【2025年版】脳卒中患者のトレッドミル訓練における歩行速度と予後予測、段階的速度のアップの手順や注意点まで解説
脳卒中患者のトレッドミル訓練における歩行速度と予後予測、歩行速度の調整
登場人物
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金子先生(リハビリテーション医師): 豊富な経験を持つ指導医。
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丸山さん(新人療法士): 熱意を持ちつつも、知識と経験を積みたいと考える新人。
1. はじめに: トレッドミル訓練の役割
金子先生: “丸山さん、今日は脳卒中患者におけるトレッドミル訓練について詳しく話しましょう。歩行速度は予後予測において重要な指標であり、適切な速度の設定が患者の機能回復に大きく影響します。”
丸山さん: “歩行速度がそんなに重要なんですね。具体的にはどう関係しているのでしょうか?”
2. 歩行速度と予後予測
(1) 歩行速度の基準値と予後の関連性
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正常歩行速度: 健常成人では約1.2–1.4 m/sが平均。
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脳卒中患者の基準: 約0.8 m/s以下は”屋内歩行”、0.8 m/s以上は”屋外歩行”の予測因子とされる。
金子先生: “例えば、ある研究では歩行速度が0.4 m/s未満の場合、日常生活の自立度が低い可能性が高いことが示されています。一方で、0.8 m/sを超えると、退院後の自立した生活が可能になるケースが増えます。”
(2) 神経学的視点: 中枢神経系の可塑性
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歩行速度と可塑性: 適切な速度の刺激は脳の再構築(neuroplasticity)を促進。
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脳幹と大脳皮質の協調: トレッドミル訓練では、この協調性が強化される。
丸山さん: “速度が遅いと十分な刺激が得られず、速すぎると患者の能力を超えてしまう…調整が重要なんですね。”
3. トレッドミル訓練中の歩行速度の調整方法
(1) 患者の評価に基づく速度の設定
金子先生: “まず、患者の現在の能力を正確に評価します。”
評価項目 | 具体例 |
---|---|
最大歩行速度 | 安全に歩行できる限界速度を測定 |
心拍数の反応 | 過度な心拍上昇がないか確認 |
歩行パターンの安定性 | ステップの規則性、左右対称性 |
(2) 調整の具体的手順
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初期速度: 0.2–0.4 m/s程度から開始。
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漸増負荷: 患者の耐久性に応じて0.1–0.2 m/sずつ速度を上げる。
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リハビリ目標: 最終的に0.8 m/sを目指す。
丸山さん: “この段階的な調整は患者の安全性を保ちながら効果的な訓練を行うポイントですね。”
4. 歩行速度調整のアイデア
(1) バーチャルリアリティ(VR)との併用
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具体例: トレッドミル上でVRゴーグルを使用し、仮想環境を作成。
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効果: 歩行速度やストライドの改善、注意分配の向上。
(2) 音響刺激の活用
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メトロノーム: 一定のリズムで足取りを合わせる。
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音楽療法: 患者が楽しく継続できる訓練環境を提供。
(3) ロボットアシストの活用
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機器例: ロボットスーツや歩行アシストデバイス。
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効果: 自然な歩行パターンの再学習。
丸山さん: “これらの補助ツールを組み合わせることで、患者に合わせた個別的な訓練が可能になりますね。”
5. 歩行速度に基づくトレッドミル訓練の注意点
(1) 疲労の兆候を見逃さない
金子先生: “患者が疲労すると、歩行パターンが乱れることがあります。この場合、速度を調整して休息を取り入れましょう。”
(2) 安全確保
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ポイント: 転倒防止のため、トレッドミルにハーネスを装着。
(3) モチベーションの維持
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方法: 成果を見える化する(例: 目標速度への到達記録)。
6. まとめ
金子先生: “丸山さん、トレッドミル訓練における歩行速度は単なる数値ではなく、神経系の可塑性、患者の機能回復、予後に深く関わる重要な要素です。個別性を考慮した速度設定と適切な介入が大切です。”
丸山さん: “分かりました!これからも患者さんに合わせた適切な訓練を提供できるように努めます。”
付録: 速度調整のガイドライン
歩行速度 | 予測される機能 | リハビリ目標 |
0.2–0.4 m/s | 屋内歩行が可能 | 屋内での自立歩行 |
0.4–0.8 m/s | 短距離屋外歩行が可能 | 安全な屋外歩行 |
≥ 0.8 m/s | 長距離屋外歩行が可能 | 社会復帰、日常生活の自立 |
金子先生と丸山さんの対話を通じて、トレッドミル訓練の意義と実践方法を深く理解できたでしょうか。この知識を現場での実践に役立ててください!
