【2025年最新】リハビリにおける最適な運動強度とは?脳機能への影響とBorgスケール・Karvonen法・6MWTなどの客観的指標を徹底解説
リハビリにおける運動強度の違いによる脳機能と筋機能の変化
1. はじめに
リハビリにおける運動強度は、患者の回復プロセスにおいて重要な要素である。低強度、中強度、高強度の運動が脳機能および筋機能にどのような影響を与えるのかを、神経科学、生理学、バイオメカニクスの視点から考察する。
2. 運動強度と脳機能の関係
運動は神経可塑性を促し、大脳皮質、海馬、基底核、小脳の機能を向上させることが示されている。しかし、運動強度によって脳への影響は異なる。
運動強度 | 影響を受ける脳領域 | 神経可塑性の変化 | 認知機能への影響 | 神経伝達物質の変化 |
---|---|---|---|---|
低強度運動(40%VO2max以下) | 海馬、前頭前野 | 軽度のシナプス可塑性の増加 | ストレス軽減、気分の改善 | セロトニン増加、ドーパミン軽度増加 |
中強度運動(40~70%VO2max) | 運動野、海馬、基底核 | シナプス可塑性の向上、神経新生促進 | 記憶力・注意力向上 | BDNF増加、ドーパミン増加 |
高強度運動(70%以上VO2max) | 小脳、基底核、視床 | 大幅な神経可塑性向上 | ワーキングメモリ・意思決定力向上 | ノルアドレナリン増加、BDNF大幅増加 |
3. 運動強度と筋機能の関係
筋機能においても、運動強度によって筋線維の活性化や代謝反応が異なる。
運動強度 | 主に活動する筋線維 | 代謝特性 | ミトコンドリア密度 | 筋力・持久力への影響 |
低強度運動(40%VO2max以下) | 遅筋線維(Type I) | 有酸素代謝優位、脂質燃焼促進 | 高 | 持久力向上、筋肥大なし |
中強度運動(40~70%VO2max) | 遅筋線維+速筋線維(Type IIa) | 混合代謝(有酸素+嫌気性) | 中 | 筋持久力向上、筋肥大やや増加 |
高強度運動(70%以上VO2max) | 速筋線維(Type IIb) | 嫌気性代謝優位、糖質燃焼促進 | 低 | 筋力向上、筋肥大促進 |
4. 運動強度に応じたリハビリアプローチ
リハビリの目的に応じて、適切な運動強度を選択することが重要である。
目的 | 推奨運動強度 | 具体的なリハビリ手法 |
神経可塑性向上 | 中~高強度 | 課題指向型トレーニング、バランス訓練、高強度インターバルトレーニング(HIIT) |
認知機能向上 | 中強度 | リズム運動(ダンス、太極拳)、ウォーキング |
筋力強化 | 高強度 | レジスタンストレーニング、プライオメトリクストレーニング |
筋持久力向上 | 低~中強度 | 持続的な歩行訓練、軽負荷レジスタンストレーニング |
5. おわりに
リハビリにおける運動強度の違いは、脳機能と筋機能に異なる影響を及ぼす。適切な強度の選択によって、患者の回復を最大化することが可能となる。
論文内容
カテゴリー
タイトル
運動強度によって脳に影響を及ぼす機能は変わるの?原著はこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
運動強度で脳機能にどのような影響があるのか?以前から気になっていた。きつい運動は長続きしないし、楽な運動は効果は少ないが長続きしやすい。など、メカニズムを理解できれば臨床への関わりも変わってくると思った。
内 容
背景
一過性の運動は、認知、感覚運動、および情動ネットワーク内の安静状態の機能的接続(rs-FC)に影響を与えますが、これらの効果が運動強度によってどう影響されるかは明確になっていない。
方法
25人の男性アスリートが、漸増トレッドミルテストを使用して個々の健康状態の評価を受けました。 別の日に、彼らは「低」(乳酸閾値より35%低い)および「高」(乳酸閾値より20%高い)強度の運動を30分行いました。
運動前後に、Rs-fMRI、正と負の感情スケール(PANAS)を評価しました。 最終的に22人の参加者(3つのドロップアウト)からデータが抽出された。
前後の変化および条件間(低–高)の影響は、反復測定ANOVAを適用し、FSLのランダム化を使用して評価した。有意水準はp <0.05で、しきい値のないクラスター強化を使用して複数の比較に対して修正した。
結果
PANASにおいて、両方の運動条件の後、ポジティブな気分が大幅に増加することを明らかにした。条件間の有意な違いは、右の感情報酬ネットワーク(ARN)、右前頭頭頂ネットワーク(FPN)、感覚運動ネットワーク(SMN)において示された。
「低」運動強度における前後の比較では、左と右のFPNでrs-FCの有意な増加が明らかになったが、「高」運動強度の前後の比較では、SMNと背側注意ネットワーク(DAN)でrs-FCが減少し、左ARNで増加した。
最近の調査結果を支持して、この研究は運動強度によって駆動される明確なrs-FCの変化を報告する最初のものである。1.「低」運動強度でみられたFPN のrs-FCの増加は、認知/注意処理に有益な機能的可塑性を示す可能性がある。
2.ARNのrs-FCの増加は、内因性オピオイドを介した内部情動状態に関連する可能性がある。最後に、3.SMNのrs-FCの減少は、持続的な運動疲労を示している可能性がある。
rs-FCへの明確な影響は、さまざまな運動強度によって媒介される一過性の運動後の一時的な持続的ネットワーク変化の理論に適合し、認知的/注意的または感情的反応に異なる影響を与える。
私見・明日への臨床アイデア
運動負荷の設定は、心肺機能の改善を目的にするのか、筋持久力や筋力の改善を目的にするのかで、低強度の運動にするのか、高強度の運動にするのかが違います。 皆さんは運動の強度をその都度変更し、目的に合った練習を実施しているかと思います。
{(220-年齢)-安静時心拍数}×運動強度(%)+安静時心拍数 カルボーネン法は有名ですが、皆さんご存じでしょうか?
