【2024年版】ボトックス(ボツリヌス療法)の効果・適応・料金・リハビリテーション・自主トレまで解説
ボツリヌス療法とは
ボツリヌス療法は、ボツリヌス毒素(一般に「ボトックス」として知られる)を使用して、筋肉の過活動や特定の神経障害を治療する方法です。この治療は、主に神経筋接合部でアセチルコリンの放出を阻害することで効果を発揮し、筋肉の収縮を一時的に抑制します (Frontiers) 。
定義とメカニズム
- 定義: ボツリヌス療法は、ボツリヌス毒素を用いて筋肉の異常な収縮や神経の過活動を制御する医療技術です。この治療は、神経から筋肉への信号伝達を一時的に遮断することで、筋肉の弛緩を促します。
- メカニズム: ボツリヌス毒素は、神経終末からのアセチルコリンの放出を阻害し、神経筋接合部での信号伝達をブロックします。これにより、ターゲットとされた筋肉の収縮が抑制されます。
薬の種類
画像引用元:authenticaestheticmed.co.uk
主要なボツリヌス毒素製剤
ボトックス®(Botox®)
- 成分: ボツリヌス毒素A型
- 効能:
- 筋痙縮の治療(脳卒中後の痙縮、多発性硬化症など)
- 眼瞼痙攣
- 斜視
- 慢性片頭痛の予防
- 腋窩多汗症の治療
- 美容用途として顔面のしわの軽減 (Frontiers) (The ALS Association) 。
ディスポート®(Dysport®)
- 成分: ボツリヌス毒素A型
- 効能:
- 筋痙縮の治療(成人および小児)
- 眼瞼痙攣
- 美容用途として顔面のしわの軽減 (Frontiers) 。
ゼオマイン®(Xeomin®)
- 成分: ボツリヌス毒素A型(複合タンパク質なし)
- 効能:
- 筋痙縮の治療
- 眼瞼痙攣
- 頸部ジストニア
- 美容用途として顔面のしわの軽減 (Frontiers) (The ALS Association) 。
マイオブロック®(Myobloc®)
- 成分: ボツリヌス毒素B型
- 効能:
- 頸部ジストニアの治療
- 他のボツリヌス毒素A型製剤に対する抵抗性がある場合の代替治療 (The ALS Association) 。
ジーボ®(Jeuveau®)
- 成分: ボツリヌス毒素A型
- 効能:
- 美容用途として顔面のしわの軽減 (The ALS Association) 。
効能
効能の詳細
- 筋痙縮の治療: ボツリヌス毒素は神経伝達を一時的に遮断し、筋肉の収縮を減少させます。これにより、脳卒中後や多発性硬化症などの患者において、筋肉の硬直や痙縮を緩和します。
- 眼瞼痙攣と斜視: 目の周りの筋肉の不随意な収縮を抑え、視力の安定を助けます。
- 慢性片頭痛の予防: 頭痛の発症頻度と強度を減少させるために使用されます。通常、頭部や首周りの複数の部位に注射されます。
- 多汗症の治療: ボツリヌス毒素は汗腺の活動を抑制し、過剰な発汗を減少させます。
- 美容用途: 顔面のしわの軽減に使用され、特に額、眉間、目尻のしわを目立たなくする効果があります。これにより、若々しい外見を保つことができます。
ボツリヌス療法の効果期間と最も効果が強まる時期については、以下のような特徴があります。
効果の発現期間
効果の持続期間
- 持続期間: 一般的に、ボツリヌス療法の効果は3~4ヶ月程度持続します。この期間は個人差があり、一部の患者では6ヶ月まで持続することもあります。
効果が最も強まる時期
- ピーク時期: 効果が最も強まるのは、注射後2~3週間後とされています。この時期に最大の筋弛緩効果が得られます。
継続的な治療
- 効果が薄れてきた場合、再度注射を行うことで効果を維持することが可能です。ただし、継続的な治療により効果が持続する期間が延長することがあります。
料金
日本でのボツリヌス療法の料金は、治療目的や部位、保険適用の有無によって異なります。以下に、いくつかの例を示します。
医療用途
- 痙縮の治療:
- 保険適用で3割負担の場合、1回の治療費は約70,000円~100,000円。
- 1割負担の場合は約20,000円~40,000円。
- 3~4ヶ月ごとに再度治療が必要な場合が多いです (Mahi) 。
- 過活動膀胱:
- 保険適用で、治療費は施術内容や病院によりますが、効果は数ヶ月持続し、その後再度治療が必要になります。
美容用途
- 多汗症:
- 自費診療で、腋窩のボトックス注射の場合、両側で55,000円程度。
- 手のひらや足の裏など他の部位は片側で33,000円程度から。
- 歯ぎしりや顎関節症:
- 咬筋のボトックス治療は、初回35,000円、2回目以降30,000。
注意点
- 保険適用の場合は、自己負担割合や治療内容により金額が変わります。
