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【2024年最新】運動学習のステージと効果的なフィードバック方法:脳卒中リハビリにおける段階的アプローチの重要性

運動学習:意識的な制御とパフォーマンス低下

リハビリテーション医の金子先生と療法士の丸山さんは、あるリハビリテーションの症例について話し合っています。患者が動作を「意識しすぎる」と、動きがぎこちなくなり、かえってバランスを崩したり、スムーズに歩けなくなってしまうとのことです。丸山さんは、意識的に指導することと、無意識の自然な動きとの関係について質問しました。

1. 脳科学的な視点:意識的な運動制御と脳内のメカニズム

金子先生 「意識的に動作を制御しようとすることでパフォーマンスが低下する理由の一つに、脳内の前頭前野(PFC)と大脳基底核の役割があるんだ。前頭前野は意識的な制御を行い、特に新しい動作や難しい動作の際に活性化する。例えば、まだ慣れていない動作を覚える段階では、前頭前野が細かく制御を行うために重要なんだ。

しかし、動作が熟練してくると、大脳基底核が中心となり、半自動的な制御が行われるようになる。ここで、動作を頭で意識しすぎると、前頭前野の過剰な介入が起こり、スムーズな動きが阻害される。」

丸山さん 「なるほど、つまり、動作がうまくいかなくなるというのは、前頭前野が余計に働きすぎているからなんですね。」

金子先生  「そうだね。特に、脳卒中後や運動機能に障害を抱える患者では、前頭前野の過活動がかえって動作のぎこちなさや不安定性を引き起こすことがある。無意識的に動作ができるようになると、脳の負担が減り、パフォーマンスが向上することが多いんだ。」

2. 運動学習における段階と意識の移行

金子先生 「動作の習得には、運動学習の3段階モデルが役立つよ。Fitts and Posnerの3段階モデルというのが有名なんだ。最初は『認知段階』で、動作をどう行うか意識的に確認しながら学ぶ段階。次に『連合段階』で、少しずつ無意識に近づく。最後に『自動段階』で、ほとんど意識しなくても動作を遂行できるようになる。リハビリでも、患者が自動段階に移行できるように支援することが重要だ。」

丸山さん 「自動段階に入ることで、動作が自然になりやすいんですね。」

金子先生  「そう。患者が過度に意識すると、連合段階や自動段階に移行するのが難しくなるんだ。動作に集中しすぎることで前頭前野が働きすぎ、緊張状態になってしまう。」

3. 意識的な制御がバランスと歩行機能に与える影響

金子先生  「バランスや歩行のような複雑な動作では、過度な意識が問題になることがある。バランスを取る際の姿勢制御には、前庭系視覚系体性感覚系が関わっているけれど、意識的にそれぞれをコントロールしようとすると、情報処理が遅れ、身体の反応が遅くなるんだ。」

丸山さん 「ということは、リハビリでの指導も、あまり意識させずに自然な形で動作を行わせることが大事なんですね。」

金子先生 「その通り。特に歩行リハビリなどでは、患者が“歩こう、歩こう”と頭で考えすぎると、かえってバランスが崩れることがある。動作が遅くなるだけでなく、転倒リスクが増えることもあるんだ。」

4. 臨床でのアプローチ:意識を軽減するリハビリテーション手法

金子先生 「そこで役立つのが、外的焦点(external focus)を使う方法なんだ。患者が“足をこう出して…”など動作そのものを意識するのではなく、例えば“目の前のターゲットに向かって足を出す”といった形で目的を意識させる。これにより前頭前野の介入が少なくなり、大脳基底核や小脳が効率的に動作を制御できる。」

丸山さん 「ターゲットを意識させることで、動作が自然になるんですね!」

金子先生 「その通り。また、フィードバックを工夫するのもポイントだ。例えば、動作を行った結果を評価する形でポジティブなフィードバックを与えると、患者は動作を過度に意識せずに済むようになる。」

5. 具体的なリハビリ実践例

金子先生  「例えば、バランス機能改善のためのリハビリでは、動作を分解せず、全体の動作として繰り返すように指導すると効果的だ。患者が歩行訓練をする際に、“足を一歩出して…”と細かく指示するよりも、リズムに合わせて全体の流れを意識させる方が良い。」