これは自分の求める強度の運動をするためには、どのくらいの心拍数を目安にしたらいいのか、が分かる式です。 運動強度の目安は諸説ありますが、強度が高いほど瞬発力や筋力強化、 低いほど筋持久力や脂肪燃焼、そして準備運動に有用とされます。
またこの他にもBorg指数といったものや修正Borg指数といったものもあります。
ただ皆さんは、どこの脳部位を活性化させるかを考えて
運動強度を調整したことはあるでしょうか?
今回の論文は、また新しい観点から運動強度の調整を促すような内容です。
「低」強度の運動では、認知/注意処理に有益な機能的可塑性を示す可能性がある。
「高」強度の運動では、感情報酬ネットワーク(ARN)の安静時の機能的接続性(rs-FC)を増加させることで、内因性オピオイドを介して感情的なプロセスに有益な変化を与える可能性がある。
このように、身体機能的な効果と合わせて、脳活動を意識した運動強度の調整も、大切な考え方かもしれません。
脳卒中後の歩行訓練における運動強度の決定手順
脳卒中後の歩行訓練における運動強度の決定は、患者の神経筋機能、心肺機能、安全性を考慮しながら個別に設定する必要がある。ここでは、運動強度の決定手順を専門的に解説する。
1. 運動強度を決定するための基本的な評価
運動強度を設定する前に、以下の評価を行う。
(1) 神経筋機能評価
- 徒手筋力テスト(MMT):特に大腿四頭筋、腓腹筋、前脛骨筋の評価
- 麻痺側の協調性(Brunnstromステージ)
- 足関節・膝関節の可動域(ROM)測定
(2) 歩行能力の評価
- 歩行速度(10m歩行テスト)
- 6分間歩行テスト(6MWT):持久力評価
- Timed Up and Go Test(TUG):動作の安定性評価
- 歩行分析(ストライド長、歩隔、歩行対称性など)
(3) 心肺機能評価
- 最大酸素摂取量(VO₂max)の推定(6MWTから予測可能)
- Borgスケール(自覚的運動強度)
- 脈拍・血圧・酸素飽和度(SpO₂)測定
2. 運動強度の設定方法
(1) 自覚的運動強度(RPE, Rating of Perceived Exertion)を用いる
Borgスケール(6-20)または修正Borgスケール(0-10)を利用し、適切な運動強度を決定する。
Borgスケール(6-20) | 運動強度の目安 | 適応する患者層 |
---|---|---|
6-9 | 非常に軽い | 重度麻痺、低体力患者 |
10-12 | 軽い | 軽度~中等度の麻痺 |
13-15 | ややきつい | 回復期の歩行自立患者 |
16-18 | きつい | 運動能力の高い患者 |
推奨強度:Borg 11-14(軽い〜ややきつい)
※ 高齢患者・重度障害者はBorg 9-11(軽い)で開始
(2) 心拍数を基準にする(Karvonen法)
目標心拍数(THR, Target Heart Rate)を求めることで適切な運動強度を設定する。
Karvonen法(予備心拍数法)
- HRmax(最大心拍数):220 – 年齢
- HRrest(安静時心拍数):測定値
- 運動強度(推奨範囲 40-60% for moderate intensity, 60-80% for high intensity)
運動強度 | Karvonen法(%) | 対象患者 |
---|---|---|
40-50% | 低強度 | 回復期患者、低体力者 |
50-60% | 中等度 | 歩行自立患者 |
60-70% | 高強度 | 高活動レベルの患者 |
例:60歳、安静時心拍数70 bpm の場合(中等度強度で設定)
→ 目標心拍数 115 bpm で歩行訓練を実施。
(3) 6分間歩行テスト(6MWT)から強度を推定
- 6MWTで歩行可能な距離の50-80%を目標に歩行訓練を設定
- 例:6MWT = 300m の場合 → 150m(低強度)〜240m(中等度強度)で訓練開始
3. 訓練の具体的な強度調整手順
-
ウォーミングアップ(5分)
- 低速歩行 or 体重移動訓練(HRmax 40%程度)
- ストレッチ(股関節屈筋群・ハムストリング・腓腹筋)
-
メイントレーニング(15-30分)
- 目標心拍数(THR) or Borgスケール 11-14 を維持
- メトロノーム使用(歩行リズムの安定化)
