【2024年版】脳卒中患者の歩行速度とケイデンス改善!AFO(足関節装具)の効果と最適な選び方
脳卒中患者の歩行速度と装具の関係性
1. 歩行速度と脳卒中リハビリの観点
金子先生(リハビリテーション医師):「丸山さん、歩行速度と脳卒中リハビリテーションにおける装具について話をしようか。まず、歩行速度の改善は日常生活活動の向上と大きく関係しているね。速度が遅いと、バランスの崩れや転倒リスクが高まり、患者の自立度が下がる。」
丸山さん(新人療法士):「はい、速度が重要であることは学びましたが、装具によって速度はどのように影響を受けるのですか?」
金子先生:「良い質問だね。装具には様々な効果がある一方、歩行速度にどのような影響を与えるかは、その種類や適合状態、さらには患者の歩行能力による違いがあるんだ。まずは、脳卒中患者の歩行速度に関する装具の具体的なメリット・デメリットについて順を追って見ていこう。」
2. 脳卒中患者の歩行における装具の役割
金子先生:「装具が歩行にどう影響を与えるか考えると、重要なのはまず足部や足関節の安定性だ。装具は、麻痺側の足関節を安定させ、適切な足部アライメントを促進することで、歩行時のバランスが改善し、効率的な歩行パターンが構築できる。」
丸山さん:「なるほど。装具の安定性が、結果的に歩行の効率を高めるわけですね。装具があるとないとでは、歩行速度にどの程度違いが出るのでしょうか?」
金子先生:「特にAFO(足関節固定用装具)のように足関節をサポートする装具は、脳卒中患者の歩行速度に効果があることが多い。たとえば、短下肢装具を使うと、足部が適切に床に接地し、蹴り出しがしやすくなるから、歩幅が増加し歩行速度が上がる傾向があるんだ。」
3. 装具のメリット:神経科学とバイオメカニクス的視点から
丸山さん:「装具のメリットとして、歩行の安定性や速度の改善があるのですね。具体的に、脳科学やバイオメカニクス的にはどのような効果が考えられますか?」
金子先生:「装具の使用は、脳内での歩行制御にかかわる再学習に大きく影響する。神経科学的には、歩行時の安定したフィードバックが、体性感覚と運動野のつながりを強化し、麻痺側の運動制御が向上する。」
- バイオメカニクス的視点:装具が足部と地面の接触角度や接地時間を調整し、膝や股関節にかかる負荷も分散するため、歩行が効率的に行える。
- 神経科学的視点:安定した歩行の反復は、運動制御のネットワークを活性化させる。特に、装具のサポートにより正しい歩行パターンが定着し、代償的な不適切な動作が軽減される。
4. 装具のデメリットと対策
丸山さん:「デメリットもいくつかありそうですが、どういったことに気をつけるべきでしょうか?」
金子先生:「まず、装具のデメリットとしては、筋力低下や依存が挙げられる。装具によってサポートが過剰になると、患者の筋力が十分に使われず、筋萎縮が進んでしまう可能性があるんだ。」
- 依存のリスク:装具に頼ることで筋力低下や関節の柔軟性が損なわれるリスク。
- 感覚的なフィードバックの減少:装具によって足裏の感覚が減少し、体性感覚入力が低下することがある。これにより歩行のバランス制御が阻害されることがある。
金子先生:「対策としては、装具使用と併行して筋力強化や感覚再教育トレーニングを組み合わせることが重要だ。また、歩行補助具を徐々に使用しない方向に誘導することも考えられるね。」
5. 実際の装具適合手順と注意点
金子先生:「具体的な装具の適合手順として、以下のポイントを押さえておこう。」
- 患者の筋力や歩行能力の詳細評価:麻痺側の筋力や歩行パターンの特徴を評価し、装具の種類や形状を決定する。
- 試着と微調整:患者の歩行速度やバランスを確認し、必要に応じて装具の角度やサポート範囲を調整する。
- フィードバック:患者の感覚入力を確認し、装具の位置や安定性を調整。患者の自覚が重要。
- 装具の段階的な調整:治療の進行とともに、サポートを減らし、患者自身の筋力やバランス能力を向上させる工夫を行う。
丸山さん:「装具を適切に使用しつつ、患者自身の能力も引き出すように工夫することが大切なのですね。」
6. 装具使用後の歩行速度改善の評価