丸山さん 「歩行をリズムに乗せて行わせることで、動作全体の流れが良くなるんですね。」

金子先生 「その通り。また、環境設定も重要だ。患者が意識しやすい環境ではなく、あえて自然な流れを感じやすい環境(例えばリズム音やBGMを使用したり、自然の中での歩行訓練など)を選ぶことで、動作がスムーズになることがある。」

6. 研究の知見とエビデンス

金子先生  「実際の研究でも、意識的な制御が過剰になるとパフォーマンスが低下することが示されている。ある研究では、内的焦点よりも外的焦点を用いたほうが動作の速度や安定性が改善するという結果が出ている。特に高齢者や脳卒中患者のリハビリで、無意識的に動作を行えるような支援が推奨されているんだ。」

まとめ:実践への応用

金子先生  「丸山さん、今日のポイントをまとめると、患者に意識的な指導を行いすぎると、かえって動作が阻害されることがある。そのため、外的焦点や環境設定を工夫し、自然な動作を引き出すアプローチが重要だということだね。」

丸山さん 「ありがとうございます。患者が無理なく自然に動けるようなリハビリを心がけます。」

金子先生  「そうだね。意識を軽減し、リハビリを進めていくことで、患者の回復を支援していこう。」

このアプローチを実践に応用することで、患者がより自然な形でバランス機能を向上させられるようになります。

論文内容

カテゴリー

神経系

タイトル

●頭の使いすぎ?脳卒中患者の運動学習の方法の違いがバランスに及ぼす影響

●原著はMotor Learning of a Dynamic Balancing Task After Stroke: Implicit Implications for Stroke Rehabilitationこちら

なぜこの論文を読もうと思ったのか?

●特に脳卒中患者においては重症度・高次脳・認知面の差が大きく運動学習を進めるにあたっての手法に悩むことが多い。様々な運動学習を学ぶことで引き出しを増やそうと思い本論文に至る。

内 容

背景

●脳卒中後、しばしば自分の行動を意識的に制御しようとするが、これは逆に運動の再学習を阻害し(同時の認知課題負荷による)最適なパフォーマンスを混乱させる可能性がある。

●頭で考える事を最小限に抑える学習戦略は、意識的に運動行動を制御する試みを回避し、それによってより良いパフォーマンスをもたらす可能性があります。この研究の目的は、2つの運動学習戦略(エラーレス学習と発見学習)の1つを使用して、脳卒中後の動的バランス作業の暗黙の学習の効果を検討することでした。

●補足:誤りをさせない学習法(エラーレス学習)とは,いったん間違えると誤反応が残り,修正が難しいという特性から,新しいことを記憶する場合に誤反応を避け,最初から正反応を導く方法である。一方、発見学習とは,問題解決の方法を指導者が明示するのではなく,学習者自身が主体的に考えながら発見することを目指す学習方法である。

方法

●脳卒中後の成人10人と同年齢の高齢者12人が、重心動揺計(左右に傾く)上で単一課題(バランスのみ)および同時処理課題の条件下で動的バランス課題を練習しました。脳卒中および対照群の参加者は、4つの群のうちの1つにランダムに割り当てられました。エラーレス学習は重心動揺計が傾かない、発見学習は重心動揺計を水平に保つようにしなければならない。

(1)エラーレス学習脳卒中グループ

(2)エラーレス学習コントロールグループ

(3)発見学習脳卒中グループ

(4)発見学習コントロールグループ

重心動揺計を用いてバランスパフォーマンスを評価しました。

結果

● 脳卒中後の発見学習者(明示的)のバランスのパフォーマンスは、同時認知課題負荷によって損なわれました。 対照的に、エラーレス学習者と発見学習のコントロール群のパフォーマンスは損なわれませんでした。

●リハビリ中の明示的な情報の提供は、脳卒中の一部の人々の運動能力の学習/再学習および実行に有害である可能性があります。リハビリテーションの設定で暗黙の運動学習技術を適用すると有益な場合があります。

