neurol. 1994 May;35(5):619-21.
本論文を読むに至った思考・経緯
・高草木(2014)は姿勢保持や歩行において錐体路である外側皮質脊髄路の他に、皮質–網様体脊髄路が筋緊張のコントロールや予測的姿勢制御を担うため重要だと述べている。
・中脳歩行誘発野(Mesencephalic locomotor region; MLR)は皮質網様体路の一部であり、歩行運動を誘発する機能的領域である。これは橋–中脳にある楔状核と脚橋被蓋核の背側部にある微小な部位ではあるが、損傷すると運動麻痺はなくても起立や歩行が障害されるという(草高木、2014)。
・今回、同部位を損傷した症例報告を見つけ、読んでみたいと思った。
論文内容
論文背景・目的
・橋中脳の背外側にある中脳歩行誘発野(脚橋被蓋核)の興奮は文字通り歩行を誘発すると動物実験から証明されているが、ヒトでの報告は少ない。今回、同部位を損傷された症例に出会う機会を得たため報告する。
研究方法・結果(症例)
Masdeu (1994)より引用
図:症例のMRI画像(右中脳–橋部分の出血(A,B)と右視床枕の陳旧性ラクナ梗塞(C)がみられた)
・83歳女性
・慢性的な高血圧
・6時間のカジノ後にバスを待っていると、嘔吐と転倒し起立と歩行が不能となった。意識や感覚に低下はなかった。
・発症から3時間後、外眼筋の緊張亢進による眼球運動障害を呈していた。人形の眼反射に一部反応し、対光反射が見られた。
・ベッド柵の把持にて座位保持可能。椅子からの立ち上がりでは、上肢のプッシュアップは見られるが、立ち上がることはできず背もたれに戻ってしまう。両下肢も立ちあがりのための左右対称の運動ができない。
・しかし、下肢で円を描くことはでき、等尺性筋力にも問題はなかった。
・介助の元、歩行器に掴まり、前かがみになりながら、不規則に下肢を出すことでどうにか進むことができた。下肢の振り出しは一定せず、前方に出せず外側方向に出すこともあった。左下肢は右に比して歩幅が小さかった。
・歩行障害は発症から4カ月後も認められた。
私見・明日への臨床アイデア
・脚橋被蓋核の損傷で運動麻痺がなくても起立歩行困難を呈することがわかった。逆に錐体路に損傷があっても歩行が獲得される可能性が高いのは、この部位を含む皮質網様体路が筋緊張のコントロールや歩行誘発野を有しているからだと言われている(高草木、2014)。
・臨床において、脳画像から皮質網様体路に損傷があるか、を評価する必要がある。
引用文献
高草木 薫. 運動麻痺と皮質網様体投射. 脊椎脊髄ジャーナル,27(2):99-105, 2014
職種 理学療法士
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)