【2024年版】半盲の原因・機序・診断・予後・リハビリテーションまで解説
半盲の概要
半盲とは?
半盲 (hemianopia) は、視野の半分が失われる視覚障害の一つです。この状態は、脳の視覚経路や視覚中枢が損傷を受けることによって生じます。
半盲の種類
半盲(hemianopia)は、視野の半分が失われる視覚障害の一つです。これは、脳の特定の部位が損傷を受けた結果として生じます。以下に、半盲の主な種類を説明します。
1. 同名半盲 (Homonymous Hemianopia)
- 特徴: 左右どちらかの視野の同じ側が見えなくなる状態です。例えば、両眼の右半分の視野が失われる場合、右同名半盲と呼ばれます。
- 原因: 多くの場合、脳の視覚経路の片側が損傷した結果として発生します。これは、脳梗塞や脳腫瘍、外傷などが原因となります。
- 影響: 患者は視野の片側を完全に認識できなくなるため、日常生活において物にぶつかる、文字の読み取りが難しいなどの問題が生じます。
2. 異名半盲 (Heteronymous Hemianopia)
- 特徴: 両眼の視野の対称的な部分が見えなくなる状態です。これは、二つのサブタイプに分類されます。
- 両耳側半盲 (Bitemporal Hemianopia):
- 視野の外側部分が見えなくなる状態です。
- 原因: 視交叉(視神経が交差する部分)の損傷により生じます。下垂体腺腫やその他の脳の腫瘍が原因となることが多いです。
- 両鼻側半盲 (Binasal Hemianopia):
- 視野の内側部分が見えなくなる状態です。
- 原因: 両側の視神経が同時に影響を受けることは非常に稀です。このタイプは通常、視神経の圧迫や遺伝的要因によって引き起こされます。
- 両耳側半盲 (Bitemporal Hemianopia):
3. 四分盲 (Quadrantanopia)
- 特徴: 視野の四分の一が失われる状態です。具体的には、以下のように分類されます。
右上四分盲 (Right Upper Quadrantanopia):
視野の右上四分の一が見えなくなる状態。
右下四分盲 (Right Lower Quadrantanopia):
視野の右下四分の一が見えなくなる状態。
左上四分盲 (Left Upper Quadrantanopia):
視野の左上四分の一が見えなくなる状態。
左下四分盲 (Left Lower Quadrantanopia):
視野の左下四分の一が見えなくなる状態。
原因
半盲の原因
半盲 (hemianopia) は、視野の半分が失われる視覚障害であり、その原因は主に脳の視覚経路や視覚中枢の損傷に起因します。以下に、半盲の主な原因について詳しく説明します。
1. 脳卒中 (Stroke)
- 概要: 脳卒中は、半盲の最も一般的な原因の一つです。脳卒中は、脳内の血流が遮断されることで脳組織が損傷を受ける状態です。
- メカニズム: 視覚情報を処理する脳の部分(後頭葉や視覚皮質)が影響を受けると、視野の半分が失われることがあります。脳の一側が影響を受ける場合、同側の視野が失われます。
2. 脳腫瘍 (Brain Tumor)
- 概要: 脳腫瘍も視覚経路を圧迫することで半盲を引き起こすことがあります。
- メカニズム: 視交叉(視神経が交差する部分)や視覚皮質に腫瘍ができると、視野の特定部分が見えなくなることがあります。特に、下垂体腫瘍は視交叉を圧迫し、両耳側半盲(視野の外側部分が失われる)を引き起こすことがよくあります。
3. 外傷 (Trauma)
- 概要: 頭部外傷は、脳の視覚経路に損傷を与えることがあり、これにより半盲が発生することがあります。
- メカニズム: 外傷による視覚皮質の損傷や視神経の切断が視野の一部を失わせることがあります。
4. 多発性硬化症 (Multiple Sclerosis)
- 概要: 多発性硬化症は中枢神経系の自己免疫疾患であり、視神経や視覚経路に影響を与えることがあります。
- メカニズム: 炎症による神経の脱髄が、視覚情報の伝達を妨げ、半盲を引き起こすことがあります。
5. 脳の外科手術