金子先生:「歩行速度の変化は、歩行能力の重要な指標だ。装具使用後の速度改善は、リハビリ効果を確認する上で役立つんだ。」
- 3分間歩行テスト:歩行速度と耐久性を評価するために実施。装具装着前後での変化を測定。
- タイムドアップアンドゴーテスト(TUG):移乗動作を含めた動的バランスと速度を確認でき、総合的な評価に優れている。
丸山さん:「テストを組み合わせて行うことで、装具が歩行機能にどう影響しているかをより具体的に把握できそうですね。」
7. まとめ:装具と歩行速度の関連性について
金子先生:「まとめとして、装具は歩行速度や安定性を向上させる有用なツールだが、依存や感覚低下のリスクも考慮する必要がある。」
- 歩行速度の向上:装具が正しい足部アライメントを促進し、歩幅やバランスが改善。
- リハビリの方向性:装具を補助的に使い、歩行訓練と併用しながら患者の筋力やバランス力を向上させることが鍵。
丸山さん:「装具の使用による効果とリスクをしっかり理解して、患者ごとに最適なアプローチを考えていきたいと思います。」
金子先生:「その意識が重要だよ。丸山さんもこれから多くの患者に寄り添いながら、安全で効果的な歩行訓練を提供してほしいね。」
論文内容
タイトル
●脳卒中患者の歩行速度とケイデンスに対する下肢装具AFOの効果
●原著はEffect of Ankle-foot Orthosis on Gait Velocity and Cadence of Stroke Patients: A Systematic Reviewこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●下肢装具の選定において、まだ下肢装具に対する知識が不十分だと実感し、装具に関する学習をしようと思い、その学習の一助として本論文に至った。
内 容
背景
●脳卒中者では、歩行速度の低下が一般的です。健康な人の平均歩行速度は約1.3m /sですが、脳卒中片麻痺患者では0.23〜0.73 m /sの範囲です。
●Göketalらは、プラスチック性と金属支柱型AFOを比較し、双方とも歩行速度の有意な改善を発見しましたが、リズムに有意な変化はありませんでした。
●研究目的は脳卒中患者の歩行変数(速度とリズム)に及ぼす下肢装具AFOの効果を分析することでした。
方法
●4つのデータベースのシステマティックレビューが実施されました。 特定された論文は、下肢装具(AFO)を用いた脳卒中患者の歩行時の時空間的パラメーターの変化(歩行速度・リズムの改善など)に着目した文献でした。
結果
●AFOを使用した場合と使用しない場合の比較では、歩行速度の大幅な改善が見られました。
●歩行速度に対しては効果を示しましたが、ケイデンスに対しての効果は決定的ではありませんでした。
●これらの変数だけでは歩行安定性の改善を表すものではありません。しかし、そのような側面の分析により、理学療法の効果と脳卒中患者の運動能力の改善をより臨床的に理解することはできます。
●調査結果は歩行速度に関するAFOの利点を示唆していますが、ケイデンスに対するこの装具の影響は決定的ではありません。したがって、脳卒中患者の歩行変数に対するAFOの使用の影響に関するより良い科学的証拠を確立するために、さらに適切に設計されたランダム化比較臨床試験が必要です。
明日への臨床アイデア
装具による歩行速度の改善に向けた評価は、患者の個別の歩行パターンや筋力、感覚機能を反映させた緻密な計画が必要です。以下に、具体的な評価手順とポイントを、義肢装具士や療法士の方が実践しやすいようにまとめました。
1. 歩行速度の基礎評価
まず、装具適用前の歩行速度を測定し、基本的な歩行パターンを把握することが重要です。以下のステップで評価を行いましょう。
評価方法:
- 10メートル歩行テスト(10MWT):歩行速度(m/秒)を測定するのに最適です。初回から装具適用後も継続して記録し、比較します。
- タイムドアップアンドゴーテスト(TUG):立ち上がりから歩行、再座位までの時間を計測し、歩行時の動的バランスも評価。
