【2024年最新版】振動刺激で改善!脳卒中患者の痙縮・高緊張に効果的なアプローチとおすすめ市販マッサージャーの選び方
論文を読む前に
リハビリテーション医の金子先生は、脳卒中後の片麻痺患者に見られる痙縮や高緊張の治療について、新人療法士の丸山さんに話しかけます。
金子先生:「丸山さん、今日は市販のマッサージャーを使った振動刺激のリハビリについて話していこうか。この方法は、脳卒中患者の痙縮や高緊張を改善するのに使えるよ。特に振動刺激は、神経系の活動に影響を与えることが知られているんだ。」
振動刺激のメカニズムと神経回路の影響
金子先生:「まず、振動刺激が脳や神経系にどのように作用するかを理解することが重要だ。振動刺激は、筋肉に直接作用するだけでなく、脊髄や脳の神経回路にも影響を与える。これにはIa抑制性介在ニューロンやIb抑制性介在ニューロン、そして上位中枢の皮質脊髄路が関わっているんだ。」
丸山さん:「Ia抑制性介在ニューロンというと、伸張反射の抑制を行うニューロンですよね。これが振動刺激によって活性化するのでしょうか?」
金子先生:「その通り。振動刺激はIa抑制性介在ニューロンの活動を促進し、過剰な伸張反射を抑えることができるんだ。これが痙縮の緩和に繋がる。そして、振動によって筋紡錘の感覚受容器が刺激され、これが脊髄を通じて大脳皮質に信号を送る。この信号は、皮質脊髄路を介して痙縮を引き起こす異常な興奮を抑制するんだ。」
市販のマッサージャーを用いたアプローチ
金子先生:「市販のマッサージャーを使った振動刺激は、比較的手軽に利用できるし、費用も抑えられる。重要なのは、振動周波数の選定だ。例えば、30Hzから50Hz程度の低周波振動が筋肉に作用し、痙縮や筋緊張を軽減する効果が報告されている。」
丸山さん:「なるほど。具体的には、どのように施術を進めればいいでしょうか?」
金子先生:「具体的な手順としては、まず患者の緊張が強い部位に振動刺激を行うことから始める。例えば、痙縮の強い前腕屈筋群や下肢の腓腹筋にマッサージャーを当て、10分間程度の刺激を行う。振動刺激を行う際は、筋の起始部から停止部にかけて、一定のリズムで行うことが重要だ。」
バイオメカニクス的視点からの効果
金子先生:「振動刺激による効果は、バイオメカニクス的にも説明できる。振動が筋肉や腱、関節に与える影響は、単なる筋力の向上だけでなく、固有感覚を向上させる効果があるんだ。固有感覚が改善されることで、患者は自分の体の位置や動きをより正確に把握できるようになる。」
丸山さん:「それは痙縮の抑制にどのように関与するのでしょうか?」
金子先生:「固有感覚の改善は、痙縮による不適切な筋活動パターンを修正するのに役立つんだ。振動刺激を繰り返すことで、患者の脳が正しい筋活動パターンを再学習するようになる。これは、神経可塑性を利用したリハビリのアプローチだね。」
リスク管理と患者の反応
丸山さん:「振動刺激を行う際、リスク管理はどうすれば良いでしょうか?」
金子先生:「良い質問だ。振動刺激は、患者によっては敏感に反応することがあるので、痛みや不快感がある場合はすぐに中断すること。特に、感覚過敏がある患者や、骨粗鬆症のリスクが高い患者には注意が必要だ。また、過度な振動刺激は筋疲労を引き起こす可能性があるので、セッションの時間や強度には気を配ることが重要だ。」
実際の臨床応用例
金子先生:「例えば、振動刺激を行う前後で、Modified Ashworth Scale(MAS)を使って痙縮の程度を評価することができる。事前に評価し、施術後にどの程度改善が見られるかを確認するんだ。」
丸山さん:「効果を客観的に評価できるということですね。」
金子先生:「そうだね。また、患者のADL(Activities of Daily Living)の改善も重要な指標になる。例えば、上肢の痙縮が軽減されることで、食事や着替えなどの動作がスムーズになることが期待できる。」
