【2024年版】ガルバニック前庭刺激(GVS)の効果と最新リハビリ活用法:メカニズム・実施手順・使用機器を完全ガイド
ガルバニック前庭刺激(GVS)の臨床応用
イントロダクション
金子医師: 「丸山さん、今日はガルバニック前庭刺激(GVS)の臨床応用について詳しく話します。GVSは脳卒中後のリハビリやバランス改善において注目されている手法で、特に前庭系にアプローチすることで、バランスや姿勢制御を効果的に改善できるんだ。」
丸山療法士: 「前庭系のトレーニングとして使えるんですね!具体的にはどのように作用するのでしょうか?」
GVSのメカニズムと作用
金子医師: 「GVSは電極を頭皮に装着して微弱な電流を流すことで、前庭神経を刺激する方法だ。前庭核を含む中枢神経系と、体性感覚や視覚情報を統合する脳のネットワークが活性化する。」
脳科学的視点
-
前庭系と脳の関与:
GVSは前庭神経核を刺激し、脳幹や小脳を活性化させる。これにより、姿勢制御や運動計画が改善される。 -
可塑性の促進:
脳卒中などで損傷した神経ネットワークのリモデリングを促進し、適応的な運動パターンを形成する。
神経学的視点
-
固有受容感覚の強化:
前庭系の情報が強化されることで、固有受容感覚と視覚の補完が可能となる。 -
非対称性の補正:
脳卒中後の体軸の非対称性やバランスの不均衡を是正する働きがある。
GVSの具体的な臨床応用
丸山療法士: 「どのような患者さんに適用するのが効果的ですか?」
金子医師: 「以下のような症例で効果が期待できる。」
適応症例
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脳卒中後のバランス障害:
立位や歩行時の姿勢制御の改善。 -
パーキンソン病:
すくみ足現象や姿勢不安定性の軽減。 -
前庭機能障害:
めまいや平衡感覚障害の軽減。
臨床での具体的な手順
-
準備
- 患者の前庭機能や既往歴を確認。
- 電極を耳の後ろの乳様突起部に装着。
- 電流設定(通常1-2 mA程度)を調整。
-
実施
- 患者を座位または立位にさせ、GVSを開始。
- 姿勢揺れや歩行のバランス改善を観察。
-
トレーニングとの併用
- 固有受容感覚トレーニングや視覚情報の統合訓練を組み合わせる。
- 例: 不安定板上での立位訓練、方向性付けの歩行訓練。
症例検討
症例1: 脳卒中後の右片麻痺患者
- 背景: 60歳男性、右片麻痺、立位時のバランス不安定。
- 介入内容:
- 立位でGVSを使用(1.5 mA, 10分間)。
- バランス訓練との併用で歩行速度と安定性が改善。
- 結果: 1か月後、TUGテストが20秒から15秒に短縮。
症例2: 前庭性めまいのある高齢女性
- 背景: 72歳女性、前庭神経炎後の慢性めまい。
- 介入内容:
- GVSを週2回、5分間施行。
- 固有感覚の補強訓練と併用。
- 結果: めまいの頻度と重症度が50%軽減。
実施上の注意点
- 禁忌の確認: ペースメーカー使用者や皮膚疾患のある部位には避ける。
- 患者の反応観察: めまいや過度の姿勢揺れが生じた場合は中断。
- 段階的な適用: 最初は短時間・低強度から開始し、徐々に増やす。
- モニタリング: GVS中は心拍や血圧を適宜確認。
今後の研究と展望
金子医師: 「GVSはまだ発展途上の分野だが、脳卒中や前庭機能障害だけでなく、パーキンソン病や認知機能の改善にも応用が期待されている。今後の研究でさらなるエビデンスが蓄積されるだろう。」
丸山療法士: 「非常に興味深いです!現場での適用を進めつつ、最新の知見も学んでいきたいと思います。」
金子医師: 「その意気だ。GVSは患者の生活の質を向上させる有力な手段だ。適切に使いこなせるよう、さらに理解を深めていこう。」
まとめ
GVSは、前庭系の機能改善を通じてバランス制御や運動能力の向上を図る有望なリハビリテーション手法です。脳卒中患者をはじめ、幅広い疾患に適用可能なため、現場での実践と研究が期待されてい
論文内容
カテゴリー
神経系
タイトル
ガルバニック前庭刺激(GVS)は何を活性するか?
