握力と筋力の関係性とは?握力測定の方法・コツまで解説【2024年版】脳卒中リハビリ論文サマリー
論文を読む前に
論文を読む前に、講義形式で握力と全身の筋力の関係性について学んでいきます。
講義内容: 握力と全身の筋力の関係性について
研修室で、新人療法士の丸山さんが金子先生から講義を受けています。今日のテーマは、握力の値と全身の筋力の関係性についてです。
金子先生:
「さて、丸山さん、今日は握力と全身の筋力の関係についてお話ししましょう。このテーマは、リハビリテーションにおいて非常に重要です。特に脳卒中患者の全身の筋力を評価する際に、握力が一つの指標として使われることが多いです。」
丸山さん:
「握力が全身の筋力と関係しているんですね。それについて詳しく知りたいです。」
金子先生:
「そうですね。握力は単に手の力を測るものと思われがちですが、実は全身の筋力とも深い関係があります。いくつかの研究によれば、握力は全身の筋肉量や筋力を反映する指標として非常に有効だとされています。」
丸山さん:
「具体的にどのような研究があるのでしょうか?」
金子先生:
「例えば、ある研究では、高齢者を対象に握力と他の全身の筋力(例えば脚や背中の筋力)との相関を調べました。その結果、握力が強い人は他の筋肉群の筋力も強い傾向があることが示されました 。このことは、握力が全身の筋力や健康状態の簡易的な指標として利用できる可能性があることを示唆しています。」
丸山さん:
「なるほど。それはリハビリの現場でも有用ですね。」
金子先生:
「そうです。さらに、別の研究では、握力の値が低いことが将来の機能障害のリスクや転倒リスクの増加と関連していることも示されています 。つまり、握力が低い患者は、全身の筋力も低下している可能性が高く、その結果、日常生活での機能的な問題が生じるリスクが高まるということです。」
丸山さん:
「それなら、握力の評価を通じて、患者の全身の筋力をある程度予測することができるということですね。」
金子先生:
「その通りです。握力の評価は簡便で時間もかからないため、患者の全身の筋力状態を把握する初期評価として非常に有用です。特に脳卒中患者では、片麻痺などによって全身の筋力が低下しやすいため、握力の測定をリハビリテーションのプログラムに組み込むことが推奨されます。」
丸山さん:
「具体的にはどのように測定するのが良いでしょうか?」
金子先生:
「握力を測定する際は、患者がリラックスした状態で座り、肘を90度に曲げた位置でダイナモメーターを握ってもらいます。そして、患者にできるだけ強く握ってもらうんです。この測定を3回行い、その平均値を取ります。また、利き手と非利き手の両方を測定し、片麻痺の場合は健側と麻痺側の比較も行います。」
丸山さん:
「それは簡単に実施できそうですね。でも、全身の筋力を強化するために、握力をどう活かせば良いのでしょうか?」
金子先生:
「握力の強化自体が全身の筋力強化につながるわけではありませんが、握力の低下が全身の筋力低下の一つのサインであることを考えると、握力トレーニングをリハビリに取り入れるのも一つの方法です。例えば、ハンドグリップを使ったトレーニングや、日常生活での手を使う活動を増やすことが有効です。こうしたトレーニングを通じて、握力とともに上肢の筋力も向上し、それがさらに全身の筋力向上に寄与することが期待できます。」
丸山さん:
「了解しました。握力の評価を通じて全身の筋力状態を把握し、それに基づいてリハビリ計画を立てるという流れですね。」
金子先生:
「そうです。また、握力の低下を見逃さないことが重要です。特に脳卒中患者の場合、握力が急激に低下することは全身の筋力低下のサインである可能性が高いので、早期に適切なリハビリテーション介入を行うことが求められます。」
丸山さん:
「今日の講義で握力の重要性を改めて理解しました。これからのリハビリテーションでの評価と介入に役立てていきます。」
金子先生:
「その意気です。どんな些細なことでも気になることがあれば、すぐに相談してくださいね。患者さん一人ひとりに最適なリハビリテーションを提供することが私たちの使命ですから。」
論文内容
カテゴリー
タイトル
●地域在住の高齢者における握力と全身の筋力との関係性とは?
