【2022年度版】プッシャー症候群の評価スケール「BLS」と「SCP」を徹底解説!
はじめに
👆Pusher症候群(Pusher syndrome)の評価・治療について動画で学びたい方はこちらをご参照ください。
Pusher症候群とは
脳卒中後5~10%にみられる姿勢の異常症状です。
非麻痺側の上下肢で麻痺側に体を押してだすような状態を表します。
歩行では麻痺側にうまく荷重ができずに非麻痺側が引っかかってしまったり、起居動作で言えばベッドに座った時など麻痺側に体が崩れてしまうことなどがあります。
では、なぜ押してしまうのでしょうか?
Pusher症候群を呈する方の脳内では、簡単に言うと垂直方向の知覚に障害があります。つまり、直立した位置が正確でなく、ずれている状態です。
深田らによれば、(Influence of unilateral spatial neglect on vertical perception in post-stroke pusher behavior – PubMed (nih.gov))Pusherの方の正中認識が麻痺側に傾いているという結果になっています。
Pusher症候群を呈する患者様は麻痺側に20°傾いた時に体が直立したと感じると言われています。
そのため、介助者などからみると正中ではなく麻痺側に倒れているため直そうとすると、「(非麻痺側に)倒れる!」と感じるため非麻痺側の上下肢を使って本人の認識の正中に戻ろうとするわけです。
下記記事でプッシャー症候群についてまとめています。併せてご覧ください。
Pusherの責任病変
Pusher症候群を呈さない脳卒中患者様と比較するとPusherを呈する人には左島皮質後部および上側頭回、左下頭頂小葉、右中心後回に特異的な領域がみられるとの報告があります。
Pusherに対する治療
Pusher症候群は脳卒中後6か月ではほとんどみられなくなると言われています。しかし、リハビリが最大3週間遅れるとも言われています。
Pusherを呈する患者さんの中で間違ってしまっているのは、垂直な位置の認識にズレがあることです。そのため、Pusherに対する治療としては本人様が垂直の認識のズレに気が付き、正しい位置を再学習することが大切です。
今回はポイントを2つお伝えします。
1つ目は安心感を与えて過剰な努力を抑制することです。Pusherの方が怖いのは非麻痺側に倒れることのため、非麻痺側に介助につくことで安心感を与え、非麻痺側に傾いても怖くないことを覚えてもらい押す力を抜いてもらいます。
1つ目のポイントで上下肢の押す力が抜けてきたら、2つ目は真っすぐの位置を再学習してもらいます。「あの柱に体を合わせてみましょう」と外の環境に体を合わせてもらったり、鏡をみてどのように傾いてるかなどを目で見てもらったりしてもよいと思います。
人間の姿勢を制御する感覚のうち、70%を占めると言われている体性感覚を活用するためには、部屋の角などで両側からの圧力を感じてもらう方法や、麻痺側のお尻の下に硬いものを置くことで感覚情報を増やす方法が良いと思います。
Pusher症候群の評価
Pusherの評価で代表的なものは
SCP(scale for contraversive pushing)、Pusher評価チャート、BLS、4PPSなどがあります。
今回はPusherの評価としてもっとも良く使われており、信頼性・妥当性ともによく検証されているSCPと段階付けのやり方としてBLSについて解説を行っていきます。
SCPのメリットは評価項目が少なく、比較的簡単に評価することができます。しかし、デメリットとしては重症・軽症の方の段階付けができません。
段階付けに関しては後ほど紹介するBLSの方が有利となります。
SCP
SCPの点数が0点より大きければPusherがあると判断するため、一つでも当てはまるとPusherの可能性があります。
SCPは姿勢・伸展・抵抗の3つの項目を座位・立位で評価していきます。
・姿勢:対照性のことで、傾いているかどうか。
・伸展:上下肢が自発的に伸展・外転するかどうか。(例:左麻痺の方であれば、非麻痺側である反対の右側の上肢や下肢で突っ張っているかどうか)
・抵抗:傾いている姿勢を直そうとすると抵抗してくるかどうか。
実際のSCP検査(座位)
自発的な姿勢の対称性
【方法】
姿勢の対称性の評価になります。
まっすぐであれば0点、支えないと倒れてしまうぐらい麻痺側に倒れてしまうのであれば1点となります。
重度か軽度かの判断は主観的評価となります。
【判断基準】
1点:麻痺側へ著しく傾き転倒
0.75点:重度の傾き
0.25点:軽度の傾き
0点:正中位
伸展・外転(上下肢で接触面積を広げる)
【方法】
