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【2024年版】脳卒中患者の麻痺側荷重量増加に効果的なインソール介入:評価と具体的アプローチ方法、症例

脳卒中患者の重心移動と歩行に対するインソールの効果と臨床応用

リハビリテーション医師 金子先生の講義

導入: 新人療法士 丸山さんの質問

丸山: 「金子先生、脳卒中患者さんにインソールを処方する際、どのような種類があって、それぞれがどのように重心移動や歩行に影響を与えるのでしょうか?また、それを臨床でどう応用すればよいか教えてください。」

金子: 「いい質問ですね。インソールの適切な使用は、歩行パフォーマンスの向上だけでなく、転倒リスクの軽減や患者さんのQOL向上にも直結します。今日は脳神経学、バイオメカニクス、臨床応用の観点から、各種インソールの効果について詳しく解説しましょう。」


1. インソールが歩行と重心移動に与える影響

1-1. バイオメカニクスの観点から

  • 足部のアライメント調整: インソールは足部の異常な配列を補正し、膝・股関節・骨盤のアライメントを改善。これにより、動作の効率性が向上します。
  • 荷重分布の最適化: インソールにより足底の圧力分布が均等化され、痛みや局所的な負担を軽減します。
  • 重心移動の補助: 足部の支持基底面を適切に調整することで、前後・左右の重心移動がスムーズになります。

1-2. 脳神経学的な視点

  • 感覚入力の向上: 特殊な材質や形状のインソールを使用することで、足底感覚受容器への刺激が強化され、運動制御の精度が向上します。
  • 感覚フィードバックと学習: 患者が重心移動や足部接地の改善を体感できることで、脳の運動学習を促進します。

2. 各種インソールの特徴と適応

2-1. アーチサポートインソール

  • 効果: 足内側アーチの支持により、過剰な回内を防ぎ、重心移動をスムーズにします。
  • 適応: 偏平足傾向や内反膝がある患者。

2-2. メタタルサルパッド付きインソール

  • 効果: 前足部の荷重を分散させ、中足骨周囲の痛みを軽減。
  • 適応: 歩行時の前足部痛がある患者。

2-3. ヒールリフトインソール

  • 効果: 足首の背屈制限や脚長差を補正し、骨盤の安定性を向上。
  • 適応: 足関節拘縮や脚長差が明らかな患者。

2-4. 動的インソール(素材が柔軟)

  • 効果: 動的な重心移動をサポートし、接地感覚を強化。
  • 適応: 歩行バランスに課題がある軽~中程度の麻痺患者。

2-5. カスタムメイドインソール

  • 効果: 患者の足部特性に応じた完全なフィット感で、最大限の補正効果。
  • 適応: 高度な変形や特異的な歩行障害を伴う患者。

3. 臨床での応用手順

3-1. 評価の実施

  1. 足部アセスメント: 偏平足、ハイアーチ、脚長差などの観察。
  2. 歩行分析: 重心移動パターン、足部接地時の荷重配分、歩行周期の異常点を評価。
  3. 患者の主訴の聴取: 痛み、転倒恐怖、歩行中の不安定感などを把握。

3-2. インソールの選択

  • 評価結果に基づき、上記のインソールから適切なものを選定。

3-3. トレーニングの実施

  1. 静的練習: 両足荷重立位でインソールの装着感を確認し、重心移動練習を行う。
  2. 動的練習:
    • タンド・デモア練習: インソールを着けた状態で重心を左右・前後に移動させる。
    • 段階的歩行訓練: インソールによる効果を確認しながら、平地歩行→坂道歩行→階段昇降へと進める。

3-4. 継続的なフィードバック

  • インソール使用中の感覚や歩行の安定性について患者からフィードバックを受け、調整を行う。

4. 症例を通じた臨床応用のイメージ

金子: 「では、実際の症例を紹介します。70歳男性の患者で、中程度の右片麻痺と足底感覚の低下がありました。初診時は歩行時の不安定感を訴え、転倒のリスクも高かったです。この患者にはアーチサポート付きインソールを処方しました。」

丸山: 「その結果、どのような改善が見られたのですか?」

金子: 「インソールの使用で、足部アライメントが改善され、荷重時の重心移動がスムーズになりました。平地歩行が安定し、患者自身も接地感覚の向上を実感していました。」


