【2025年版】膝深屈曲を必要とする日常生活動作とは?脳卒中リハビリの評価からアプローチまで徹底解説
脳卒中患者の膝関節の深屈曲動作に関するリハビリアプローチ
リハビリテーション医師 金子先生が、新人療法士の丸山さんに、膝関節の深屈曲を必要とする動作、そのメリットとデメリット、具体的なアプローチ方法について講義します。
1. 動作の導入:膝関節の深屈曲を必要とする場面
金子先生:
「まず、膝関節の深屈曲を必要とする日常動作にはどのようなものがあるか、丸山さん考えてみてください。」
丸山さん:
「うーん…。正座や和式トイレの使用でしょうか?他にも床に座った状態から立ち上がる動作なども関係するかもしれません。」
金子先生:
「その通りです。それに加えて、階段を降りる際の制御や、転倒時に柔軟な体勢を取る動作、またはスポーツ動作でも膝の深屈曲が求められる場合があります。」
動作例 | 具体的な状況 |
---|---|
和式トイレの使用 | 日本では高齢者を含む患者が使用する場合がある。 |
正座や膝立ち | 和室での生活や特定の宗教儀式など。 |
床からの立ち上がり | 低い椅子や床に座る文化的背景を持つ動作。 |
階段の降り動作 | 足部と膝の協調が求められるため深屈曲が役立つ。 |
転倒時の安全姿勢 | 急な転倒で膝を柔軟に曲げられるとケガが軽減される可能性。 |
2. 深屈曲を練習するメリット
金子先生:
「次に、深屈曲動作を練習することで得られるメリットについて説明しますね。」
メリット | 詳細 |
---|---|
柔軟性の向上 | 膝関節の可動域を拡大し、日常生活の動作範囲を広げる。 |
筋力強化 | 主に大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋の強化に繋がる。 |
動作の安定性向上 | 姿勢保持能力が改善し、転倒リスクを低減。 |
神経筋制御の向上 | 深屈曲では脊髄反射を含む神経筋の協調性が求められるため、リハビリによる改善が期待できる。 |
文化的・社会的適応 | 特に和式生活を送る患者が社会活動を再開する助けになる。 |
バイオメカニクスの強化 | 深屈曲では膝蓋大腿関節が最大可動域に達するため、負荷分散が促進される。 |
3. 深屈曲練習のデメリット
丸山さん:
「深屈曲を練習する際に懸念されることもありますか?」
金子先生:
「もちろん、深屈曲にはリスクもあります。それを知らずに指導すると逆効果になることもありますね。」
デメリット | 詳細 |
---|---|
関節への過負荷 | 大腿脛骨関節や膝蓋大腿関節に過剰な負担がかかり、関節炎のリスクが増大する可能性。 |
疼痛の増加 | 痛みがある場合、深屈曲の練習は患者にとって苦痛となる。 |
筋膜の緊張 | ハムストリングスや下腿三頭筋が過度に緊張すると、逆に関節可動域が制限される可能性。 |
不適切な力の分布 | 深屈曲を無理に行うと、脛骨や足部に不適切な力がかかり、他の部位に悪影響が及ぶ。 |
心理的負担 | 患者が痛みや恐怖感を感じると、リハビリのモチベーションが低下する恐れがある。 |
4. 深屈曲練習の具体的アプローチ方法
金子先生:
「では、深屈曲を安全かつ効果的に練習するためのアプローチ方法を具体的に説明します。」
1) 準備段階
- 関節可動域の評価: 膝関節だけでなく、股関節や足関節の柔軟性も確認。
- 疼痛の有無を確認: 痛みがある場合、負荷の軽い方法を選択。
- 環境整備: 転倒防止のため、マットや支援具を用意。
2) アプローチ方法
方法 | 詳細 |
---|---|
分節的な関節モビリゼーション | 軽いストレッチを通じて、膝蓋骨や大腿骨の可動性を促進。 |
下肢筋力強化訓練 | 椅子座位や軽い負荷のスクワットから始め、大腿四頭筋とハムストリングスを強化。 |