- 概要: 脳腫瘍の摘出や他の神経外科手術によって視覚経路が損傷することがあります。
- メカニズム: 手術中に視神経や視覚皮質が損傷を受けると、視野の一部が失われることがあります。
半盲の機序
半盲 (hemianopia) は、視野の半分が失われる視覚障害です。この障害のメカニズムは、視覚情報が脳に伝達される視覚経路における損傷によるものです。以下に、半盲の解剖生理学的機序を詳しく説明します。
視覚経路の概要
- 視神経 (Optic Nerve):
- 視覚情報は、網膜の視細胞から始まり、視神経 (CN II) を通って脳に送られます。視神経は、網膜から視交叉 (optic chiasm) までの経路を構成します。
- 視交叉 (Optic Chiasm):
- 視交叉では、両眼の視神経が交差します。ここで、各目の鼻側 (内側) の視野からの情報が反対側の脳半球に送られます。これにより、左視野の情報は右脳へ、右視野の情報は左脳へ伝わります。視交叉の損傷は、異名半盲(例:両耳側半盲)を引き起こす可能性があります。
- 視索 (Optic Tract):
- 視交叉を通過した後、視覚情報は視索を経て外側膝状体 (lateral geniculate nucleus, LGN) に到達します。ここで、視覚情報の初期処理が行われます。
- 視放線 (Optic Radiations):
- 外側膝状体からの視覚情報は、視放線を通って後頭葉の視覚皮質 (visual cortex) に送られます。視放線の損傷は、四分盲 (quadrantanopia) など特定の視野欠損を引き起こします。
- 視覚皮質 (Visual Cortex):
- 視覚皮質で最終的な視覚情報の処理が行われ、視覚が認識されます。視覚皮質の損傷は、同名半盲 (homonymous hemianopia) を引き起こすことが一般的です。
半盲のタイプと機序
- 同名半盲 (Homonymous Hemianopia):
- 機序: 視交叉以降の視覚経路(視索、視放線、視覚皮質)の損傷により、視野の片側(右または左)の情報が失われます。
- 例: 右視放線が損傷すると、両眼の左視野が失われる左同名半盲が生じます。
- 異名半盲 (Heteronymous Hemianopia):
- 機序: 視交叉そのものの損傷により、両眼の対称的な部分が見えなくなります。
- 例: 視交叉中央部の圧迫(例:下垂体腫瘍)により、両耳側半盲が生じます。
参考リンク
この図は、視覚経路の各部分の損傷が引き起こす半盲の種類を示しています。
- 視神経 (Optic Nerve):
- 損傷部位: 視神経
- 影響: 片目の完全な失明(例:右眼の全盲)
- 視交叉 (Optic Chiasm):
- 損傷部位: 視交叉の中央
- 影響: 両耳側半盲(視野の外側部分が見えなくなる)
- 視索 (Optic Tract):
- 損傷部位: 視索
- 影響: 左同名半盲(両眼の左視野が見えなくなる)
- 外側膝状体 (Lateral Geniculate Body):
- 損傷部位: 外側膝状体
- 影響: 同名半盲(左右どちらかの視野が見えなくなる)
- 視放線 (Optic Radiations):
- 損傷部位: 視放線(下部)
- 影響: 同名下四分盲(同じ側の視野の下四分の一が見えなくなる)
- 視放線(上部):
- 損傷部位: 視放線(上部)
- 影響: 同名上四分盲(同じ側の視野の上四分の一が見えなくなる)
- 視覚皮質 (Visual Cortex):
- 損傷部位: 視覚皮質
- 影響: 同名半盲(左右どちらかの視野が見えなくなる)
診断
半盲 (hemianopia) の診断は、視覚経路の損傷部位を特定するために、視野検査や脳画像検査が主に使用されます。以下に、一般的な診断方法を解説します。
1. 視野検査 (Visual Field Test)
- 概要: 患者の視野全体を評価し、視野欠損の位置と範囲を特定します。最も一般的な視野検査には、静的視野計(ペリメーター)が使用されます。
- 詳細: 視野計を用いて、視野の各部分に光点を提示し、患者が見えるかどうかを確認します。これにより、どの部分の視野が失われているかをマッピングします。