結論と今後の展望
金子先生:「振動刺激を用いたリハビリは、痙縮や高緊張の改善に有効な手段の一つだ。ただし、すべての患者に効果があるわけではないので、患者個別のニーズや状態に合わせたアプローチが求められる。また、振動刺激だけでなく、他の治療法との併用も考慮すべきだろう。」
丸山さん:「ありがとうございます。振動刺激の可能性とその適切な使用方法について、より理解が深まりました。」
まとめ
- 振動刺激は、Ia抑制性介在ニューロンの活動を促進し、伸張反射を抑制することで痙縮の軽減に寄与する。
- 市販のマッサージャーを用いた振動刺激は、低周波(30Hz~50Hz)が有効で、筋肉と神経系に作用する。
- バイオメカニクス的視点では、振動による固有感覚の改善が、患者の正しい筋活動パターンの再学習を促進する。
- リスク管理として、痛みや不快感がある場合は施術を中断し、感覚過敏や骨粗鬆症リスクのある患者には注意を要する。
- 振動刺激後はMASやADLの評価を行い、効果を客観的に測定する。
論文内容
タイトル
●振動刺激が脳卒中患者の大腿直筋・ヒラメ筋の過活動を抑制する!?
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●臨床で振動刺激を療法士に指導することがあり、その知識を深めるべく本論文に至る。
内 容
背景
●健常人への大腿神経刺激は、ヒラメ筋のH反射と筋電図検査(EMG)の活動を促進する可能性があります。脳卒中患者では、大腿四頭筋とヒラメ筋を結ぶ脊髄経路での伝達のそのような促進が強化され、座ったり歩いたりしている間に膝と足関節の伸筋の同時活性化が促進されてしまいます。
●健常人の大腿四頭筋への振動によってヒラメ筋のH反射促進が抑制される可能性がありますが、脳卒中患者に見られるヒラメ筋の過活動に対する振動刺激の影響はこれまで研究されていません。
●大腿神経への刺激によりヒラメ筋の過活動を引き起こした状態から大腿四頭筋の振動刺激が健常者と脳卒中患者の双方でヒラメ筋の過活動を抑制できるかどうか調査します。
方法
●大腿神経刺激によって誘発されたヒラメ筋EMG活動の変調は、10人の健常者と17人の脳卒中者の膝蓋腱の振動刺激の前、最中、後に評価された。
●健常人の大腿神経刺激は、ヒラメ筋のH反射と筋電図検査(EMG)の活動を促進する可能性があります。
結果
●自発的なヒラメ筋EMG活動は、コントロール群の4/10(40%)と脳卒中患者の11/17(65%)の大腿神経刺激によって促進されました。促進のレベルは、対照群よりも脳卒中群で大きかった。
●膝蓋腱の振動刺激は膝と足関節底屈筋の促進を減じることが出来る。これはシナプス前抑制を示唆している。脳卒中患者の膝伸筋と底屈筋の異常な筋シナジー活動を減じることが出来るかに関してはさらなる研究が必要である。
●振動は、両方のグループで初期の過活動を有意に減少させた(振動前の値の50%)。しかし、振動後のヒラメ筋促進の回復の遅れは、対照群よりも脳卒中の方が短かった。振動刺激なしでは、そのような効果は見られなかった。
●膝蓋腱の振動は、膝と足の伸筋間の過活動を減じることができます。振動が脳卒中片麻痺患者の膝と足伸筋の異常な伸展シナジー効果を減らすために使用できるかどうかを決定するために、さらなる研究が必要です。
明日への臨床アイデア
臨床の時間は限られています。有効な時間の使い方としてストレッチで時間をかけるよりは振動刺激で効果が得られるのであれば、その方が早く、他の治療に時間をかけられる可能性もある。様々な引き出しを持って、個々で選択肢しながら介入することは重要だと思われます。