What Does Galvanic Vestibular Stimulation Actually Activate?PMC Bernard Cohen et al.(2011)
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・GVSによる前提刺激、lateropulsionへの効果に興味を持ったため、学習の一助として本論文に至る。
内 容
ガルバニック前庭刺激(GVS)は何を活性するか?
・Luigi Galvaniは、1791年に主題に関する彼の主要論文を発表する前に、神経筋の電気伝導率 (物質中における電気伝導のしやすさを表す物性量)を実証するための実験を20年間行っていた。彼の友人ボルタは、最初の「ボルタ電池:イタリアの物理学者ボルタが考えた起電力0.76Vの一次電池であり、最初のガルバニ電池」を作った。この二人により前庭神経を活性化するための簡単で非侵襲的なアプローチであるGVSが出来、現代でも引き続き使用されている。
・神経系に対するガルバニック刺激の正確な影響に関する議論は続いている。GVS は左右の乳様突起部に陽極または陰極の電極を貼付し通電する刺激法であり、人および動物において前庭神経の繊維を活性化するために使用されてきた。
・電流の段階的に通電量を変化させる方法が最も頻繁に使用され、前庭神経全体、特に不規則な発火率を有する繊維の連続的な活性化を引き起こす。この刺激は、半規管および耳石器の両方に関連するものを含む広範囲の中枢の前庭ニューロンを興奮させる。
・しかし、この非選択的活性化にもかかわらず、耳石関連の行動応答のみが誘発されるようである。被験者は、耳石システムの特徴である、揺れまたは縦揺れの感覚、頭および/または体の傾き、眼球の回旋運動をを経験する。
GVSは、排他的に耳石システムを活性化するのですか?それとも耳石と半規管システムの両方を同等に活性化しますか?
・生理学的データは、GVSが主に耳石刺激であるという見解を支持しています。Macefieldらは、両耳へ正弦波電流(正弦波GVS・sGVS)を利用し、筋交感神経活動(MSNA)を誘導する強力な手法であることを証明した。MSNAは末梢血管収縮を引き起こし、立位時に脳への十分な血液供給を維持する。この起立応答は、耳石システムにはっきりと関連している。
・sGVSは、立位の被験者において周波数依存の姿勢の揺れを引き起こし、刺激が主に耳石システムを活性化するという考えをさらに支持する。半器官の誘発活性は小脳に由来する可能性が高いが、これは未だ決定されていない。
私見・明日への臨床アイデア
・GVSを実際試用すると、開眼では視覚的な補償が働き、大きな動揺は感じないが、閉眼すると陽極側に通電量に応じて傾き、反対側への荷重が難しくなる。しばらく実施すると、歩行軌跡は傾いた側に寄ってしまう。1分程の刺激で10分程は持続した印象である。血管にも影響する為段階的な調整が望ましい。
・VRとGVS(加速度)の組み合わせなど世の中でよりリアルなVR世界が広まってきている。今後の動向にも注目したい。
ガルバニック前庭刺激 (GVS) の臨床応用における具体的手順と訓練方法
使用機器
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GVS専用デバイス
- 市販の医療用GVSデバイス(例: NeuroConn社製のものなど)を使用。
- 精密な電流制御が可能で、設定した刺激パラメータを正確に適用できる。
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電極
- ジェルパッド電極: 接触抵抗を減少させ、刺激を均等に分布させるために使用。
- サイズ: 直径3~5cmの円形。
- 装着位置: 耳の後ろの乳様突起(前庭神経が近接する部位)。
-
付属装置
- 電流調整装置: 微弱な電流を制御(通常、0.5~2 mAの範囲)。
- タイマー付き制御システム: 刺激時間を調整可能。
- モニタリング機器: 心拍数、血圧、酸素飽和度などをチェック。
実施手順