2. 画像診断 (Imaging Tests)
- MRI (Magnetic Resonance Imaging):
- 概要: 脳の詳細な画像を提供し、視覚経路や視覚中枢の損傷部位を特定します。
- 用途: 脳卒中、腫瘍、外傷などの原因を特定するために使用されます。
- CTスキャン (Computed Tomography):
- 概要: X線を用いて脳の断層画像を作成し、構造的異常を検出します。
- 用途: 緊急時や出血の確認に使用されます。
3. 神経学的評価 (Neurological Examination)
- 概要: 視覚反射や眼球運動を評価し、視覚情報の伝達経路に問題があるかどうかを確認します。
- 詳細: 眼球運動の異常、瞳孔反射の異常、視覚反射の欠如などを評価します。
診断プロセスの詳細
- 初期評価: 視覚障害の症状を訴える患者に対し、詳細な病歴聴取と視覚検査を行います。
- 視野検査: 視野欠損の特定とパターンの解析により、視覚経路のどこに損傷があるかを推測します。
- 画像診断: MRIやCTスキャンを用いて、視覚経路の構造的異常を確認します。これにより、損傷の原因(脳卒中、腫瘍など)を特定します。
- 追加評価: 必要に応じて神経学的評価を行い、視覚経路の全体的な機能を評価します。
治療
半盲の治療
半盲 (hemianopia) の治療は、視覚経路の損傷の原因と位置に応じて異なります。以下に、一般的な治療方法とその解説を示します。
1. 視覚リハビリテーション (Visual Rehabilitation)
- 目的: 失われた視野を補うためのトレーニングを行い、患者の日常生活の質を向上させます。
- 内容: 視覚リハビリテーションには、スキャニングトレーニングや眼球運動のトレーニングが含まれます。これにより、患者は見えない部分を補うために頭や眼を動かす技術を習得します。
2. プリズムレンズ (Prism Lenses)
- 目的: 視野欠損を補うために視覚情報を視野内に再配置します。
- 内容: プリズムレンズは、光を屈折させることによって欠けている視野部分の情報を視野内に移動させることができます。これにより、患者は周囲の物体をより完全に認識することができます。
3. 根本原因の治療
- 脳卒中: 血栓を溶解する薬や血流を改善する手術が行われます。
- 脳腫瘍: 腫瘍の除去手術や放射線治療が行われます。
- 外傷: 脳の損傷を治療するための外科的介入が必要になることがあります。
- 多発性硬化症: 免疫調整薬やステロイド薬が使用されます。
画像引用元:Vision Rehabilitation Specialist
【近年のリハビリテーションの知見】
同名半盲は空間無視ほど障害を及ぼすことはないようですが、運転、混雑した場所での歩行、道路の横断、読書などの日常的な活動に深刻な影響を及ぼす可能性があります。これらの活動やその他の活動に問題がある場合、回復中の同名半盲患者は職場復帰時に深刻な問題を抱えることがあります。同名半盲の自然回復率が低いため、患者の回復を支援するためのトレーニング プログラムがいくつか提案されています。
これらのプログラムは、視野欠損に対する目的に応じて、代替、補償、回復の 3 つのカテゴリに分類できます。
1.代替療法
初期の代替技術では、現在は廃止されていますが、光学補助具(ミラーやフレネルプリズムなど)を使用して、視覚情報を盲視野から保存された視野に移していました。しかし、このアプローチの肯定的な効果は逸話的な報告に留まり、患者の視力低下や混乱、複視を引き起こすことが報告されています。そのため、現在は同名半盲のリハビリテーションでは使用されていません。
現在の補償技術は、眼球運動戦略の訓練により視覚探索を拡大・強化します。半盲患者は物体検出や人物識別に困難を抱えており、視野欠損が理解力低下や社会的誤解を招きます。読書に影響する半盲失読症は、「知覚ウィンドウ」の減少により文字識別や眼球運動の誘導が損なわれるためです。これらの欠損は、選択的な訓練で改善可能です。
2.代償療法
