【2024年版】高齢者の転倒予防:薬剤が歩行とバランスに及ぼす影響と効果的な服薬調整の方法 – STROKE LAB 東京/大阪 自費リハビリ | 脳卒中/神経系
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【2024年版】高齢者の転倒予防:薬剤が歩行とバランスに及ぼす影響と効果的な服薬調整の方法

高齢者の薬剤と歩行・バランスへの影響

講師:リハビリテーション医師 金子先生
受講者:新人療法士 丸山さん

1. 導入:高齢者における薬剤の影響を考える重要性

金子先生:
「丸山さん、今日は高齢者における睡眠導入薬やその他の薬剤が歩行のふらつきやバランス、転倒リスクにどのように影響するかについて講義します。特に、転倒は高齢者のQOL(生活の質)を著しく低下させる一因です。このリスクは、薬剤の影響を見逃すことでさらに増大します。」

丸山さん:
「睡眠導入薬の影響は知っていますが、具体的なメカニズムや他の薬剤との相互作用には詳しくないので、ぜひ教えてください!」

2. 睡眠導入薬の種類とその影響

金子先生:
「まず、睡眠導入薬です。これらは高齢者で非常によく処方されますが、薬剤の種類ごとにリスクプロファイルが異なります。」

① ベンゾジアゼピン系

  • 効果 不安の軽減、催眠作用。
  • リスク 長時間作用型の場合、翌日の眠気や筋弛緩によるバランス不良が起こります。
  • 研究例 長期使用は認知機能低下や転倒リスクを増加させると報告されています。

② 非ベンゾジアゼピン系(ゾルピデムなど)

  • 効果 より短時間作用型で、眠りにつきやすくする。
  • リスク 筋弛緩作用は少ないものの、夜間のふらつきや起床後のめまいが見られることがあります。

③ メラトニン受容体作動薬

  • 効果 比較的安全で、転倒リスクは少ない。
  • 注意点 効果がマイルドであるため、高齢者の睡眠障害には十分でない場合があります。

3. その他の薬剤が歩行とバランスに及ぼす影響

金子先生:
「睡眠導入薬だけでなく、他の薬剤も転倒リスクに関与します。」

① 降圧薬(特に利尿薬やα遮断薬)

  • メカニズム 起立性低血圧を引き起こし、立ち上がり時や歩行開始時のふらつきを助長します。
  • 臨床例 朝食後すぐに転倒する患者が多いのは、降圧薬が影響している場合が多いです。

② 抗うつ薬

  • リスク 三環系抗うつ薬やSSRIは、セロトニン系を介して筋弛緩や平衡感覚の障害を引き起こす可能性があります。
  • 研究 特に新規開始直後の転倒リスクが高いとされています。

③ 抗てんかん薬

  • メカニズム 中枢神経系への作用で眠気や筋力低下を引き起こします。
  • ガバペンチンのような薬剤は、神経障害性疼痛の治療に使われますが、ふらつきを訴える患者が少なくありません。

④ 抗精神病薬

  • 注意点 特に定型抗精神病薬は筋固縮やパーキンソニズムを引き起こし、バランスを崩しやすくします。

4. 高齢者の薬物代謝の特性とリスク増大のメカニズム

金子先生:
「なぜ高齢者がこれほど薬剤の影響を受けやすいのか、基礎的な部分を説明しましょう。」

  • 代謝の遅延 肝臓の代謝酵素活性が低下するため、薬剤の血中濃度が高まりやすい。
  • 腎排泄の低下 腎機能の低下により、薬剤が体内に蓄積。
  • 多剤併用(ポリファーマシー) 複数の薬剤の相互作用が転倒リスクをさらに高める。

5. 臨床現場での評価と対策

① 評価のポイント

  • 薬剤使用歴の確認 患者が服用しているすべての薬剤を把握する。
  • 歩行・バランスの観察 起立時や歩行時のふらつきを評価。
  • フレイルやサルコペニアの評価 筋力低下が薬剤の影響を受けやすくする。

② 対策

  • 薬剤調整 医師と連携し、必要に応じて薬剤の種類や投与量を見直す。
  • 理学療法 バランストレーニングや筋力強化。
  • 環境調整 転倒を防ぐための住環境の安全確保。
6. ケーススタディ:Aさん(85歳、女性)の事例

金子先生:
「最後に、具体的な事例を検討しましょう。」

  • 背景 Aさんは不眠症の治療のためにゾルピデムを服用中。最近、夜間トイレに行く際に転倒し、大腿骨頸部骨折を起こした。
  • 評価 夜間ふらつきの原因として、睡眠導入薬の影響が疑われた。さらに、利尿薬による夜間頻尿も影響。
  • 対応 医師と相談の上、薬剤をメラトニン受容体作動薬に変更し、環境調整を実施。また、昼間の活動量を増やす理学療法を行った。