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事前準備
- 患者の評価:
- 前庭機能、平衡感覚、既往歴(特に心疾患やめまいの有無)を確認。
- 禁忌事項(ペースメーカー装着、皮膚疾患など)の確認。
- 電極装着部位の準備:
- 耳の後ろ(乳様突起部)の皮膚を清潔にし、必要なら剃毛しておく。
- ジェルを塗布して電極を装着し、テープで固定。
- 患者の評価:
-
刺激設定
- 電流強度: 0.5~2.0 mA(患者の耐用範囲で設定)。
- 刺激時間: 初回は5分程度から開始し、徐々に増やす(最大20分)。
- 刺激波形: 直流または交流(患者の反応に応じて選択)。
-
刺激中の姿勢設定
- 座位:
- 安定した椅子に座らせ、足は床に平行に置く。
- 立位:
- 平地、または不安定な面(例: 不安定板、フォームクッション)上で立たせる。
- 歩行中(進んだレベルの訓練):
- 歩行補助具(歩行ベルトなど)を使用し、一定の速度で歩行させる。
- 座位:
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刺激中の課題設定
- 簡単な課題:
- 視線を一定方向に保つ(視覚情報の抑制)。
- 中程度の課題:
- 頭部回旋や上下運動を加えながらの立位保持。
- 高度な課題:
- 不安定板上で片足立ちや方向転換の練習。
- 簡単な課題:
-
モニタリング
- 患者の反応を随時確認し、めまい、吐き気、過度な姿勢揺れがあれば中止。
- 心拍数や血圧を定期的に測定。
具体的な訓練プログラム
1週目(導入期)
- 刺激強度: 0.5~1 mA。
- 時間: 5分×2回/週。
- 姿勢: 座位で実施。
- 課題: 軽度な視覚抑制(目を閉じて静止)。
2~3週目(適応期)
- 刺激強度: 1~1.5 mA。
- 時間: 10分×2~3回/週。
- 姿勢: 立位で実施(安全確保のため、補助を用いる)。
- 課題: 頭部回旋や上下運動を含む。
4週目以降(強化期)
- 刺激強度: 1.5~2 mA(患者の耐用に応じて調整)。
- 時間: 15~20分×3回/週。
- 姿勢: 不安定面や歩行中での課題実施。
- 課題:
- 歩行時の方向転換や速度変化を取り入れる。
- 動的課題(不規則な音刺激に反応するなど)を追加。
環境調整
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安全確保
- 柔らかい床材やクッションを使用。
- 歩行訓練時は介助者が必ず補助。
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補助具の活用
- 歩行補助具(ロフストランドクラッチ、歩行ベルト)。
- 不安定板やバランスボールを用いた姿勢訓練。
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進行段階に応じた調整
- 刺激強度と課題の難易度を徐々に上げ、患者の負荷を適切に管理。
効果判定
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主観的指標:
- 患者の安定感の改善。
- めまいの頻度・強度の軽減。
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客観的指標:
- TUGテスト(Timed Up and Go): 実施時間の短縮。
- 姿勢揺れ計測: 静止立位時の重心動揺幅の減少。
- 歩行速度: 10メートル歩行テストでの速度向上。
まとめ
GVSは、前庭系を中心とした神経ネットワークの機能を補完し、バランスや姿勢制御の改善に寄与する先進的なリハビリ手法です。正確な刺激調整と患者の反応モニタリングを徹底しながら、適切な課題設定と訓練を進めることが成功の鍵となります。
新人療法士が直流前庭電気刺激(Galvanic Vestibular Stimulation)を行う際のコツ