- 歩幅と歩調(ストライド):装具適用前の歩幅や歩調を観察し、装具適用による変化も記録しておきます。
- 注意点:患者の疲労レベルや体調に左右されることが多いため、評価前後の状態を観察し記録します。
2. 個別特性に基づく装具のフィッティング調整
装具を適用する際は、患者ごとの筋力や可動域、バランス能力に応じてフィッティングを行いましょう。
調整ポイント:
- 足関節の可動域:麻痺側や患側の足関節がどの程度動くのかを把握します。柔軟性が低い場合は、装具のヒールロッカー(踵接地)やトウロッカー(つま先離地)の調整を検討します。
- 膝・股関節へのサポート:AFO(足関節固定用装具)を使用する場合は、膝関節に過剰な屈曲や伸展が生じないかを確認し、必要に応じて装具の高さや角度を調整します。
具体的手順:
- 足部アライメントの確認:患者の足の外反や内反が生じないよう、装具の角度を調整。
- 装具と靴の適合性:靴の内側に異常な圧力がかからないよう、装具と靴の調整を行います。
3. 歩行バイオメカニクスの評価
装具適用によって歩行のバイオメカニクスがどのように変化するかを、装具士と療法士の両者が協力して確認します。
評価項目:
- 接地と蹴り出しのバランス:装具が足部の接地を安定させ、蹴り出しがスムーズに行えるか確認します。
- 足関節周りの圧力分布:装具が足底の圧力を適切に分散させているかを圧力計測装置などでチェックします。
- 歩行周期の観察:振り出しや支え相の時間が左右で対称か確認します。装具が一方の足に過剰な負荷をかけないようにします。
- 改善目標:効率的な歩幅と蹴り出しが可能となり、歩行速度が安定することが期待されます。
4. 感覚入力の強化とフィードバックの確認
患者が装具を適用した状態での感覚を把握し、適切なフィードバックを得られているか評価することも大切です。
感覚フィードバックの確認:
- 足底の接地感覚:装具による圧迫が強すぎると感覚が鈍くなります。患者の主観的な感覚も確認し、適切なフィードバックが得られるかを検討します。
- 視覚的フィードバック:患者が歩行時に鏡などで自分の歩行を確認し、装具のサポートを視覚的に認識できるよう支援します。
- アプローチ方法:感覚の再学習を目的とした装具使用であれば、患者に自身の足底感覚や接地感覚を意識させるトレーニングを組み合わせます。
5. 歩行速度向上に向けたトレーニング計画
装具を活用しながら歩行速度を向上させるための具体的なトレーニングを設計します。
トレーニングの組み立て:
- 短距離歩行の反復:装具による支持を感じながら、短距離を何度も往復し歩行速度の向上を図ります。
- 坂道や段差での歩行訓練:歩行時に異なるフィードバックを得るために坂道や段差での練習を行い、装具が負担なく対応できるか確認。
- 姿勢・筋力強化:体幹や股関節周りの筋力強化も併行し、歩行速度の向上を図ります。
6. 装具の長期使用後の再評価
長期的に装具を使用した場合、歩行速度にどのような影響があるかを継続的に評価し、必要に応じて装具の再調整を行います。
評価のタイミング:
- 3カ月ごとのチェック:装具の効果を長期にわたり確認し、患者の歩行パフォーマンスや筋力に変化がないか定期的に再評価します。
- 歩行速度やバランスの再確認:長期使用により歩行速度が改善したか、歩行速度が安定しているか確認し、装具の変更や追加のリハビリが必要か検討します。
- 調整内容:患者の回復に伴い、装具のサポートを減らしていくことも選択肢に入ります。
7. 患者指導と自主トレーニングのサポート
装具の効果を最大限引き出すためには、患者自身の理解も重要です。装具の使用方法や歩行訓練のポイントを説明し、日常生活での使い方をサポートします。
具体的な指導内容:
- 装具の着脱方法:装具が適切な位置に固定されているか、患者に自分で確認させます。
- 自宅での歩行練習:安全な範囲で自宅で行えるトレーニング方法も指導。
- 装具の定期チェック:不調が生じた場合の対処法や定期的な装具の点検も説明し、患者に自信を持って装具を使ってもらえるよう支援します。