運動学習の臨床応用

意識を軽減しながら動作の改善を促進するリハビリテーション手法として、「外的焦点」を活用するアプローチについて、具体的な手順と臨床での応用方法を詳しく解説します。

1. 外的焦点を用いたリハビリテーションの流れ

目的:患者が動作そのものに意識を集中させず、動作結果に注意を向けることで、自然でスムーズな動作の学習を促進する。

2. リハビリテーションの準備

① ターゲット設定

  • ターゲット物の準備:適切な位置に視覚的なターゲットを置きます。たとえば、床に置いたマーカーや、向かうべき視線のターゲット(目の前の壁に付箋など)を設定します。
  • 動作の意図を伝える:患者に、ターゲットを目指して動作するよう伝えます。この際、具体的にどこまで足を伸ばすか、どの位置に手を出すかといった「目的」に焦点を合わせて説明します。

3. 実施手順

(1) ターゲットに向かって動作を行う指示

  • 足の運びや手の位置に外的焦点を設ける
    患者に「右足をこの目印に向かって出してください」「手をこちらのボールに向けて伸ばしましょう」と指示します。
    ポイント:細かい動作(足の角度や膝の伸展)を意識させないようにするため、「出す動作そのもの」を指示せず、目標に意識を向けさせます。
  • リズムを使う場合:歩行訓練であれば、「このメトロノームに合わせて、目の前のターゲットに向かって一歩ずつ進みましょう」と指導します。患者がリズムに乗ることで、意識を動作から引き離し、動作が自動化しやすくなります。

(2) 動作結果のフィードバック

  • フィードバックの工夫
    動作結果に対するフィードバックを行います。例えば、動作のスムーズさやタイミング、ターゲットへの到達度について、「今のステップはリズムに乗っていましたね」「良いペースで目標に近づいています」と評価します。
    • 「動作そのもの」よりも、「結果」や「進歩」を評価することで、患者が動作を意識しすぎずに済むようサポートします。
  • ポジティブフィードバック:動作が改善した際には必ず具体的な評価を伝えます。「今の動きはスムーズでしたね」や「ターゲットに近づいていますね」といったポジティブな言葉で、患者の動作への自信を高めます。

4. 進行中のアプローチ改善

(1) 環境設定の工夫

  • 環境に合わせた外的焦点の調整
    患者がリハビリ室で行う場合と、屋外歩行訓練を行う場合では、ターゲットの位置や目標物の選定を調整します。
    例)屋外訓練では、遠くの建物やベンチなどを目標に設定し、目的地に向かって歩行する練習を行います。
  • 身体の一部を意識させない
    患者が無意識に体の一部を気にしている場合は、視覚的ターゲットを目に入れやすい位置に調整し、身体の動きを意識させずに目標だけを意識できるよう環境を整えます。

(2) 自動化の段階を意識する

  • 患者が動作に慣れてきたら、少しずつ指示を減らし、患者自身が自然な動作でターゲットに到達できるようにします。
  • 自動化段階に進む際には、動作のスムーズさや流れが自然に改善されていることを確認しつつ、評価フィードバックを行います。

5. 動作結果の分析と次のステップ

  • 到達度評価:患者が目標にどの程度到達できているか、またその過程で動作がスムーズであるかを観察します。ターゲットへの到達がスムーズであれば次の段階へ、ぎこちなさが残る場合はフィードバックを活用して、再度調整します。
  • 評価記録:患者の進歩を記録し、達成度や動作の改善点をデータとして蓄積します。

新人療法士が運動学習におけるフィードバックを効率的に行うポイント

新人療法士がリハビリ中にフィードバックを効果的に行うためには、患者の脳機能を活用し、動作の自動化や学習を促進するポイントを意識することが重要です。以下に脳科学的視点を踏まえた具体的なフィードバックの方法を示します。

1. ポジティブフィードバックで報酬系を活用する

  • 報酬系(大脳基底核、特に側坐核)は、達成感や喜びを感じたときに活性化し、ドーパミンが分泌され、学習のモチベーションを高めます。
  • 実践方法:患者が目標を達成したり進歩したときは、「よくできました」「素晴らしい進歩です」と具体的にポジティブなフィードバックをします。このようなフィードバックが報酬系を刺激し、次の動作への意欲と学習効率が上がります。