5. 注意点とポイント

  1. 患者個々の足部形状と歩行特性を詳細に評価すること。
  2. インソール装着後の効果は定期的に評価し、必要に応じて調整すること。
  3. 初期装着時は長時間の使用を避け、徐々に慣れさせる。
  4. 患者の主観的な感覚を重視し、装着感のフィードバックを得ること。
  5. インソール使用中の歩行分析で、実際の効果を確認すること。

金子: 「インソールは単なる補助具ではなく、患者の歩行能力を引き出す重要なツールです。丸山さんも適切な使用と継続的な評価を心がけてください。」

丸山: 「わかりました。インソールが持つ可能性を最大限に活かせるよう頑張ります!」

論文内容

カテゴリー

脳科学

タイトル

●非麻痺側へのインソール挿入で麻痺側の荷重量が増大する?慢性期脳卒中患者の非麻痺側へのインソール挿入の効果

●原著はCompelled Body-Weight Shift Approach in Rehabilitation of Individuals with Chronic Strokeこちら

なぜこの論文を読もうと思ったのか?

●脳卒中患者への効果的な介入として、インソールの報告が増えている。脳卒中患者へのインソールアプローチの全体像を把握し、臨床応用していく学習の一助として本論文に至る。

内 容

背景・目的

●対称的立位と荷重は、歩行能力の予測因子として認識されており、対称的な荷重を達成することは、リハビリ・転倒防止面において重要な目標であることが示されている。荷重の非対称性とバランス障害は、麻痺側下肢への荷重方法の学習の結果である可能性がある。例えば、脳卒中後片麻痺の人は、重度麻痺により、非麻痺側を通して体重を支えることができないか、麻痺側への荷重に消極的である可能性がある。その後、運動機能が改善していくにもかかわらず、継続的な非対称性が残り、さらなる不使用を助長する可能性がある。この状況では下肢のCI療法を適用したくなるが、下肢を拘束しても歩行ができないため、片麻痺患者の歩行リハビリには使用できないのが現状です。

一方、単一ケーススタディでは、数週間にわたって靴のインソールを使用して、非麻痺側下肢を持ち上げることで、理学療法や日常活動の間、より対称的な荷重が促進された。さらに、インソールのウェッジを備えた脳卒中患者では聴覚フィードバックと組み合わされた歩行再訓練の結果、対照群と比較し歩行速度が改善されたことが示された。今回は、インソールの効果と聴覚フィードバックの効果を区別した。

●本研究目的は慢性期脳卒中患者のリハビリテーションにおける the Compelled Body Weight Shift 強制的なウエイトシフト(CBWS)療法の効果を評価すること。 CBWS​​は非麻痺側下肢を靴のインソールにより補高し、麻痺側に体重を強制的にシフトする。

方法

●非対称的な立位を示した慢性期片麻痺患者(平均年齢57.7±11.9歳、範囲は35〜75歳、脳卒中からの平均時間6.7±3.9歳、範囲は1.1〜14.1歳)の18人が参加した。実験群はCBWS療法と組み合わせた6週間の理学療法を受け、コントロール群は理学療法のみを受けた。両群は、リハビリテーション介入開始前、その終了後、および治療終了後から3か月で同一のテスト(Fugl-Meyer評価、Berg Balance Scale、体重負荷、および歩行速度)を受けた。

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Berg Balance Scaleとは?

●脳卒中を起こし、非対称性の立位を示した参加者は、主治医や治療チームから紹介された後に募集された。この研究の基準は次の通り:慢性期脳卒中片麻痺患者、非対称性立位、最小限のアシストで立位・歩行ができる、および指示理解が可能。18人(平均年齢57.7±11.9歳、範囲は35〜75歳、男性14人・女性4人)が研究に参加した。 9人の患者は右半球病変を有し、9人の患者は左側に病変を有していた。参加者は、実験群と対照群にランダムに割り当てられた。実験群は、6週間にわたり、理学療法と組み合わせたCBWS療法を受けた。対照群は、6週間の理学療法のみを受けた。

●実験群に含まれる被験者には0.6 cmの厚さのインソールが提供された。対照群に含まれる被験者には提供されなかった。参加者は、6週間のトレーニングプログラムの期間中、毎日のすべての活動中に、麻痺側下肢にインソールが取り付けられた靴を履きました。 6週間という期間は、先行研究での治療効果を示した単一ケーススタディの結果に基づいていた。トレーニングの終了後、インソールは取り外された。両方のグループの被験者は、同様の6週間の理学療法を週1回60分間受けた。荷重練習には麻痺側下肢が体重計上にあり、非麻痺側下肢が体重計に隣接する木製ブロック上にある立位で行われた。さらに、患者は、両側同じ荷重を意識して、座位から立位および立位から座位の練習を行った。その他、バランス・歩行練習が行われた。患者と介護者の両方が、自宅でのエクササイズの指導を受け、毎日60分間理学療法を実行した。すべての参加者は、リハビリテーション介入前、介入後、および介入終了後3か月に同一のテストを実施した。

