【2024年版】正常圧水頭症(NPH)の原因・診断・予後・治療・リハビリテーションまで解説
診断までの流れ
登場人物
- 丸山さん: 75歳、男性、退職後の生活を楽しんでいる
- 金子先生: 神経内科医
第1章: 診断
丸山さんは、最近歩行が不安定になり、軽い認知症のような症状と尿失禁が現れたため、病院を訪れました。最初の診察で金子先生が担当しました。
金子先生:
「丸山さん、こんにちは。今日はどのような症状でいらっしゃいましたか?」
丸山さん:
「ここ半年くらい、歩くのが不安定になり、少し物忘れも増えてきました。また、最近は尿失禁が気になるようになってきました。」
金子先生は問診と神経学的検査を行い、以下の点に注目しました:
- 問診: 症状の経過、生活の変化、家族歴
- 神経学的検査: 歩行状態、認知機能、反射、筋力の評価
初期の評価で歩行障害、認知障害、尿失禁が確認されたため、正常圧水頭症(NPH)の可能性を疑いました。
金子先生:
「丸山さんの症状は正常圧水頭症の特徴に合致します。これは脳内の脳脊髄液の循環異常によって起こる病気です。MRIと腰椎穿刺を行って診断を確定しましょう。」
第2章: 検査結果と診断
数日後、丸山さんはMRI検査と腰椎穿刺を受け、その結果を聞くために再び金子先生の診察室を訪れました。
金子先生:
「丸山さん、検査結果が出ました。MRIで脳室の拡大が確認され、腰椎穿刺で脳脊髄液の圧力が正常範囲内であることがわかりました。これにより、正常圧水頭症(NPH)であることが確定しました。」
丸山さん:
「それは治療できる病気なのでしょうか?」
金子先生:
「はい、NPHは治療可能です。主な治療法はシャント手術で、脳脊髄液を体内の別の部位に排出するためのチューブを挿入します。この手術により、多くの患者さんが症状の改善を見せます。」
第3章: 治療の計画
金子先生は治療の選択肢について説明し、シャント手術の計画を立てました。
金子先生:
「手術は全身麻酔下で行います。脳脊髄液を腹腔に排出するためのシャントを挿入します。手術後はリハビリテーションが重要です。歩行機能や認知機能の改善を目指しましょう。」
丸山さん:
「手術にはどれくらいのリスクがありますか?」
金子先生:
「手術にはリスクがありますが、NPHの治療としては非常に効果的です。合併症のリスクを最小限にするために、経験豊富なチームが対応します。」
第4章: 手術と術後の経過
手術は成功し、丸山さんは無事に目を覚ましました。金子先生は術後の経過について説明しました。
金子先生:
「手術は成功しました。今後のリハビリテーションが重要です。丸山さんの回復をサポートするために、理学療法士と作業療法士がリハビリ計画を立てます。」
第5章: リハビリテーション
丸山さんはリハビリテーション専門の施設に通い始め、理学療法士と作業療法士の指導の下でリハビリを開始しました。
理学療法士:
「丸山さん、まずは歩行機能を改善するためのトレーニングを行います。バランスを取り戻し、筋力を強化するエクササイズを実施します。」
作業療法士:
「日常生活の動作を楽にするためのトレーニングも行います。認知機能の改善を目指し、日常生活での工夫やトレーニングを提供します。」
第6章: 回復と日常生活への復帰
数ヶ月のリハビリを経て、丸山さんの症状は改善し、日常生活が楽になりました。
丸山さん:
「リハビリのおかげで、歩行が以前よりも安定し、尿失禁も改善しました。本当にありがとうございます。」
金子先生:
「良かったです。NPHは進行性の病気ではありますが、適切な治療とリハビリで生活の質を大いに改善できます。今後も定期的に診察を受け、リハビリを続けてください。」
第7章: 新しい生活
丸山さんはリハビリテーションを続けながら、新しい生活を送ることができるようになりました。
丸山さん:
「病気と共に生きることを受け入れました。リハビリや医療チームのサポートで、前向きに過ごせるようになりました。」
このようにして、丸山さんは正常圧水頭症の診断から治療、そしてリハビリテーションを経て、日常生活を改善することができました。金子先生やリハビリチームの継続的なサポートが、丸山さんの生活の質を向上させました。
