注意障害の予後は?脳の機能解剖・評価からリハビリテーションまで解説!!
概要
脳卒中後の注意障害(Attentional Deficits)は、脳卒中を経験した患者に多く見られる認知障害の一つであり、集中力の低下や気が散りやすいといった症状を特徴とします。これらの障害は、日常生活やリハビリテーションの効果に大きな影響を与えます。
注意障害は、脳卒中によって損傷された脳領域の機能不全が原因とされます。特に、前頭葉や頭頂葉、基底核、視床などの損傷が関与しています。これらの領域は、注意力の維持、選択的注意、持続的注意、および分配注意などの異なる注意機能を制御しています 。
予後
注意障害は、脳卒中や脳外傷、神経変性疾患などにより発生し、患者の日常生活や社会生活に大きな影響を与えることがあります。予後は、以下の要因によって大きく異なります。
予後に影響を与える要因
1.損傷の範囲と部位
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- 注意機能は前頭葉や頭頂葉など複数の脳領域によって制御されているため、これらの部位の損傷が予後に大きく影響します (Frontiers) 。
2.早期の介入
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- 早期のリハビリテーションや治療介入が注意障害の回復に有効であることが多く、特に最初の6ヶ月が重要とされています。
3.個人の健康状態
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- 患者の年齢や全体的な健康状態も予後に影響します。若年層の患者や、他の健康問題が少ない患者は、より良い予後を示す傾向があります。
具体的な予後の数字
1.脳卒中後の注意障害
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- 脳卒中後の患者の約25%が注意障害を経験するとされています。
- リハビリテーションを受けた患者のうち、約40-60%が注意機能の改善を報告しており、特に最初の6ヶ月から1年での回復が顕著です。
2.頭部外傷後の注意障害
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- 軽度から中等度の頭部外傷後の患者の約70-80%が、1年以内に注意機能の回復を経験するとされています (Frontiers) 。
- 重度の頭部外傷後の患者では、注意機能の回復率は約30-50%にとどまることが多いですが、適切なリハビリテーションにより改善が見込まれます。
3.神経変性疾患に関連する注意障害
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- アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患に関連する注意障害は進行性であり、完全な回復は難しいですが、リハビリテーションや薬物療法により症状の進行を遅らせることができます。
種類
脳卒中後の注意障害は、患者の認知機能や日常生活に大きな影響を与えます。以下に、脳卒中後の注意障害の種類、その特徴、および日常生活での問題点を表として示します。
種類 | 特徴 | 日常生活での問題 |
---|---|---|
選択的注意障害 | 特定の情報に焦点を当てながら他の情報を無視する能力が低下 | 背景のノイズや不必要な情報に気を取られやすく、集中が難しい |
持続的注意障害 | 長時間にわたって注意を維持する能力が低下 | タスクを完了するのに時間がかかり、集中力が続かない |
分配注意障害 | 複数のタスクを同時に行う能力が低下 | マルチタスキングが困難で、一度に一つのタスクしか処理できない |
転導性注意障害 | 注意力が一定せず、変動が大きい | 一日の中で注意力が変動しやすく、安定したパフォーマンスが難しい |
反応性注意障害 | 新しい刺激に迅速に反応する能力が低下 | 反応が遅く、突然の変化や新しい情報に対処するのが困難 |
脳の機能解剖
脳卒中後の注意障害は、特定の脳領域の損傷により引き起こされます。最新の研究によると、以下の領域が特に重要です。
画像引用元: FlintRehub
1.前頭前野(Prefrontal Cortex)
前頭前野は、選択的注意や実行機能に重要な役割を果たします。損傷すると、選択的注意障害や分配注意障害が発生しやすくなります。
画像引用元: FlintRehub
2. 頭頂葉(Parietal Lobe)
頭頂葉は、視覚的注意と空間的注意に関与しています。右頭頂葉の損傷は特に視空間無視を引き起こすことがあり、物体の位置や運動を正確に把握する能力が低下します。
画像引用元: FlintRehub
3. 前帯状皮質(Anterior Cingulate Cortex)
前帯状皮質は、持続的注意や反応性注意に関与しています。この領域の損傷は、集中力の維持や適切な反応の生成に困難を引き起こします。
