【2024年版】脳卒中後の歩行速度向上の鍵!下腿三頭筋と感覚フィードバックの重要性
脳卒中患者の歩行速度の改善と下腿三頭筋の役割を探る講義
論文内容
カテゴリー
タイトル
●歩行速度に対する下腿三頭筋の筋紡錘からの感覚フィードバックの重要性
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●脳卒中患者では多くの方が歩行時の麻痺側の立脚中期から後期の不安定性を示す。まだ現在の私の技能では立脚後期における足趾~足関節と股関節・体幹をリンクさせた感覚フィードバックを患者に適切に付与できていないと臨床で感じ、頭を整理するために立脚後期の神経系に関わる本論文を読む至った。
内 容
背景
●歩行において下肢伸筋は主に立脚期に活性化され、屈筋は遊脚期に活性化されます。筋のこの協調作用は脊髄内の運動ニューロンプールのパターン化された活動(運動パターン)によって制御されます。この自発運動パターンは、脊髄内の相互接続された介在ニューロンのネットワーク(Central Pattern Generator:CPG)の統合機能と末梢の皮膚および固有感覚受容器からの感覚フィードバックの結果であることが知られています。
●動物は狩猟、脱出、移動、餌を採るなどのさまざまな目的を果たすために、様々な速度で移動できます。自発運動速度が上がると、ステップサイクルの持続時間は短くなります。これは立脚期の持続時間が減少することによって引き起こされますが、遊脚期の持続時間は比較的一定のままです。
●異なる速度での屈筋と伸筋からの筋電図(EMG)活動の記録により、速度が上がると主に伸筋のEMG活動がそれに応じて増加することが明らかになりました。ただし、この速度依存の伸筋活動の調節を引き起こす回路は理解されていません。
●本論文では筋紡錘からの固有受容感覚フィードバックが立脚時の伸筋のEMG活動を調節し、この調節が高速での運動に必要であるという証拠を提示します。
方法
●実験は雌雄の60〜90日齢の成体のマウスで行われた。実験前に訓練されたマウスはいなかった。すべての手順はカナダ動物管理評議会に準拠しており、Dalhousie大学の動物実験に関する大学委員会によって承認されました。
結果
●筋紡錘からの固有受容感覚フィードバックは運動中の筋活動強度を調節する上で重要であることが示されました。膝伸筋からの筋紡錘フィードバックは振幅変調に影響を与えなかったが、足関節伸筋の筋紡錘である下腿三頭筋からのフィードバックは調節に重要であることが示されました。
●歩行速度が上がると、歩幅は短くなりました。ステップの持続時間の減少は、主に立脚期の減少と程度は少ないが遊脚期の持続時間の変化の結果でした。
● 大腿二頭筋(股関節伸筋)、外側広筋(膝伸筋)、および下腿三頭筋(足関節伸筋)から記録されたEMG活動は、歩行速度の増加とともに増加しました。歩行中には下肢伸筋のEMG活動が速度依存的にアップレギュレーションされることが示唆されています。
●筋紡錘からの固有受容感覚フィードバックが様々な速度での歩行中の下肢の動きの時間的特性を調節するために重要であることが示唆されました。
●補足:皮膚の求心性神経も伸筋活動の調節に重要であることが示されています。
私見・明日への臨床アイデア
●歩行速度を上げていくには、下腿三頭筋の機能を高め、筋紡錘から適切なフィードバックを得ていく事が重要であることが示唆された。立脚終期の下腿三頭筋の筋紡錘フィードバック信号はスイングを開始するための重要な信号であることが再確認できた。また、本論文のデータが示唆しているように、足関節伸筋からの筋紡錘フィードバックは、立脚期の筋活動強度の調節にとって重要と言える。
●健常者の歩行時の筋電図データにおいても、大腿四頭筋などより下腿三頭筋と前脛骨筋等の足部筋がより優位に相反的かつ協調的に働いているのを確認している。
併せて読みたい【歩行速度・下腿三頭筋】関連論文
●脳卒中×触診 【下腿三頭筋 腓腹筋―ヒラメ筋の起始停止:歩行の関係性】
●Vol.586.膝関節のバイオメカニクスにおける腓腹筋の役割とは??