- 環境変化(不整地歩行、障害物回避)を追加
-
クールダウン(5-10分)
- 徐々に速度を落とす(HRmax 40%以下)
- 深呼吸、静的ストレッチ
4. 運動強度を調整するための臨床判断
問題 | 対策 |
---|---|
心拍数が目標より高い(過負荷) | 休息を取りながら運動強度を下げる(速度を落とす、歩行距離を短縮) |
運動後の疲労感が強い | 1回の訓練時間を短縮し、頻度を増やす |
筋力低下や疼痛 | 歩行補助具の使用、バランス強化エクササイズを追加 |
バランスが悪化 | 視覚・体性感覚・前庭覚を使った歩行トレーニングを導入 |
5. 結論
脳卒中患者の歩行訓練における運動強度は、Borgスケール、心拍数(Karvonen法)、6MWTの結果を組み合わせて決定することが重要である。運動強度が適切でないと、過負荷や疲労の蓄積により機能回復の妨げになるため、患者の状態に応じて細かく調整しながら進める必要がある。
新人療法士が運動強度を決定する際の注意点とポイント
脳卒中後のリハビリにおいて、適切な運動強度を設定することは、機能回復を促進しつつ安全性を確保するために極めて重要である。しかし、新人療法士が運動強度を決定する際には、患者の個別性を考慮した多面的な評価が求められる。本稿では、運動強度の決定時に注意すべきポイントを専門的に解説する。
1. 運動強度設定の基本原則
運動強度の決定には、以下の原則を考慮する必要がある。
- 過負荷の原則:適切な刺激を与え、機能回復を促進する。
- 漸進性の原則:患者の状態に応じて段階的に負荷を増加させる。
- 個別性の原則:患者の病態や予後に応じた調整を行う。
- 特異性の原則:改善を目指す機能に即した運動を選択する。
2. 運動強度の決定時に考慮すべきポイント
(1) 神経筋機能の評価と適応
- MMT(徒手筋力テスト) で主要筋群の筋力を評価し、必要に応じて低負荷から開始。
- Brunnstromステージ を考慮し、随意運動の有無や痙縮の影響を把握。
- 歩行能力(10m歩行テスト・6MWT) を参考に、耐久性に応じた負荷設定を行う。
- 関節可動域(ROM) を評価し、関節拘縮がある場合は代償動作による過負荷を回避。
(2) 心肺機能への配慮
- Karvonen法 を用いて、目標心拍数(THR) を設定。
- Borgスケール(RPE) を利用し、主観的な負荷を考慮。
- 血圧・SpO₂のモニタリング を徹底し、循環器系リスクの早期発見を行う。
- 運動負荷試験(CPET等) を実施できる場合は、個別の最大酸素摂取量(VO₂max)に基づいた運動処方を作成。
(3) 疲労と回復のバランス
- 運動後の疲労の回復時間 を考慮し、過負荷によるオーバートレーニングを防ぐ。
- 心拍数の回復(HRR) を評価し、持続的な疲労がないか確認。
- 1回の運動時間 を短縮し、頻度を増やす「分割トレーニング」を活用。
(4) 運動強度の調整
- 初回は Borgスケール9-11(軽い) で開始し、徐々に強度を増加。
- 歩行速度・歩行距離 を基準とし、6MWTの50-80%の距離 を目標設定。
- 転倒リスクが高い場合 は、不整地歩行や障害物回避を控え、固定的な支持基盤で開始。
3. 安全管理と臨床判断
リスク要因 | 対応策 |
---|---|
血圧上昇(収縮期>180mmHg) | 運動を一時中断し、医師と相談。降圧剤の影響も考慮。 |
SpO₂ < 90% | 酸素投与の適応を検討し、過度な有酸素負荷を回避。 |
心拍数がTHRを超える | 速度を落とし、間欠的訓練へ変更。 |
疲労蓄積による運動パフォーマンス低下 | 訓練頻度を減らし、回復期間を確保。 |
疼痛の増加(VAS>4) | 歩行補助具を再評価し、代償動作を修正。 |
4. まとめ
運動強度の決定には、神経筋機能、心肺機能、疲労と回復のバランス、安全管理の4つの要素を考慮し、個別に調整することが重要である。新人療法士は、Borgスケール、Karvonen法、6MWT などの客観的指標を活用しながら、過負荷を避けつつ適切な強度設定を行う必要がある。
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STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)