【2024年版】膝伸展筋の痙縮を伴う脳卒中患者のステップ動作のバランス戦略と代償動作、効率的アプローチ方法とは?
論文を読む前に
論文内容
カテゴリー
タイトル
●伸展筋の痙縮を伴う脳卒中患者のステップ動作の戦略とは?
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●脳卒中患者において大腿直筋の痙縮を伴う方は多く、患者のパターンや治療選択を学習する過程として本論文に至る。
内 容
背景
●脳卒中患者は、安全な障害物またぎのために慎重かつ代償的な戦略を採用します。膝伸展筋の痙縮は脳卒中後の一般的な二次的な感覚運動障害ですが、膝伸展筋痙縮を伴う脳卒中患者の障害物またぎ動作時のがステップの調整と代償戦略を検討した研究はほとんどありません。
●本研究は、膝伸展筋の痙縮を有する脳卒中者と痙縮のない脳卒中者間の障害物をまたぐ際の運動学的データの違いを比較し、ステップ調整と代償戦略における膝伸展筋の痙縮関連の違いを特定することを目的としました。
方法
●20人の脳卒中患者の被験者は、膝伸展筋のMASスコアに基づいて、痙縮グループ(n = 11、MAS≥1)と非痙縮グループ(n = 9、MAS = 0)に分けられました。
●10 mの通路を自己選択速度で歩き、15cmの障害物をまたぐように指示されました。 10台のカメラの3Dモーション解析システムと2つのフォースプレートを使用して、運動学的データを収集しました。
結果
●膝伸展筋の痙縮を有する脳卒中患者は、障害物に近づくために歩幅の狭い(短い)ステップ戦略を採用しましたが、非痙縮患者は長いステップ戦略を使用しました。
●痙縮患者は前額面上の体幹・骨盤・股関節の代償動作を選択しました。
●麻痺側四肢のスイング中、痙縮グループは、以下の測定で非痙縮グループで見られた値よりも有意に高い値を示しました:骨盤側方傾斜角、体幹側方傾斜角、足部と同側の股関節(内外側)間距離、股関節の働きの寄与、前後および内外側方向の圧力中心と重心の距離。これらの結果は、骨盤、体幹の前額面上の傾きおよび股関節外転の組み合わせた動きが、障害物またぎを成功させるための重要な代償戦略であるが、横方向のバランスをいくらか犠牲にしていることを示しています。
●障害物後段階では、歩行パターンとバランス制御を再確立するために、短いステップから増加するステップ幅の戦略が採用されました。
●Stiff knee gaitの患者様では、矢状面上が痙縮により上手くコントロールできなくなっているため、動きの比較的出せる前額面上の動きを増やすしかない。痙縮により分節性が乏しくなる分(下肢が棒のようになってしまう)、動きもダイナミックになりやすい。麻痺側自体への介入も重要であるが、麻痺側をより楽に使える非麻痺側の姿勢制御に目を向けることも重要と思われる。安定は幾分の痙縮(過活動)の抑制を生む可能性もある。
明日への臨床アイデア
膝伸展筋の顕著な痙縮を有する脳卒中患者に対するリハビリテーションと医師による治療は、多角的なアプローチが必要です。以下に、リハビリテーション専門職と医師が協働して行う具体的な手順を、評価から治療まで詳細に解説します。
1. 初期評価:包括的なアプローチ
1-1. 筋緊張評価
- Modified Ashworth Scale (MAS): 痙縮の重症度を定量化。
- Tardieu Scale: 痙縮と短縮(拘縮)を区別するため、可動域の速度依存性を評価。
- V1: ゆっくりとした伸展(関節可動域の最大値)。
- V3: 素早い伸展(痙縮の抵抗が発生する角度を評価)。
- 痙縮の影響が顕著である場合、筋腱単位の短縮や関節拘縮の可能性を考慮。
1-2. 歩行・動作分析
- 動作中の膝関節の動き
- 初期接地:膝過伸展(膝が伸展位で硬直)。
- 立脚中期:膝屈曲不足による衝撃吸収の低下。
- スウィング期:膝伸展筋の痙縮による振り出しの障害。
- 代償動作
- 骨盤の後傾、体幹の側屈、健側下肢の過剰屈曲など。
- 患側下肢の外旋または円を描くような振り出し動作(サーカムダクション)。
