vol.406:片側上肢切断者における非利き手の代償的使用時の神経活動とは? 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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タイトル
片側上肢切断者における非利き手の代償的使用時の神経活動とは? Compensatory Changes Accompanying Chronic Forced Use of the Nondominant Hand by Unilateral Amputees. Benjamin A. Philip and Scott H. Frey (2014)
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・脳卒中や切断などの上肢障害により、利き手交換を行い、非利き手による巧緻動作の練習行うことがある。これは利き手の機能喪失を補うための「代償的手段」として認知されている。つまり利き手の「機能回復をあきらめる」際に選択されることが多く、負のイメージがあり、療法士・患者双方に、意欲が沸かないケースが多い。 ・しかし、非利き手の立場からすると、受傷前では有していなかった巧緻機能を獲得する「残存機能の機能的拡張」とも表現できる。本論文では、この非利き手の機能的拡張の背景にある大きな脳機能の再編成を、fMRIを用いて明らかにしている。残存機能による代償は、残存機能を拡張することで「新しい自己を獲得する」ことでもある。 ・このような捉え方ができれば、意欲的に取り組むことができるケースもあるはずである。本論文では神経学的にそのことを証明しており、患者への動機づけ・説明に有効であると感じたため、紹介したい。
内 容
概 要
・通常、書字動作など上肢の巧緻運動動作では、動作肢の反対側半球の運動野による制御を受けている。しかし、障害後の上肢運動では、同側半球の制御を受ける例が確認されている(Kew et al.,1994; Hamzei et al., 2001)。 ・このように同側運動野は柔軟に変化する性質を持つことが分かっているが、実際の運動機能と関連があるのかは明らかとなっていない。 ・本研究では、利き手の切断により利き手交換を行った上肢切断者を対象として、書字動作中のfMRI計測を行い、どのように非利き手制御を行っているか明らかにすることを目的とした。 ・結果は、健常者で同じタスクを行った群と比較すると、利き手切断者では左上肢での書字中に、左中心前回・腹側-背側視覚路・下頭頂小葉・腹側運動前野を用いていた。また、書字動作中の平均速度が早い人ほど、左中心前回の活動強度が強かった。 ・まとめると、利き手切断者は、利き手交換により同側の運動野のみでなく、Frontoparietal dorsodorsal pathway(前頭-頭頂部 背側-背側視覚路)を用いたネットワークレベルでの再編成が生じていたが、これは非利き手を用いた新たな内部モデルを構成し、内部情報に用いた目標志向型の運動制御を行っているためと考えられる。
目 的
・利き手の切断により利き手交換を行った上肢切断者を対象として、書字動作中のfMRI計測を行い、どのように非利き手制御を行っているか明らかにすること
方 法
●対象: 8人の右上肢切断患者群(62±7歳、受傷後33±12年経過)、および19人の健常者群(63±7歳)を対象とした。健常者群の8名はMRI+書字検査に参加し、残り11名は書字検査のみ参加した。 ●書字検査 ・ペンタブレット上で、45mmの「Horizontal line, vertical line, diagonal line, semicircle」が組み合わされた図形を自動で作成するようプログラミングした。 2 要素を組み合わせた図形(90mm)×5shapes 3要素を組み合わせた図形(135mm)×5shapes 4要素を組み合わせた図形(180mm)×5shapesが作成された。 これらの15shapes × 3段階の厚さ 3mm / 4mm / 5mmの図形が作成され、計45 shapesパターンの課題が作成された。A~Eはその例である。 ・ペンタブレットで得られたxy平面上の座標情報より、正確性・速度・加速度・円滑性が尺度として計算された。なお、健常者群は利き手・非利き手両側でこの課題を行った。切断者群は左手でのみ行った。 ●MRI ・上記と同様の書字課題を、MRIを用いて行った。
結 果
①切断者における左手書字のパフォーマンス:切断者群の左手による書字動作は、健常者の利き手並みにスピード・加速度・円滑性が向上していた。一方、正確性は劣っており、エラーを生じる場面が見られた。 ②非利き手による書字動作時の脳活動 ・健常者群と切断者群の差分の結果を示す。健常者群の方が、活動が強い領域は、Frontoparietal dorsodorsal pathway(前頭-頭頂部 背側-背側視覚路)。 ・一方、切断者群の方が、活動が強い領域は、左中心前回・Ventrodorsal pathway(腹側-背側視覚路)・下頭頂小葉・腹側運動前野 ③書字動作パフォーマンスと脳活動の関係 ・同側運動野手領域の活動をROI解析により抽出し、パフォーマンスとの相関関係を見ると、切断者において、同側半球の活動が強いほど、書字速度が早かった。
考 察
●非利き手の長期的な使用は、健常者の利き手並みに巧緻性が向上した。 左手への利き手交換は努力を要するが、長期間の経過を経ると、利き手並みの巧緻性を獲得することが分かった。これは反復による求心性・遠心性信号入力の増加、利き手の運動スキルの転移、新規運動学習、既存運動スキルの組み合わせ、など複数の要因によるものと考えられる。残念ながら、今回の結果のみではどの要素が重要であったかは断定できないが、それぞれの要素を組み入れた練習が重要である。 ●同側運動野およびFrontoparietal dorsodorsal pathway(前頭-頭頂部 背側-背側視覚路)の賦活 同側運動野による運動制御は知見が増えており、半球間抑制の解除による同側皮質脊髄路経路のみでなく、脳梁運動繊維を介した反対側への経路なども確認されている。特に巧緻制御や力制御には重要な役割を担っており、今回のような書字活動時に強い賦活が見られたと考えられる。また、Frontoparietal dorsodorsal pathway(前頭-頭頂部 背側-背側視覚路)を用いたネットワークレベルでの再編成が生じていたが、この経路はOffline information processingや、Working memoryを用いる際に使われるとされており、すなわち切断者が非利き手の使用における内部モデルを構築し、巧みに用いていたことが推察される。
私見・明日への臨床アイデア
・今回の知見は、利き手交換を行う際の介入方法に大きさ示唆を与えると考えられる。つまり、療法士の得意分野である動作方法・効率の点から指導を行うだけでなく、このような脳機能の再編成をより早く誘導するような介入方法を考えていくべきである。 ・ここからは私案であるが、脳の再編成は求心性信号入力の質と量と関連が強い。また、巧緻動作には「力調節」と「時空間的協調」が重要な要素である。例えば、書字や箸動作のトレーニングをたくさん反復するだけでなく、より目的志向的な、スマホ操作、マウス操作、タイピング、ゲームなど複数の高次な巧緻運動を組み合わせるメニューを組むことが有効ではないか、と考えている。 ・これらの生活動作の練習に加え、握力グレーディング練習、ボール投げ、腕立て伏せなど高強度かつ協調が必要なメニューも組み合わせていくと、求心路だけでなく遠心路の促通にもつながり、再編成は生じやすいのではないだろうか。
氏名 中西 智也
職種 理学療法士
上肢のハンドリングに役立つ動画
https://youtu.be/yTBHRQYoa_I 脳卒中の動作分析 一覧はこちら 論文サマリー 一覧はこちら 脳卒中自主トレ100本以上 一覧はこちら
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)