●原著はRelationship Between Grip Strength and Global Muscle Strength in Community-Dwelling Older Peopleこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●定期的に握力を測る機会があるが、概ね下肢の左右差と比例しているような印象がある。どの程度相関があるのか学ぶべく本論文に至る。
内 容
背景
●高齢者の握力と全身の筋力の関連については相関する結果があります。したがって、本研究の目的は、握力と全体的な筋力の間、および握力と個々の体幹、股関節、膝、および足関節の筋力間の関連を決定することでした。
方法
●150人の平均年齢68歳の男女において手動筋力計および等速性筋力計による体幹、股関節、膝、足関節の筋力を評価し、それと握力の関係を評価しました。握力と全体的な筋間、および握力の強さと各筋間の関連はピアソンの積率相関分析によって決定され、その後性別、年齢、BMI、身体活動レベルおよび併存症の数を調整した多変量線形回帰を用いて関係性を評価した。
結果
●高齢者の握力と全体的な筋力間に正の有意な関連が見られた。すべての筋群と握力の間には低から中程度の関連があった。ただし、性別、年齢、BMI、身体活動のレベル、および併存症の数を調整すると関連性がなくなったため、体幹と下肢の特定の筋力を表すために握力を臨床使用することは慎重に行う必要があります。
●モデルを調整すると、握力と足関節背屈筋のピークトルクの関係は有意性を失いました。
明日への臨床アイデア
論文からも握力の評価は、全身的な筋力評価の一環として非常に有用といえます。握力は、全身の筋力の指標として広く利用されており、その結果はリハビリテーションの進行状況を評価するための重要なデータとなります。
以下に、握力評価を通じて脳卒中患者の全身的な筋力評価を行う際の臨床応用的なアドバイスを具体的に示したいと思います。
1. 握力評価の定期的な実施
握力を定期的に評価することで、患者の筋力の変化をモニタリングできます。脳卒中後の回復過程を把握するために、週ごとや月ごとに握力を測定し、データを記録することを推奨します。これにより、リハビリの効果を客観的に評価することが可能となります。
2. 両手の握力を評価
脳卒中患者では、麻痺側の筋力低下だけでなく、非麻痺側も筋力が低下することがあります。したがって、両手の握力を評価し、その差異を確認することが重要です。これにより、非麻痺側の筋力維持のための対策も考慮することができます。
3. 握力の対側比較
麻痺側の握力を非麻痺側の握力と比較することで、麻痺の程度や筋力の不均衡を評価できます。この比較は、麻痺側の筋力回復を目標にしたリハビリプログラムを作成する際に有用です。
4. 握力と他の身体機能の関連性の評価
握力は、他の身体機能(例えば、歩行能力や立ち上がり動作)と相関することが多いです。握力の低下が見られた場合、全身的な筋力やバランス機能にも影響が及んでいる可能性があるため、全体的な機能評価を行うことが重要です。
5. 握力測定の標準化
握力の評価は、一定の条件下で行うことが重要です。患者の姿勢(座位や立位)、測定器具の使用方法、測定回数などを統一することで、信頼性の高いデータを得ることができます。また、患者が力を入れる時間や力の出し方も指示し、安定した評価ができるようにしましょう。
6. 筋力トレーニングの指標としての利用
握力の測定結果を基に、患者に対する筋力トレーニングの強度や内容を調整することができます。握力が改善されれば、トレーニングの効果が確認でき、患者のモチベーション向上にもつながります。
7.その他の評価との組み合わせ
握力評価だけでなく、他の評価(バランス評価、歩行評価、関節可動域評価など)も併用することで、総合的な全身的筋力評価が可能となります。これにより、リハビリテーションの全体像を把握し、より効果的な介入が可能となります。
新人療法士が握力評価をする際のポイント
脳卒中患者の握力評価を行う際には、以下のポイントを注意して実施しましょう。
脳卒中患者の握力評価のポイント
リラックスした姿勢を確認する
患者がリラックスした状態で評価を受けられるよう、座位や肘の位置、肩の安定性を確保します。リラックスしていないと正確な評価ができません。
標準的な握力計を使用する
握力を測定する際には、標準的なダイナモメーターを使用します。これにより、測定値の一貫性と信頼性を保ちます。
複数回の測定を行い、平均値を取る
握力は3回の測定を行い、その平均値を計算します。複数回の測定で測定誤差を減らし、信頼性の高い評価が可能になります。
利き手と麻痺側の比較をする
利き手と非麻痺側(健側)、麻痺側の握力をそれぞれ測定し、左右の握力差を確認します。脳卒中患者では麻痺側の筋力低下が顕著であるため、左右差の把握が重要です。
患者の疲労度を考慮する
脳卒中患者は疲労しやすいため、握力測定の前に十分な休息をとらせることが重要です。疲労があると正確な測定が難しくなります。
患者に理解しやすい説明をする
評価の目的や測定方法を患者にわかりやすく説明し、協力を得ることが大切です。理解と納得があることで、患者は測定に積極的に参加しやすくなります。
疼痛の有無を確認する
測定時に痛みがあると、正確な握力が測定できない可能性があります。痛みの有無を事前に確認し、痛みがある場合は無理に測定を行わないようにします。
握力の変動に注意する
測定値の変動が大きい場合、患者の状態や測定方法に問題がある可能性があります。変動が大きいときは測定方法を見直し、適切な評価が行われているか確認しましょう。
定期的な評価を実施する
握力の評価は一度だけでなく、リハビリテーションの進行に応じて定期的に行いましょう。これにより、患者の回復状況を客観的に把握し、リハビリテーション計画の見直しに役立てることができます。
これらのポイントを守ることで、脳卒中患者の握力評価を正確かつ効果的に行うことができます。評価結果を基に、適切なリハビリテーションプログラムを提供しましょう。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)