【2024年版】NMESを活用した心疾患・呼吸器疾患患者の筋力強化法:効果的アプローチと安全なリスク管理ガイド
NMESが心疾患・呼吸器疾患患者に及ぼす効果
1. はじめに
金子医師: 丸山さん、今日は機能的電気刺激(NMES)が心疾患や呼吸器疾患の患者さんに及ぼす効果について説明します。NMESは筋力の維持・改善に役立つだけでなく、心肺機能や全身的な健康に影響を与える点が最近注目されています。これを理解するためには、様々な視点で総合的に考える必要があります。
丸山療法士: よろしくお願いします!NMESが全身にどのような影響を及ぼすのか、非常に興味があります。
2. NMESの基本メカニズム
金子医師: まず、NMESの基本を押さえましょう。NMESは皮膚上に設置した電極を通じて筋肉に電気刺激を与え、筋収縮を誘発します。この際、以下のメカニズムが関与します。
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神経学的視点: NMESは主に大径の運動ニューロンを直接刺激します。これにより、速筋繊維(Type II)を優先的に活性化します。通常の運動では遅筋繊維(Type I)が先に動員されますが、NMESはこの順序を逆転させる特徴があります。
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生理学的視点: NMESによる反復的な筋収縮は筋血流を増加させ、代謝反応を促進します。これによりミトコンドリアの機能が向上し、筋持久力が改善します。
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循環器的視点: 筋ポンプ作用の強化により静脈還流が促進され、心拍出量の改善が期待されます。
丸山療法士: 通常の運動とは異なる動員パターンが筋肉や循環に特別な影響を与えるんですね。
3. 心疾患患者への影響
金子医師: 心疾患患者の場合、NMESは特に以下の点で効果を発揮します。
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筋力改善と運動耐容能向上
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心疾患患者は身体活動の低下により筋力低下を来すことが多いです。NMESは非侵襲的に筋力を回復させ、歩行能力や日常生活動作を改善します。
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研究では、NYHA②–④の心不全患者において、NMESが6分間歩行距離(6MWT)を顕著に向上させることが示されています。
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心拍出量と静脈還流の改善
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NMESが下肢筋群を刺激することで筋ポンプ作用が増強され、静脈還流が改善します。その結果、前負荷が増加し心拍出量が向上します。
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また、交感神経と迷走神経のバランスを整えることで、心拍変動(HRV)も改善されます。
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炎症抑制効果
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NMESによる筋収縮は抗炎症性サイトカインの産生を促進し、慢性心不全に伴う全身性炎症を軽減する可能性があります。
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丸山療法士: 心疾患患者に対しても安全に使える点が魅力ですね。
4. 呼吸器疾患患者への影響
金子医師: 呼吸器疾患患者では、呼吸筋の弱化や全身的な筋力低下が大きな問題です。NMESは以下の効果が期待されます。
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呼吸筋の強化
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横隔膜を含む呼吸筋を間接的に刺激することにより、呼吸努力を軽減できます。慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者で、呼吸筋力と1秒量(FEV1)の改善が報告されています。
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換気効率の向上
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NMESは肋間筋や腹筋を刺激し、呼吸補助筋を強化します。これにより、呼吸効率が向上し、運動時の息切れが軽減します。
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全身持久力の改善