道具の使用 | スライディングボードやエクササイズボールを用いて、患者の負担を軽減しながら深屈曲を練習。 |
神経筋再教育 | バランスボードや電気刺激を使用して、神経筋制御を向上。 |
疼痛管理 | 必要に応じて温熱療法やアイシングを組み合わせる。 |
3) 日常動作への応用
- 床に座る練習、正座姿勢からの立ち上がりなど、ADLをシミュレーションした訓練を導入。
5. 深屈曲訓練の進捗管理
評価項目 | 方法 | 目標 |
---|---|---|
関節可動域(ROM) | ゴニオメーターを使用 | 深屈曲時の可動域が増加する。 |
筋力 | 徒手筋力検査(MMT)やダイナモメーター | 主動作筋の筋力が向上する。 |
疼痛スコア | VASスケール | 深屈曲時の疼痛が軽減する。 |
動作の安定性 | Timed Up and Go (TUG)テスト | 動作にかかる時間が短縮される。 |
患者の満足度 | 質問票またはインタビュー | 患者自身が進捗を実感しているか確認。 |
6. まとめ
金子先生:
「膝関節の深屈曲は、患者の文化的・社会的な適応を含めて重要な意味を持ちますが、適切な評価と段階的なアプローチが不可欠です。デメリットを十分理解した上で、患者に最適な方法を選びましょう。次回は、具体的な動作を見ながらさらに検討していきます。」
丸山さん:
「ありがとうございます!次回もよろしくお願いします。」
論文内容
カテゴリー
タイトル
●脳卒中患者が日常生活上における膝深屈曲の重要性
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●脳卒中患者における各関節のコントロールできる可動域と日常生活動作の関係性に興味を持ち、学習の一助として本論文に至る。
内 容
背景
●脳卒中リハビリテーションにおけるリハビリテーションの結果とケアの質を最適化するには、患者が好んで評価する活動を特定することが不可欠です。
●日常生活において、しゃがんだり床に座ったりするような膝の深屈曲(DKF)活動は日常的に良くに行われる動作です。脳卒中患者においてその重要性を調査した研究はほとんどありません。
●研究目的は成人脳卒中と診断された患者の日常生活を行う上で、しゃがんだり床に座ったりすることの重要性を特定すること。
方法
●インドの脳卒中患者123名を対象にアンケートを実施した。
●すべての患者は、セルフケア、移動、家庭生活、仕事、地域社会への参加に関連するさまざまな日常活動を行う上での膝の深屈曲活動の重要性を評価するように求められました。
結果
●参加者の68%が膝深屈曲活動を日常生活上で非常に重要であると評価しました。
●トイレ(78%)、入浴(68%)、食事(68%)、祈り(54%)、仕事(51%)は膝深屈曲活動が男性と女性の両方から非常に重要であると評価された活動でした。しかし、男性に比べて女性の割合が高いため、料理、布の洗濯、家の掃除などの家庭生活活動が非常に重要であると評価されました。
●脳卒中患者のかなりの割合が、膝深屈曲活動が主要な日常活動を行うために非常に重要であると特定したため、しゃがんだり床に座ったりする独立したパフォーマンスは、脳卒中患者の重要なリハビリテーション目標の1つと見なす必要があります。
私見・明日への臨床アイデア
●膝の深屈曲運動は下肢全体の可動域、自重を保持できる下肢体幹の筋出力とバランスが必要である。特にしゃがんだ状態ではCOP前足部に特に非麻痺側に集中し、静止・上肢の動きに伴う姿勢変化を制御する必要がある。非麻痺側の足部上でCOGをどうコントロールするかの指導が重要である。
併せて読みたい【脳卒中、日常生活動作】関連論文
●Vol.517.高齢女性の日常生活動作に影響する下肢関節可動域と筋力とは?