結果

●介入後、麻痺側の荷重は、対照群と比較し大幅に増加した(実験群9.7% 対 対照群6.4%)。同様に、歩行速度は対照群と比較し実験群で10.5%増加した。体重負荷と歩行速度の改善は、3か月の保持期間後も実験群で維持された。

●BBSは治療開始前の、実験群のスコアは42.9±3.7で、対照群では33.2±3.5であった。BBSのスコアは、両方のグループともに増加した。 6週間のトレーニングプログラムの完了後、実験群では45.0±4.1、対照群では34.0±3.5に達した。 その後の3か月保持期間後のスコアは、実験群では44.8±4.0であり、対照群では37.7±3.4であった。

●研究結果からCBWS療法を含む6週間の介入により、慢性期脳卒中患者の荷重と歩行速度の対称性が長期にわたって改善する可能性があることが明らかになった。

実験群は、保持期間の終わりまでに臨床的に有意な最小変化量(MCID)を達成した。

論文を読んでの感想

●一般的に足の短い方(短下肢)には荷重は乗せやすく、長下肢には荷重がかけづらくなる。例:休めの時の支える方が短下肢、足を出している方が長下肢。非麻痺側を補高することで、麻痺側を短下肢とし荷重をかけやすくしている。その状態で動く事で体全体の運動パターンの再学習が進み、インソール着脱後も動作方法が身についていたと考えられる。適切なインソールの挿入にて、体の全身的な使い方に変化を起こせることが示唆され、臨床でも実践していきたい。

症例報告

症例1: 重心移動の改善を目的とした介入

患者背景

  • 年齢・性別: 68歳男性
  • 病歴: 左片麻痺(中等度)、発症後6か月
  • 主訴: 立位時のバランス不良、左右方向の重心移動困難
  • 評価:
    • 重心移動の速度が低下(重心移動速度 0.9 cm/s)
    • 立位保持時に右足に過剰な荷重(右: 70%、左: 30%)
    • バーグバランススケール(BBS): 39/56

介入手順

1. 初期評価

  • インソール適合検査:
    足底圧分布を測定し、麻痺側の足底圧減少を確認。
  • 重心移動能力:
    重心動揺計で静的・動的な重心移動を分析。

2. 治療計画

  • 目標:
    • 重心移動速度を1.5 cm/s以上に向上。
    • 左右バランスの均等化(荷重比45:55を目標)。
  • 訓練頻度:
    週5回、各セッション45分。

3. インソールの設計・調整

  • 素材と設計:
    • 麻痺側足底圧を強調するために硬度の異なるクッションを適用。
    • 左右バランスの偏りを調整するため、内側縦アーチサポートを追加。
  • フィッティング後の評価:
    • 装着後の足底圧分布の変化を確認。

4. 介入内容

  • インソール装着下での感覚入力強化訓練:

    • インソールを装着したまま立位でタオルやスライディングボードを使用し、足底感覚入力を促進。
    • ミラーを利用した視覚フィードバックで重心移動を練習。
  • 重心移動練習:

    • 麻痺側への荷重を意識させるため、段階的に体重移動を指導。
    • バランスボードで静的・動的な練習を行い、左右方向の重心移動能力を強化。
  • 動的課題の追加:

    • インソールを装着したまま、左右へのボール転がしや段差を利用した荷重移動を実施。

5. フォローアップ

  • インソール装着後の足底圧分布と重心移動速度を定期的にモニタリング。

結果

  • 6週間後の改善:
    • 重心移動速度: 1.5 cm/sに向上。
    • 荷重比: 左右45:55に均等化。
    • BBSスコア: 48/56に改善。

症例2: 歩行の改善を目的とした介入

患者背景

  • 年齢・性別: 72歳女性
  • 病歴: 右片麻痺(軽度~中等度)、発症後4か月
  • 主訴: 歩行時の左右不均等、ふらつき、転倒への恐怖心
  • 評価:
    • 歩行速度: 0.6 m/s(通常歩行の50%程度)
    • ケイデンス: 70歩/分(正常の80%以下)
    • 足底圧分布: 麻痺側足底圧が30%未満

