【2024年版】上腕骨骨折への保存・手術 / リハビリテーション / 自主トレーニングまで解説!
上腕骨骨折の基本知識と発生機序
上腕骨骨折は、腕の主要な骨である上腕骨に発生する骨折です。この骨は肩から肘までをつなぐ長い骨で、多くの場合、外傷によって骨折が引き起こされます。骨折の位置には大きく分けて三つのタイプがあります:近位(肩に近い部分)、骨幹部(骨の中央部)、遠位(肘に近い部分)。
引用:https://ota.org/for-patients/find-info-body-part/3831#/+/0/score,date_na_dt/desc/
発生原因:
- 直接的な外力:転倒して腕に強い衝撃が加わった場合や、交通事故による直接的な打撃が原因で発生します。
- 間接的な力:手を伸ばして転倒した際に、肘から肩にかけての力が上腕骨に伝わり、骨折を引き起こすことがあります。
一般的な症状:
- 激しい痛み
- 腕の腫れや変形
- 腕の動かしにくさや完全な動きの喪失
- 骨折部位の周囲の皮膚に青痣や腫れが現れることがあります。
治療法の選択は?
上腕骨骨折の治療法は骨折のタイプ、患者の年齢、一般的な健康状態、活動レベルに基づいて決定されます。主に以下の二つの治療法が考慮されます:
保存的治療:
- 固定:ギプスやスリングを用いて骨折した腕を安静に保ちます。骨折が比較的安定しており、骨のずれが少ない場合に適しています。
- 利点:非侵襲的であるため、感染リスクが低く、回復期間中の体への負担が少ない。
- 欠点:不適切な固定や長期間の不動が筋肉の萎縮や関節の拘縮を引き起こす可能性があります。
手術治療:
- 内固定術:プレートやネジ、ピンを用いて骨片を固定します。骨のずれが大きい場合や、複数の断片がある複雑な骨折に対して行われます。
- 利点:骨折の安定化が早く、早期のリハビリテーションが可能になるため、筋肉の萎縮や関節の拘縮のリスクを減らすことができます。
- 欠点:手術には感染のリスクや手術後の合併症が伴う可能性があります
治療 | 方法 | 適応状況 | 利点 | 欠点 |
---|---|---|---|---|
保存 | ギプスやスリングによる固定 | 骨折が安定しており、骨のずれが少ない場合 | 非侵襲的で感染リスクが低い、体への負担が少ない | 長期間の不動が筋肉の萎縮や関節の拘縮を引き起こす可能性がある |
手術 | 内固定術(プレートやネジ、ピンによる固定) | 骨のずれが大きい、複数の断片がある複雑な骨折に対して行われる | 骨折の安定化が早く、早期リハビリテーションが可能 | 手術による感染のリスクや手術後の合併症の可能性がある |
この表は、各治療法の特徴を明確にすることで、患者や医療従事者が適切な治療選択を行うための参考にできます。
引用:https://images.app.goo.gl/u1FeR8a29oN3BL6P6
手術をもう少し詳しく
内固定術(ORIF: Open Reduction and Internal Fixation)
概要: 内固定術は、上腕骨骨折の治療において、特に骨のずれが大きい場合や複雑な骨折に対して行われます。この手術では、プレート、ネジ、ピンなどの内固定具を用いて、骨片を解剖学的に整復し固定します。
手術手順:
-
術前準備:
- 患者の全身状態を評価し、適応を確認します。
- 術前に必要な画像検査(X線、CTなど)を行い、骨折の詳細な評価を実施します。
-
麻酔:
- 全身麻酔または局所麻酔(腕神経叢ブロック)を使用します。
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切開と骨折部位へのアクセス:
- 骨折部位に対して適切な皮膚切開を行い、筋肉や軟部組織を慎重に分離します。
- 骨折部位を露出させ、骨片を整復します。
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内固定具の設置:
- 解剖学的整復が達成された後、プレートやネジ、ピンを用いて骨片を固定します。
- プレートとネジは、骨の解剖学的構造を尊重しながら配置されます。
-
固定の確認:
- 透視装置を用いて、固定具の位置と骨片の整復状態を確認します。
- 必要に応じて再調整を行います。
-
閉創と術後管理:
- 軟部組織を元に戻し、層ごとに縫合します。
- ドレーンを留置する場合があります。
- 術後の感染予防のため、抗生物質を投与します。
利点:
- 早期の骨折安定化により、早期のリハビリテーションが可能となります。
- 解剖学的整復が達成されるため、骨癒合が促進され、機能回復が期待されます。
欠点:
- 感染のリスクが伴います。
- 内固定具による刺激や、神経血管損傷の可能性があります。
- 手術後の合併症(血腫、癒合不全、プレートやネジの破損など)が生じることがあります。
術後管理:
- 定期的なフォローアップと画像検査による骨癒合の評価。
- 術後リハビリテーションプログラムの導入。
- 感染兆候や合併症の早期発見と対処。
リハビリテーションの進め方は?