正常圧水頭症(NPH)の概要
正常圧水頭症(NPH)の定義と理解
正常圧水頭症(Normal Pressure Hydrocephalus, NPH)は、脳内の脳脊髄液(CSF)が過剰に蓄積されることで、脳室が拡大し、正常な圧力下で脳の機能に影響を及ぼす病態です。NPHは特に高齢者に多く見られ、認知機能障害、歩行障害、尿失禁の三大症状を特徴とします。この疾患は他の認知症や神経変性疾患と間違われやすいため、正確な診断と治療が重要です。
病態と発生機序
脳脊髄液の役割と循環
- 脳脊髄液(CSF)は脳室系内を循環し、脳と脊髄を保護し、栄養供給や老廃物の除去を行います。正常な状態では、CSFは一定の速度で生成され、吸収されますが、NPHではこのバランスが崩れ、CSFが過剰に蓄積されます。
発生機序
- NPHは、CSFの吸収障害が主な原因とされていますが、CSFの産生過多や流通経路の障害も関連する可能性があります。この結果、脳室内にCSFが蓄積され、脳室の拡大を引き起こします。脳室の拡大により、周囲の脳組織が圧迫され、三大症状が現れます。
主な症状とその原因
1.歩行障害
- 歩行障害はNPHの最も顕著な症状であり、患者は短い歩幅でゆっくり歩くようになり、バランスを取りにくくなります。これは「磁気歩行」とも呼ばれ、足が地面に貼り付いているように感じられるためです。
歩行の特徴
NPHの歩行の典型的な特徴は次のとおりです
・足の姿勢が外旋
・足のクリアランスが悪い (加速、引きずり、つまずき)
・体の長軸で回転するのが著しく難しい (多段回転)
・歩行開始の失敗または歩行の固まり
病気が進行するにつれて、患者の歩行は悪化し、最終的にはwide base、遅い、小刻みな歩幅、磁気歩行になります。
歩行障害の原因
1.頭蓋内圧の上昇により、脚に血液を供給する放射冠の皮質脊髄路の繊維が伸張および圧迫され、間質性浮腫の結果、側脳室のすぐ近くを通過します
2.脳室周囲白質および前頭前野の灌流不良
3.脚橋核などの脳幹構造の圧迫
2.認知機能障害
- 認知機能障害は、初期には軽度の注意力や集中力の低下として現れ、進行すると記憶障害や遂行機能の低下が顕著になります。これはしばしばアルツハイマー病などの他の認知症と誤診されることがあります。
認知症の特徴
認知症は皮質下型で、無気力、物忘れ、実行機能の低下が特徴的です。iNPH の最も初期の認知症状には、精神運動遅滞、注意力の低下、および前頭葉と皮質下の機能不全に起因する実行機能と視空間機能障害があります。
認知症の原因
脳室が拡大し続け、皮質が頭蓋冠の内板に押し付けられると、放射状のせん断力が認知症を引き起こします。
3.尿失禁
- 尿失禁は、膀胱の制御が困難になることで起こり、頻尿や急な尿意を伴います。この症状はNPHの進行に伴って悪化することがあります。
尿失禁(膀胱障害)の原因
初期段階では、皮質脊髄路の脳室周囲仙骨線維が引き伸ばされ、膀胱収縮の自発的(脊髄上)制御が失われます。病気の後期段階では、認知症が失禁の一因となる場合があります。
発見の歴史
- NPHは1965年にスウェーデンの神経外科医、サルバドール・レボルシエルによって初めて報告されました。彼は、三大症状を呈する患者の脳室に過剰なCSFが蓄積されていることを発見し、この病態を正常圧水頭症と名付けました。
特発性正常圧水頭症と二次性正常圧水頭症
正常圧水頭症には 2 つの形態があります:
特発性 (一次性) NPH – 原因は特定できません。
症候性 (二次性) NPH – 以前の脳感染症、出血、外傷性脳損傷、または放射線が水頭症の原因となるリスク要因を持つ症例がこのカテゴリに分類されます。
一次性水頭症 | 二次性水頭症 | |
---|---|---|
特徴 | 明確な原因が特定できない、主に高齢者に発症 | 外傷、感染、脳出血、脳腫瘍、手術後の合併症などによる |
発症年齢 | 主に高齢者 | あらゆる年齢 |
診断方法 | MRIやCTスキャン、脳脊髄液圧の測定、タップテスト | MRIやCTスキャン、原因に応じた追加の検査 |
治療方法 | VPシャント手術、腰部排水術 | 原因に応じた治療とVPシャント手術など |
