【2025年版】脳卒中患者の手の浮腫と疼痛:メカニズムからリハビリ戦略まで|ロボット支援・徒手・道具を活用した最新アプローチ
脳卒中患者における浮腫と疼痛のメカニズムとアプローチ
講義の導入
金子先生(医師):「丸山さん、今日は脳卒中患者さんに見られる浮腫と疼痛のメカニズムについて学び、リハビリテーションでの具体的な対応方法を考えてみましょう。特に、神経学的、運動生理学的、そして多職種連携によるチームアプローチの重要性について掘り下げます。」
丸山さん(新人療法士):「よろしくお願いします!浮腫と疼痛は患者さんのQOLに大きく関わる重要な課題ですね。」
1. 脳卒中後の浮腫のメカニズム
神経学的視点
-
中枢性運動障害:
脳卒中による麻痺側の筋活動低下が静脈還流やリンパ液の流れを阻害し、末梢浮腫を引き起こします。特に、四肢の重力依存部位で顕著です。 -
自律神経機能障害:
交感神経・副交感神経の不均衡が血管透過性を増加させ、間質液の蓄積を促進します。
運動生理学的視点
-
筋ポンプ作用の低下:
筋収縮が不十分なため、下肢や手の浮腫が進行します。
例:腓腹筋が十分に働かないと静脈還流が妨げられる。 -
炎症反応:
長期間の不動により、炎症性サイトカインが産生され、血管透過性をさらに高めることがあります。
2. 脳卒中後の疼痛のメカニズム
神経学的視点
-
中枢性疼痛:
- 脳卒中による視床損傷などで生じる。
- 非侵害刺激(軽い触覚など)にも過剰な痛みを感じる現象(アロディニア)が含まれます。
-
末梢性疼痛:
- 筋緊張の増加や不適切な関節位置(肩の亜脱臼など)による痛み。
運動生理学的視点
-
筋骨格性疼痛:
- 麻痺側の姿勢や動作の不良が長期間続くことで、肩・背中・股関節などに負荷が集中します。
- 例:肩手症候群(CRPSタイプI)。
-
慢性炎症:
- 持続的な炎症が浮腫と疼痛を相互に増強する可能性があります。
3. リハビリテーションでの具体的アプローチ
浮腫に対するアプローチ
方法 | 手順 | 注意点 |
---|---|---|
圧迫療法 | 弾性ストッキングや包帯を使用。末梢から中枢に向けて圧力をかける。 | 血流障害や皮膚損傷のリスクを評価する。 |
運動療法 | リズミカルな筋収縮運動(足関節ポンプ運動など)を行い、筋ポンプ作用を活性化。 | 患者の疲労度や心肺機能を考慮する。 |
リンパドレナージ | 理学療法士が手技的にリンパの流れを促進する。 | 感染や皮膚トラブルがある場合は避ける。 |
疼痛に対するアプローチ
方法 | 手順 | 注意点 |
---|---|---|
動作改善訓練 | 関節の正しい位置を保持しながら、麻痺側の機能を補助する動作を学習。 | 不適切な補助具使用に注意。 |
電気刺激療法 | 麻痺側の筋活動を刺激し、筋ポンプ作用を改善。 | 刺激量を調整し、患者の皮膚状態を観察。 |
温熱・冷却療法 | 血流改善や炎症抑制のため、部位に応じて温熱または冷却を選択。 | 感覚障害がある場合は慎重に行う。 |
4. チームアプローチの重要性
各職種の役割
職種 | 役割 |
---|---|
医師 | 症状の診断、薬物療法の処方、浮腫や疼痛の原因特定。 |
看護師 | 患者の日常ケア、浮腫や疼痛の状態観察、体位変換の実施。 |
理学療法士 | 筋力訓練、運動療法、マッサージなど、直接的なリハビリアプローチ。 |
作業療法士 | 日常生活動作(ADL)を改善する訓練、補助具の選定。 |
栄養士 | 栄養状態の評価、浮腫改善に寄与する食事指導(ナトリウム制限やタンパク質摂取など)。 |
心理士 | 疼痛や浮腫が患者の精神状態に与える影響を緩和するカウンセリング。 |
金子先生のアドバイス
「丸山さん、浮腫や疼痛の治療は一つの方法だけでは不十分です。患者さんの全体像を把握し、チーム全体で包括的に支援することが鍵です。患者さんの状態をよく観察し、適切な手技と連携を心がけてください。」
まとめ
- 浮腫: 中枢性運動障害、自律神経機能障害、筋ポンプ作用低下が主な原因。圧迫療法や運動療法が有効。
- 疼痛: 中枢性疼痛、末梢性疼痛、筋骨格性疼痛に分けられ、それぞれ異なるアプローチが必要。
- チームアプローチ: 多職種が協力して、患者の身体的・心理的な問題に総合的に対応することが重要。
丸山さん:「ありがとうございます!明日からの臨床に生かします!」
論文内容
カテゴリー
タイトル
●脳卒中患者の手の浮腫と疼痛に対するロボット支援療法の効果とは??