1-3. 神経学的評価
- 痙縮の神経的原因
- 深部腱反射: 亢進が見られる場合、錐体路障害が関与。
- H反射検査: 痙縮の程度を客観的に評価。
- 機能的電気刺激 (FES) の反応: 神経筋の可塑性を確認。
2. リハビリテーションの具体的なアプローチ
2-1. 関節可動域訓練と筋膜リリース
- ストレッチング
- 痙縮を軽減しつつ膝関節の可動域を改善。
- 静的ストレッチ: 15~30秒保持を数セット。
- PNF(ホールドリラックス法): 抗重力筋の活性化を抑える。
- 筋膜リリース
- 膝蓋骨周囲の軟部組織の柔軟性を高める。
- 超音波療法と組み合わせ、筋緊張を低下させる。
2-2. 装具の活用
- 膝足継手付き装具(KAFO)
- 膝過伸展の抑制。
- 個々の患者に合わせて膝関節のロックを調整。
- 足関節背屈補助装具
- 足関節背屈筋を補助し、歩行周期での膝伸展筋の負担を軽減。
2-3. 筋力とコントロールの改善
- 抗重力筋(股関節屈筋、足関節背屈筋)の強化
- 痙縮抑制に必要なバランスの維持。
- サイドステップやバランスボードの使用。
- 反復的な膝屈曲・伸展の動作練習
- ステップ練習や歩行補助デバイスを活用。
2-4. ニューロモジュレーション技術
- 神経筋電気刺激 (NMES)
- 痙縮の抑制と筋収縮の学習を促進。
- 具体例:大腿四頭筋に対して低周波刺激を用い、筋の収縮・弛緩を反復。
- 反復経頭蓋磁気刺激 (rTMS)
- 中枢神経系の可塑性を促進し、痙縮軽減に寄与。
3. 医師による治療アプローチ
3-1. 薬物療法
- 抗痙縮薬
- バクロフェン: 中枢作用で痙縮を緩和。
- チザニジン: 筋緊張を軽減し、機能的活動を補助。
- ボツリヌス毒素注射
- 大腿四頭筋への注射を行い、過剰な収縮を抑制。
- ポイント
- 適切な投与量(50~100単位/筋)を超音波ガイド下で注射。
- 効果持続期間:通常3~6か月。
3-2. 整形外科的介入
- 腱延長術
- 重度の筋短縮がある場合、大腿四頭筋腱の一部を延長。
- 関節鏡手術
- 関節包や靭帯の異常を整復。
3-3. ITBポンプ(バクロフェンポンプ)
- 重度痙縮患者において、持続的な髄腔内投与により痙縮を抑制。
- 適応
- ボツリヌス療法で十分な効果が得られない場合。
- 全身性痙縮が見られる患者。
4. 歩行再建に向けたリハビリと医師の連携
4-1. 歩行練習
- ロボットリハビリ
- HAL(Hybrid Assistive Limb)などのロボット支援で、膝の伸展・屈曲タイミングを学習。
- トレッドミル練習
- 体重免荷システム(BWSTT)を利用し、正しい膝の運動パターンを誘導。
4-2. フィードバックトレーニング
- 視覚的フィードバック
- 鏡や動画を用いて膝の過伸展や歩行周期を調整。
- 音響フィードバック
- 歩行リズムを改善するためのメトロノーム活用。
5. 継続的なモニタリングと教育
5-1. モニタリング
- 痙縮の進行状況
- 定期的なMASおよびTardieu Scaleで経過を確認。
- 歩行能力の改善度
- 10m歩行テスト(10MWT)、6分間歩行テスト(6MWT)で評価。
5-2. 家族・患者教育
- セルフストレッチング
- 患者自身が行える簡単なストレッチ方法を指導。
- 日常生活指導
- 適切な装具装着や立ち上がり動作の安全な方法を指導。
6. まとめ
膝伸展筋の痙縮を有する脳卒中患者の治療には、リハビリ専門職と医師の協働が不可欠です。患者の筋緊張や動作パターンを評価し、個別化されたリハビリと薬物療法、さらに必要に応じた整形外科的介入を組み合わせてアプローチすることが求められます。このような多角的な取り組みにより、患者の機能的改善とQOL向上が期待できます。
新人療法士が膝伸展筋の痙縮を有する脳卒中患者のリハビリを行う際のポイント
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)