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下肢筋へのNMESは、筋酸素消費量を増加させ、全身の持久力を高めます。運動療法が困難な患者に対して、良い代替手段となります。
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丸山療法士: 呼吸筋のトレーニング効果があるのは驚きです。
5. 安全性と適応
金子医師: NMESは比較的安全な治療法ですが、以下の点に注意が必要です。
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禁忌:
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ペースメーカー装着患者や未治療の不整脈を持つ患者には使用できません。
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皮膚疾患や感染部位への装着も避けます。
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適応:
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活動量が制限されている心不全患者、COPD患者に特に有用です。
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ICUの長期滞在患者にも適応可能で、筋萎縮の予防に役立ちます。
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丸山療法士: ICUでの活用もできるのは多用途ですね。
6. 実際の臨床応用
金子医師: 最後に、臨床でNMESをどのように活用するか具体例を挙げます。
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下肢筋群への適用
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大腿四頭筋や腓腹筋にNMESを適用し、筋力維持と血行促進を図ります。周波数は20–35Hz、セッション時間は15–30分が一般的です。
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呼吸筋トレーニング
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横隔膜や肋間筋への間接的な刺激を組み合わせたプログラムが効果的です。患者の呼吸パターンに合わせて設定します。
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リハビリとの併用
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他のリハビリ手法と組み合わせることで相乗効果を得られます。例えば、有酸素運動とNMESを同時に行うと、心肺機能と筋力の両方を効率的に改善できます。
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丸山療法士: 実践的なプログラムが具体的でイメージしやすいです。
論文内容
タイトル
●神経筋電気刺激装置が患者のパフォーマンスに与える効果とは
●原著はEffects of Neuromuscular Electrical Stimulation Training on Endurance Performanceこちら
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●臨床において、電気刺激を使用することが時折あるが、その適応幅について学びたく本論文に至る。
内 容
背景
●さまざまな電気刺激モダリティが、従来のトレーニングおよびリハビリテーションプログラムの補助として使用され、身体機能を高めたり、痛みなどの症状を軽減したりしています。
●神経筋電気刺激(NMES)は、一般的に運動ニューロンを脱分極させ、その結果かなりの強度(通常は10〜60%の範囲)の骨格筋収縮を誘発することができます。それは健常者だけでなく、例えば慢性心不全(CHF)・慢性閉塞性肺疾患(COPD)含む筋力低下のある患者や自発的な収縮を行うことができない患者の筋機能と質量を増加または維持するためのリハビリツールとしても使用されます。
●本論文はNMESに関する文献をまとめ、健康集団と臨床的な集団の筋の耐久性と機能的な持久力に対する高頻度と低頻度のNMESトレーニングの効果について説明することを目的としています。
持久力パフォーマンスに対するNMESトレーニングの効果
図参照:Effects of Neuromuscular Electrical Stimulation Training on Endurance Performance