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●手の浮腫に対しては徒手療法や課題訓練・物理療法を行うことが多いが、機器を用いた対処法の効果も学びたく学習の一助として本論文に至った。
内 容
背景
●リハビリテーションロボット支援によって提供される一般的に報告されている治療アプローチは次のとおりです。
○ロボットにより補助された受動的な手足の動き:ロボット装置が患者の手足を動かします。
○ロボットにより補助されたアクティブな四肢の動き:ロボットデバイスは、患者が現在の筋力では実行できない動きを実行するのを支援します。
○アクティブな手足の動きに抵抗負荷をかける:ロボットデバイスは、患者のアクティブな動きに抵抗します。
○アシスト/抵抗両手運動:ロボットデバイスは、患者の非麻痺手足のアクティブな動きを認識し、アシストされたアクティブまたはパッシブな手足の動きで患者の麻痺側の手足に再現(ミラーリング)します。
●CPMを使用した慢性期片麻痺患者のグループに関する研究では、上肢の遠位の痙縮の減少が報告されました。他の研究では、CPMは特に亜急性期の弛緩性片麻痺の患者において手の浮腫を軽減するのに効果的であると報告されています。
● 研究目的は、標準的なリハビリテーションに加えロボット支援による受動的な手の動きを行うことで、急性期脳梗塞後の手の痛みや浮腫、痙攣が軽減されるかどうかを、手指の麻痺がある患者とない患者の全員を対象に検討することでした。
方法
● 2013年9月から2013年10月にかけて,脳卒中後に上肢の機能障害がある45歳から80歳の35名を研究対象として募集しました。片方のグループ(Passive ROM群:P-ROM)は上肢完全麻痺の患者16名(平均年齢±SD、68±9歳)、もう片方のグループ(Active ROM群:A-ROM)は部分麻痺の患者14名(平均年齢±SD、67±8歳)で構成されていました。
●両グループの患者は、1日2回、2週間連続で手の受動的モビライゼーションのためにグロリハ・デバイスを使用しました。主要評価項目は手指の浮腫でした。副次的評価項目は、痛みの強さと痙性でした。すべての結果は、ベースライン時と介入直後(2週間)に収集されました。
結果
●結果は部分麻痺群は完全麻痺群と比較し、手の浮腫と痛みの減少が有意に大きいことが示されました。その他の結果は両群で同様でした。痛みの軽減は、臨床的に意味のある最小の差の閾値(MCID)を満たしていませんでした。
●P-ROMグループと比較した場合、A-ROMグループはVASスコアで測定した手関節の浮腫と痛みの軽減に効果を示したことを示唆しています。
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明日への臨床アイデア:手指の浮腫に対するリハビリ介入の手順
手指の浮腫に対するリハビリは、徒手的アプローチ、ロボットリハビリ、道具を用いる方法の3つのアプローチを組み合わせて行うと効果的と思われます。以下に、それぞれの手順を詳細に説明します。
1. 徒手的アプローチ
徒手的な介入は、浮腫の改善と循環促進を目的とします。
(1) リンパドレナージ
- 目的: 浮腫部のリンパ液の流れを促進。
- 手順:
- 準備: 患者の腕を楽に支持し、リラックスさせる。患者の皮膚に適した保湿クリームを使用。
- 軽擦法: 手首から肘、肩方向に向かって軽く円を描くようにマッサージ。圧力は優しく、リンパ管を刺激する程度に留める。
- 関節周囲: 指関節周囲を円を描くように優しく刺激。
- 終了: 浮腫が軽減してきたら、全体の循環を促進するため、さらに広範囲(肘・肩)をマッサージ。
(2) 筋ポンプエクササイズ
- 目的: 筋収縮を利用して静脈還流を促進。
- 手順:
- 指の曲げ伸ばし: 指の屈伸運動を患者が可能な範囲で繰り返す。介助が必要な場合は療法士が指を動かす。
- 手首の運動: 手首を上下に動かす。
- 反復: 1セット10回を目安に複数セット実施。
(3) 圧迫療法
- 目的: 血液やリンパ液の過剰な滞留を防ぐ。
- 手順:
- 弾性包帯または指用の圧迫グローブを使用。
- 指先から順に適度な圧を加えながら巻いていく。
- 包帯がきつすぎず、血流を妨げないことを確認。
2. ロボットリハビリ
ロボットを用いたリハビリでは、患者の筋力や動作能力を補助し、反復的な訓練を行います。
(1) リハビリ機器の選択
- 例: Amadeo(指用ロボットリハビリ装置)、HandTutor、Gloreha。
- 特徴:
- 反復的な指の屈伸運動を補助。
- 筋力評価とフィードバックを提供。
(2) トレーニングの流れ
- 装着: 機器を手指に装着し、適切な位置に固定。
- 設定: 患者の筋力に合わせて動作範囲や抵抗を調整。
- 運動:
- 指の屈伸や回内外など、関節運動を反復。