症状 | 歩行障害、認知機能障害、尿失禁 | 原因に応じて異なるが、頭痛、吐き気、視力障害なども含まれる |
一次性と二次性正常圧水頭症の共通点は、どちらも交通性水頭症であり、予後が似ていることです。両者の大きな違いは、二次性 NPH はあらゆる年齢の人に影響を及ぼすのに対し、一次性(特発性)は主に高齢者の病気であることです。
誤診と見逃される可能性
- NPHはその症状が他の神経変性疾患と類似しているため、誤診されやすい疾患です。しかし、適切な診断と治療が行われれば、多くの患者が著しい症状の改善を経験します。
診断
正常圧水頭症(NPH)は、脳脊髄液(CSF)が正常な圧力下で脳室に過剰に蓄積されることにより、特有の症状を引き起こす病態です。NPHの診断には、症状の評価、画像診断、脳脊髄液排除試験(タップテスト)などが重要です。エビデンスに基づいた診断プロセスを以下に詳述します。
1. 画像診断
画像診断はNPHの診断に不可欠です。主にMRIとCTスキャンが用いられます。
- MRI(磁気共鳴画像法):
- 脳室拡大:NPHでは脳室が拡大していることが確認されます。
- シルビウス裂周囲の高信号:T2強調画像やFLAIR画像で、シルビウス裂周囲の高信号が見られることがあります。これは白質浮腫を示唆します。
- 脳溝の保存:アルツハイマー病や他の認知症とは異なり、NPHでは大脳皮質の脳溝が比較的保存されていることが多いです。
- CT(コンピュータ断層撮影):
- 脳室拡大:MRIと同様に、脳室の拡大が確認されます。 (Practical Neurology) (Frontiers) 。
- 周囲の脳組織の圧迫:脳室の拡大に伴い、周囲の脳組織が圧迫されていることが見られます。
- Evans’ Index:前角幅と頭蓋内径の比率が0.3を超える場合、NPHが疑われます (Frontiers) 。
- Callosal Angle:脳梁角が90度未満の場合、NPHの可能性が高いとされます (Frontiers) 。
引用:https://www.barrowneuro.org/for-physicians-researchers/education/grand-rounds-publications-media/barrow-quarterly/volume-19-no-2-2003/clinical-features-of-normal-pressure-hydrocephalus/
2. 脳脊髄液排除試験(タップテスト)
画像引用元:Wikipedia
脳脊髄液排除試験(タップテスト): タップテストはNPHの診断における重要な試験です。この試験は、腰椎穿刺(ルンバール穿刺)を行い、一定量のCSFを排除して症状の改善を評価します。
- 手順:
- 腰椎穿刺によって30〜50mlのCSFを排除します。(Practical Neurology) (MDPI)
- 数時間から数日間、患者の症状の変化を観察します。
- 結果の評価:
- 歩行障害や認知機能の改善が見られた場合、NPHの可能性が高いとされます。これは、CSFの排除によって脳圧が一時的に正常化し、症状が軽減するためです。
3. その他の診断法
脳脊髄液のダイナミクス評価:
- CSFインフュージョンテスト:腰椎から一定量のCSFを注入し、圧力の変化を測定します。CSFの抵抗性が増加している場合、NPHの可能性が高まります。
シャント手術前の評価:
- シャント手術の適応を判断するために、長時間のCSF排除や一時的な外部排液装置(EVD)を用いた試験が行われることがあります。これにより、長期的な症状の改善が見られるかどうかを評価します。
予後
正常圧水頭症(NPH)の予後は、診断と治療のタイミング、治療方法の選択、患者の個別の状態によって大きく異なります。以下にエビデンスに基づいたNPHの予後に関する情報を詳述します。
1. 予後に影響する要因
早期診断と介入
- 早期診断と治療はNPHの予後を大きく改善します。研究によると、早期に診断され、脳脊髄液シャント手術を受けた患者は、認知機能や歩行能力、社会的参加能力の維持において良好な結果を示しています (Frontiers) 。
