【2024年版】立ち上がり時の左右偏位、左片麻痺と右片麻痺の転倒リスクの違いまで
脳卒中患者の立ち上がりと左右前後への偏位
STROKE LAB代表の金子です。
今回も立ち上がりの論文からの考察です。同シリーズは下記にリンク貼りますので参考にしてください。
第1回→こちら
第2回→こちら
第3回→こちら
第4回→こちら
それでは早速図を今日も見てみましょう
今日は最後の2つ。X軸とY軸のズレ、つまり左右への偏位と前後への偏位について考えてみます。
テーマ:左右への偏位と前後への偏位
どちらの場合も、健常者と脳卒中患者では大きな偏位の差がありますね。
特に横軸!!
つまりX軸です。
この数値が一番統計上有意差が出ています。
脳卒中の方は左右への偏位が特に大きく、立ち上がり時に中心軸を安定させるのに時間がかかるのです。 これが、立ち上がりに4秒前後もかかる主な要因といえます。
前後はmomentum transferをactiveに遂行できている証拠であり、健常者も当然利用しますし、脳卒中の方の場合はhip戦略、あるいは体幹の屈曲を多く使って足部への重心移動を代償していると考えます
また、前後へのswayは転倒リスクの高い脳卒中の方で13.13±7.16だから、6センチくらいしか前方に移動しない患者さんもいるのです。
つまり、前方に移動せずバックマッスルやハムストなどを優位に使って立つ人ですよね。こういう患者さんって見た目は体幹伸展しているように見えるので、若いセラピストは「体幹機能良好」と判断しやすいので注意が必要です。
これらの実験結果をまとめると、臨床経験では、前後へのSwayは転倒の側面で考えると大きな問題にならない方もいます、一方左右へのSwayは大きな問題になるひとが多いと思います。
立ち上がりの際に真正面に転ぶヒトって少ないですよね?真正面に転んで顔にアザが出来る人って、認知症の人が多い気がします。片麻痺患者さんの場合、多少なりとも麻痺側にずれて転ぶ人が多いです。大腿骨頚部骨折が多い原因も、それに起因する要素があると思います。
ですので、治療での解決の優先順位としては「患者さんの個別性によりますが」、左右への偏位の問題を解決することが転倒に関しては非常に重要と思います。
左右への偏位を解決することで、COPを中心軸に安定しやすく、postrulal stabilityを高めやすいと思います。
この論文では、脳卒中の方が何故そのように左右への偏位が生じやすいかについて以下のように述べています。
somatosensory, visual, and vestibular systems, as well as poor spatial integration, might contribute to postural sway abnormality in patients with hemiplegia. Consequently, stroke patients with impaired sensory ability may have a significant impact on fall risk. Studies have noted that left hemiplegic patients tended to have visual, perceptual, and spatial problems and were at a much higher risk for falling. In this study, most stroke fallers had right hemiplegia;
脳卒中の方の問題として、体性感覚、視覚、前庭システムの統合の問題により、姿勢のswayが生じ、このような感覚の問題が転倒リスクに大きく影響している。
先行研究では左片麻痺の患者さんの方が転倒リスクが高いようですが、今回の研究では右麻痺の方が多かったようです。
上記について一般的な知識をまとめてみましょう。
片麻痺患者における姿勢の不安定性と転倒リスクについて、感覚系、視覚系、前庭系、および空間統合の問題がどのように寄与するかを解説します。
感覚系、視覚系、前庭系の役割
体性感覚システム:
- 体性感覚システムは、身体の位置感覚や動き、バランス感覚を支える重要なシステムです。特に足底部の圧覚や関節位置感覚は、姿勢制御に大きな役割を果たします。片麻痺患者では、脳卒中によってこの体性感覚が損なわれることが多く、その結果、体の位置を正確に把握できなくなり、姿勢が不安定になりやすいです。
視覚システム:
- 視覚システムは、周囲の環境と自分の身体の位置を把握するための重要な手段です。脳卒中後、特に左片麻痺患者では、視覚的な空間認識や視覚的な処理能力に障害が生じることがあります。この視覚的な障害は、空間認識の低下や物体との距離感の誤りにつながり、バランスを崩しやすくなります。
前庭システム:
- 前庭システムは、耳内にある平衡器官を通じて、頭の動きや位置に関する情報を脳に伝え、バランスを保つために重要な役割を果たします。脳卒中によって前庭機能が損なわれると、バランスの調整が難しくなり、姿勢の不安定性が増し、転倒リスクが高まります。
空間統合と姿勢の動揺
脳卒中患者、特に左片麻痺の患者は、感覚情報の統合が不十分になることがあります。これにより、異なる感覚系(視覚、体性感覚、前庭)の情報を適切に組み合わせることができず、姿勢の揺れが大きくなりやすいです。この空間統合の障害が、姿勢制御の不安定性につながり、転倒リスクが増加します。
左片麻痺と右片麻痺の転倒リスクの違い
研究によると、左片麻痺患者は視覚や空間認識に関連する問題を抱えやすく、これが転倒リスクを高める要因となることが示されています。しかしながら、右片麻痺患者でも高い転倒リスクが観察されることがあります。これは、右片麻痺患者においても、体性感覚や前庭機能の障害が姿勢の安定性に悪影響を与えるためと考えられます。
いかがでしたか、他にも様々な側面で数値を臨床に当てはめながら考えると面白いと思います。 数値が全てではないですが、思考整理のツールになります。
普段から臨床の感覚と論文的数値をつなげるよう、若いうちからトレーニングしておくことをお薦めします。
麻痺側への荷重練習の自主トレ
この記事では、左右への偏位を解決することが重要と述べました。ここでは、お尻が横に流れてしまう方におすすめの自主トレを紹介していきます。
①500ml程度のペットボトルを麻痺側で把持
②腕を側方へ10°程度開く
③開いた上肢に骨盤を近づけ中殿筋を接触
④接触後はゆっくり元の姿勢に戻る
⑤中殿筋を意識してステップ
自主トレのポイント
1.骨盤は水平移動
骨盤の安定は中殿筋の活動に関与しています..
骨盤の水平移動を意識して運動を行いましょう.
2.テーブルや壁の活用で姿勢修正
安定することで骨盤の水平移動や姿勢の修正が行いやすくなります.
3.ペッドボトルを目指して
ペッドボトルが体重移動の目印となります.
ペッドボトルの位置を意識し体重を移動しましょう.
①脇を開く代償として,体幹の側屈や肘や手首の屈曲が出現する場合があります.代償が強い場合には麻痺側上肢をリラックスするところから始めましょう.
②麻痺側でペッドボトルを持つことができない場合には,指に袋などをひっかけて運動を行いましょう.
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024)