- 自費診療の場合、クリニックや施術内容により料金が大きく異なるため、事前に問い合わせることが推奨されます。
- 効果の持続期間は通常3~4ヶ月程度であり、定期的な再治療が必要です。
高額医療費補助制度
日本において医療費が高額になった場合に、自己負担額を軽減するための制度です。以下に、制度の適用条件と申請手順について説明します。
適用条件
- 自己負担限度額:
- 所得に応じた自己負担限度額が設定されており、それを超えた医療費が補助されます。限度額は年齢や収入によって異なります。
- 対象となる医療費:
- 保険診療の範囲内である必要があります。
- 一般的な治療費、入院費、薬剤費などが対象です。ボツリヌス療法の場合、医療目的で保険適用される治療(例:痙縮の治療や過活動膀胱の治療など)が対象となります。
申請手順
- 高額医療費支給申請書の提出:
- 医療機関や薬局からの領収書を添えて、健康保険組合や国民健康保険の窓口に申請します。
- 申請書は各保険組合のホームページや窓口で入手できます。
- 限度額適用認定証の申請:
- 入院など高額な医療費が見込まれる場合は、事前に限度額適用認定証を申請しておくと、窓口での支払いが限度額までとなります。
- 申請書は健康保険組合や市町村の窓口で入手できます。
具体的な適用例
- ボツリヌス療法の適用:
- 痙縮の治療や過活動膀胱の治療でボツリヌス療法が保険適用される場合、高額医療費補助の対象となります。
- 例えば、3割負担で70,000円の治療費がかかった場合、高額医療費補助制度により、自己負担限度額を超える部分が補助されます。
参考資料
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)
- 国民健康保険(市町村のウェブサイト)
- 厚生労働省の高額療養費制度について
具体的な申請手続きや詳細については、加入している健康保険組合や市町村の国民健康保険の窓口に問い合わせることをお勧めします。
ボツリヌス療法の手順
ボツリヌス療法の治療手順は、患者の状態や治療の目的に応じて異なりますが、一般的な手順を以下に詳細に説明します。
1. 初診・診断
問診と診察:
- 問診: 患者の症状、病歴、アレルギー歴、現在の服薬状況などを確認します。
- 診察: 筋肉の状態、関節の可動域、筋力の評価を行います。
治療計画の説明:
- 治療の目的、期待される効果、リスクや副作用について説明します。
- 患者の同意を得た後、同意書にサインをもらいます。
2. 治療準備
治療部位の確認:
- 注射する筋肉や部位を特定します。超音波や筋電図(EMG)を使用して、正確な部位を確認することがあります。
皮膚の消毒:
- 注射部位をアルコールなどで消毒します。
画像引用元:J Neurosonol Neuroimag
超音波の使用方法
- 筋肉の視覚化:
- 超音波画像を使用して、注射する筋肉や組織の詳細な画像を提供します。これにより、解剖学的なランドマークを確認しながら、正確にボツリヌス毒素を注入することが可能になります (MDPI) 。
- リアルタイムガイダンス:
- 超音波ガイド下での注射は、針の位置をリアルタイムで確認しながら行うため、安全性と正確性が向上します。特に深部の筋肉や小さな筋肉に注射する際に有効です。
利点
- 正確性の向上:
- 副作用の軽減:
- 正確な部位に注射することで、周囲の健康な組織や神経への影響を最小限に抑えることができ、副作用のリスクを軽減します。
- 効果の最適化:
- 注射部位を正確に特定することで、ボツリヌス毒素の効果を最大化し、治療の効果をより確実にすることができます。
3. ボツリヌス毒素の注射
薬剤の準備:
- 必要な量のボツリヌス毒素を希釈し、注射器に準備します。
注射:
4. 施術後のケア
経過観察:
5. フォローアップ
経過観察のための再診:
- 約2ヶ月後に再度診察を行い、効果の確認と必要に応じた追加治療を検討します。
- 効果が3~4ヶ月持続するため、その後再治療が必要になることが多いです。
注意点とリスク管理
副作用の管理:
- 注射部位の痛み、赤み、腫れなどが起こることがありますが、通常は軽度で一時的です。
- 重篤な副作用(筋力低下、アレルギー反応など)が現れた場合は、すぐに医師に連絡する必要があります。
治療効果のモニタリング:
- 効果が減少してきた場合は、適切な時期に再投与を行いますが、過度な頻度での注射は避けます。
ボツリヌス療法は、適切な診断と管理のもとで行われることで、多くの患者にとって有益な治療法です。具体的な手順や詳細については、担当医とよく相談することが重要です。
痙縮に対するBTX治療の評価は?