シャント手術の成功
画像引用元:Wikipedia
この図は、水頭症(Hydrocephalus)に対するシャント手術の仕組みを示しています。以下は、図の各部分の解説です:
-
Ventricles(脳室):
- 脳の内部にある空洞で、脳脊髄液(CSF)が存在します。水頭症では、これらの脳室に過剰な脳脊髄液が溜まるため、圧力が上昇します。
-
Ventricular catheter(脳室カテーテル):
- 脳室内に挿入される管です。過剰な脳脊髄液を排出するために使用されます。
-
Catheter lies tunneled under the skin(皮膚の下を通るカテーテル):
- 脳室カテーテルから続く管は、皮膚の下を通って、体の他の部分に排出されるようにトンネル状に配置されます。
-
Tube empties into the chest or abdomen cavity(胸部または腹部の空洞に排出される管):
- カテーテルは最終的に胸部または腹部の空洞に到達し、ここで過剰な脳脊髄液が体に再吸収されます。
このシャントシステムは、脳室内の過剰な脳脊髄液を体の他の部分に排出し、脳内の圧力を軽減するために設置されます。これにより、水頭症の症状を緩和し、脳の機能を維持することができます。
- 脳脊髄液シャント手術は、多くのNPH患者において症状の改善をもたらします。特に歩行障害や認知機能の改善が顕著です。手術後の合併症(例えばシャントの閉塞や感染)の管理が適切に行われれば、長期的な予後も良好です (Frontiers) (Frontiers) 。
個別の症状と重症度
- NPHの三大症状(歩行障害、認知機能障害、尿失禁)の重症度や進行状況により、予後は異なります。特に歩行障害が顕著な場合、手術後の改善が期待されやすいです。認知機能の低下が進行している場合、改善が見られないこともあります (Frontiers) 。
2. シャント手術後の予後
短期予後
- シャント手術後、特に初期の6ヶ月から1年間は、症状の著しい改善が見られることが多いです。歩行障害や尿失禁は特に早期に改善される傾向があります (Frontiers) 。
長期予後
- 手術から数年後には、認知機能が再度低下することがあるものの、歩行能力や社会的参加能力は比較的長期間維持されることが多いです。長期的なフォローアップが重要であり、定期的なシャント機能のチェックと必要に応じた再調整が必要です (Frontiers) 。
治療
正常圧水頭症(NPH)の治療は、主に脳脊髄液シャント手術によって行われます。この手術により、脳内に蓄積された過剰な脳脊髄液を体内の他の部位に排出することで、症状の改善を目指します。以下に、エビデンスに基づいた治療法について詳述します。
脳脊髄液シャント手術(Ventriculoperitoneal Shunt, VPS)
シャント手術の効果
- 脳脊髄液シャント手術は、NPH患者の多くで症状の改善をもたらします。歩行障害、認知機能障害、尿失禁の三大症状が改善されることが多く、特に歩行障害の改善が顕著です (MDPI) 。
- 最新の研究によれば、シャント手術後の改善率は高く、91.2%の患者で症状の全体的な改善が見られました。また、手術後1年以内に症状の著しい改善が見られることが多いです (MDPI) 。
手術のリスクと合併症
- シャント手術にはリスクが伴いますが、技術の進歩により合併症の発生率は低下しています。主な合併症にはシャントの閉塞、感染、過剰排出などがあります。これらのリスクは、術後の適切なフォローアップと管理によって最小限に抑えられます (MDPI) 。
その他の治療法
内視鏡的第三脳室開窓術(ETV)
- 内視鏡的第三脳室開窓術(ETV)は、脳脊髄液の流出を改善するための手術で、シャント手術に代わる治療法として検討されています。一部の患者においては、ETVが効果的な場合があります (MDPI) 。
非手術的治療
- 現在、NPHに対する効果的な非手術的治療法は確立されていません。一部の薬物療法が研究されていますが、シャント手術の効果には及ばないとされています (MDPI) 。
治療の流れ
診断と評価