●高周波NMESは通常、断続的に適用され、低周波NMESと比較してより強い電流強度で適用されます。低周波NMESは電流耐性が優れているため、セッションは一般的にかなり長く、1日あたり最大240分の連続刺激に達する可能性があります。これに対して、断続的な高周波NMESを用いる時間は1日あたり20〜30分です。このような違いは、低周波と高周波NMESトレーニング後に観察される機能的持久力の大幅な増加に寄与している可能性があり、低周波NMESセッションの長期間の介入が機能的持久力を高めるための最も重要なパラメーターである可能性があることを強く示唆しています。
●筋肉、肺および心血管機能に影響を与える病状のある患者であまり使用されていない筋肉群は機能改善しやすいという示唆が得られています。一般的に、NMESトレーニングプロトコルは少なくとも機能的持久力に関しては健常者と比較して患者でより効果的です。
●COPDやCHFなどのさまざまな患者グループで、NMESトレーニングは筋力と呼吸機能を改善し、結果、酸素摂取量と作業負荷量の増加、持久力の向上、移動距離の延長に反映される機能的持久力を改善しました。
●患者集団での高周波または低周波のNMESトレーニング後の筋持久力の適応に関するデータはほとんどありません。
●要約すると、高周波と低周波の両方のNMESトレーニングは、患者集団の機能的持久力を高めることができますが、筋持久力への影響はほとんど知られていません。持久力のパフォーマンスに対するNMESトレーニングの影響は、病気の種類、重症度および治療時間等にに大きく依存しているようです。
私見・明日への臨床アイデア
●NMESは随意的な努力を必要とせずに筋収縮を得られることが出来る。そのため、循環・呼吸器系でも着目されている。ペースメーカーを使用している患者においても電磁干渉はなかったとの報告もある。重症患者等でも筋量・筋力低下予防はじめ種々の使い方に今後も注目したい。
併せて読みたい【NMES・電気刺激療法】関連論文
●Vol.571.筋電駆動型のNMES(電気刺激)を使用した手関節背屈トレーニングの効果 脳卒中/脳梗塞リハビリ論文サマリー
●Vol.514.電気刺激が亜脱臼を軽減させる!?脳卒中患者の肩周囲筋に対するNMESの効果
●vol.387:電気刺激療法(NMES)が痙縮筋に及ぼす効果とは?? 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
●Vol.470.速筋が失われやすい!?高齢者および脳卒中患者の骨格筋変化と運動の効果
心疾患・呼吸器疾患の患者にNMESを用いたリハビリの具体的症例提示とリスク管理
症例 1: 心疾患(慢性心不全)
患者背景:
75歳男性、慢性心不全(左室駆出率35%、NYHA分類II)。最近の入院後、運動耐容能の低下と下肢筋力の著しい衰えが認められる。日常生活活動(ADL)は自立しているが、階段昇降に困難がある。
リハビリ目的:
- 下肢筋力の維持・向上を図り、転倒リスクを軽減。
- 運動耐容能を向上し、生活の質を改善する。
NMESの適用:
- 部位: 大腿四頭筋、ハムストリングス
- 設定:
- パルス幅: 300μs
- 周波数: 20~30Hz(筋力増加に適切)
- 刺激強度: 最大自動収縮の30~50%
- 刺激時間: 10秒収縮、20秒休止
- 総刺激時間: 20分
- 頻度: 週3回、6週間継続
リスク管理:
- 心拍数、血圧、酸素飽和度(SpO2)をセッション中に定期的にモニタリング。
- 心拍数の目標範囲を50~70%HRmaxに設定し、過負荷を防止。
- 刺激の前後で心電図モニタリングを実施し、異常がないことを確認。
リハビリ内容:
- NMES実施中、座位や半仰臥位で下肢筋力トレーニング。
- セッション後に軽度の自重運動を追加し、能動的な関与を促す。
結果:
- 6週間後、大腿四頭筋の筋力が15%向上(筋力測定値)。
- 6分間歩行距離が300m→350mに改善。
- 患者の主観的疲労感が軽減し、ADLの効率が向上。
症例 2: 呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患:COPD)
患者背景:
68歳女性、重度COPD(GOLD分類3)。安静時SpO2は90%、運動時に低下しやすい。筋力低下と息切れにより、階段昇降や長距離歩行が困難。
リハビリ目的:
- 下肢筋力を向上し、歩行能力を改善。
- 呼吸効率を高め、息切れ感を軽減。
NMESの適用:
- 部位: 大腿四頭筋、前脛骨筋
- 設定:
- パルス幅: 400μs
- 周波数: 25~35Hz(持久力向上を目指す)
- 刺激強度: 最大耐えられる刺激感の範囲内
- 刺激時間: 5秒収縮、10秒休止
- 総刺激時間: 30分
- 頻度: 週4回、8週間継続
リスク管理:
- SpO2を常時モニタリングし、低酸素(88%以下)時は酸素療法を併用。
- 刺激前後に呼吸リハビリ(腹式呼吸や呼吸補助筋の運動)を実施し、呼吸機能の安定化を図る。
- 刺激後の疲労や息切れの有無を確認し、NMESの設定を適宜調整。
リハビリ内容:
- NMESを用いて足底背屈運動を補助し、歩行トレーニングに組み込む。