介入手順

1. 初期評価

  • 歩行中の足底圧分布を測定し、麻痺側の荷重不足を確認。
  • 歩行分析と関節可動域のチェックを実施。

2. 治療計画

  • 目標:
    • 歩行速度を0.9 m/s以上に向上。
    • 足底圧分布を麻痺側45%以上に改善。
  • 訓練頻度:
    週4回、各セッション60分。

3. インソールの設計・調整

  • 機能性インソール:
    麻痺側の荷重を増やすため、前足部に軽度のリフトを追加。
    歩行時に足底の正しい圧分布を誘導する設計。

4. 介入内容

  • インソールを使用した歩行準備:

    • 歩行前に麻痺側足底の感覚入力を強化する練習を実施。
  • ターゲット歩行練習:

    • カラーマーカーを床に配置し、麻痺側の正しいステップ位置を誘導。
    • スクリーンで足底圧分布をリアルタイム表示し、視覚的フィードバックを提供。
  • インソールを活用したトレッドミルトレーニング:

    • インソール装着でトレッドミル歩行を行い、推進力を麻痺側に集中。
    • 速度と傾斜を段階的に調整し、歩幅とケイデンスを均等化。

5. フォローアップ

  • 足底圧分布と歩行速度を定期的に測定。
  • インソールの適合性を再評価し、必要に応じて調整を実施。

結果

  • 8週間後の改善:
    • 歩行速度: 0.9 m/sに向上。
    • ケイデンス: 90歩/分に改善。
    • 足底圧分布: 麻痺側45%に増加。

まとめ

インソールを活用したアプローチは、脳卒中後の患者のバランス改善や歩行機能向上に有効です。患者の評価に基づき、個別化されたインソールデザインと訓練計画を立てることが、機能回復を加速させます。

新人療法士が脳卒中患者のインソール処方を行う際のポイント

  1. 感覚障害を考慮する

    • 患者に感覚障害がある場合、適切な圧力分布を確保するために、柔らかい素材や圧力を均等化するデザインを優先する。
    • 痛みや圧迫感を認識できない可能性があるため、定期的に足底やインソールの状態を確認する。
  2. 足部変形の有無を評価

    • 内反尖足や足部の変形がある場合、それを補正するための特別な形状のインソールが必要となる。
    • 靴のフィッティングも重要で、変形に適合する靴との組み合わせを考える。
  3. 動的な評価を行う

    • 静的評価だけでなく、歩行中や体重移動中の足底圧分布を動的に評価し、インソールの効果を確認する。
    • 動的評価が難しい場合は、トレッドミルや歩行解析システムを活用する。
  4. 靴との相性を確認する

    • 処方したインソールが靴に適合しているかを確認し、必要に応じて靴のサイズやデザインを調整する。
    • インソールが靴内でズレると、効果が低下するだけでなく、患者の安全性も損なわれる。
  5. 患者の体重や活動レベルを考慮

    • 体重の重い患者には、より耐久性の高い素材や構造を選択する。
    • 歩行距離や活動レベルが高い場合、摩耗しやすい素材を避け、耐久性の高いインソールを処方する。
  6. 費用対効果を説明する

    • 保険適用や患者の経済的状況を考慮し、現実的な選択肢を提示する。
    • 必要に応じて、安価な選択肢と高性能な選択肢を比較し、それぞれの利点を説明する。
  7. 履き心地と装用テストを行う

    • 処方後、インソールを装用した状態で患者に歩行や立位をテストさせ、履き心地や効果を確認する。
    • 違和感がある場合はその場で微調整を行う。
  8. 補正の程度を段階的に増やす

    • 過剰な補正は、かえって新たな負担や痛みを生じる可能性があるため、補正の程度を段階的に調整する。
    • 患者が新しいインソールに適応するまでの期間を考慮する。
  9. 患者の目標や活動を理解する

    • 患者のリハビリ目標や日常生活での活動内容を把握し、それに合わせたインソールを処方する。
    • たとえば、スポーツを行う患者にはそれに適したインソールを考慮する。
  10. フォローアップを計画する

  • 処方後の定期的なフォローアップを計画し、インソールの効果や患者の足部の変化を確認する。
  • 必要に応じてインソールの再調整や再作成を行う。

これらのポイントを念頭に置き、個々の患者に適したインソール処方を行うことが、新人療法士としてのスキル向上にもつながります。

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