2. 外的焦点(external focus)を使って意識を動作の「結果」に向ける

  • 前頭前野が過剰に働きすぎると動作の自動化が妨げられるため、外的焦点(結果)に意識を向けることで、小脳大脳基底核が自然な動作制御を担えるようにします。
  • 実践方法:患者が「足をまっすぐ出す」という具体的な動作そのものではなく、「目の前のマーカーに足を出してみましょう」と目標の達成に意識を向けさせるフィードバックを行います。動作の成否ではなく目標達成に意識を向けることで、前頭前野の介入を減らし、動作がよりスムーズに自動化されます。

3. 適切なタイミングでのフィードバックを行う

  • 運動前頭野小脳の学習プロセスをサポートするためには、動作後の即時フィードバックが効果的です。しかし、動作の修正が必要なときにはやや遅延フィードバックも効果的とされます。
  • 実践方法:動作の結果を評価する場合はすぐにフィードバックを行い、患者に成功を認識させます。修正が必要なときは、少し間を置いて「次回はこうしてみましょう」と伝えると、患者の自発的な修正能力が引き出されます。

4. バランスのとれたフィードバックを心がける

  • ほとんどの動作学習において、ポジティブフィードバックはモチベーションの向上に効果的ですが、必要に応じて軽度の修正フィードバックも加えることで動作の改善を促します。
  • 実践方法:ポジティブフィードバックが全体の80%程度になるよう心がけ、残り20%で改善が必要なポイントを指摘するのがバランスの良いフィードバックです。患者が成功体験を持ちつつも、必要な修正点を学べる環境を整えます。

5. 自己フィードバックを引き出す

  • 自己認識の強化は運動学習において重要で、自己評価が大脳基底核や小脳の活動を高めます。
  • 実践方法:患者が動作を終えた後に「今の動きはどう感じましたか?」「どこに注意が向いていましたか?」と質問を投げかけることで、自己評価を促します。自分で感じた改善点や達成感がモチベーションをさらに高め、次の目標への意欲に繋がります。

6. 観察フィードバックを活用する

  • 患者が他者の動作を観察すると、ミラーニューロンが活性化し、動作の模倣や学習が促進されます。
  • 実践方法:同じリハビリ動作を行う他の患者を観察させたり、実演を見せたりすることで、動作のイメージを構築させます。その後に「この動きを真似してみましょう」と伝えることで、患者が自然に動作のコツを掴む手助けをします。

7. 進歩の記録を見せる

  • 視覚情報処理は学習に効果的です。患者が自己の進歩を視覚的に確認することで、報酬系と結びつきます。
  • 実践方法:患者の進歩や成果をグラフやメモなどで可視化し、「前回よりも少し上手になりましたね」と一緒に確認します。患者が自分の成長を認識できるようにすることで、次の挑戦への意欲が増します。

8. 感覚フィードバックを活用する

  • 触覚や圧覚などの感覚フィードバックは、小脳の運動制御にとって重要です。リハビリ中に感覚フィードバックを行うことで、動作のスムーズさが増します。
  • 実践方法:例えば、患者が歩行訓練中であれば、軽く背中を押したり、体幹を支えることで適切な位置を実感させ、自然な動作を促進します。

9. ペーシングを尊重する

  • 運動学習には個人差があり、ペースに合わせたフィードバックを行うことが脳の効率的な学習に繋がります。
  • 実践方法:患者の反応を見ながら、フィードバックの頻度や量を調整します。例えば、反応が鈍い患者には多めにフィードバックを行い、反応が良い患者には少なめにし、患者自身が試行錯誤できる余裕を持たせます。

10. 一貫性のあるフィードバックを行う

  • 前頭前野は習慣の形成に関与します。繰り返し一貫したフィードバックを受けると、習慣化が促進されます。
  • 実践方法:同じ動作に対して毎回同じ評価方法やコメントを使用し、患者がフィードバックを理解しやすくすることで、動作の習慣化を促進します。

このように、脳科学的視点から各種フィードバック手法を活用することで、患者の動作学習を効果的に促進し、モチベーションを高めることが可能です。

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