- NPHの診断には、症状の評価、画像診断(MRIやCTスキャン)、タップテスト(脳脊髄液排除試験)が含まれます。これらの評価を基に、手術の適応を判断します(MDPI) 。
術後のフォローアップ
- シャント手術後は、定期的なフォローアップが重要です。症状の改善を評価し、シャントの機能を確認するために、定期的な診察と画像診断が行われます(MDPI) 。
リハビリテーション
正常圧水頭症(NPH)は、脳脊髄液(CSF)の異常蓄積により脳室が拡大し、認知機能障害、歩行障害、尿失禁を引き起こす進行性の神経疾患です。NPHのリハビリテーションは、シャント手術後の機能回復と生活の質向上を目指し、多職種による包括的なアプローチが重要です。
1. リハビリテーションの役割
早期介入の重要性
- 早期のリハビリテーション介入は、シャント手術後の回復を促進し、長期的な予後を改善します。特に、歩行障害や認知機能障害の改善に効果があるとされています (Barrow Neurological Institute) (Frontiers) 。
2. リハビリテーションの具体的アプローチ
理学療法(Physical Therapy)
- 歩行訓練:歩行機能を改善し、転倒リスクを軽減するための訓練が行われます。タスク指向型の運動やバランス訓練が含まれます。
トレッドミル歩行訓練の効果とアプローチ
バランスと歩行の改善:トレッドミル歩行訓練は、歩行の安定性とバランスを改善するために使用されます。特に、体重免荷型トレッドミルは、患者が安全に歩行訓練を行うのに役立ちます。この装置を使用することで、患者は転倒のリスクを減らしながら、歩行能力を向上させることができます。
リハビリテーションのプロトコル:トレッドミル訓練は、通常、週に数回、各セッションが30分から1時間程度行われます。セッション中は、速度と傾斜を調整しながら、歩行のパターンとバランスを強化します。患者の進捗に応じて、負荷を徐々に増やすことが推奨されます 。
- 筋力強化:下肢の筋力を強化する運動が行われ、これにより歩行の安定性が向上します。
リハビリの注意事項
- リスク:NPH患者は脳脊髄液の循環に異常があるため、過度な負荷をかける運動は脳圧の変動を引き起こし、症状を悪化させる可能性があります (BioMed Central) 。
- 対策:低から中強度の運動を推奨し、患者の状態に応じて徐々に強度を調整します。急な強度の増加は避けるべきです。
作業療法(Occupational Therapy)
- 日常生活動作(ADL)の訓練:患者が日常生活での自立を維持できるように、食事、入浴、着替えなどの基本的な動作の訓練が行われます。
- 環境調整:住環境を調整し、安全性を確保するための助言とサポートが提供されます。
言語療法(Speech Therapy)
- 認知リハビリテーション:注意力、記憶力、遂行機能を改善するための訓練が行われます。これには、認知課題やコミュニケーション訓練が含まれます。
心理社会的支援
- 心理的サポート:患者とその家族に対する心理的支援が提供され、病気の進行や治療に伴うストレスを軽減します。
- 社会参加の促進:患者が社会的活動に参加し続けることが奨励され、孤立を防ぎます。
3. リハビリテーションの効果
研究結果
- 研究によると、シャント手術後のリハビリテーションは、歩行機能や認知機能の改善に大きな効果があります。手術後1年以内に歩行障害や尿失禁が著しく改善されることが多く、長期的な予後も良好です (Barrow Neurological Institute) (Frontiers) 。
- 具体的には、術後の歩行訓練により、歩行の安定性や筋力が向上し、転倒リスクが低減されます。また、認知リハビリテーションを通じて、記憶力や遂行機能が改善されることが報告されています (Barrow Neurological Institute) 。
リハビリ評価
正常圧水頭症(NPH)の患者に対するリハビリの評価は、患者の機能的能力、バランス、歩行能力を測定し、適切なリハビリテーションプログラムを策定するために不可欠です。以下に、具体的な評価方法とその効果について詳述します。
1. 評価方法
Timed Up and Go (TUG)テスト