上腕骨骨折後のリハビリテーションは、患者の回復を最大限に促進するために計画的に行われます。リハビリテーションプロセスは、以下のような段階に分けて進められることが一般的です:
初期段階(急性期)
- 目的:痛みと腫れを管理し、手術部位または骨折部位の保護を行います。
- エクササイズ:軽度の可動域訓練、氷の使用による冷却治療、軽い筋肉の活動。
中期段階(回復期)
- 目的:可動域を徐々に拡大し、基本的な筋力を回復させます。
- エクササイズ:抵抗を伴う運動、プールでの水中療法、特定の筋群をターゲットとした筋力トレーニング。
後期段階(機能回復期)
- 目的:日常生活に必要な機能の完全な回復と、仕事やスポーツ活動への復帰を目指します。
- エクササイズ:具体的な活動やスポーツに関連する動作の練習、高強度の筋力訓練、調整とバランスの向上を目的としたトレーニング。
注意点
- 個々の進捗に合わせた調整:患者の痛みの度合いやリハビリテーションの進捗に応じて、エクササイズの強度や種類を調整することが重要です。
- 過剰な運動の回避:急速な進行や過度な負荷は二次的な損傷を招く可能性がありますので、慎重に進めることが必要です。
コメディカルの役割
上腕骨骨折の患者ケアにおいて、看護師、理学療法士、作業療法士などのコメディカルスタッフが協力して治療を進めることが非常に重要です。各職種の役割は以下の通りです:
看護師
- ケアの提供:痛みの管理、感染予防、患者の日常生活のサポート。
- 教育とコミュニケーション:患者と家族への治療プロセスの説明と精神的サポート。
理学療法士
- 身体機能の回復:適切なエクササイズプログラムの提供、患者の可動域と筋力の向上をサポート。
- 評価とフィードバック:リハビリテーションの進捗を評価し、必要に応じて治療計画を調整。
作業療法士
- 日常生活の自立支援:食事、着替え、その他の日常生活動作(ADL)の訓練。
- 適応用具の利用:必要に応じて特別な道具を提供し、日常生活の質の向上を図ります。
これらの専門家が協力することで、患者は物理的な回復だけでなく、社会的、職業的な活動へとスムーズに復帰することができます。多職種連携は、患者中心のケアを実現し、治療成果を最大化するために不可欠です。
患者とのコミュニケーション
良好なコミュニケーションと患者教育は、リハビリテーションプロセスにおいて極めて重要です。これらは患者が自らの治療に積極的に参加し、効果的な回復を遂げるための基盤となります。
コミュニケーション技術
- 明確で簡潔な説明:医療用語を避け、患者が理解しやすい言葉を使って状態や治療プランを説明します。
- アクティブリスニング:患者の話を注意深く聞き、感情に耳を傾けることで、患者が抱える不安や疑問に対応します。
- 共感の表現:患者の感情や困難を理解し、共感を示すことで、信頼関係を築きます。
- フィードバックの奨励:患者に積極的に意見や感想を求め、治療プロセスへの参加を促します。
患者教育の方法
- 教育資料の提供:パンフレットやビデオなど、視覚的な教材を使用して、患者が状態や必要な治療について深く理解できるよう支援します。
- 治療プロセスの透明性:治療の各ステップを詳しく説明し、患者が次に何が起こるかを常に把握できるようにします。
- 教育セッションの実施:定期的に教育セッションを設け、患者が質問をする機会を提供します。
患者エンゲージメントを促す戦略
- 目標設定の共有:患者と一緒に現実的で達成可能な短期および長期の目標を設定し、モチベーションを高めます。
- 進捗の可視化:治療の進捗を追跡し、達成した小さな目標を祝うことで、患者の自信とモチベーションを維持します。
- サポートグループへの参加促進:同様の状態を持つ他の患者との交流を促し、相互サポートのネットワークを形成します。
自主トレーニングの提案
- 軽いストレッチング:骨折部位の周りの筋肉を優しくストレッチすることで、可動域を徐々に改善します。