論文内容
カテゴリー
タイトル
●Vol.477.効果的なトレッドミル訓練は0.4m/s以上!?慢性期脳卒中患者におけるトレッドミル訓練の効果的な歩行速度
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●脳卒中患者におけるトレッドミル訓練の文献を多々読むが、実際どのレベルの患者にとってトレッドミル訓練はより効果をもたらすのか学ぶべく本論文に至る。
内 容
目的
●脳卒中後のトレッドミルトレーニングにおいて、ゆっくり歩く人よりも0.4m / sより速く歩く人の方が(地域在住の脳卒中患者68名)に大きなメリットをもたらすか調査した。(歩行速度が慢性期脳卒中患者におけるトレッドミルトレーニングの有効性を決定するかどうかを調べた。)
方法
●実験群は、30分間のトレッドミル歩行と通常歩行を週3回、4か月間トレーニングした。対照群は介入を受けなかった。主なアウトカムは、6分間歩行テストでの歩行距離、快適と最大歩行速度と健康状態でした。
結果
●本研究では、初期の歩行速度がゆっくりの患者は、中から速い歩行速度の患者よりも4か月後の結果が比較的不良ということが示されている。トレッドミルトレーニングの効果をより示す歩行速度のカットオフ値が0.4m/s (1.44km/h)とされた。(ベースラインの快適な歩行速度が0.4m / sを超えるグループでは、連続歩行距離が72m、快適歩行速度が0.16m / s増加した。 )より速い速度で歩行される方の追加のメリットはありませんでした。
●長期的には、実験群とコントロール群の差はなかった。これは、トレーニングを中断してしまうとその効果が持続しないことを示唆している。
論文を読んでの臨床に向けての感想
●慢性期脳卒中患者においては、歩行速度が0.4m/s以上の方でよりトレーニング効果が得られるが、効果を維持するためには継続的なトレーニングが必要との報告であった。速度が0.4m/sの患者に効果がないわけではないが、0.4m/s以上で行える方には積極的に処方してもよい事が示唆された。それぞれの機器の最も反応を示す患者層を把握する事も臨床では有用かも。
トレッドミル訓練における初期歩行速度の設定から段階的な速度アップまでの手順
以下は、慢性期脳卒中患者にトレッドミル訓練を安全かつ効果的に実施するためのプロセスを段階的に説明したものです。
1. 初期評価
まず、患者の歩行能力と現在の状態を詳細に評価します。
- 筋力評価: 下肢筋群(特に大腿四頭筋、ハムストリングス、腓腹筋)の筋力を評価します。
- 可動域評価: 股関節、膝関節、足関節の可動域制限がないか確認します。
- バランス評価: 立位バランス能力(BERGバランススケールなど)や歩行中の姿勢安定性を評価します。
- 歩行能力:
- 平地歩行速度を測定(10メートル歩行テスト)。
- 可能であれば、6分間歩行テストを実施し、持久力を評価します。
- 心肺機能評価: 心拍数や血圧のモニタリングを行い、トレッドミル訓練中の負荷量を安全に設定するための基準を得ます。
2. 初期歩行速度の設定
患者の評価結果を基に、初期速度を設定します。
- 参考基準
- 平地歩行速度の 50-75% を初期トレッドミル速度として設定。
- 一般的には 0.5~1.0 km/h で開始します。
- 安全性の確保
- ハーネスや支援機器を活用して転倒を防止。
- 初期段階では必ずセラピストが側でサポートし、必要であれば一部荷重を補助(部分荷重トレーニング)。
3. 訓練セッションの進行
トレッドミル訓練は、患者の体力と歩行能力に応じて進行します。
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1週間目(導入期)
- 訓練時間:5~10分程度。
- 負荷量:低速度で患者がリズムよく歩ける範囲で設定。
- 目標:速度よりもフォームの安定性や姿勢の改善に重点を置く。
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2~4週間目(初期負荷調整期)
- 訓練時間を15~20分に拡大。
- 歩行速度を 0.1~0.2 km/h ずつ段階的に増加。
- 心拍数のモニタリング(目標心拍数:安静時心拍数+20~30拍/分程度)。
- 荷重補助を徐々に減らす。
4. 段階的な速度アップ
速度アップの基準を明確に設定し、患者の進捗に応じて調整します。