- 必要に応じて患者に視覚・触覚フィードバックを与える。
- モニタリング: 機器のフィードバックデータをもとに浮腫の改善度を評価。
- 終了: 装置を外し、患者の状態を確認。
3. 道具を用いるリハビリ
道具を活用することで、徒手やロボットによるアプローチを補完します。
(1) ハンドセラピーボール
- 目的: 指の運動と筋ポンプ効果を得る。
- 手順:
- 患者に柔らかいボールを持たせる。
- 指で握る動作と開く動作を繰り返す。
- 患者が疲労しない範囲で3~5分間実施。
(2) 指用セラバンド
- 目的: 軽い抵抗を用いて指の筋力を強化しながら浮腫を改善。
- 手順:
- 指先にセラバンドを巻きつける。
- 指を開閉し、バンドの抵抗を活用して運動。
- 各指で10回ずつ行う。
(3) マッサージローラー
- 目的: 指や手掌の筋膜を緩め、血流を促進。
- 手順:
- ローラーを手掌や指に当て、軽く転がす。
- 圧力を調整しながら、3~5分間実施。
(4) パラフィン浴
- 目的: 温熱効果で浮腫部の循環を促進。
- 手順:
- パラフィン浴装置を用意し、適温に設定(約50~55℃)。
- 患者の手をパラフィン液に数回浸け、層を形成。
- 固化後に手を取り出し、10~15分間保温。
- パラフィンを剥がし、軽くマッサージ。
注意事項
- 皮膚状態の確認: 浮腫による皮膚の脆弱化や感染兆候がないか観察する。
- 血流障害のリスク: 圧迫療法時は特に循環障害のリスクを考慮する。
- 患者の疲労: 過剰な運動は逆効果になる場合があるため、適切な休息を挟む。
- 継続性: 短期間での効果は限られるため、日常生活での簡便な方法も指導する。
これらを組み合わせ、患者の状態や目標に応じて柔軟に対応することが重要です。
新人療法士が手指の浮腫に対して注意すべきポイント
以下は、浮腫への介入において新人療法士が見落としがちな要素を補足したものです。これにより、安全かつ効果的なリハビリを行うことが可能になります。
1. 浮腫の評価に基づく計画立案
- ポイント:
介入前に浮腫の程度、範囲、性質(硬い・柔らかい)を適切に評価し、記録しておくこと。特に、指周囲の計測や写真記録を使用すると経過観察に役立つ。 - 理由:
適切な評価がないと、過剰または不足した介入になる可能性がある。
2. 神経血管障害の兆候の確認
- ポイント:
手指の浮腫が進行している場合、しびれやチアノーゼなど、神経血管障害の兆候がないか確認すること。 - 理由:
これらの症状がある場合、早急な医師への報告が必要。
3. 他疾患による浮腫の可能性を排除
- ポイント:
心不全や腎疾患など全身性の浮腫が原因でないかを確認。疑わしい場合は医師に相談。 - 理由:
浮腫の原因がリハビリ対象外の場合、不適切な介入が逆効果となる。
4. 温熱療法の適応と禁忌の判断
- ポイント:
温熱療法を行う際、感覚鈍麻や循環不良がないか事前に確認する。特に糖尿病患者や脳卒中後の感覚障害がある場合は注意。 - 理由:
不適切な温熱刺激はやけどや組織損傷のリスクを伴う。
5. 介入中の患者の反応の観察
- ポイント:
浮腫改善のための圧迫療法やマッサージ中に、患者が痛みや不快感を訴えた場合は即座に中止する。 - 理由:
過剰な圧力や不適切な手技はさらなる炎症を引き起こす可能性がある。
6. 過度な依存を避ける
- ポイント:
患者自身がセルフケアを行えるよう指導する。たとえば、簡単な指の屈伸運動や弾性グローブの装着方法などを教える。 - 理由:
患者が積極的にリハビリに参加することで、長期的な効果が期待できる。
7. 他職種との連携
- ポイント:
看護師や栄養士と連携し、全身の循環状態や栄養状態を考慮したアプローチを行う。 - 理由:
浮腫の改善は単独のリハビリでは限界があるため、チームアプローチが重要。
8. 患者の心理的負担の軽減
- ポイント:
浮腫による外見の変化や不便さに対する患者の心理的負担を理解し、共感を示す。 - 理由:
心理的な安心感が得られると、患者のリハビリ参加意欲が向上する。
9. 水分摂取と食事指導の確認
- ポイント:
適切な水分摂取や低塩分食など、浮腫を悪化させない食生活を患者に指導する。 - 理由:
栄養や水分管理が浮腫改善の重要な要素であるため。
10. 運動負荷の漸進的増加
- ポイント:
初期段階では軽い運動から開始し、徐々に負荷を増やしていく。患者の筋力や耐久性に応じて調整。 - 理由:
急激な負荷増加は浮腫を悪化させる可能性があるため、段階的に進めることが大切。
まとめ
新人療法士は、患者の状態を詳細に観察し、適切な評価と介入を行うと同時に、患者の安全性や心理的ケア、他職種との連携も考慮して対応することが求められます。これらの注意点を活かし、全人的なアプローチを心掛けてください。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)