【2024年版】脳卒中患者のモチベーション:意欲向上のための方法は? リハビリ論文サマリー
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論文を読む前に
今回の論文のテーマは、脳卒中患者のリハビリに対するモチベーションです。何がモチベーションを阻害するのか事前学習しましょう。
登場人物
- 新人療法士: 丸山さん
- 脳神経外科医: 金子先生
カンファレンスルームでの対話
丸山さんは、リハビリテーションの新人療法士として、金子先生の講義に参加しました。今日のテーマは「脳卒中がリハビリに対するモチベーションを低下させる原因」についてです。
講義の開始:脳卒中患者のリハビリに対するモチベーションについて
金子先生は、脳卒中患者がリハビリに対してモチベーションを低下させる原因について、最新の研究論文を基に説明を始めました。
金子先生: 「丸山さん、今日は脳卒中患者がリハビリに対してモチベーションを低下させる原因について話しましょう。これはリハビリテーションの成功に直結する重要なテーマです。」
1. 脳卒中による神経学的影響
1.1 感情の変化
金子先生: 「脳卒中後の感情の変化は、リハビリに対するモチベーション低下の一因です。特に、うつ病や不安障害がよく見られます。これらの精神的障害は、患者の意欲を著しく低下させることがあります。」
- 研究例: ある研究では、脳卒中患者の約30%がうつ病を発症することが報告されており、これはリハビリテーションの参加率や効果に影響を与えます。
1.2 認知機能の低下
金子先生: 「認知機能の低下も重要な要因です。脳卒中による前頭葉の損傷は、注意力、計画力、実行機能に影響を与えます。これにより、患者はリハビリの重要性を理解しにくくなり、継続的な参加が難しくなります。」
- 研究例: 認知機能の低下がリハビリテーションの進行を遅らせることが示されており、特に前頭葉の損傷がある患者では、この傾向が顕著です。
2. 身体的要因
2.1 疼痛
金子先生: 「疼痛は、リハビリテーションへのモチベーションを著しく低下させます。脳卒中後の慢性的な疼痛は、患者の運動意欲を減少させ、リハビリの継続を困難にします。」
- 研究例: 脳卒中患者の約40%が慢性的な疼痛を経験しており、これはリハビリテーションの効果を減少させる要因の一つとされています。
2.2 疲労
金子先生: 「疲労も大きな問題です。脳卒中後の疲労は、単なる肉体的な疲労だけでなく、精神的な疲労も含まれます。これにより、リハビリテーションに対する意欲が低下します。」
- 研究例: 研究によると、脳卒中患者の約50%が慢性的な疲労を訴えており、これはリハビリテーションの参加と成果に大きな影響を与えます。
3. 社会的・環境的要因
3.1 社会的支援の不足
金子先生: 「社会的支援の不足も重要な要因です。家族や友人からの支援が不足すると、患者は孤独感を感じ、リハビリに対する意欲を失いやすくなります。」
- 研究例: 社会的支援が十分に提供されることで、脳卒中患者のリハビリテーションへの参加率が向上することが示されています。
3.2 経済的負担
金子先生: 「経済的負担も考慮すべき要因です。リハビリテーションの費用や通院の交通費など、経済的な負担が大きいと、患者はリハビリを続けることが難しくなります。」
- 研究例: 経済的な理由でリハビリテーションを中断する患者が一定数存在し、この問題は特に長期的なリハビリが必要な患者にとって深刻です。
まとめと今後の展望
金子先生: 「丸山さん、今日お話しした内容を理解し、患者さんのモチベーションを維持するための支援を行うことが重要です。心理的支援、疼痛管理、社会的支援の提供など、多角的なアプローチが必要です。」
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・脳卒中者のリハビリに対するモチベーションが効果に大きく影響すると思い、本論文を読んでみたいと思ったため。
論文内容
カテゴリー
神経系
タイトル
脳卒中者のリハビリに対するモチベーション -質的研究- ?PubMed Maclean, N. Qualitative analysis of stroke patients’ motivation for rehabilitation. BMJ. 2000 Oct 28;321(7268):1051-4.