脳卒中片麻痺患者に対して市販のマッサージャーを用いて振動刺激を行うことで、痙縮の軽減を図るアプローチは、比較的手軽に導入できるものの、適切な方法やリスク管理をしっかりと行う必要があります。ここでは、具体的な手順と臨床応用のポイントを以下に詳細に説明します。
振動刺激を用いた痙縮アプローチの具体的手順
1. 評価
まず、振動刺激を行う前に患者の状態を評価します。重要な評価項目としては以下が挙げられます:
- Modified Ashworth Scale(MAS):痙縮の程度を評価する標準的な指標です。
- 関節可動域(ROM):痙縮により関節の動きが制限されている部分を確認します。
- 痛みの有無:感覚過敏や痛みがないかを確認します。
- 日常生活動作(ADL)の課題:痙縮がどの動作に支障をきたしているかを把握します。
2. 振動周波数とマッサージャーの選定
市販のマッサージャーを選定しますが、30Hz~50Hzの低周波振動が筋肉に効果的です。これは、筋紡錘や神経系に適度な刺激を与え、痙縮を抑制するのに適しています。
- 周波数が高すぎると筋疲労や過度の緊張を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
- できれば、振動強度や周波数を調整できるタイプのマッサージャーを使用します。
3. 対象部位の選定
次に、振動刺激を行う筋群や部位を決定します。脳卒中片麻痺患者においては、特に以下の筋群が痙縮の傾向が強いです:
- 上肢:前腕屈筋群(特に屈筋側の痙縮)、手指屈筋群。
- 下肢:腓腹筋、ハムストリングス、足底筋群。
これらの部位に対して、振動刺激を直接行います。
4. 施術手順
- 姿勢の整え方:患者を快適な体位にします。仰臥位や座位で、振動を受ける部分に余分な緊張が入らないようにサポートクッションなどを用いることが推奨されます。
- 振動開始:まずは低い強度から始め、患者がどのように反応するかを確認します。刺激は筋の起始部から停止部に向けて一定のリズムで行います。
- 刺激の時間:一つの筋群に対して、5~10分間の振動を行います。長すぎる刺激は筋疲労や感覚の麻痺を引き起こす可能性があるため、適度な時間を守ることが重要です。
5. 振動の頻度と期間
- 頻度:1日に1~2回、週に3~4回のセッションが効果的とされています。
- 期間:振動刺激を2週間から1か月程度行い、効果を見極めます。
臨床応用のポイント
1. 振動刺激による脳科学的効果
振動刺激は、筋紡錘を介して脳に信号を送ります。この刺激は、皮質脊髄路や反射抑制回路(Ia抑制性介在ニューロン)の働きを活性化させ、過剰な筋緊張や伸張反射を抑制する効果があります。
2. 固有感覚の改善
振動刺激により、筋肉や関節の固有感覚が向上し、患者の姿勢制御や動作のスムーズさが改善します。振動は皮膚の機械受容器を刺激し、感覚神経を通じて固有感覚を再教育する役割を果たします。
3. 筋活動の調整
振動刺激が筋活動の調整に寄与します。特に、痙縮を引き起こす異常な筋活動パターンが振動により緩和され、患者がより自然な動作を取り戻すことが期待されます。
4. 機能的リハビリテーションと振動刺激の併用
振動刺激を行った後、すぐに機能的なリハビリテーションを行うことで、効果を最大限に引き出すことができます。例えば、振動刺激後に、患者が患肢を用いたリーチ動作や、歩行練習を行うと、筋緊張が軽減された状態で機能的動作の練習が可能です。
5. リスク管理
- 過度の刺激に注意:長時間の振動刺激は、感覚麻痺や筋疲労を引き起こす可能性があるため、必ず患者の反応を観察しながら行います。
- 感覚過敏がある患者には慎重な対応が必要です。刺激が強すぎる場合や不快感がある場合はすぐに中断します。
- 骨粗鬆症や外傷リスクがある場合は、過度な振動を避ける必要があります。