新人療法士が直流前庭電気刺激(GVS)を安全かつ効果的に実施するためには、技術的な知識だけでなく、患者への対応や環境整備も重要です。以下に、注意点・ポイントを詳しく解説します。
事前準備と同意取得のポイント
1. 患者との信頼構築
- 簡単な説明から開始: 患者に「前庭系とは何か」「電気刺激がどのようにバランスや歩行の改善に役立つか」を分かりやすく説明します。専門用語は避け、イラストや模型を用いると効果的です。
- 期待される効果と限界の共有: 改善が期待される症状(例: めまいの軽減、姿勢安定の向上)と、全員に効果が出るわけではないことを明確に伝えます。
2. 同意書の準備
- 内容の明記:
- 手技の概要。
- 使用する電流の強度(例: 0.5~2 mA)。
- 予想される副作用(軽いめまいや不快感など)。
- 中断の権利(患者が不快に感じた場合は即時中止可能)。
- 患者の質問を受ける時間を確保: 患者が不安を抱えたまま開始しないように、十分な説明と質疑応答を行います。
3. 禁忌事項の確認
- ペースメーカーや金属インプラントの有無。
- 皮膚疾患(刺激部位での炎症や傷)。
- 神経学的な診断(てんかん歴など)。
- 重度の心疾患や妊娠中の場合は避ける。
実施中の注意点
4. 刺激開始時のモニタリング
- 電流の開始は**最小値(0.5 mA以下)**から徐々に上げる。
- 患者の反応を逐一確認し、過剰な不快感やめまいがあれば直ちに調整または中止します。
5. 電極の配置と固定
- 電極の装着位置(乳様突起部)を正確に把握し、左右対称に装着。
- ジェルの塗布量を調整して接触抵抗を最小限に。
- 電極がずれないよう、固定具やテープでしっかり固定。
6. 刺激中の姿勢の確認
- 刺激中に患者が姿勢を崩したり、バランスを失ったりしないよう、安全確保(補助具の使用や近くでの見守り)を徹底します。
7. 刺激中断のタイミング
- 患者が以下の症状を訴えた場合は直ちに中断:
- 強い吐き気。
- 回転性めまい。
- 痛みやしびれ。
事後の評価とフィードバック
8. 実施後のフィードバック
- 患者の感想を確認: 刺激中の不快感の有無や、バランス感覚の変化について尋ねます。
- 症状の変化を評価: 簡易テスト(TUGやRombergテスト)で直後の効果を確認。
9. 皮膚のチェック
- 電極部位に発赤や刺激反応がないか確認。
- 必要に応じて保湿クリームなどでアフターケアを実施。
長期的な管理と記録
10. 継続的なデータ収集
- 刺激の効果を定量化するため、以下を記録:
- 刺激の設定(強度、波形、時間)。
- 直後および数日後の患者の反応やバランス能力。
- 改善や副作用に関する詳細。
11. 訓練プログラムとの統合
- GVS単独ではなく、歩行訓練やバランス練習と組み合わせて実施。
- 訓練計画に応じて刺激の強度や頻度を調整します。
安全性の向上ポイント
- チームでの連携: 施術中、別のスタッフがモニタリングを行う体制を整える。
- 緊急対応準備: 患者が刺激に過剰反応した場合に備え、救急用具や迅速な中止手順を準備。
ポイントまとめ
- 患者教育: 施術内容や効果、副作用を丁寧に説明。
- 同意取得: 禁忌事項を確認し、患者の不安を取り除く。
- 電極装着の精度: 左右対称に配置し、適切に固定。
- 刺激の調整: 最小電流から始め、患者の耐用範囲内で設定。
- 安全確保: 姿勢崩れを防ぐ補助具や見守り体制。
- 刺激中の反応確認: めまいや不快感があれば即時中断。
- 事後評価: 効果を定量的に測定し、患者からフィードバックを得る。
- 皮膚ケア: 刺激後の皮膚状態を確認し、必要ならケアを行う。
- 記録の徹底: 刺激条件や患者の反応を詳細に記録。
- プログラム統合: 他のリハビリプログラムと併用して効果を最大化。
これらのポイントを押さえることで、安全で効果的なGVS施術が可能になります。
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STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)