7. まとめ

金子先生:
「高齢者における薬剤の影響は多岐にわたりますが、転倒リスクの軽減には薬剤の種類や投与量を適切に調整することが重要です。丸山さんも、薬剤とリハビリの関係性を十分理解し、臨床に活かしてください。」

丸山さん:
「はい、薬剤の影響を考慮したアプローチを学べて非常に参考になりました!」

論文内容

タイトル

●睡眠薬服用時は転倒に気をつけて!夜間中途覚醒とバランス・認知機能との関係性

●原著はInfluence of Zolpidem and Sleep Inertia on Balance and Cognition During Nighttime Awakening: A Randomized Placebo-Controlled Trialこちら

なぜこの論文を読もうと思ったのか?

●睡眠障害や睡眠導入剤を使用されている患者は多い印象である。「寝るときの薬を変えたらふらふらする」との声を聞くときもある。実際、夜間のバランス状態・睡眠導入剤服用時のバランス機能はどう変化するのか気になり本論文に至る。

内 容

背景

●ゾルピデム(睡眠導入剤)の使用有無に関わらず、睡眠慣性(一過性のぼーっとした状態)が、歩行の安定性と認知を損なうか調査した。

方法

●予定睡眠の10分前に5ミリグラムのゾルピデムを服用する群とプラセボ群に分けた。

●2時間後にコンピュータ化されたパフォーマンス課題を使用して測定された。課題はつぎ足歩行と認知機能テスト(数学的な作業記憶・Stroop干渉課題)であった。

●参加者は就寝前の約160、90、60、および45分前に認知テストを4回行い、最後の2つのテストの平均を就寝前のベースラインとして使用しました。ゾルピデムと睡眠慣性の影響は夜の前半で最大になる可能性があり、参加者は予定された睡眠の110分後にテストされました。参加者は、まずつぎ足歩行のために用意された梁の端で5秒静止してから約5mつぎ足歩行を行うように指示されました。バランスは目を覚ましてから約1、15、および30分後にテストされ、認知機能はベッドで目を覚ましてから約6、20、および35分後にテストされました。

結果

●10回の練習試験でつぎ足歩行テストで失敗した人はいませんでした。ゾルピデムで治療された高齢者1.7人および若年者5.5人ごとに1人でタンデム歩行障害を示しました。高齢者と若年者の覚醒制御よりも、ゾルピデム服用後の認知機能は有意に低下しましたが、睡眠慣性は、若年者ではなく高齢者の認識力を著しく低下させました。

●タンデム歩行障害は転倒や股関節骨折を予測し、認知障害は安全に重要な影響を与えるため、非ベンゾジアゼピン系催眠薬の使用は、以前に認識されていたよりも健康と安全に大きな影響を与える可能性があります。

服薬状況を考慮してリハビリと自立度を調整するケーススタディ

ケース概要:80歳女性のYさん


  • 背景

    右大腿骨頸部骨折後、人工骨頭置換術を施行。術後リハビリテーション目的で入院中。認知機能は軽度の低下があり、夜間頻尿でトイレへの頻回移動が見られる。転倒歴あり。


  • 服薬状況:

    • 睡眠導入薬:ゾルピデム 5mg/日(夜間)
    • 降圧薬:アムロジピン 5mg/日
    • 利尿薬:フロセミド 20mg/日(朝)
    • 抗うつ薬:セルトラリン 50mg/日(朝)

1. 初期評価

(1) リハビリ開始時の状態
  • 運動能力:
    ・起立時にふらつきあり。杖歩行は可能だが、夜間や夕方に特にバランスが悪くなる。
    ・歩行速度低下(TUG:22秒)。
  • バランス機能:
    ・Bergバランススケール:38点/56点(中等度の転倒リスク)。
  • 病棟での自立度:
    ・トイレ移動は夜間看護師ナースコール。日中は介助で対応。
(2) 服薬状況が示唆するリスクの分析
  • 夜間ふらつきの要因:
    ゾルピデム(短時間作用型睡眠導入薬)による筋弛緩作用とめまい。
  • トイレ頻回の背景:
    利尿薬(フロセミド)が夜間頻尿を誘発。
  • 血圧低下リスク:
    降圧薬と利尿薬の併用により、起立性低血圧が生じている可能性。

2. 理学療法士の介入計画

(1) 服薬状況に合わせたリハビリ計画
  1. 転倒リスク低減のためのバランストレーニング:
    • 平行棒内での重心移動訓練や継足・片脚立位。
    • 動的バランスを鍛えるためのステッピングエクササイズ。
  2. 起立性低血圧への対応:
    • リハビリ時の起立動作で、起立前の数秒間静止を促し、急激な血圧低下を防ぐ。
    • 圧迫ストッキングの使用を提案。
  3. 夜間頻尿によるトイレ移動への対策:
    • トイレまでの動線で障害物を排除。
    • 歩行補助具(歩行器)の導入と使用練習。
(2) 看護師との連携
  • 夜間に転倒リスクが高まる時間帯について、看護師と情報を共有し、夜間トイレ移動時は見守り介助を実施。
  • 水分摂取時間を日中に集中させるよう指導。