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速度アップの目安
- 10メートル歩行速度が1.0 m/sを超える場合、トレッドミル速度も徐々に2.0~3.0 km/hを目指す。
- 6分間歩行テストで 50%歩行距離の向上 が見られる場合。
- トレッドミル上で患者が安定して 5分以上連続歩行 を維持できる場合。
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進行のポイント
- セッションごとに速度を増やすのではなく、患者の適応を見ながら週単位で変更。
- 疲労や歩行パターンの乱れが見られる場合は、速度を一時的に下げる。
5. フォームと技術の指導
速度アップと並行して、患者の歩行フォームをチェックし改善を図ります。
- 足部着地: 踵接地を強調し、前足部の過剰な負担を回避。
- 膝の屈伸: 足を引き付ける動作を強調し、claw toeのリスクを軽減。
- 骨盤の動き: 骨盤の回旋を滑らかにするよう指導。
6. 訓練後の評価
各セッション終了後に患者の状態を評価し、次回セッションの計画を立てます。
- 筋肉痛や疲労感: 患者に主観的な疲労感を尋ね、過負荷を防止。
- 歩行能力の改善: 訓練前後の歩行速度やバランス能力を比較。
- 心肺機能の向上: 心拍数の回復時間をチェック。
7. 定期的な再評価
- 月に1回、歩行速度、バランス、持久力の再評価を実施。
- プログラムをアップデートし、目標を設定し直します。
注意事項
- トレッドミル上での速度変更は患者が安定した状態でのみ行う。
- 訓練中は血圧や心拍数のモニタリングを継続。
- 過剰な負荷や疲労が蓄積しないよう、休息を適切に挟む。
- 足部や膝関節への負担が大きい場合は、速度よりもフォームを優先。
新人療法士が慢性期脳卒中患者のトレッドミル訓練で注意すべきポイント
以下は、新人療法士が特に気を付けるべき注意点やポイントを挙げます。これらは、患者の安全を確保し、訓練効果を最大化するために役立ちます。
1. トレッドミルへの恐怖心への配慮
- 患者がトレッドミルに対して恐怖心を抱いている場合があります。そのため、最初のセッションでは機器の使用方法を丁寧に説明し、患者の不安を軽減する声かけを行いましょう。
2. 患者個別の歩行パターンの観察
- 脳卒中後の歩行パターンは患者ごとに異なります。麻痺側の足が引きずる、非麻痺側への過剰な負担など、特有の問題を把握して個別の修正指導を行う必要があります。
3. 視覚フィードバックの活用
- トレッドミル前に鏡を設置するか、モニタリング画面を利用して歩行フォームを患者に視覚的に示すことで、自身の動作に対する意識を高めるサポートを行います。
4. 重心移動のタイミングを強調
- 歩行中に適切な重心移動が行われていない場合は、手動で骨盤の動きを誘導したり、タクタイルキュー(触覚刺激)を活用して改善を図ります。
5. 体幹筋の活動を意識させる
- 歩行時に体幹筋が十分に活用されていない場合があります。歩行速度を調整しながら、体幹の安定性を高めるためのエクササイズを事前に導入することが効果的です。
6. 疲労と心肺機能のモニタリング
- トレッドミル訓練中に患者が過度に疲労しないよう、心拍数や呼吸数を適宜モニタリングします。また、休憩のタイミングを事前に決めておきましょう。
7. 非麻痺側への過負荷を防ぐ
- 非麻痺側に過剰な負担がかかると、腰痛や膝関節痛を引き起こす可能性があります。麻痺側の荷重を増やすための部分荷重補助や立位バランス訓練を並行して行うことが重要です。
8. 訓練中の患者の表情や反応の観察
- 歩行中の患者の表情、姿勢、筋緊張の変化などを常に観察します。異常が見られた場合はすぐに訓練を中断し、原因を分析します。
9. トレッドミル以外の歩行訓練との併用
- トレッドミル訓練だけでなく、床上での平地歩行や屋外歩行も同時に行うことで、日常生活に近い歩行パターンの改善を促進します。
10. 適切なフィードバックの提供
- 患者が努力を感じられるよう、訓練の進歩について具体的にフィードバックを行いましょう。例:「今日は歩行速度が0.1 km/h向上しましたね」といった具体的な成果を伝えることで、モチベーションが向上します。
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)