6. 効果のモニタリング
- 振動刺激の前後でModified Ashworth Scaleを用いて筋緊張を評価し、効果を客観的に測定します。
- また、振動刺激後の関節可動域(ROM)の改善や、患者のADLの向上も確認します。
新人療法士が振動刺激を用いてアプローチする際のポイント
市販のマッサージャーを用いて脳卒中片麻痺患者に振動刺激を行う際、上記内容以外の新たな観点から注意点やポイントを解説します。
1. 振動刺激のタイミングを考慮する
振動刺激を行うタイミングは、リハビリセッションの前後どちらが効果的かを検討します。リハビリ前に筋緊張を緩和させ、より効率的な運動を行わせるか、リハビリ後に筋の疲労を軽減させるか、患者の状態に応じて判断します。
2. 反復使用のリスクと管理
振動刺激を定期的に使用する場合、長期的な反応をモニタリングする必要があります。反復的な刺激が筋肉や皮膚に与える負荷を適切に管理し、過度の刺激が慢性的な問題(筋肉の過労や皮膚トラブル)を引き起こさないように注意します。
3. 感覚の変化に対する事前チェック
振動刺激を行う前に、患者の感覚機能を確認します。感覚が正常に戻っているか、麻痺側に感覚鈍麻や異常な感覚がないかを事前に評価し、その後に適切な刺激量を設定します。特に感覚鈍麻がある患者では、誤って過剰な刺激を与えないよう慎重に対応します。
4. 振動による二次的な神経系効果を意識する
振動刺激は筋緊張を和らげるだけでなく、脊髄レベルでの反射活動を活性化することがあります。新人療法士は、振動刺激によって一時的に筋スパズムや無意識の動作が発生するリスクを認識し、それをどう処理するかを学びます。
5. 振動とストレッチの併用
振動刺激の後にストレッチを併用することで、筋肉の柔軟性と可動域の改善が期待できます。特に痙縮が強い患者には、振動刺激で一時的に筋緊張が緩和された後にパッシブストレッチを行い、筋の伸展性をさらに向上させることが効果的です。
6. 麻痺側の関節に対する保護
痙縮が強い患者では、麻痺側の関節に過度な負担がかかることがあります。振動刺激を行う際、特に肩関節や足関節のような不安定な部位は、サポート具や正しい体位調整を行い、脱臼や関節損傷のリスクを避けることが重要です。
7. 振動刺激の後に関節可動域訓練を組み合わせる
振動刺激の後、痙縮が一時的に軽減されたタイミングで、関節可動域(ROM)訓練を行うことが推奨されます。これにより、麻痺側の関節が柔らかくなり、動作訓練を効率的に進められるため、運動機能の回復が期待できます。
8. 心理的リラックス効果を促す
振動刺激は筋緊張を和らげるだけでなく、患者に心理的なリラックス効果をもたらすことがあります。特に麻痺側に慢性的な緊張や不快感がある患者にとって、振動刺激は安心感を提供し、リハビリテーションへの意欲向上にもつながる可能性があります。
9. 対側の筋緊張にも注意
片麻痺患者の麻痺側にばかり焦点を当てがちですが、非麻痺側の筋緊張にも注意が必要です。振動刺激で麻痺側の筋緊張を緩和した後、非麻痺側の筋肉の緊張を評価し、全体的なバランスを整えるアプローチを行うことが大切です。
10. 振動後の自宅ケアの指導
リハビリの一環として、患者が自宅で振動刺激を安全に実施できる方法を指導することが重要です。市販のマッサージャーを使用する際の強度や時間、頻度について具体的な指示を与え、自宅ケアの一貫として活用してもらいます。また、痛みや異常が生じた場合の対処法も説明します。
退院後のリハビリは STROKE LABへ
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STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)