装具評価の手順は患者ごとに異なりますが、これらのポイントに基づき、細やかな調整と評価を行うことで、歩行速度の向上を目指しましょう。
新人療法士が脳卒中患者に対して装具評価を行う際のコツ
新人療法士が脳卒中患者に対して装具評価を行う際には、患者の安全と機能向上を両立させることが重要です。以下に、上記以外の注意点や評価を成功させるためのアイデアを10項目挙げます。
1. 患者の生活環境を確認する
- 注意点: 装具の適合性は患者の生活環境に依存することが多いです。例えば、段差の多い住居や屋外歩行の機会が多い場合は、それに対応する装具選択が必要です。
- アイデア: 患者やその家族にヒアリングを行い、生活環境に応じた装具の適応性を評価しましょう。
2. 体幹や股関節の筋力も評価する
- 注意点: 装具の効果は足関節だけでなく体幹や股関節の安定性にも関わってきます。体幹が不安定だと装具の効果が半減する可能性があります。
- アイデア: 装具適用前に体幹・股関節の筋力や安定性を確認し、必要に応じて体幹強化のリハビリも併用すると効果的です。
3. 患者の意思や装具使用に対する意識を確認する
- 注意点: 装具の使用に前向きであるか、もしくは不安を感じていないかを確認することが重要です。
- アイデア: 患者が装具に対してどのような意識を持っているか話し合い、ポジティブなイメージを持てるよう支援することが装具の効果を引き出します。
4. 靴との適合性を評価する
- 注意点: 靴の形状や柔らかさが装具の効果に大きく影響するため、適合しない場合は足部に過剰な負荷がかかることがあります。
- アイデア: 実際に使用する靴を装具の評価中に持参してもらい、装具との適合を確認します。必要であれば適切な靴を提案するのも有効です。
5. 装具の脱着方法の習熟をサポートする
- 注意点: 患者が一人で装具を脱着できることが重要です。特に高齢患者や手指の動きが制限されている場合、脱着のしやすさを考慮する必要があります。
- アイデア: 装具の正しい脱着手順を練習し、患者が独自に装具を扱えるようにします。家族にも手伝い方を指導することで安全性が高まります。
6. 転倒リスクを評価する
- 注意点: 装具の不適切な選択が転倒リスクを高める可能性があるため、装具が歩行の安全性を確保できるか確認が必要です。
- アイデア: 装具適用後の歩行バランスを評価し、必要であればバランストレーニングも取り入れることで転倒リスクを低減できます。
7. 日内変動(Morning/Evening)の影響を考慮する
- 注意点: 脳卒中患者では、体力や筋緊張に日内変動があり、朝と夕方で状態が異なることがあります。
- アイデア: 朝・昼・夕方の異なる時間帯に装具を評価し、装具の適合性が時間帯によって変わらないかを確認します。
8. 長期使用による筋力低下の可能性を検討する
- 注意点: 装具によって筋力がサポートされるため、過度に依存すると下肢筋力が低下するリスクがあります。
- アイデア: 装具使用と並行して下肢の筋力強化トレーニングを行い、装具依存を減らすようなリハビリプランを立てましょう。
9. 心理的サポートと継続的なモチベーションの向上
- 注意点: 患者が装具を嫌がる、あるいは装具使用が恥ずかしいと感じてしまうことがあります。
- アイデア: 装具が歩行能力の向上につながることを患者に説明し、前向きな気持ちを育むようサポートします。目標設定を共有し、モチベーションを持って装具を使用できる環境を作ります。
10. フォローアップの頻度を設定する
- 注意点: 装具の適合性は患者の体調や状態の変化によって変わることが多いため、継続的なフォローが必要です。
- アイデア: 最初は1~2週間ごとにフォローアップを行い、装具に関するフィードバックを確認します。その後、状態が安定してきたら、1か月単位のフォローに移行します。
これらの注意点やアイデアは、患者ごとに異なる状態に応じて調整する必要がありますが、装具の効果を最大限に発揮させ、歩行や日常生活に適応するための基礎となる考え方です。
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)