●Vol.595.脳卒中患者の歩行速度と体重移動(weight shift)の関係性
●Vol.501.皮質脊髄路は歩行速度の予測因子?脳損傷部位と歩行機能の関係性
脳卒中患者の下腿三頭筋をターゲットとした歩行速度改善の具体的手順
脳卒中後の歩行速度低下の原因には、下腿三頭筋(腓腹筋とヒラメ筋)の筋力低下、筋活動のタイミング不良、そして感覚入力の低下が含まれます。このアプローチでは、評価からリハビリ計画、段階的な介入法に至るまでの具体的なプロセスを解説します。
1. 初期評価
目的: 患者の下腿三頭筋の状態を詳細に把握し、歩行速度低下の要因を特定する。
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筋力評価:
- 徒手筋力検査(MMT)を用い、麻痺側下腿三頭筋の筋力を評価。
- 等速性筋力測定器(利用可能であれば)で収縮力を定量化。
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筋電図(EMG)解析:
- 歩行周期における下腿三頭筋の活動タイミングを確認。
- プッシュオフ時に十分な活動が得られているかを判断。
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歩行解析:
- 3Dモーションキャプチャとフォースプレートを使用し、以下を分析:
- 床反力(推進力)。
- 足関節のプッシュオフ角度。
- 歩行周期の非対称性。
- 3Dモーションキャプチャとフォースプレートを使用し、以下を分析:
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感覚評価:
- 足底の感覚障害(足底板への圧力感覚など)をチェック。
- 足関節の固有受容覚を検査(ジョイントポジションセンステストなど)。
2. リハビリ計画の立案
目標: 歩行速度を改善するための筋力強化と神経-筋協調性の向上。
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短期目標:
- 下腿三頭筋の等尺性筋力を10%向上させる。
- プッシュオフ時の筋活動タイミングを正常化する。
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中期目標:
- 歩行周期の非対称性を50%改善。
- 足関節のプッシュオフ力を強化。
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長期目標:
- 歩行速度を患者の年齢・性別の正常値の80%以上に回復。
3. 具体的なリハビリ手順
初期段階(可動性と筋収縮の再学習)
目標: 筋活動を促進し、歩行時に下腿三頭筋を効率的に使える状態を作る。
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関節可動域(ROM)の確保:
- 足関節の背屈・底屈のストレッチを実施。
- リラックス手技: 足関節底屈の硬さを軽減。
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等尺性収縮の訓練:
- 座位で足を地面に固定し、プッシュオフをイメージしながら下腿三頭筋を等尺性収縮。
- 毎回10秒間収縮 × 10回を1セット、1日3セット。
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感覚フィードバックの提供:
- 足底に圧力センサー付きインソールを装着し、適切な荷重分布をリアルタイムで確認。
中期段階(筋力とプッシュオフ能力の強化)
目標: 下腿三頭筋の筋力増強と歩行周期後半での推進力生成を促進。
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重心移動の練習:
- 片足荷重を練習し、麻痺側に体重を乗せる感覚を習得。
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プッシュオフ強化エクササイズ:
- 階段昇降訓練: 体重を麻痺側下肢にかけて階段を上る。
- カーフレイズ(踵上げ): 両足からスタートし、徐々に麻痺側の単独動作に移行。
- 負荷を増加するためにウェイトを追加。
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弾性バンドトレーニング:
- セラバンドを足に巻き、足関節を底屈させる運動を行う。10回×3セット。
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トレッドミル歩行訓練:
- プッシュオフ動作を意識したトレーニングを実施。
- 初めは手すりを使用し、速度を徐々に増加。
後期段階(歩行速度の直接改善)
目標: 歩行速度を安定して向上させ、日常生活レベルでの歩行を可能にする。
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リアルタイムバイオフィードバック:
- 歩行中の下腿三頭筋の筋活動をリアルタイムでフィードバックするデバイスを使用。
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デュアルタスク歩行訓練:
- 軽い認知課題(例: 数字の逆唱)を行いながら歩行速度を向上させる。
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プライオメトリックトレーニング:
- ジャンプやスキップを取り入れて、速筋線維の活性化を促進。
- 注意: バランス能力を十分確認した上で実施。
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アウトドア歩行:
- 坂道や異なる地面条件での歩行練習を実施。
- プッシュオフの感覚を強化。
4. フォローアップと再評価
- 歩行速度: 6分間歩行テストや10m歩行テストで客観的に評価。
- 筋力: 徒手筋力検査や再度の等速性筋力測定を行う。
- 歩行解析: 歩行周期の非対称性やプッシュオフ時の力発揮を確認。
ポイント
- リハビリの各段階で患者に適切なフィードバックを提供する。
- 筋力強化だけでなく、神経-筋協調性を同時に改善することが重要。
- 歩行速度の改善には、感覚と運動制御の統合的アプローチが不可欠。
新人療法士が歩行速度の改善を目的にリハビリを行う際のポイント
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)