画像引用元: FlintRehub
4. 基底核(Basal Ganglia)
基底核は、運動制御とともに注意の切り替えに重要です。基底核の損傷は、注意の柔軟性の低下や運動の調整不全を引き起こします。
画像引用元: FlintRehub
5. 視床(Thalamus)
視床は、感覚情報の中継と注意の調整に関与しています。視床の損傷は、注意の分配と持続的注意に重大な影響を与えます。
日常生活での影響
脳卒中後の注意障害は、以下のような日常生活の問題を引き起こします
- 集中力の低下により、複雑なタスクの完了が困難になる。
- 背景のノイズに敏感になり、注意が散漫になる。
- 持続的な注意が難しくなり、仕事や学習の効率が低下する。
- 反応が遅くなり、突発的な状況に適切に対応できない。
- 視空間認識の問題により、物体の位置や動きを正確に把握できなくなる。
これらの機能障害に対して、適切なリハビリテーションと治療が重要です。認知リハビリテーションやニューロフィードバック、眼球追跡トレーニングなどの治療法が研究されています。最新の研究に基づく治療アプローチは、患者の生活の質を向上させることが期待されます。
診断・検査
脳卒中後の注意障害は、特定の神経心理学的評価を通じて診断されます。これらの評価は、患者の注意機能を詳細に評価し、リハビリテーション計画を立てるために重要です。最新の研究に基づく主な診断・評価方法を以下に示します。
神経心理学的評価
1. トレイル・メイキング・テスト(Trail Making Test, TMT)
画像引用元:ResearchGate
TMTは、視覚的注意とタスク切り替え能力を評価するためのテストです。AパートとBパートがあり、Aパートでは数値を順番に結び、Bパートでは数値とアルファベットを交互に結びます。このテストは、特に選択的注意と分配注意の評価に有効です。
2. ストループ・テスト(Stroop Test)
画像引用元:ResearchGate
ストループ・テストは、選択的注意と抑制機能を評価します。被験者は、異なる色で書かれた単語を読み上げたり、単語のインクの色を特定する必要があります。このテストは、注意の持続性と反応性の評価にも有効です。
3. デジット・スパン・テスト(Digit Span Test)
デジット・スパン・テストは、短期記憶と持続的注意を評価します。被験者は、提示された数字を順番に、逆順に、または特定の順序で再現します。これにより、持続的注意の障害を検出できます。
4. シンプルおよび選択反応時間テスト(Simple and Choice Reaction Time Test)
このテストは、反応速度と注意の持続性を評価します。単一刺激に対する反応時間と、複数の刺激に対する選択的反応時間を測定します。このテストは、注意の迅速な反応能力の評価に使用されます。
5. ウィスコンシン・カード分類テスト(Wisconsin Card Sorting Test, WCST)
画像引用元:SpringerLink
WCSTは、認知的柔軟性と問題解決能力を評価します。被験者は、カードを異なるルールに従って分類し、ルールが変更された際に適応する能力を試されます。これは、注意の転導性の評価に役立ちます。
これらの評価を通じて、脳卒中後の注意障害の具体的な問題点を特定し、適切なリハビリテーション計画を立てることができます。また、評価結果に基づいて、個別化された介入方法を開発し、患者の生活の質を向上させることができます。
· 機能的MRI (fMRI)とCTスキャン
- これらの画像診断技術は、脳卒中による損傷部位とその影響を視覚化するために使用されます。特に前頭葉、頭頂葉、前帯状皮質、基底核、視床の損傷が注意障害に関連しています。
· 行動観察と質問票
- 注意障害の影響を日常生活で評価するために、行動観察と自己報告式質問票(例:注意に関する行動評価システム(BIS))が使用されます。これにより、患者の注意機能の変化や日常生活での困難を具体的に把握します。
最新の研究によると、これらの神経心理学的評価は、脳卒中後の注意障害を診断するために効果的であり、治療効果のモニタリングにも有用です。特に、複数の評価方法を組み合わせることで、注意障害の多面的な側面をより正確に評価できることが示されています。
治療・リハビリテーション
注意障害の治療には、認知リハビリテーションが中心的な役割を果たしますが、最新の研究によると、その効果は一貫して確認されていないことが多いです。以下に主要な治療アプローチを示します。
1.認知リハビリテーション
机上課題
1.注意プロセストレーニング(APT)
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- 手順:
- 課題1: 数字の連続するパターンを見つける
- 課題2: 異なる色の単語を読みながら、指定された色の単語を選ぶ
- 課題3: リストから特定の単語を見つける
- 目的: 選択的注意、持続的注意の強化(Frontiers)。
- 手順:
2.トレイルメイキングテスト(TMT)