代償療法は、重度の知覚障害からの回復が困難な場合に提案されることがあります。代償療法では、患者の残された能力を利用して障害を回避または軽減します。HH(同名半盲)の代償戦略では、健全な視野を使用して盲領域を補います。
従来の眼球運動リハビリテーションでは、患者は盲側半視野の刺激に反応するよう訓練されます。研究者は、反応時間(RT)とエラー率を記録し、検索効率を評価します。RTが長い場合は、新しい戦略の開発などの根本的な補償メカニズムを反映している可能性があります。これらの技術はトップダウンメカニズムに基づいており、患者は盲目の半視野に注意を集中するように訓練されます。
別の補償技術には、多感覚刺激と統合に基づくボトムアップ戦略が含まれます。Bologniniら(2005)は、視覚以外の感覚(聴覚など)を利用して盲目の半視野への視線の方向付けを強化できると提案しました。視聴覚刺激を与えることで視覚ターゲットの探索を促進し、視覚眼球運動探索を大幅に増加させました。
また、HHによる読書障害には、Spitzynaら(2007)の研究があります。彼らは、右から左に動くテキストを提示し、患者に読ませることで、左から右への眼振を誘発し、読書速度を向上させました。
これらの補償技術は、視野そのものを回復するものではありませんが、患者の生活の質を向上させます。研究者は、日常生活における主観的な改善を報告しています(Bolognini他、2005)。補償療法は回復療法が利用できない場合の初期ステップとして提案されるべきです。しかし、健全な視野のみに頼ることは最良の選択肢ではなく、視野の改善と盲半視野の回復療法が必要です。
参考リンク:
3.回復療法
視野を拡大する試みは、半盲患者を支援するための有望な方法です。視覚機能の回復は困難に思えますが、研究ではV1(一次視覚野)がなくても視覚体験が可能であることが示されています。しかし、損傷後3か月以内の通常の神経可塑性では、明確な意識的視覚検出の回復は達成できません。動物と人間の研究では、半盲でも知覚学習が可能であることが示されています。
眼球運動リハビリテーション技術は、代償技術から派生しています。HH患者にサッカード運動を盲視野の境界領域に向ける訓練を行うことで、視野の大きさが部分的に広がる可能性があります。視覚回復療法(VRT)は、盲視野の残存視覚の孤立部分の大きさを拡大するための訓練プラットフォームです。患者はテレビ画面で視力に合わせて調整されたプログラムを使用し、進歩に応じてトレーニングを受けます。一部の研究では改善が見られ、患者の主観的な視覚自信も向上しました。
盲視訓練に関する研究では、無意識の視覚を意識的視覚に変換できる可能性が示されています。Sahraieら(2006)は、盲半視野の視覚感度が改善できると主張しています。12人の患者を対象にした訓練では、コントラスト感度と空間周波数の検出感度が向上し、臨床視野検査でも客観的な改善が見られました。
Chokronら(2008)は、盲視の訓練が視野欠損を改善する方法の一つになり得ると結論付けました。9人の患者を対象にした研究では、視覚ターゲットの指示、文字認識、ターゲットの位置の比較などの訓練を行い、行動タスクと視野の拡大が見られました。Sahraieら(2013)の研究でも、5人のHH患者に強制選択検出タスクをテストし、4人の患者で改善が見られました。
視野回復の可能性は、片側後頭部損傷後に皮質再編成が起こるかどうかという疑問を提起します。盲視刺激の前後の神経画像研究がさらなる理解を深めるでしょう。
参考リンク
半盲のまとめ
てんかんは、脳内の神経細胞が異常な電気的活動を起こすことで引き起こされる慢性疾患です。治療には、主に抗てんかん薬(ASMs)が用いられ、多くの患者で発作を効果的に管理できます。薬物治療が効果を示さない場合、てんかん手術や神経調整療法(DBS、VNS、RNS)が考慮されます。さらに、遺伝子治療や細胞療法などの新しい治療法も研究されており、将来的にはより多様な治療オプションが期待されます。適切な治療とリハビリテーションにより、てんかん患者の生活の質を大幅に向上させることが可能です。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)