- NMES終了後に低強度の有酸素運動(エルゴメーターまたは平地歩行)を追加。
結果:
- 8週間後、6分間歩行距離が250m→300mに改善。
- mMRCスケール(呼吸困難感)が3→2に軽減。
- 足関節背屈筋力が改善し、歩行中のつまづきリスクが低下。
共通するリスク管理ポイント
- 循環器系への配慮: 心拍数や血圧に異常が見られた場合は直ちに中止し、医師と相談。
- 呼吸器系への配慮: NMES実施中は酸素飽和度が急激に低下しないようモニタリングを徹底。
- 皮膚刺激: 電極装着部位の皮膚状態を確認し、炎症や過敏反応がある場合は部位を変更または中止。
- 個別性の確保: 患者の耐久力や疾患特性に応じてNMESの強度・頻度を調整。
これらの症例を参考に、リスクを最小限に抑えながら安全で効果的なNMESを活用するリハビリプログラムを提供できます。
新人療法士がNMESを用いたリハビリを行う際のポイント
新人療法士がNMESを用いた心疾患・呼吸器疾患患者に対してリハビリを行う際の追加の注意点・ポイントを以下にまとめます。
心疾患患者への注意点
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運動負荷の段階的調整
刺激強度は患者の体力や病態に応じて徐々に増やします。一度に強度を上げすぎると心臓への負担が大きくなるため注意が必要です。 -
ペースメーカー装着者への配慮
ペースメーカーや除細動器(ICD)を装着している患者の場合、NMESは禁忌または慎重に適用が必要です。使用の可否を必ず主治医に確認してください。 -
術後の治癒過程に応じた対応
心臓手術後の患者では、創部周辺の筋肉への刺激は避け、術後の治癒状況に応じて刺激部位を調整します。 -
胸部近辺への刺激は避ける
電極配置が胸部に近すぎると心臓への不適切な電気刺激を引き起こす可能性があります。適切な部位に電極を装着してください。 -
心理的負担を軽減
心疾患患者は電気刺激に対する不安感を抱くことがあります。使用目的や安全性を十分に説明し、患者がリラックスできる環境を作ることが重要です。
呼吸器疾患患者への注意点
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呼吸のモニタリング
NMES実施中に呼吸パターンが乱れることがあります。刺激の強さが呼吸に悪影響を及ぼしていないか確認してください。 -
呼吸筋に対するNMESの応用
横隔膜や肋間筋へのNMESを実施する場合、刺激のタイミングを呼吸周期に合わせて調整します。不適切なタイミングでの刺激は患者の呼吸困難を悪化させる可能性があります。 -
酸素療法の準備
COPDや重度呼吸障害の患者では、NMES中に酸素需要が一時的に上昇する可能性があります。酸素療法を適宜併用できる体制を整えておきます。 -
電極位置と皮膚状態の管理
電極装着部位が肺の上部(胸郭周辺)に近い場合、強い刺激が呼吸補助筋の動きを制限する可能性があります。また、皮膚の状態を確認し、炎症や乾燥がないか確認してください。
共通の注意点
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NMESの効果判定を定期的に実施
筋力や運動機能の改善状況を定期的に評価し、NMESの刺激設定やトレーニングプログラムを見直します。患者に合わせた最適なプログラムを構築するためのデータ収集が重要です。 -
患者の疲労を最優先で管理
NMESを過剰に使用すると、筋疲労や倦怠感が強くなる場合があります。疲労感を訴えた場合は直ちに中止し、休息を取らせてください。 -
患者教育の実施
自宅でNMESを利用する場合、電極の取り付け位置や刺激の設定方法、装置の安全な使用方法について十分な教育を行います。 -
刺激中の非対称な動きに注意
NMESの刺激で非対称的な筋収縮が起こる場合は、電極配置や刺激強度を調整し、バランスの良い筋活動を促進します。 -
刺激開始前後のウォーミングアップとクールダウン
刺激前後に軽いストレッチや呼吸練習を行い、筋肉と循環系を徐々に適応させます。 -
医師との連携を強化
NMES使用中に体調の変化や異常が見られた場合は、速やかに主治医やチームに報告し、指示を仰ぎます。 -
適切な装置管理
電気刺激装置が正しく動作しているか、セッション前に必ず確認します。また、患者ごとに電極を適切に消毒し、感染リスクを低減します。 -
NMES中のコミュニケーション
NMES使用中は患者と常に会話し、刺激の感覚や不快感を尋ねて適切に対応します。 -
安全装置の準備
緊急時に迅速に対応できるよう、心肺蘇生装置やAEDを準備しておきます。 -
患者の個別性に配慮
年齢、疾患、体力、心理状態などに応じてNMESの使用方法やプログラムを柔軟に調整します。
これらのポイントを踏まえ、新人療法士が安心してNMESを活用できるリハビリ計画を立てることができます。
退院後のリハビリは STROKE LABへ
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STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)