●ADLと動作分析 神経システム-脳卒中の動作分析④-理学療法,作業療法評価
●Vol494.急性期脳卒中患者の移動やセルフケア能力の向上に関連する要素
脳卒中患者の深屈曲動作を要する日常生活動作へのリハビリアプローチ
脳卒中患者が膝関節の深屈曲を必要とする日常生活動作(和式トイレ、床からの立ち上がり、正座など)を遂行できるようにするための具体的リハビリアプローチを以下に示します。
1. 個別動作分析に基づく課題設定
- 患者が深屈曲を必要とする特定の動作(和式トイレの使用、正座など)を明確に特定する。
- 観察ポイント:
- 動作開始時の重心移動の方向と速度。
- 膝関節、股関節、足関節の可動性と協調性。
- 体幹の安定性や前方重心移動の制御能力。
- 評価方法:
動作を録画し、運動解析ソフトを用いて関節角度、速度、重心移動を数値化。
2. 深屈曲に必要な筋・関節機能の基礎訓練
① 股関節屈曲・内旋の柔軟性向上
- 目的: 深屈曲では膝だけでなく股関節の可動性が重要。特に股関節内旋制限が膝関節への過負荷を引き起こす。
- 手順:
- PNF(固有受容性神経筋促通法): 股関節内旋を促進するテクニックを使用。
- ストレッチ: 股関節屈曲時に内旋を加えた持続的ストレッチを1日3回実施。
② 足関節背屈の改善
- 目的: 深屈曲時に足関節背屈制限があると、膝関節や足部への負荷が増大。
- 手順:
- 足関節モビライゼーションで距骨下関節の動きを改善。
- タオルやバンドを用いた徒手抵抗で背屈筋群の強化。
③ ハムストリングスの筋力バランス調整
- 目的: ハムストリングスの過緊張が膝屈曲を阻害するため、適切な筋活動を促す必要がある。
- 手順:
- ハムストリングスと大腿四頭筋の協調訓練(例:エキセントリック負荷を加えたブリッジエクササイズ)。
- バランスボールを使ったヒップリフトで動的安定性を改善。
3. ADL動作を模倣した練習
① 和式トイレ動作シミュレーション
- 準備:
- 模擬和式トイレを使用(高さを調整可能にする)。
- 患者の手すり使用を想定した環境を作成8。
- 手順:
- 患者に深屈曲動作の「前準備」として重心移動を指導。
- 繰り返しの動作練習(10回を1セット、2セット/日)。
② 正座からの立ち上がり
- 目的: 膝と股関節の同時協調性を改善する。
- 手順:
- 最初は補助具(台、手すり、椅子)を使用して立ち上がりを練習。
- 補助を徐々に減らし、患者自身の力で動作を完了させる。
③ 階段の昇降動作
- 目的: 深屈曲時の荷重バランスと筋力発揮の改善。
- 手順:
- 膝を深く曲げながらゆっくり階段を降りる動作を練習。
- 初期段階では理学療法士が支持し、安全性を確保。
4. 神経筋制御の再教育
① 深屈曲時の安定性訓練
- 目的: 深屈曲時に関与する筋群のタイミングと協調性を再構築。
- 手順:
- バランスボードに乗りながら膝を深く曲げ、安定性を確認。
- 荷重の左右差を修正するため、重心を中央に保つ訓練を実施。
② 電気刺激療法の活用
- 目的: 不活発な筋群を促通し、深屈曲時の筋活動を活性化。
- 手順:
- 大腿四頭筋やハムストリングスに対して電気刺激を与える。
- 筋収縮が得られた状態で、軽度の深屈曲運動を実施。
5. 心理的アプローチと動機付け
- 患者が動作に不安を感じている場合、段階的な成功体験を積ませる。
- 日々の進捗を共有し、患者の達成感を引き出す。
- 家族や介助者への指導を行い、患者のリハビリを支援する環境を整える。
6. 安全対策と進捗管理
評価項目 | 内容 | 頻度 |
---|---|---|
膝関節の可動域 | ゴニオメーターで測定し、動作の制限を確認。 | 週1回以上。 |
筋力測定 | ダイナモメーターを使用し、大腿四頭筋とハムストリングスの力を評価。 | 2週に1回。 |