3. 介入の進行過程と成果

(1) リハビリ経過
  • 1週間目:
    リハビリ開始直後、夜間トイレ移動中のふらつきが改善されず、看護師から夜間介助の依頼が増加。理学療法士が夕方のリハビリ負荷を調整(夕方の疲労軽減を目的とし、負荷を軽くしたバランストレーニングを実施)。
  • 2週間目:
    TUGが20秒に改善。トイレまでの動線歩行を集中訓練し、転倒リスクが減少。利尿薬について医師に相談し、朝のみに調整して頂く。
  • 4週間目:
    バランススケールが42点に改善。看護師の見守りが不要となり、患者は夜間自立してトイレ移動可能に。
(2) 病棟での自立度評価
  • 夜間トイレ移動の独立性が向上し、転倒リスクが低下。
  • 看護師からも、夜間の負担軽減が報告される。

4. 考察とポイント

(1) 理学療法士が服薬状況を考慮する重要性

  • 高齢患者は薬剤の影響を受けやすく、リハビリ計画はそれを反映する必要があります。特に、夜間頻尿を引き起こす利尿薬や筋力・バランスに影響を与える睡眠薬は、リハビリや病棟での自立支援計画に直接的に関係します。

(2) チーム医療の重要性

  • 理学療法士が患者の服薬状況を理解し、医師や看護師と連携することで、患者に最適なリハビリ計画と薬物療法の調整を提案できます。

(3) 教訓

  • 服薬に起因するふらつきや転倒リスクは、薬剤調整だけではなく、理学療法の工夫や環境調整で補完的に対応できます。特に高齢者では、小さな介入の積み重ねが大きな成果を生むことが多いです。

新人療法士が患者の服薬状況を見て自立度を調整するポイント

新人療法士が患者の服薬状況を考慮しながら自立度を調整する際の追加のポイントを以下に挙げます。これらは、リハビリ計画に服薬の影響を反映し、患者の安全性と効果的な介入を保証するために役立ちます。

1. 薬剤の半減期を理解する

  • 半減期が長い薬剤(例:ベンゾジアゼピン系)は、日中でもふらつきや疲労感を残す可能性があります。そのため、リハビリのスケジュールは患者の最も覚醒している時間帯に設定します。

2. 薬物の相互作用を考慮する

  • 患者が複数の薬剤を服用している場合、それらが筋力低下、注意力の散漫、低血圧などを引き起こす相互作用がないか確認し、必要なら医師に相談します。

3. 副作用の時間帯を記録する

  • 例えば、降圧薬の服用後にふらつきが増える場合や、鎮痛薬の服用直後に活動性が低下する場合があります。副作用の発現時間を記録して、リハビリの内容を調整します。

4. 起立性低血圧の確認

  • 降圧薬や利尿薬を服用している患者は、起立時に血圧が急激に低下する可能性があります。起立時には段階的に姿勢を変える練習を取り入れます。

5. 薬剤の服用スケジュールの調整提案

  • 夜間トイレが頻回な患者に対して、利尿薬の服用時間を朝に調整するなど、薬剤スケジュールの変更を医師に提案することで患者の自立度を高める支援ができます。

6. 筋弛緩作用の影響を考える

  • 抗不安薬や睡眠導入薬は筋力低下を引き起こすことがあります。この影響を考慮し、筋力トレーニングを併用しながら安全に運動を進めます。

7. 日内変動に合わせたプログラム設定

  • 抗うつ薬や抗てんかん薬などが原因で注意力や集中力が低下する場合は、患者のパフォーマンスが最も良い時間帯を特定して、リハビリをその時間に実施します。

8. 薬剤による感覚障害の影響

  • 例えば、化学療法や糖尿病治療薬の影響で末梢神経障害がある場合、感覚情報を補完するトレーニング(視覚や触覚への依存)を導入します。

9. 薬剤の服用忘れや自己調整を防ぐ指導

  • 一部の患者は、薬の服用を忘れたり勝手に量を調整することがあります。これがリハビリ計画に影響を及ぼす可能性があるため、服薬の重要性を指導します。

10. 定期的な服薬状況のモニタリング

  • リハビリ進行中も患者の服薬状況を定期的に確認し、症状の変化や新たな副作用の兆候がないか評価します。これには、患者本人だけでなく看護師や医師と密に連携することが必要です。

これらのポイントを押さえることで、新人療法士が患者の服薬状況に基づいて適切なリハビリ計画を立て、自立度を安全かつ効果的に高める手助けができます。

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