- 概要:患者が椅子から立ち上がり、3メートル先まで歩き、戻って再び椅子に座るまでの時間を測定します。
- 目的:転倒リスクの評価、機能的モビリティの測定、および時間経過による変化のモニタリングに使用されます。
- 有効性:TUGテストは信頼性が高く、家庭内での転倒リスクを予測するために使用されます (MJS Publishing) 。
Berg Balance Scale(BBS)
- 概要:Berg Balance Scale(BBS)は、NPH患者のバランス機能を評価するために広く使用されているツールです。14項目からなるテストで、各項目は0から4点のスコアがつけられ、最大スコアは56点です。具体的な項目には、椅子からの立ち上がり、静止立位、目を閉じた静止立位、一歩前進などが含まれます。
- 目的:
BBSは、バランス機能の詳細な評価を行い、転倒リスクの予測やリハビリテーションの効果測定に用いられます。スコアが低いほど、バランス機能が低下していることを示し、転倒リスクが高いことを意味します。
- 有効性:
研究によると、BBSはNPH患者のシャント手術後の改善を評価するための信頼性の高いツールです。手術前後のBBSスコアの変化を測定することで、リハビリテーションの効果を客観的に評価できます (BioMed Central) 。
Tinetti Assessment Tool
- 概要:この評価ツールは、バランスと歩行能力を観察し、スコアリングします。バランスに関する項目(座位バランス、立ち上がりバランス、閉眼バランス、360度回転など)と、歩行に関する項目(歩行の開始、歩幅、ステップの対称性と連続性、歩行パターンなど)から構成されます。
- 目的:移動能力の観察評価であり、バランスと歩行の問題を定量的に評価します。
- 有効性:Tinettiテストは、高い信頼性と妥当性があり、認知機能の低下がある患者でも正確に評価できます (MJS Publishing) 。
9-Hole Peg Test
- 概要:小さなペグを穴に挿入し、取り出す作業をタイムトライアル形式で実施します。両手で別々に行い、それぞれの時間を測定します。
- 目的:細かい運動スキルと手の動作速度を評価します。
- 有効性:良好なテスト-再テストの信頼性と同時妥当性があり、細かい運動機能の障害を評価するのに適しています (MJS Publishing) 。
Mini Mental State Exam (MMSE)
- 概要:30項目の簡便な認知機能評価ツールで、時間と場所の見当識、記憶、注意、計算、言語能力を評価します。
- 目的:認知機能の障害をスクリーニングし、その重症度を測定します。
- 有効性:MMSEは広く使用されており、認知機能障害の検出と定量化に有効です (MJS Publishing) 。
2. 評価の意義と効果
包括的な機能評価
- NPH患者の機能評価は、症状の進行やリハビリテーションの効果をモニタリングするために重要です。上記の評価方法を組み合わせることで、患者の全体的な機能状態を詳細に把握できます。
リハビリテーションプログラムの策定
- 各評価の結果を基に、個々の患者に最適なリハビリテーションプログラムを設計します。例えば、歩行能力に問題がある場合は、バランストレーニングや歩行訓練を重点的に行います。
治療効果のモニタリング
- 定期的な評価により、リハビリテーションの進捗や治療の効果を客観的に測定できます。これにより、必要に応じて治療計画を調整し、最適なケアを提供します。
正常圧水頭症のまとめ
正常圧水頭症(NPH)は、脳室内に過剰な脳脊髄液が蓄積されることによって引き起こされる進行性の神経疾患です。高齢者に多く見られ、歩行障害、認知機能障害、尿失禁の三大症状を特徴とします。正確な診断には、病歴聴取、身体診察、画像診断、脳脊髄液排除試験が必要です。治療の主な方法である脳脊髄液シャント手術は、多くの患者にとって症状の改善をもたらします。NPHの理解と適切な治療により、患者の生活の質を大いに向上させることが可能です。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)