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- 手順:
- A部: 数字を順に結ぶ
- B部: 数字と文字を交互に結ぶ
- 目的: 注意の切り替え能力と視覚的追跡能力の評価と強化。
- 手順:
3.ストループテスト
-
- 手順:
- カードに書かれた色の名前を読み上げる
- インクの色に基づいて色の名前を無視し、インクの色を言う
- 目的: 選択的注意と抑制制御の強化。
- 手順:
4.マネーカウンティング
- 手順:
- さまざまなコインをテーブルに置く
- ランダムに選んだ10-20枚のコインの合計金額を計算
- 目的: 数量推論と注意力を強化し、脳を刺激。
5.ビジュオスパイシャル処理ゲーム
- 手順:
- 2つのほぼ同じ画像の間で微妙な違いを見つける
- 目的: 視覚的注意と空間認識能力を向上。
6.シモンメモリーゲーム
- 手順:
- デバイスが提示する色のパターンを記憶し、再現
- パターンが短いものから始め、徐々に長くしていく
- 目的: 記憶力と注意力を改善。
その他の介入法
眼球追跡トレーニング(ETAT)
-
- 手順:
- 画面上のターゲットを目で追跡する
- さまざまな視覚的刺激に対する反応をトレーニング
- 目的: 視覚的注意と反応速度の改善。
- 手順:
非侵襲的脳刺激(NIBS)
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- 手順:
- 反復的経頭蓋磁気刺激(rTMS)や経頭蓋直流刺激(tDCS)を使用
- 特定の脳領域の活動を活性化または抑制する
- 目的: 脳の可塑性を高め、注意機能の回復を促進。
- 手順:
2.ニューロフィードバック
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- ニューロフィードバックは、患者が自分の脳波をリアルタイムでモニターし、注意機能を改善するためのフィードバックを受ける治療法です。これにより、特定の注意機能を強化することが期待されます。
手順:
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-
- 電極を頭皮に装着し、脳波をモニタリング
- 特定の脳波活動を増減させる訓練
- 実際のフィードバックを受けながら行う
- 目的: 脳の特定の領域の活動を自己調整し、注意機能を改善 (Frontiers)。
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3.薬物療法
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- 一部の研究では、注意障害の改善に向けた薬物療法の効果を検討していますが、現在のところ一般的に推奨される特定の薬物はありません。
4.心理的サポートと環境調整
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- 患者の注意機能を支援するために、環境の調整や心理的サポートも重要です。具体的には、静かな作業環境の提供や定期的な休憩の設定などが含まれます。
これらのアプローチを組み合わせて、患者ごとのニーズに応じた個別の治療計画を作成することが重要です。研究の継続により、さらに効果的な治療法が開発されることが期待されます。
まとめ
注意障害は、集中力や注意力の維持が困難になる認知機能の障害です。脳卒中後に発生することが多く、患者の生活の質に大きな影響を与えます。注意障害にはいくつかの種類があり、それぞれが異なる日常生活の困難を引き起こします。
選択的注意障害は、特定の情報に集中しながら他の情報を無視する能力が低下する障害です。背景のノイズや不必要な情報に気を取られやすくなり、効率的な作業が難しくなります。
持続的注意障害は、長時間にわたって注意を維持する能力が低下する障害です。これにより、タスクを完了するのに時間がかかり、集中力が続かないことが多くなります。
分配注意障害は、複数のタスクを同時に行う能力が低下する障害です。マルチタスキングが困難になり、一度に一つのタスクしか処理できなくなります。
転導性注意障害は、注意力が一定せず変動が大きい障害です。一日の中で注意力が変動しやすく、安定したパフォーマンスを維持するのが難しくなります。
反応性注意障害は、新しい刺激に迅速に反応する能力が低下する障害です。これにより、反応が遅くなり、突然の変化や新しい情報に適切に対処できなくなります。
診断と評価には、神経心理学的テストが使用され、適切なリハビリテーションプログラムが計画されます。これには、注意プロセストレーニング(APT)やストループテスト、ニューロフィードバック、非侵襲的脳刺激(NIBS)などの介入が含まれます。これらの治療法は、患者の注意機能を改善し、生活の質を向上させることを目指しています。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)