患者の主観的満足度 | 質問票または面接でADL遂行感や痛みを確認。 | 毎回リハビリ後。 |
まとめ
深屈曲動作を要する動作は、膝関節のみならず、股関節・足関節・体幹の協調性が重要です。安全性を確保しながら、段階的に患者の能力を引き出すアプローチが求められます。日常生活への応用を視野に入れた訓練を行い、患者の生活の質(QOL)向上に貢献しましょう。
脳卒中患者の膝関節深屈曲動作へのリハビリアプローチ:新人療法士の注意点とポイント
以下は、新人療法士が膝関節深屈曲動作に介入する際に留意すべきポイントを提示します。これらは患者の安全性、治療効果の向上、セラピストのスキル向上を目的としています。
1. 動作中の疼痛誘発を最小限に抑える
- 深屈曲動作中に疼痛が生じた場合、動作範囲や負荷を調整する必要があります。疼痛が持続する場合は、原因を再評価し、膝周囲の炎症や軟部組織の状態を確認する。
- 対策: 軟部組織リリースやアイシングを実施。
2. 膝関節のアライメントを評価・修正する
- 患者が動作中に膝が内反または外反する場合、誤ったアライメントが関節や周囲の筋への過剰な負担を引き起こす可能性があります。
- 方法:
- ミラーやビデオを活用し、患者に自身の動作を視覚的にフィードバックする。
- 必要に応じて膝装具の適応を検討。
3. 深屈曲動作の練習頻度と強度の調整
- 過剰な負荷や練習量は、患者の筋疲労や関節へのダメージを引き起こす可能性があります。
- 対策: 「低負荷・高頻度」を基本とし、患者の回復状況に応じて段階的に負荷を増やす。
4. 足底の接地感覚を重視
- 足底の接地感覚が弱いと、動作中にバランスを崩すリスクが高まります。
- 対策:
- 足底感覚の促通(軽い刺激や振動療法)。
- 安定した靴や足底パッドの活用。
5. 他関節への代償動作を防ぐ
- 股関節や腰部の過剰な代償動作が発生しないよう、動作中の協調性をモニタリングする。
- 観察ポイント:
- 骨盤が前後方向に大きく傾く。
- 足関節が過度に回外または回内する。
6. 運動前後の関節可動域チェック
- 深屈曲動作練習前後で、膝関節の可動域(ROM)に変化がないか確認。動作中の硬直や制限が続く場合、他の組織的要因を再評価する。
- 測定方法: ゴニオメーターによる膝屈曲角度の定量的評価。
7. 体幹の安定性を重視
- 深屈曲動作は膝関節単体ではなく、体幹の安定性が影響します。体幹が不安定な場合、動作中の負荷が分散されず、膝に集中します。
- 方法: プランクやペルビックローテーションの練習を取り入れる。
8. 精密な筋活動モニタリングを活用
- 患者の深屈曲動作中に、どの筋がどれだけ活動しているかを把握する。筋電図(EMG)や動的表面触診を活用して、ターゲット筋群が正しく機能しているか確認。
- 注意点: 特にハムストリングスと大腿四頭筋の筋バランスに着目。
9. 環境の安全確保
- 患者が深屈曲動作を行う際、転倒リスクを減らすために、安全な環境を整える。たとえば、手すりや補助台を配置する。
- 具体例: 不安定な床や狭い空間での練習を避ける。
10. 患者の心理的負担の軽減
- 深屈曲動作が困難な患者には、失敗を恐れず練習できる環境を提供する。肯定的なフィードバックと段階的な目標設定で自信を育てる。
- 方法: 小さな成功体験(例:わずかな膝屈曲角度の増加)を強調し、モチベーションを維持。
補足:記録とフィードバックの活用
- 動作練習の記録を詳細に残し、患者自身や医療チームと共有する。これにより、進捗状況を可視化し、必要に応じてアプローチを調整できます。
これらの注意点を実践することで、新人療法士でも患者に安全かつ効果的なリハビリを提供できるでしょう。
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STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)