痙縮に対するボツリヌス療法後のリハビリテーションにおける評価と検査は、治療効果を最大化し、患者の機能的な改善を測定するために重要です。以下は、その評価と検査方法についての詳細です。
評価方法
臨床評価
- 改訂アシュワース尺度(MAS): 筋緊張の程度を評価するための尺度で、治療前後の筋肉の緊張を数値化します。
- トーンスケール: 筋肉の硬さや反射を評価します。
機能評価
- Fugl-Meyer Assessment(FMA): 運動機能の回復を評価するための尺度で、特に上肢と下肢の運動機能を評価します (Frontiers) 。
- Barthel Index: 日常生活動作(ADL)の自立度を評価し、患者の生活の質を測定します。
動作分析
- 歩行解析: 歩行パターンを詳細に解析し、治療前後の歩行能力の変化を評価します (MJS Publishing) 。
- 上肢の運動解析: 手や腕の動作を評価し、ボツリヌス療法後の改善度を測定します。
検査方法
筋電図(EMG)
- 筋肉の電気活動を記録し、筋肉の過活動や収縮パターンを解析します。ボツリヌス療法後の効果を客観的に評価するために使用されます (Oxford Academic) 。
超音波検査
- 筋肉や軟部組織の状態を可視化し、ボツリヌス毒素の注射部位の選定や治療効果の評価に役立ちます (MDPI) 。
MRI(磁気共鳴画像)
- 中枢神経系の変化を評価するために使用されることがあり、特に治療の長期的な効果を評価する際に役立ちます。
神経伝導速度検査(NCV)
- 神経の伝導速度を測定し、ボツリヌス療法が神経機能に与える影響を評価します (MJS Publishing) 。
評価と検査の実施タイミング
ボツリヌス療法後の評価と検査は、治療の前後で行われることが多いです。具体的には、治療前、治療後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月のタイミングで評価を行い、治療の効果と持続性を確認します (MJS Publishing) (Frontiers) 。
これらの評価と検査により、ボツリヌス療法の効果を詳細に分析し、患者に最適なリハビリテーションプログラムを設計することが可能になります。
リハビリテーション
ボツリヌス療法後の痙縮に対する理学療法および作業療法の一般的な関節可動域訓練以外の技術について、以下の5つの例を挙げます。
1. 拘束誘発運動療法(CIMT)
拘束誘発運動療法(CIMT)は、影響を受けていない手足を拘束し、影響を受けた手足を使うことを促進する治療法です。これは、特にボツリヌス毒素A注射後の上肢機能の改善に効果的で、反復的な動作練習を通じて運動機能を向上させます (BioMed Central) 。
2. 固有受容性神経筋促通法(PNF)
PNFは、固有受容器を刺激することで柔軟性と筋力を向上させる技術です。特定の動作パターンと抵抗を使用し、神経筋制御を強化します。ボツリヌス毒素注射後にPNFを用いることで、痙縮の軽減と関節の可動域の改善が期待されます (MJS Publishing) 。
3. 神経発達療法(NDT)
NDTは、正常な動作パターンを促進し、運動制御を改善することを目的とした治療法です。姿勢の制御や選択的な運動パターンを促進する活動が含まれます。ボツリヌス療法と組み合わせることで、日常生活動作の機能改善に役立ちます(Oxford Academic) 。
4. 電気刺激療法
電気刺激療法は、筋肉の収縮を刺激するために電流を使用します。この療法は、筋肉量の維持や運動機能の改善に役立ちます。特に重度の痙縮患者において、筋肉の活性化を促進し、筋萎縮を防ぐ効果があります (MJS Publishing) 。また、動作訓練において筋収縮のサポートを電気刺激で行うことで、課題遂行がサポートされます。
5. 両手作業療法
両手作業療法は、両手を使って作業を行うことを奨励するアプローチです。これにより、両手の協調性と機能が向上します。ボツリヌス毒素A注射を受けた片麻痺の子供に対して効果的で、両手を使う日常のタスクを通じて手の機能を改善します (BioMed Central) (Frontiers) 。
これらの技術は、ボツリヌス療法の効果を最大化し、患者の機能的能力を向上させるための包括的なリハビリテーションプログラムの一部として使用されます。詳しい情報については、専門の医療機関や最新の研究文献を参照することをお勧めします。
自主トレ・ストレッチ
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ボツリヌス療法のまとめ
ボツリヌス療法は、ボツリヌス毒素を使用して筋肉の過活動や痙縮を抑える治療法です。特に脳卒中後の痙縮、多発性硬化症、脳性麻痺などに対して効果的であり、筋肉の緊張を軽減し、運動機能を改善することを目的としています。この療法では、ボツリヌス毒素が神経終末におけるアセチルコリンの放出を阻害し、筋肉の収縮を一時的に抑制します。治療効果は通常1〜3日で現れ、5〜10日後に最大となり、3〜4ヶ月間持続します。ボツリヌス療法後のリハビリテーションには、拘束誘発運動療法(CIMT)、固有受容性神経筋促通法(PNF)、神経発達療法(NDT)、電気刺激療法、両手作業療法などが含まれます。これらの技術は、ボツリヌス療法の効果を最大化し、患者の機能的能力を向上させるために使用されます。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)