- 筋力強化エクササイズ:ゴムバンドや軽いダンベルを使用して、非骨折側と骨折側の筋力バランスを改善します。
- バランスエクササイズ:安定した表面やバランスボード上での立位バランス訓練を行い、全体的な身体の安定性を高めます。
これらの自主トレーニングは、医師や理学療法士の指導の下で、安全に行うようにしてください。患者が自身の回復プロセスに積極的に関与することで、治療の効果を最大化し、より早く日常生活に戻ることができます。
自宅でできる自主トレーニング
1. 柔軟性と可動域向上のためのエクササイズ
- 振り子エクササイズ
- 体を前に傾け、骨折した腕を垂直に下げます。腕をリラックスさせ、腕を前後に小さく揺らします。これを数分間繰り返し、次に左右にも同様に行います。
- 壁登りエクササイズ
- 壁の前に立ち、指先で壁を登るように手を上に滑らせていきます。痛みが許す限り上に上げ、ゆっくりと元の位置に戻します。これを繰り返します。
2. 筋力向上エクササイズ
- エラスティックバンドを使用したエクササイズ
- 座った姿勢で、エラスティックバンドの一端を足で固定し、もう一端を手に持ちます。肘を90度に曲げた状態で、腕を体の横に引き寄せます。これをゆっくりと繰り返します。
- ダンベルリフト
- 軽いダンベルを使用し、肘を曲げたまま腕を持ち上げる運動を行います。肘が身体の側に固定された状態で行い、上腕の筋肉を中心に鍛えます。
3. バランスと調整のエクササイズ
- 片足立ち
- 安全な環境で、片足ずつ立つ練習をします。最初は手すりや椅子を手で支えながら行い、徐々に支えなしで行えるようにします。
- ソフトボール投げ
- 軽いソフトボールを使い、壁に向かってゆっくりとボールを投げ、キャッチする練習をします。これにより、手の調整能力と反応速度が改善されます。
4. 日常生活動作(ADL)の訓練
- 衣服の着脱訓練
- 患者が自分で衣服の着脱ができるように、異なる種類の衣服を使った練習を行います。特にボタンやジッパーの操作に焦点を当てます。
これらの自主トレーニングは、患者が自らのペースで行えるようにカスタマイズされ、患者が日常生活やより高度な活動に戻るための自信と能力を向上させることが目的です。初めて行う際には、理学療法士や作業療法士の監督のもとで正しい形で行うことが推奨されます。
エビデンスは?
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“Arthroscopy, Sports Medicine, and Rehabilitation” に掲載された研究では、上腕骨骨折後のリハビリテーションにおける振り子運動の肩の運動学を患者特有のイメージングとモーションキャプチャ技術を用いて生体力学モデルに基づいて調査しています。 (BioMed Central).
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“Task-oriented exercises improve disability of working patients with surgically-treated proximal humeral fractures. A randomized controlled trial with one-year follow-up” というタイトルのBMC Musculoskeletal Disordersの論文では、日常生活や職場での活動を模倣するタスク指向の運動を含むリハビリテーションプログラムについて検討しています。このプログラムは、上肢の機能を改善し、障害、痛み、生活の質を向上させることを目指しています。 (BMJ)。
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)