非麻痺側の上下肢が伸展・外転し突っ張っているかを評価します。
最初の姿勢では判断が難しい場合は、姿勢を変えてもらい上下肢が伸展・外転するかを評価します。
姿勢の変更方法は①非麻痺側へ殿部をずらす、②非麻痺側の方に椅子を置き椅子に乗り移ってもらう。この2つのうちどちらかを行ってもらい、動作の途中で伸展・外転が出現するかどうかを評価します。
【判断基準】
1点:安静時から出現
0.5点:姿勢変換で出現
0点:出現しない
抵抗(他動的な姿勢の修正)
【方法】
患者さんが座っている状態から介助者が他動的にまっすぐに姿勢を直したときの抵抗感を評価します。
【判断基準】
1点:抵抗あり
2点:なし
実際のSCP検査(立位)
自発的な姿勢の対称性
【方法】
姿勢の対称性の評価になります。
座位と同様まっすぐであれば0点、支えないと倒れてしまうぐらい麻痺側に倒れてしまうのであれば1点となります。
重度か軽度かの判断は主観的評価となります。
【判断基準】
1点:麻痺側へ著しく傾き転倒
0.75点:重度の傾き
0.25点:軽度の傾き
0点:正中位
伸展・外転(上下肢で接触面積を広げる)
【方法】
非麻痺側の上下肢が伸展・外転し突っ張っているかを評価します。
起立した段階で下肢が外転していれば1点になります。
起立した際に外転していない場合は歩行を行ってもらい、歩行と同時に下肢が外転してくようであれば0.5点、外転がなければ0点となります。
【判断基準】
1点:安静時から出現
0.5点:姿勢変換で出現
0点:出現しない
抵抗(他動的な姿勢の修正)
【方法】
1.患者さんに立位を取ってもらいます。
2.介助者が他動的にまっすぐに姿勢を直していきます。
3.この時の抵抗感を評価します。
【判断基準】
1点:抵抗あり
2点:なし
BLS
BLS(Burke Lateropulsion Scale)はLateropulsion(ラテロパルジョン)の評価スケールで良く用いられます。ラテロパルジョンについては下記記事をご参照ください。
①背臥位から寝返り
【方法】
1.麻痺側に寝返りを行います。(介助で構いません)
2.非麻痺側に寝返りを行います。(介助で構いません)
3.麻痺側・非麻痺側のそれぞれの抵抗感を評価します。
※Pusherの方は非麻痺側に寝返りをした時に抵抗感を感じる方が多いですが、中には麻痺側に寝返りをした時にも抵抗感を感じる方もいます。その際は麻痺側への寝返りをした時の抵抗感の評価に+1点をしてください。
【判断基準】
0:抵抗感なし
1:わずかな抵抗
2:中等度の抵抗
3:強い抵抗
※麻痺側へも抵抗する場合:+1
②座位姿勢
姿勢の
【方法】
1.両下肢を浮かせた状態で座位を取ります。
2.麻痺側へ30°傾けます。
3.再び正中に戻していきます。
【判断基準】
0:正中まで抵抗なし
1:-5°で抵抗あり
2:-10~5°で抵抗あり
3-10未満で抵抗あり
※Pusherの方は麻痺側へ傾いている方が多いですが、中には非麻痺側に傾いている方もいらっしゃいます。そのような場合は、Pusherではなく運動麻痺による傾向のため点数はつけません。麻痺側へ崩れていく現象だけPusher として採点しましょう。
③立位姿勢
【方法】
1.立位を取ります。
2.麻痺側へ20°傾けます。
3.正中を超えて10°非麻痺側に傾けていきます。
※麻痺側の膝折れなどのリスクが高いため、装具や手すりなど環境調整を行って評価を行いましょう。
【判断基準】
0:抵抗なし
1:非麻痺側へ5~10°傾いた位置で抵抗あり
2:-5°~0°の位置で抵抗あり
3-10~-5°の位置で抵抗あり
4:-10°未満で抵抗あり
※歩行補助具を使用しても立位が難しい場合は4点をつけます。
④移乗
【方法】
1.ベッドに座ってもらいます。
2.非麻痺側に車いすや椅子を置き、そちらに乗り移りを行います。
3.その時の抵抗感・介助量を評価します。
【判断基準】
0:抵抗なし
1:わずかな抵抗あり
2:中等度の抵抗があるが、1人で介助可能
3:重度の抵抗あり、2人介助が必要
※右手で椅子の背もたれなどを掴んでもらうことで、上肢でどの程度押してくるかが評価できます。
⑤歩行
【方法】
1.歩行をしてもらいます。
2.麻痺側に倒れている体幹を正中に戻します。
3.その際の抵抗感を評価します。
※装具や杖などの使用はOKですが、再評価の際は同じ条件で行いましょう。
【判断基準】
0:抵抗なし
1:わずかな抵抗あり
2:中等度の抵抗あり
3:重度の抵抗あり2人介助が必要。または歩行不可
プッシャー症候群の歩行など運動制御について下記記事で紹介しておりますのでご参照ください。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)