目 的
高い、もしくは低いモチベーションの脳卒中者の態度や考え方を調査する。
方 法
・半構造化面接法(質問をある程度用意し、インタビュー形式で対象の態度や考え方を調査)。
p>・22人の入院中の脳卒中者(高モチベーション14人、低モチベーション8人、検者が分類)
・発症から平均して6週後に実施。
・一人が面接、分析を実施し、別の検者が2群間に面接や分析方法の違いがないか評価。
・面接の中で出てきた【テーマ】を抽出する。
結果:患者の考え方と価値観
【リハビリと患者の役割について】
・高モチベーション群はリハビリが最も重要と思っており、努力をすることで回復が得られると思っていた。
・低モチベーション群は単に回復を待たなければならないと答えた。
【リハビリに対する理解】
・数人の高モチベーション群はセラピストの指示したやり方で運動することが大事と答えた。
・低モチベーション群ではセラピストの治療プロセスが理解できないと答えた「(リハビリの)究極の目的は僕を歩かせること。理学療法士はどう治療するんだろう。」
【リハビリにおける看護師の役割】
・ほとんどの高モチベーション群が看護師の役割を理解していた。「ほとんどの看護師たちは心を鬼にして僕たちに接する。『ここにボールと歯ブラシがある。自分でやりなさい』ぼくはこれが必要だと思うんだ。」
・低モチベーション群は看護師の役割を理解せず、看護師がなにもしないと腹をたてていた。
【リハビリのゴールとしての自立】
・高モチベーション群は退院後に誰かの世話になることを心配していた。リハビリが進むとは日常生活動作を自立して行えるようになることだと答えた。
・低モチベーション群は自立がリハビリのゴールと答えるが、行動に反映する様子はなかった。
患者の価値観への影響
【過保護】
・数人の被験者は家族の過保護が「ばからしい」と答えた。
・低モチベーション群の被験者1名は「寝ていることが1番の回復法だと娘に言われた。」と答えた。
【他患者との比較】
・1人の被験者は別な患者が回復しているのを見ることはモチベーションになると回答した。
・逆に他の患者を見て、自分も回復しないのでは、と感じることがあるとの発言もあった。
【セラピストからの情報】
・多くの高モチベーション群がセラピストからの助言が「魔法の解決法」のように感じると答えた。また、助言によって回復具合、リハビリの効果を実感できると回答した。
【情報とサポートの必要性】
・低モチベーション群は家で生活できるかの不安を抱いており、セラピストからの情報や励ましを欲していた。
・低モチベーション群は自分の希望をスタッフに言うのが怖いと思っており、理由はスタッフに否定されるかもしれないと感じるからだった。
【指示の不一致】
・低モチベーション群の回答では、一方ではセラピストに励まされ、リハビリを行うが、他方で看護師にはベッドで寝ているように言われ、どっちを信じていいかわからないと混乱を訴えることがあった。
【退院願望】
・ほぼすべての被験者ができる限り早く自宅に帰りたいと回答した。多くの被験者が病棟に不満を抱いていた。
興味深かったこと
・低モチベーション群は受動的で、リハビリの目的や内容の理解が不十分だった。患者本人の因子以外に、周りの患者や家族、病院スタッフからの影響が思ったより大きく、興味深かった。
明日への臨床アイデア
本論文で触れている下記の項目について、具体的な解決方法を考えていきましょう。
1. 【過保護】
- 問題点: 「無理しない」「寝ていなさい」など過保護が患者の回復意欲を低下させることがあります。
- 解決策:
- 家庭へのサポート方法の提案:療法士は必要に応じて家族面談等の場を設け、現在患者が自身でできることや予後と具体的な目標をまず説明し、そして回復に向けての必要な関わり方を具体的に説明し、家族にもサポートしてもらえるように話します。医師やセラピストが科学的根拠に基づいた回復法を家族と共有することは重要です。
2. 【他患者との比較】
- 問題点: 他の患者と比較することでモチベーションが高まることもあれば、逆に不安を引き起こすこともあります。
- 解決策:
- 個別の回復目標設定: 患者ごとに異なる回復スピードがあることを強調し、他の患者との比較ではなく、自身の目標に基づいた回復計画を立てるよう指導します。
- 進捗状況の見える化: 回復の過程を患者自身が確認できるように、定期的な進捗報告を行い、具体的な数値や改善点を示します。
3. 【セラピストからの情報】
- 問題点: セラピストの助言が患者のモチベーションに大きく影響します。
- 解決策:
- 定期的なフィードバックセッション: セラピストが患者と定期的に面談し、進行状況について具体的なフィードバックを行います。患者に対して「何がうまくいっているか」「次に何を目指すべきか」を明確に伝えます。
- エビデンスに基づく助言の強化: セラピストは最新の治療法やリハビリ技術についての知識を常にアップデートし、患者に対して科学的根拠に基づく助言を提供します。これにより、助言の信頼性が高まり、患者がより前向きにリハビリに取り組むことができます。
4. 【情報とサポートの必要性】
- 問題点: 低モチベーション群の患者は生活への不安が強く、サポートを必要としています。
- 解決策:
- 包括的な退院計画の提供: 患者が家庭に戻る際の不安を軽減するために、退院後のサポートプランを詳細に説明し、リハビリの継続方法や地域のサービスの活用についてもアドバイスします。
- コミュニケーションの促進: 患者がスタッフに希望を伝えやすくするために、意見を表明しやすい環境を整えます。例えば、患者が希望を伝える際に、安心して話せる個別面談の場を設けるなどの対応が考えられます。
5. 【指示の不一致】
- 問題点: 医療スタッフ間での指示が不一致で、患者が混乱することがあります。
- 解決策:
- 多職種連携ミーティングの導入: 定期的に多職種のスタッフが集まり、患者に対するケア方針を統一するミーティングを実施します。これにより、矛盾した指示が出ることを防ぎます。
- 一貫した情報提供: 患者に提供する情報が一貫するよう、リハビリの方針や活動内容を文書化し、全てのスタッフが同じ情報を共有する仕組みを導入します。
6. 【退院願望】
- 問題点: 早期退院を望む患者が多く、病棟環境に不満を抱いています。
- 解決策:
- 退院準備の早期開始: 患者が退院を希望する場合、その準備を早期に始め、適切な退院支援を行います。家庭環境の整備や必要なサポート機器の手配など、患者が安心して自宅に戻れるよう計画を進めます。
- 病棟環境の改善: 可能な限り病棟環境を改善し、患者が快適に過ごせるようにします。例えば、個別のリクエストに応じた室内環境の調整や、リラクゼーションスペースの充実などが考えられます。
これらの対策を講じることで、脳卒中後の患者のモチベーションを高め、回復を促進することが期待されます。
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)